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魔族王子と闘技街

更新遅れました。

またぼちぼち頑張ります。

 闘技街コロッセス。

 今まで見てきた街と比べれば街全体の面積は小さいのだが、その存在感は大陸全体でも大きい。

 その理由として、やはり闘技街の名物兼名所である闘技場の存在だろう。

 むしろ、街自体に住居地域と称される場所自体はあまりなく、闘技場とその周辺の屋台通りと呼ばれる大通りが街のほぼを構成している。

 まあ存在感が大きいとは言ったが、それはあくまで闘技大会が行われている期間のみ。ダーレルムと同じく山と山に囲われた立地ではある事と、人の住処が少ない事も相まって案外閑散としているそうだ。

 ただ、幸いなのはこの周辺に生息する魔物は比較的平和主義な魔物が多い為、この街は魔物の脅威にさらされる事が少ない。年に何回かはバカが魔物を刺激して大怪我を負ったという話はやはりあるが、基本的に魔物の脅威はこの街では無いと断言できる。




 長時間の旅路を終え、俺達勇者パーティーはこの闘技街に辿り着いた。途中、魔物との戦闘も無く、安全にこの場所まで着く事が出来た。

 長時間だった為、それぞれが武器の手入れなどを行ったり、野営時には俺が料理を皆に振舞ったりだとか、ダーレルムに続いて適度な休息が取れた。これから始まる闘技大会に向けたいい休息だった。休みすぎて戦闘の動きが鈍っていないといいのだが。


「遠くから見えてはいたけど、実際に見てみるととても大きいのね、闘技場って」


 開口一番、カリーナが闘技場を見上げてそう言った。


「街自体がそんなに大きく無いからな。相対的に大きくも見える時あるけど、これは商人ギルドの本部と同じく大きいな……」


 もっとも、商人ギルド本部はどちらかと言えば上に大きい建造物であったが、闘技場は横に広く大きい建造物だと言えるだろう。街のシンボルとして十分に機能している建造物、文字通り街を象徴する建物である。

 闘技場は魔力を含んだ特殊な鉄鉱石を所々に、殆どはコンクリートで出来ており、形状は楕円形。天井はないものの、結界魔法を用いて雨や雷等の悪天候を遮断している。これには建材として用いられた鉄鉱石の作用もあり、直径100メートルを超える闘技場を天候から守っているとの事。尚、直射日光は抑えられない模様。気温ならある程度魔法によって快適にする事は出来るらしい。

 高さは30メートル程度、この闘技場には最大で20000人は収容可能になる。

 各国から名高い選手が集まるので、それ目的に訪れる客もかなりいるみたいだ。

 また、集まってくるのは選手や観光客だけではない。客を目的にした商人だって各国から出張してくるのだ。もちろんあの大商業都市テルディアからも沢山来るのだろう。流石にロイズは来ないと思うが……。

 闘技場の外の通りか、場内の観客席向けの営業が主になるが、恐らく俺たちの目的である闇奴隷商は会場の外だ。どこでやっているのか、どんな相手なのかも分からないが、来るという情報はある。魔族にすら手を出しているとなると相当やりなれていそうであるが。なんにせよ、到底許されるような相手ではない。


「……難しい顔しないでよ。勇者様に感づかれるかもよ?」


「そんな顔してたか? 案外、気を重く持っていたようだ」


「甘い物でも食べてリラックスしときなよ。ほら、出店いっぱいあるよ」


カリーナが指差す方向は街の大通り。既に観光客目当ての露店がずらりと並んでいた。人もかなりに居て、通りは賑わっている。

 ざっと見ただけでもかなり沢山の種類の店がある。飲食系はもちろん、武器屋や雑貨屋もあり、そして……中には奴隷商もあった。


「分かってると思うけど、闇奴隷じゃない奴隷商だってあるんだからね。魔国じゃあまり馴染みは無いかもだけど」


「そうなんだよ。テルディアの時に初めて奴隷ってのを知った。この国じゃ、金が無くなったら子供を身売りに出すなんてイカレた風習があるんだな」


「仕方ないんじゃない? 人出なんて足りてないってよく聞くし」


 呆れたように溜め息を吐く。

 かつてカザイという研究者は実験のモルモットとして奴隷の少女達を飼い慣らしていた。正規の取引で得た奴隷なのか、それとも闇奴隷商を伝って得た非合法の奴隷なのかは分からない。

 だが、基本的にいい待遇なんてしないのだろう。恐らく彼らは全て等しく一般人よりも低い身分に置かれている。必要最低限の衣食住しか与えられないのだ。


「溜め息なんてついてどうした? これからだというのに、そんな低い士気で戦えるのか?」


 ようやく馬車から降りてきた勇者シオン。最後の最後まで武具の手入れをしていたので少しだけ遅れてしまっていた。嬉々として手入れに取り組む姿はままごと遊びに勤しむ子供のようで、これから戦場に向かう者の顔とは程遠かった。

 その表情は今も崩れることなく、早く戦いたいと顔に書いてある。相変わらずの戦闘狂っぷり。俺はもう慣れたけどさ。


「さあまずは個人戦だ! 私は一足先に受付に行ってくる。午後の分も一緒にしておいてやるから、試合までには観客席にいてくれ」


 そういうと駆けて行ったシオン。

 シオンには悪いが、こっちはこっちでやるべきことがあるんだよな。

 とはいえ、タッグ戦に向けて敵情視察もしたいし、何より見てなかったなんてあいつに言ったら後が怖いのも確かである。


「どうしたものかな……」


 走っていくシオンの背中を見送りながらポツリと呟いた。

 その直後、ぽすっと背中に小さな衝撃が起こった。

 なんだ? と思って振り返る。そこには俺の見知った顔があった。


「やっほー! 良かった。やっぱり君たちもここに来てたんだね!!」


「お、おいおい、こんなとこに来て大丈夫なのか? ロイズ」


 そこにいたのは、現商業ギルドの総合室長、俗に言うギルドマスターであり、俺達の裏勇者パーティーの一員である、ロイズ・クーレンダルト。

 カリーナと同じ幻兎族であるが、その正体はカリーナ同様シオンにはバレていない。


「ふっふっふっ! 私は商人ギルドのギルマスだよ? 担当入れ替えなんてお手の物さ!」


 お、職権乱用をお手の物とはよく言ったものだな。

 ロイズは無邪気に笑みを浮かべて俺達の手を引いて駆けだした。


「ささ、情報共有は歩きながら! 大丈夫、この辺の出店の半分以上はウチの管轄下だからね!」


 手を引かれて通りの中にやってきた。

 ロイズの持ってきた『念話』のマジックアイテムを使って俺達の目的を知ってもらった。

 このマジックアイテムは言葉通り、声を使わなくても会話ができる代物だ。

 物自体は飴みたいな甘菓子の形で、舐めている間だけ効果が出るみたいだ。

 小さな見た目ではあったが、原価が高い為非常に高価だと聞いた。値段は怖くて聞いていない。


「ふぅん、それはまた面白い事になっているんだね。闇奴隷商か~、噂には聞いていたけど私達のシマでのオイタは見逃せないな~。よし、私も協力してあげよう!」


 焼きたての串肉を頬張りながら、そう宣言した。


「いや、もうお前もこっち側だから協力するのは当然だろ」


「当たり前でしょ。それより私次あれ食べたいわ」


 俺は彼女の肩に手を当てて真顔でそう言った。

 カリーナは変わらない表情だが、もはや関心はロイズから出店に向けられていた。


「……き・み・た・ち・さぁ!! 私これでも商人ギルドのギルマスなんだからね!? パーティーに一人でも居たらかなり有利なポジションの存在なんだからね!? ちょっとぞんざい過ぎないかなぁ!?」


 涙目でカリーナに店の売り物を奢っているロイズ。

 対して、買った商品を頬張りながらご満悦なカリーナ。

 ああは言ったが、ロイズの参戦は渡りに船だ。情報取りがぐっと楽になる。

 

 先を行く二人に追いつくように俺も駆けていった。

 













      ◇









「今回、許可証を貰って経営している奴隷商は二つだけ。許可証を貰ってないと経営出来ないし、まぁどちらかがクロとみて間違いないかな」


 一通り、通りを回った後、確認のためにロイズが言ってきた。

 今俺達は、

 確認できた奴隷商は二組。カザイみたいに下水道なんかに拠点を作ってなきゃどちらかが俺達の目的の対象となる。必要があるなら粛清の対象に……。


「私的には最初のおじさんよりも、その後の獣人が怪しいと思う。すごい睨んできたし」


 カリーナがそう言った。


「言いたい事は分かるが、少し安直だろ」


「睨んでくるのはやましい事があるからでしょ?」


「それもあるかもしれないけど、多分あの人は私達を観察してたんだと思うよ。奴隷商は信用が特にウリだからね。お金持ってそうだとか、お得意様になってくれるかとか」


 ふむ、とカリーナが思い返す。

 言われてみれば確かに、と彼女はぼやいた。


「私は最初の小太りのおじさんが怪しいと思いますね! あの人、信用第一って口で言っておきながら、噓の匂いしかしませんでしたから」


 言葉を発した彼女は俺の影からにゅっと出てきたが、これは彼女の持つ特殊技能によるものだ。

 なんとなくではあるものの、フウリンは人の悪意が分かるので彼女の発言には信頼を置いている。 


「おや、君が話に聞いてたフウリンちゃん? 勇者とボロボロになるまで戦ってたとは聞いていたけど、案外可愛い顔をしてるんだね」


 おっと、そういえばロイズとは初対面だったな。

 まじまじとロイズがフウリンを間近で見ている。

 怖気着く事無く、というか存在自体を視界から抹消しているかのように無表情で話す。


「獣人さんも微かに同じ匂いがしたのですが、あの香水の匂いでよく分からなかったです。どちらかと言えば……ひゃっ!?」


 まだ喋っているというのに、彼女は嬌声をあげて会話が途切れる。

 犯人はこいつだ。ロイズ・クーレンダルト。こいつが淡々と喋るフウリンの背後から胸を揉みしだいたのだ。……え、なにしてんのほんとに。


「あ、いや、無視されてるから、私に気付いて無いっぽいし、ワンチャンいけるかなって……」


「さっさと離れてもらえます!? 私の胸はマスターにしか触れさせない決まりですので!」


「安心しろ、俺も触れんわ」


「え~、あの夜、情熱的に『触れるぞ』って言ってきたにはマスターですよ~?」


「なっ、あんたたちいつの間にそんな事を……」


「記憶にねーよ! お前の夢の中の話だろそれ!」


「まあでしたら今夜、正夢にして頂けませんでしょうか?」


「アホ言え! 夜這いなんて来ても魔族は本気になれば長時間眠らずに生きられるんだからな!」


 わーぎゃーわーぎゃー言っていると、ロイズがおずおずと何かを言ってきた。


「あ、あの、話の腰を折ったのは私なんだけど、そろそろこれからについて話そうよ」


「いいか、特大ブーメランなんだが、時間が惜しいから今回は深く言及しない。……まずは状況整理から始めようか」


 話の脱線は俺らにも非がありそうだからな。……いや、あるか?

 まあいいや、まずは現状把握から再確認していこうか。


「俺達の目的は、闇奴隷商の確認、場合により壊滅。話し合いでケリがつくならそれに越した事はないが、まず無理だな。戦闘は避けられない。こっちの戦力は俺とカリーナとフウリンとロイズ、後ろ盾って事ならダーレルムのノエリアが付いている」


「んぇ? 新興都市のお嬢様がなんで後ろ盾? 私らじゃなくて?」


「ああ、言ってなかったな。今回の依頼主はノエリアだ。んでもって俺の妹だ」


「はあああっ!? え、ユクス君の妹ってことは……魔族の姫様って事だよね!? そういう事はもうちょっと早く言ってくれないかな!?」


 驚くロイズはスルーして話を続ける。


「ともかくだ。向こうの戦力は未だ未知数ときた。こっちは戦力を増やすったって方法がないし、やつらが闘技街に滞在している間という制限時間もついている。が、これ以上の被害を出す前に何としてでも今回で決着をつけたい。何かいいアイデアある奴はいないか?」


 俺は皆に提案する。

 ロイズが真っ先に会話に参加してきた。


「確認なんだけど、勇者に戦力として来てもらうのは無理なんだよね? ほら、何とか誤魔化して……」


「要所要所なら可能かもしれないが、魔族が関わってくる部分は流石に辛いかもな。戦力としてみるなら最高峰なんだけどな」


「なら、相手の戦力が分からない以上、少しでもこっちの戦力を増やすべきじゃない? いざという時に勇者無しで戦えるように」


 カリーナが提案する。

 計画の当初は何とかするつもりだったんだが……。

 ここに来る馬車の中でそれは考えていた。最後の最後まで説得を考えていたが、情報の無い現状では無理だと判断した。

 しかしながら、戦力を増やすというのは賛成だ。


「よし、じゃあ戦力増やしに行くか!」


 俺はそう告げた。


「簡単に言うってことは、何か方法があるってことよね?」


「ああ、戦力確保に加えて、相手の皮の奥まで暴いてやろうぜ!」




  





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