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魔族王子とフィルナの戦い後

毎度、投稿遅れてすみません。

「……うぐっ……。ふ、ふふ。やるね、思いもしなかったよ、まさかサキュバス相手にキスなんて。ふふ、これは読めなかったよ」


 脇腹を押さえて、フィルナはヨロヨロと俺から離れていく。よろけたフィルナを守るように、今度はヘビーメタルベアが俺達の前に立つ。

 シオンは続けて聖剣での攻撃を実行するも、ヘビーメタルベアに阻まれる。


「……勇者シオン、意外と強いんだね」


 シオンは舌打ちをしつつ、聖剣でフィルナに止めを刺そうと聖剣を振るうも、怒り狂うヘビーメタルベアに止められ続け、少しだけ怒りの表情が垣間見える。

 だが、ヘビーメタルベアは最早、満身創痍である。もう1分も持たないだろう。


「……ふふ、もうこの子も持たないだろうから、ここは一先ず逃げさせて貰おうかな」


「魔族フィルナ! 貴様は戦いを放棄して逃げると言うのか!?」


「――そうだね。でも、君とはまた戦うことになる筈だよ。その時は、その子が居ない時にやろうね」


「待て! 逃げるな魔族フィルナ!」


「――ふふ、今度は……」





「――絶対に殺すから」





 言い終わると同時、辺り一帯が謎の光に包まれた。まばゆいその光で俺はもちろん、シオンでさえも目を瞑ってしまう。

 シオンが逃げるなと怒鳴るが、返事は無い。

 目を開けると、そこにはフィルナの姿は無く、あるのは身を呈して主を守ったヘビーメタルベアの骸だけ。


「……逃げた、か」


 俺は呟いた。

 初めてだった。師匠であるフィルナの、大きな傷を負った時のあの表情を見るのは。若干の焦り、そして冷やかだが確かに感じたシオンへの殺意。

 俺はその時、戦慄して動けなかった。

 あれは、本気の眼だった。


「フィルナは逃げたが、この迷宮は突破したと言っても過言ではないようだ。見てくれ、魔物の死骸が迷宮内で吸い取られない。本来、魔物の死骸は迷宮に飲み込まれ、循環される筈だが今はそれがない。つまり、この迷宮は完全に役割を失ったのだろう」


 だが、勇者は気にせずに普段通りの口調で話す。きっと、慣れているんだろう。半端な覚悟なら命の取り合いなんて出来るはずがない。だからこそ、シオンは強い。そして、きっとその覚悟が勇者の真髄なんだろう。

 俺も気持ちを切り替えて、返答する。


「そうだな。じゃあ、肉が腐る前に素材の剥ぎ取りでもするかな」


 倒れたヘビーメタルベアの素材を剥ぎ取りにかかる。硬質化した腕には幾億もの傷があった。さっきの戦闘だけではない筈だ。と言うことは、この魔物はかなりの手練れらしい。最後、主を守ろうと前に出た姿には敵ながら、俺は感服せざるを得なかった。

 魔物と心を通わせるには、かなりの時間と労力が必要だと聞くが、フィルナなら容易いだろう。何せ天才だ。


「……なぁ、その、ありがとな。お前が居なかったら、俺は今頃……」


 そう言って、どうなってたんだろうな、と心の中で自問自答を投げていた。

 戦いにはなっていなかったとは思うが、その後の未来は想像が出来ない。言いくるめられてフィルナと行動を共にしたのだろうか。それとも、逆にフィルナを仲間にしただろうか。

 答えなんか出るはずもない。


「……気にしないでくれ。私も、ユクスが居なかったら私は勝てていなかったと思う。君が奴の隙を与えてくれなかったら……」


 そう言ったところで、シオンの口がふと止まる。

 何だ? と思って作業を一旦中止し、シオンの方を見た。


「……ユクス、隙を与えてくれたのはいいが、なんで敵に向かって、その……キ、キスをしたんだ? それしか方法が思い付かなかったのか?」


 ……手が止まる。

 加えて身体すら硬直した。

 あれは事故によるものだ。事故なんだ、と言ってもシオンは信じてくれるだろうか。

 前もシオンには女性関係で色々と絞られたからな……。今回こそ何とか挽回しなければ。


「いや、最初に言うが、別にその、キスをしようとした訳じゃないんだ。俺は頭突きを食らわせようとしたんだが、フィルナが前に出たせいで丁度ぶつかったんだよ」


「そ、そうか。そう、だよな。私は結果論があまり好きではないのだが、今回は事故でも上手くいってよかったと思っている。……その、何か毒か何かは盛られていないよな?」


「……いや、今のところは問題ない。ていうか、なんだ、心配してくれていたのか。俺はてっきり、また勇者パーティの面汚しだの何だの言われるかと思って冷や冷やしたぞ」


「心配くらいするさ、ユクス――君は私の仲間なんだから。事故だったなら問題ない。確かに、不意に起こった事故だったから、向こうも呆気に取られたんだろうし」


 なんだ、よかった。怒る気配は無いらしい。

 不意の出来事なら、どんなに歴戦の猛者でも対応できないのは本当だしな。

 と、ここで勇者が不自然な咳払いをして、言葉を紡いだ。


「……なぁ、変な質問をするけれど、許してくれるか?」


「な、なんだよいきなり。どうした?」


「君は、もしかしてフィルナに……その、恋愛感情のようなものを抱いたか?」


「……………は?」


 …………………え? なんだって?

 変な質問をするとは言ったが、予想の遥か真上をいく質問だった。どうしたんだろうか、いきなりこんな質問をして。


「い、いや、別に私は君が魔族を好きになろうが、構わないんだが、仮にも君は勇者パーティの一員だろう? もしそういう感情を抱いていたら、この先旅を続けるのは辛いだろうと思って……。って、なんだその顔は!? わ、私はこれでも君の事を思って……っ!」


「いやぁ、お前って結構、仲間思いなんだなって思ってさ」


 今の俺は、気の抜けたような、きっと間抜けな顔をしているんだろうな。

 そうか、なんで魔族である俺がこの勇者と一緒にいられるのかと、ひとりでに思っていたが、やっと分かった。


 ――こいつと一緒にいると、楽しい。


 俺が幼少の頃、心から笑えて安らげるような時間はあまり無かったが、今はシオンといて……居心地がいい。

 こんなにも他人に対して気配りができる奴を俺は今まで見たことがない。


 思い返してみて分かったが、コイツは自分よりも他人の事に強い関心を持っている。その正義感の強さは勇者のそれとは別に、シオンとしての個性の1つなのだろう。


 今なら確信できる。

 仮に勇者としてのシオンではなく、冒険者としてのシオンと共に行動していても、この心地よさは感じ取れていただろう。 

 魔王の息子としては最低な事を言っているとは自覚しているが、俺はこの和やかな時間を欲しがっていたんだ。



 ――これが、今、何気なく勇者と過ごしているこの時間こそが、俺が幼少の頃に手に入れたかった時間じゃないのか?



 なんだ、手に入れたかったんじゃないか。

 自由が欲しくて魔王の城を出て、3年経った今、ようやく見つけたんだ。

 ……魔王の息子である俺が、初めて気を許した相手が勇者だなんてな。皮肉だよな。笑っちまうけど、これが欲しかったから俺は魔国を抜けたんだ。

 

「お、おい、私は勇者だぞ! 仲間を大事にするのは私の使命だろうに。全く……」


 勇者の声で、考え事から呼び戻された。

 俺は笑顔で返す。


「そうだな、ありがとうな、シオン」


「……こ、今度はいきなりだな……。どうした? 情緒不安定なのか? や、やっぱり毒が……」


「大丈夫だっての。ほら、剥ぎ取りの続きを再開しますよー」


 こうして俺の、初の迷宮探索は終わりを迎えた。

 剥ぎ取れた素材は報酬の一部として俺が貰うこととなった。

 唯一、心残りなのがフィルナのその後の事だが、まぁ俺の師匠だし、そう簡単にはくたばらないとは思うけど。


 帰り道、シオンは「さて、今度はフィルナを一撃で倒せるように特訓しなければな。ユクス、手伝ってくれないか?」と俺に聞いてきたが、もちろん俺はこう答えた。



「絶対に嫌ですけど?」



 さっきは居心地がいいとか言った手前、こんな事を言うのかよと幻滅するだろうが、これだけは言わせてくれ。

 ――ふざけんな、お前と特訓したら俺の身が持たねえよ!







     ◇






「いやぁ、何だかんだ言って、お前って結構面倒見がいいというか、最後は必ず引き受けてくれるよな。しかも確実にこなしてくれるしな」


 迷宮探索が終わり、帰路に着こうとしていたところ、俺はギルマスに捕まってしまい、今は酒場でギルマスの隣に座っている。

 全く、今日は疲れたんだ。久々に睡眠を貪りたくなったのだが……まぁ、確かに何かした後に飲む酒は格別なのは否定しない。


「俺はお前が満身創痍とまではいかないけど、それなりに傷を負って帰ってくるとは思っていたんだが、お前、傷1つついて無いんだなぁ! 流石だぜユクス! やっぱ俺の目には狂いは無かったらしいなぁ!」


「……まず言っておくが、俺じゃなくて勇者が強いんだ。桁違いなんだよ、あいつの力は。俺はただの腰巾着だからな」


「そんな謙遜すんなよ。仮にお前じゃなくて、どっか別の冒険者がお前の役を担ってたら、間違いなくそいつはぶっ倒れてただろうさ。前にも言ったが、お前だから勇者の隣に居られるんだからな? お前じゃなきゃ勇者の隣は勤まらんよ」


 俺、魔族なんだがな。

 確かに魔族は人間よりも身体能力や魔法適正なんかは上だ。が、冒険者で俺より強いやつなんてわんさか居るとは思うけれど、まぁ誉められて悪い気はしないな。


「ま、ギルマスにこんだけ言われたら、ほんの少しくらいは自信にもなるな」


「おう、俺がここまで言うのは珍しいんだぜ? 自分で言うのもなんだけど」


「全くだ。自分で言うなっての」


 がははははは!! とギルマスは豪快に笑った。俺も隣で小さく笑う。

 

「そう言えば、相手はかの有名なフィルナだろ? あのサキュバスの。容姿は俺は見たこと無いんだが、やっぱボンキュッボーン! って感じだったのか?」


「いやぁ、どうだろうな。スタイルは細めでスラッとしていたけど、胸はそこまで大きくは無かった気がする」


「ほぉう。でもあれだろ? サキュバスってぇと、肌の露出が多い装備をしてるんだろ? どうだった?」


「……確かに露出の多い事は認めよう。だがな、あれって魔力がより伝わりやすい設計になっているから……」


「――ッカーっ! これだから経験の無い坊やは。違えよ、俺が言いたいのはもっとこう、エロかったかどうかだ」


 話に割り込んできやがった。

 話すギルマスの顔は赤い。大分回っているようだ。ちなみに、俺は解毒してるので酔いの心配は無い。


「……別に、何とも思ってないさ」


「えー? 本当かよー? 間があったぞー?」


 コイツ、今日はグイグイ来るな……。

 何か愚痴でも溜まってるのだうか。

 話を逸らしがてら、聞いてみるか。


「……なぁ、何か悩みでもあるのか? 珍しくいつもの酒より度数の高い酒を飲んでるみたいだが……」


「……やっぱ、分かるか」


 なんだ、やっぱり何かをあるんじゃないか。

 小さな予感はあったが、それきり根拠が無かった言葉だったのだが、どうやら的中したらしい。


「……なんだ、やっぱり何かあるのか? 少しぐらいなら聞いてやってもいい」


「……他言無用だぞ」


 すると、ギルマスは真剣な表情をして、こちらに身を寄せてきた。

 酒臭いとか、そういうのは一旦置いておく。


「実は、勇者パーティにお前が入った事を気に入らない連中がいるらしい。お前が今日、迷宮探索をしている間に何人かが俺のところにやって来たよ。これを持ってな」


「……お、おい、これって」


 ギルマスが懐から出したのは、退職届の紙だった。

 丁寧にギルマスの本名も書かれてあり、後はサインだけの状態だ。


「もちろん、俺が中身を記入した訳じゃない。内容はあっちで書いたんだろうな。サインだけは、どうしても本人が書かなければならない決まりだから、俺に迫ってきたんだろう。襲ってきた理由は……まぁお前を勇者パーティに推薦したから、ってなところだろうよ」


「まさか実力行使か? 大丈夫だったのか?」


「ふっ、この通り。ピンピンしてらぁ。襲った奴らは丁寧にブタ箱にぶちこんださ」


「ま、そりゃそうか。……でもま、襲ってきた奴らも、よくもまぁこんな正式な書類を持ち出せたな。上の機関がよくも実力行使をするような奴らにこの紙を渡せたな」


「理由なんて書くなら簡単だしな。しかも、冒険者のランク的にも自分の方が上だから、ユクスよりは自分がふさわしいって言われると、否定も出来ないんだろうさ。上の連中は、書類の数値面しか見てないやつらだからな。数値上でお前より高ければ、確かにそっちを選ぶんだろうよ。んで、俺も上の連中からは、自分の名前を売りたいだけのクズなギルマスだと思われているんだろうさ」


「……なんだ。どこの国も、上の奴らはクズしか居ないんだな」


 俺はポツリと呟いた。


「今日はよ、それが三回もあったんだ」


「……何だと? 三回も襲われたのか?」


「……や、その内の一回は平和的解決をしたさ。ま、残りは戦闘になったが、結局、俺程度を倒せなきゃ勇者パーティにゃ入れないだろうし、もう少し頭を冷やしてから出直せと言ってやったがな」


 笑いながらギルマスは言うが、俺はそこで気が付いた。

 切り傷か何かを治癒した痕が腕に残っている。

 これまでの会話から察するに、これはきっと……。


「……俺はあんたの事を倒せるか分からないが、俺のせいで迷惑をかけた事は確かだな。すまなかった。こんなことになるとは思っていなかった。俺の配慮足らずだった」


「おいおいおいおい、謝るんじゃねえよ。お前はもっと胸張ってりゃいいんだよ。恐らく、今日みたいな事はこの先ずっと続くと思う。これを無くすためには、お前が勇者の隣にいなけりゃならないって、他の人間に知らしめるしかないんだよ」


 そこでギルマスは、グビッと、ジョッキの酒を飲み干した。

 そして、口を開く。


「ユクス。冒険してこい。世界を回れ。そして、魔王を勇者と共に倒してくれ。お前なら、絶対に成し遂げられる」


 胸が……ズキリと傷んだ。

 きっとこの痛みは、俺が魔族で、この人達を騙しているから、だろう。


 俺はこの先、ずっとは勇者と居られないと思う。

 魔王と勇者の戦いにだって、俺がそこにいる保証は無い。


 それでも冒険をしよう。

 魔族とか関係なく、冒険者ユクスとして、冒険をしよう。


 心から、そう思った。



「言われずとも、やってやるさ」


 俺は酒を飲み干し、誓った。


「ここは俺持ちでいいさ。ツケにしといてやるよ。勘違いすんなよ、出世払いだからな?」


「……期待はしておいていいぜ」


「言うじゃねえか坊主め」


 そう言い合い、俺はギルマスと別れた。

 どうやらこれからは魔族とは別に脅威が現れたらしい。

 俺と勇者の関係を疎ましく思う人間、だとさ。

 どうしてこう、人間は同じ国領の奴等と争うのだろうか。って、俺も魔族と戦ってるし、偉そうには言えなかったか。


 まぁ、何が来ようと俺達は止まらないさ。

 なんせ、凡才ではあるが一応魔王の息子と勇者のパーティだぜ? 止められる奴なんて居りゃしない。



 よし、明日からでも、この街を出る準備をしよう。

 そして新たな冒険を始めよう。

 勇者パーティに入ったユクスとして、また1から全てをやろうか。


 さぁ、これからの旅は中々楽しくなりそうだ。









 

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