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魔族王子と新たなる旅

投稿遅れてます。

なぜ私は投稿が早くできないのか、多分ヴァロをやり始めたからじゃないとは思いますが…。

それはさておき、今回は通常よりも長いですのでご了承ください。

 翌日、早朝ながらもここを出発していた。

 ここで宿をとっている他の客は流石にまだ眠っているらしく、出発時には俺達以外に誰も人は居なかった。

 ここで言う俺達って言うのは、シオン、俺、カリーナの勇者パーティー、そしてノエリアと彼女の付き人の方達だ。付き人の中にはあの怖いメイドさんもいる。終始笑顔だけど、俺とカリーナはあの人の怖さを知っているから正直震えが止まらなかった。


 ノエリア達に見送られながら、俺達は馬車を使って次の目的地まで向かっている。

 乗っているのは貴族連中が使うような、テーブルやティーセットがあるような部屋としても機能する馬車では無く、雑貨なんかが積んである商人の馬車、その荷台の中だ。

 何でも、ノエリアが贔屓にしている商人が偶然泊まりに来ており、明朝から出発すると言うのだ。

 もっとも、その商人に予定があるのは闘技街ではなく、そこを超えた先にある【大聖地ヘヴンベル】だというので、一緒の旅って訳ではないけどな。

 普通に待っていたら昼過ぎまで馬車が用意出来ないらしいので、明朝だとしてもこの提案は素直に嬉しかった。


 馬車の荷台で揺られながら、俺はノエリアから受け取ったお弁当の包みを開ける。朝ごはん用にと受け取ったものだ。


「おお、流石はノエリア。見事な手際だな……」


 そこにあったのは色とりどりの料理の数。

 ハンバーグや卵焼きやらが入った包みに感服しているが、それとは別に一回り小さい容器も受け取っている。その中身は3年前に約束していた俺の大好きなオムライスだった。

 これ全部をノエリアが1人で作ったというのだから大したものだと思う。あの歳で激務をこなした後に俺達の朝飯までこしらえるなんて、将来きっと有望な女性になるに違い無い。


 ちなみに受け取る際、あの怖いメイドさんから受け取ったのだが、受け取る際に小声で『実はお弁当を作る為に〜、お嬢様は眠られていませんのです〜。もしこの先、今回の睡眠不足のせいで〜、お嬢様が倒れたらしたら〜、その汚ねえ首、即跳ねてやるからな』と脅された。

 俺は冷めた顔でブンブンと顔を上下に振った。

 あの人の前世は死神か何かだと思う。



「……聞くまでも無いかもしれないけどさ」


 俺はふと2人に話しかける。

 言葉を遮るように、全文を話してないに関わらず、2人は口を開く。


「見くびるな、料理なら多少できるぞ」


「配膳なら出来るわ」


「まだ質問してねぇよ。つかカリーナ、それ料理してねえな」


 まぁ薄々分かっていたかもしれないが、こいつらに料理はさせられない。

 配膳しか出来ないカリーナは料理番なんてしないので置いておいて、シオンに料理番を任すのが一番危ない。

 基本的に野宿の際に料理をするのは俺の役目だ。

 1人で活動している時にも良くしていたし、流石にノエリアぐらい料理に自信なんてないが、食えるし美味いものは作れる。



 だが、過去に一度シオンに料理を任せた事がある。

 ああ、あの時の記憶が鮮明に蘇ってきた。

 まだシオンの事をよく知らなくて、それでも支度の段階から不穏な雰囲気はしていたのだが、作ると言い出して聞かなかったので、仕方なく料理の番を譲ったのだ。

 とはいえ、食材と器具をあらかじめ用意していたので、美味しくはならずとも食えないラインは超えないと踏んで薪を拾いに行ってしまった夜があった。

 十分な量の薪を拾って帰ってきた俺が見たものは、鍋の中で蠢く新種の魔物の姿だった。

 しかもその鍋を俺に見せて、満面の笑顔でシオンは『最高傑作だ!』と語ってきた。


 頬を引き攣る俺。

 無邪気な笑顔で皿を用意するシオン。

 鍋からグツグツ……いやゴポゴポと煮えたぎる音。

 後ずさる俺。

 箸の用意までして笑顔のシオン。

 幻聴か、鍋から『コロ……シテ……』と聞こえる。耳がおかしくなったと思いたい。

 

 俺の席に置いてある皿にシオンが鍋の中身を盛り付ける。本人曰くシチューらしい。俺の知っているシチューは黒くない。というか煮るという行為以外に何もかもシチューとはかけ離れている。

 そもそも普通のシチューは盛りつけた時に皿が溶ける勢いの熱さじゃない。火をかけすぎたとか、そういう次元じゃない。鉄板焼きじゃないんだから、皿に盛った時にジュウジュウと煙を立てているのはおかしいだろう。しかも皿の底が溶けていく音だし。

 何故これでお前は笑顔が出来る?

 俺がおかしいのか? そう錯覚さえしていた。


 最近疲れてるんだなと、俺は自己暗示をかけるが如く、無理矢理納得して席につく。

 向かいの席には新妻のようなエプロン姿で笑顔のシオン。

 つけただけで溶けていくスプーンに急かされながら、俺は彼女の目の前で勢いよく頬張る。

 そこから先の記憶は無い。





「……あれを料理と呼ぶのは違うと思うが」


 数多くある勇者の失敗談の1つを思い出していた俺はそう呟いた。

 料理できるなんてすごい、と拍手していたカリーナも動きを止める。


「なっ、あの時の話だろうか!? ほんの少し失敗しただけだ! 少し火を強くしすぎたのがいけなかったんだろう!?」

 

「皿やスプーンが溶ける温度の料理なんて聞いた事ねえよ。つか、お前あの時にその辺に生えてた毒キノコも料理に使ったよな!? 俺じゃなかったら死んでたぞ!」


「あ、あの虹色に光るキノコは毒キノコだったのか……!?」


 んなもん見た目で分かるだろうが。

 虹テングダケと言って、れっきとした毒キノコだ。症状は主に神経毒。全身に回ると30分足らずで呼吸困難から死に至る。

 解毒魔法がなければ死んでいた。無自覚に勇者に毒をもられて死ぬ魔族なんて惨めすぎる。


「いいかカリーナ。こうやって無知は人を殺す。商人になりたければ毒キノコぐらいは勉強しとけよ」


「私だって道端に生えてる虹色のキノコなんて手を出さないわよ」


「それが普通なんだよなぁ」


「むかっ! 火を通して毒抜きはした筈だろ!」


 ああ、だからあんなに高温だったのか。

 最初に毒キノコかもしれないって葛藤だけはあったのね。なんか少し安心した。

 いや、でもな、そもそもの話になるが。


「普通のキノコならな、たとえ毒キノコでも笠が虹色に光るなんて突然変異でもあり得ないんだよ。あれは魔力関係で生まれたキノコだから、高温度による毒抜きは出来ないんだ。解毒魔法をかけた後に調理ならまだ分かるが、そもそも味なんて魔力が主成分のキノコにある筈もなく、無味無臭のキノコになるだけだ」


 俺の隣でカリーナが感心しながらメモを取っていた。

 シオンは顔を真っ赤にさせながら弁当のおかずを俺からひったくり、そのままガツガツ食していた。

 そんなこんなで時間は過ぎていく。

 満腹になった2人はいつの間にか眠ってしまっていた。

 幸い、今通っているのは獣道でなく、舗装されているちゃんとした道だ。揺られるのは仕方ないが、それでも最小限である。この程度なら起きることは無いだろう。


「なんか、やる事あるかな」


 暇になってしまった。

 喋り相手の2人はぐっすり。

 商人さんは、この場所から話すとなると少し大きな声を出さないといけないから無し。

 となると、残るは……よし、時間は有用には使うか。

 俺は魔道書とリンクを開始した。








    ◇






「やぁ、久しぶりだね所有者様。もうちょっと再開が早くても損は無かったんじゃない?」


「現実でも色々と忙しい身なんでな」


「ほっほぉ〜? 女の子とイチャイチャするのが忙しい理由と? 言っておくけど、所有者様の行動、全部ボクは把握してるからね?」


「なら助けてくれよ。昨日の夜なんてノエリアが露天風呂にいきなり来て暴走しちまうし、本当に大変だったの知ってるだろ」


「え、ええ……。もしかして本気で言ってるの? あっちゃぁ、妹さんも大変だわコリャ」


 相も変わらずサーチは意味不明だ。

 昨日のどこに落胆する理由があるのか。

 まぁ、それはさておき。


「新しい力が欲しい。今の俺ならどんな魔術が使えそうだ?」


 ここに来たのは自身のスキルアップに他ならない。


「そうだね、先の戦いで所有者様も沢山の経験値を積んだっぽいし、覚えられる魔術は増えているよ。その辺の子供とかでも使えそうな弱っこいのは省くとしたら、【氷刃】【黒炎尾】に……あれ、なんでこの魔術も……」


 ん? 最後の方は声が小さすぎて聞き取れなかった。

 もう一度尋ねてみる。


「なんだって? 最後が全然聞き取れなかったんだけど」


「いや、何でもない。珍しい魔術が使えそうだったけど、やっぱり所有者様には使えないと思う。けど、何回やっても取得可能な状態なのは一種のエラーか何かなのかな」


「え、エラーっておい。大丈夫なのか? お前もバグっているのか?」


「……いや、正直分からないし、所有者様に何かあったら嫌だからこの事は伝えないでおくよ。だから今の言葉は忘れて欲しい」


 よく分からないが、今は素直に流しておくか。

 どうせ喋ってくれたところで俺が理解できるとは思えないしな。

 なんだかんだ心配してくれているんだ、今は何も考えずにその配慮に甘えておこう。


「じゃあ覚えられそうなヤツから覚えていこうか。新しい属性っぽい【氷刃】ってのが気になるな」


「ああ、その通りだね。この魔術の属性は分かる通り、氷属性。大気中の魔力を氷の剣に変換、射出という氷属性の基本魔術になるよ。ここから派生させていく事によって、いずれは辺り一帯を氷河期にさせる魔術も夢じゃないからね、頑張ってね」


「お前って結構、最終的に物騒になる考え方するよな。見た目に反してグロいの好きだろ」


 見た目は完全に幼女だが、思考回路がぶっ飛んでいる。

 俺より長く存在してるからだろうか。


「死体なんて飽きるほど見てきたから慣れたんだよ。ボクが存在し始めた頃よりは、心が強くなった証拠だよね」


 そう言ってサーチは一枚の紙を俺に渡してくる。

 その紙は、魔導書の1ページのようだ。古代文字で一面が満たされている。だが、内容はすんなり入ってくる。


「お、ボクとの繋がりが深くなったみたいだ。この空間内で魔術が覚えられるようになったよ。勿論、これまで通り、魔導書にもそれと同じ文は書いてあるから、読み返したくなったら原本を読んでね」


「なるほどな。そんな事まで出来るのか。そりゃ便利だな」


「だからボクとは親密になった方がお得だよ? でもまだボクに手は出させないからね! そんな簡単に体は許さないんだから!」


「お前のしょっぱい体なんか手を出すわけねーだろ。馬鹿なこと言ってないで話を進めろ」


「しょっぱい体って何だ! 言っておくけど今見えている体はたまたまロリボディであって、前回の所持者はナイスバディのお姉さんだったんだからね!?」


「なんだそれ。お前の体は交換可能なゴーレムなのかよ」


「あんな泥人形と一緒にしないでほしいね! ほらボクって概念みたいな存在だから、見ている人によって姿形が変わるんだよ」


「む、てことは一回だけ現実世界に来たことあったよな? あの時はそれぞれ違うものが見えてたってのか?」


 あの時は、ロイズとカリーナに見られていた筈だ。

 俺は幼女の姿が見られていると思っていたのだが、もしかしてあれがお婆ちゃんとかに見られていたとすると、それはそれで……怖い事になるな。


「いやいや、あの時だって2人はロリコンだとか言ってたでしょ? 結局、所有者様の思考通りに見えてるんだよ。ま、なんで所有者様がボクのことをロリっぽく見ているのかは不明だけど、心の底ではロリコンサイコーとか思ってるんじゃないの?」


「な訳ねーだろ。俺は至って普通の男子だ。でもまぁ、お前が見た目通りの歳だとして、関係あるのはノエリアなのかもな。ほら、俺って魔国を出たわけだし、置いてきた妹の事を心配していたから、心の底で関心があったのはノエリアだと思う。だからお前はノエリアと同じぐらいの見た目なんだろ」


 歳は同じぐらいかもしれないが、まぁノエリアと確実に違う点はあるがな。

 言わないけど。


「ほっお〜? 今さぁ、どこ向いて何考えてた? お姉さん怒らないから言ってみな〜?」


「何も言ってないしどこにも視線向けてねぇよ! ほら、それより他の魔術も教えてくれよ。さっき言ってた【黒炎尾】だっけか? あれは名前的に今まで覚えてた魔術の上位互換的なやつだろ?」


「ふん、大人なボクは今回だけ見逃してあげるよ。で、新しい魔術だったよね。分かった。でも前回同様、いきなり多くの魔術を頭の中に叩き込むのはお勧めしないから、まずはこの2つから。新しい属性って事もあるし、より強い魔術でもあるから、これ以上は覚えられないよ。廃人になりたいなら別だけどね」


 そう言って今度は【黒炎尾】のページを貰う。

 【氷刃】同様、すんなりと頭の中に内容が入ってくる。古代文字なんざ少しも分かりやしないのに。


「このままどんどん新しい属性も使えるようになるなら、俺って実は魔術の才能あったりしてな。そのまま魔術を魔法と称して使っていれば、いつか賢者の称号すら貰えるんじゃねーか!?」


 という俺の期待は高まっている。


「いや、それは無理」


 のだが、あっさりと否定された。


「魔術も魔法も根底は魔力を変換して使う事にあるから、やっぱり才能や遺伝に多く繋がってくるんだよ。所有者様が使える魔術が魔法よりも多いのは、魔術の方が発動するプロセスが少なくて覚えやすいからで、これから10年みっちり修行していけば魔法にも慣れて今と同じくらいバンバン使えるようになるよ」


「……って事は、俺の幼少期の鍛錬を持ってしても、魔法に慣れる事はなかったのは不器用のせいってことか?」


「センスは仕方ないよ。それに、才能が無くたって扱えない訳じゃない。例えば、所有者様は【トールハンマー】というAランクの魔法を覚えているけど、おそらく所有者様に雷属性の才能は無いよ。この際、ハッキリ言うと所有者様は遺伝的に炎属性と氷属性の才能があるし、先天的な才能なら闇属性がある。闇属性は魔族だからだと思うけど、遺伝してきているのは両親のどちらかの才能だろうね」


 トールハンマーはシオンとジャイアントクラブキングとの戦いで使った魔法だな。

 あれは師匠に泣かされながら取得した魔法の1つだったのだが、確かに炎属性やら闇属性やらの魔法に比べて取得したのは遅かった……気がする。あの頃は必死だったからなぁ。正直、思い出したくない記憶が多すぎて曖昧だったりする。


「ボクが思うに、所有者様の扱う【トールハンマー】は本来の力を発揮できていないと思う。きっと才能ある人が使えたなら、所有者様の記憶に映るあのでっかい蟹は一瞬で焦土と化すんじゃないかな」


「ま、マジかよ」


 スケールの大きさにビビってしまった。


「あとは、治癒や消滅系の所謂、無属性魔法は誰もが覚えられるけど、その分、極めるためには相当深入りしないといけないよ。ボクの記憶には、あらゆる種族を含めても指で数える程度しか極めた者なんて見たことないけど」


「でも、才能に左右されずに、皆がフラットの状態からスタートなんだろ? それでいて、数える程度か……。いやでも待てよ、あまり使うことの出来ない治癒系統の魔法が使える俺って結構すごい奴なんじゃ……」


「勘違いも甚だしいね。治癒魔法が使えるのは所有者様の師匠の努力と教え方が凄いだけ。しかも治癒なんて無属性の初歩の初歩。もう一個付け加えるなら、治癒系統の魔法はプロセスが多すぎて大抵の者には理解できないだけ、あるいは出来ないと最初から諦めてる奴ばっかだから。ま、でも所有者様の努力は認めてあげるゾ♡」


 ペロリと舌を出す仕草がイラっとする。

 そんな眼前のムカつくロリは続けて言う。


「無属性は無限の可能性を秘めているからね。その気になれば何だって……いや、この話はまだ早いかな。やめておこう」


 なんだよ。気になることを言いやがって。

 そういや気になるといえば、少し前から気になっていた単語があるのだが、それについての違和感が存在するのでこの際聞いてみるか。

 

「なあ、ちょっと前に魔法は才能や遺伝によって大きく左右されるって言ってたけど、今まで会った誰からも聞いてこなかったんだが、それは何でだ? 師匠からすら聞かれなかったんだが」


 俺はここにきて、根本的な疑問をサーチに投げかける。

 話が大きくなってきたが、サーチは答えられるのだろうか。

 そうだね、と顎に手を置いたサーチは少し考えて、話を始める。


「少なくとも、魔術に関しては才能と遺伝に左右される事を、昔の人々、それに魔族も理解していた筈なんだ。でも、いつかは分からないが魔術は人々から忘れ去られ、代わりに流行り始めたのが魔法というもの。魔術よりも段階を踏む過程があって、ボクからしたらわざわざ面倒な行為をわざわざしているとしか言えないけど、魔術は無くなった。常識が変わったんだ。それによって得する人が存在するとは思えないけど」


 ……確かにそうなんだ。

 なぜ面倒な方の魔法が流行しだす?

 魔術を知っている俺やサーチからすれば、魔術の方が手っ取り早く、同様の効果を得られるのだから、ずっと魔術のままでいいはずなのに、どこかで切り替わった。


「ま、外の世界がどうしてこうなっているのかは分からない。ボクだって封印されていた訳だしね。封印されている中で状況が変わるなんてザラにあるよ。でもね、さっきも言ったけど魔法も魔術も根底は一緒なんだ。だから魔法を創った人だって才能と遺伝に影響される事ぐらい分かった筈なのに、そこだけ伝えられてないのは違和感が残る」


 そう、魔法の授業を受けていて、才能と遺伝なんて単語は出てこなかった。

 さも、出てこない事こそが常識であるかのように。


「……今日のところはここまでにしよう。だいぶ所有者様の魔力も使っちゃったしね。現実世界で何かあった時のために少しは取っておくべきだ」


「おっと、それもそうだな。つい時間を忘れてしまうよな、この場所って」


「時間は進んでいないから、暇つぶしにはならないかもしれないけど、収穫はあったでしょ? 時間の進まない暇つぶしになら応えられるから、また来てよね、所有者様」


「ああ、暇だったり困ったりしたらまた来るよ、じゃあな」


 そう言うと急ぎ足で魔導書とのリンクを閉じた。

 時間は進んでいない。

 馬車の隙間から見える陽光は朝日のものだ。

 眠る2人を見て考える。


 才能が左右すると言うならば、きっと勇者には光属性の才能があるんだろう。

 魔法関係からは離れるが、カリーナにはきっと商人の才能は無いな。太刀の才能ならありそうなものの。


 生きとし生けるものには各々、才能がある。

 けど、この世界の特別な存在である勇者や魔王には、本人の知らない才能があるんだろうか。

 答えは分からないだろう。本人すら知らない質問に答えなんて存在しない。

 けれど、どんな才能だとしても、きっとコイツは使い慣らしてみせるんだろうな。無自覚ながらに、きっとその才能はどこかで開花するのだ。

 俺が思うに、そういう存在なんだろう、勇者ってのは。


 それが、勇者という才能なんだろう。



 さて、俺には必要ないのだが、コイツらと同じく眠ってしまおうか。無いとは思うが、同じ事をすることによって何か分かるかもしれないしな。


 そして俺は眠りについた。

 考え事の後だからか、いつもよりも深い睡眠だった。

 




     ◇




 誰もいない空間で少女は呟いた。


「やっぱり君達なんだろう? こんな現実改変、出来る人物なんて限られてくる。マクスウェルか、ラプラスか。そのどちらもか。そんな事をする動機は……いや、やめよう、そんなどうでもいい事になんて時間を使ってやるものか。今は彼の将来のほうが面白味があるんだからね」


 これは誰にも聞こえない独り言。

 少女は笑った。

 彼の運命の歯車が回りだしたのならば、少女の歯車も動き出す。

 もっとも、少女の場合は運命の歯車なのか、あるいは……。


「ああそうだ、恐らく聞こえているんだろうから忠告を1つ。ボク的には謎は謎のままでいいけどさ、ボクの物に手を出したら君らもこっち側に来ることになるから、あまりオススメはしない。別にこの時代に特異点があってもいいじゃないか。かつてのボク、いや――君たちみたいにさ」


 少女のそれは、運命と呼ぶにはあまりにも残酷で、凄惨で、悲観的で、『―――――』なのだから。


 







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― 新着の感想 ―
[良い点] 最近読み始めました!おもしろくて1日かけて最新まで追いつきました! [一言] 作者が小説の奴隷になって書き続ける必要はまったくない!やる気が出た時に書いて投稿してください。気長に待ってます…
2022/06/26 02:56 なまなまこ
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