魔族王子と旅立つ前
更新遅れてすみません。
仕事を辞める手続きうんぬんかんぬんでゴタゴタとしておりました。
もー少しで辞められるので、また更新していきます。
エルデンとかエペのソロマスとかやってた訳じゃないです。
「最近、弛んでるんじゃないのか? 勇者パーティーとしての自覚を持てとあれほど言っているだろう!」
さて、何度目だこのセリフを言われるのは。
ガミガミと言ってくる為、これでは幼少時代の嫌いな教師を思い出してしまう。
あの頃は教師が絶対だったから怒られる度に姿勢を正して謝っていたが、今の俺はシオンから言われても尚、肩肘をテーブルにつけて相槌を打つだけである。
「おいユクス、聞いているのか? これはパーティーを組む上で最も大切な事だぞ。私達は人間代表、人間族全ての命を預かっている訳であり、その行いを見て人は育ち、導かれる。だから私達が……おい聞けユクス!!」
耳にタコが出来るほど聞き飽きたわ。
俺はもうシオンを無視してテーブルの上にあるパンフレットを読んでいた。
立ちっぱなしで怒っていたシオンも、俺の態度を見て諦めたのか、椅子に座り一緒にパンフレットを見てくる。
「なぁシオン、この前回大会の2人組は強いのかな」
テーブルに半ば突っ伏すような行儀の良くない姿勢になりつつある俺がそう言った。
パンフレットのインタビュー記事には堂々と『前回大会優勝者』と書かれてある。
だが写真に映る2人組は、記憶に新しく残るどこかの宿屋の店主のような筋肉ダルマとは程遠い、シオンよりも年下のような少女とシオンやカリーナと同じ年頃の少女の姿。
間違った写真を採用したのかと疑う程だったが、インタビューの答え方がどうにも男のそれとはかけ離れているようで、前回大会優勝者はこの2人で確定みたいだ。
「内に見せる強さというものは存在するぞ。例えば、魔法で筋肉を強化した場合とかな。華奢に見える女性冒険者が強いのも、大半は魔法強化による恩恵だ」
「成る程な。お前が馬鹿みたいに強いのも、その魔法強化の恩恵か?」
「いや、これは自前だ。この写真の少女のような華奢な腕はもう無い。筋肉でゴツゴツしてて……強くはなれたのだが、正直、私はこの子達が羨ましくも思うこともある」
シオンは写真の少女の腕を名残惜しそうに指でなぞる。
男に比べれば全然華奢だとは思うけどな。
「ユクス、手を出してくれるか?」
言われるまま、手のひらを差し出す。
その手のひらを、握るようにシオンは触れる。
それは俗に言う、恋人繋ぎというものじゃ……。
「このまま、握り返してくれるか?」
……な、何を狙っているんだ?
握り返すって、何のために?
と、動揺しているのは俺だけのようで、シオンは至って普通の表情だ。動揺すると分かりやすく顔に出るからな。
ともかく、とりあえず優しく握り返してみた。
「……おい、もっと力を込めろ。こ、これでは恋人達がよくやる……繋ぎ方ではないか……」
「え? あ、ああ、力比べね? あぁ成る程な。いや、分かってた、分かってたけど、いきなりそんな本気で行くと大惨事になりかねないというか」
あっぶねぇ!
本当に勘違いしそうになった。
てか、本当に力を入れていいのか?
シオンは脳筋バカで戦闘狂で勇者だが、一応女性だぞ。手の大きさだって勿論俺の方が大きい。
本当にいいのだろうか。
「……お前、今失礼な事考えているだろ。段々とお前の事を分かってきて嬉しいよ。さぁ力を入れてみろ。握り潰してやる」
「あんま怖い事言うなよ。お前が言うと洒落になら……って、え? マジ?」
何がマジかって言うと、実はそこそこの力を入れてシオンの手を握っているのだが、ビクともしないのだ。
こめかみにシワすら浮かべずに涼しい顔をしてやがる。
「ん? どうした? 大惨事にしてみろ。やれるものならな」
そう言ったシオンのドヤ顔が凄く腹が立つ。
やってやろうじゃねぇか!
泣いても容赦しないからな!!
俺はフルパワーで、まさしく握り潰す勢いで力を込めた。
「んぐぐぐぐぐぐ!!! 動かねええええ!!!」
が、まるで岩を手にしてるかのように動かない。ていうか硬い。
「んん〜? 本気を出していいのだぞ? ほら、早くしてみせろ」
「クソが……。分かってて言ってやがる。お前こそ我慢してんじゃねぇの……くァァァァッ!!!!」
言ってる途中で握りつぶされそうになった。
いや、もう半分くらいは握りつぶされてそう。
指とかの感覚が消えていく。
「あ? なんか言ったか?」
「言ってませぇぇぇん!!!」
尚も握りつぶされている。
涙も出てきた。
「……なんか、久々にユクスに勝っている気がする」
「な、なんの勝負なんですかね……?」
「さぁ、何なんだろうな……」
横を向いて、少し微笑むシオン。
尚も俺の手は握りつぶされているんだが?
「いいから早く手を離せって! お前の馬鹿力えぐいんだよ! ほんとに折れる折れる!!」
「おっと、すまない。少し感傷に浸っていた」
「ひぇぇ痛え。って、何の時間だったんだよ今の」
「お前が最初に疑ったんだろうが。言っておくが、相当な手練れならもっと凄いぞ。それこそ赤子の手を捻るようにな」
「うへぇ、さっきのより痛いのかよ。本当にそんな奴に勝てるのか俺達は」
「なに、余裕だろう。なんせ、私達が勝てなければどの道、魔王になど一生勝てはしない。だから、私達に敗北の二文字は無い」
「……まぁ、責任、背負っちまったしなぁ。頼りにしてるからな、シオン。こういう奴らに前線で戦えるのはお前ぐらいしか思いつかないわ」
前回大会優勝の少女達を指差して言った。
と、そこでふと先程の話を思い出す。
冒頭で話していた異性交友がどうのこうのって奴だ。
恋人繋ぎがどうこう言っていたから、突然だけど考えてしまった。
「そういやシオンさぁ、前から気になってたんだけど、お前って恋人とか居た事無いの?」
ピシッと、シオンに亀裂が入る。
ん? 地雷踏んだ?
「幼少の頃は親の農業を手伝っていた。そして今から5年前に勇者の素質があると私は王都に連れられた。そこから厳しい鍛錬に励んでいた」
「つまり?」
「そんな私が、恋人など出来ると思うか?」
「え、あ、いや。ほら、城の兵士とかは?」
「何故か目が合うだけで逃げられたが? 訓練中には教官に懇願してペアになりたく無いと言われたが?」
コイツ、自由な時間が3年ほどあった俺よりも過酷な過去を持ってやがる。
そして淡々と話しているシオンの瞳の輝きがどこか濁り始めたような気がする。
「あ、その、すまんな。気が利かなくて……」
「別にいい。実を言うと、あまり気にはしていないんだ。確かに歪んだ青春時代だったのかもしれないが、勇者として、皆から必要とされるのならそれでいいと思っている。それに、恋人が居るから強くなる訳じゃないだろう?」
「さぁな。よく守るべきものがある奴は強いと聞くけどな」
「む……。それは、一理あるのかもしれん。が、お互いに今は十分強いだろう?」
「お互い、ね」
「なんだ? まさかお前、私と同類ではないのか!? お前も幼少の頃から過酷な訓練をしてきたのであろう!? お前も灰色の青春時代なんだろう!?」
泣きそうになっているシオンが悲痛な叫びを漏らす。
いや恋人なんて居た事無いけど、一目見ただけで恋人なんて居ないだろと思われた事に腹が立った。いや実際居ないし、ただの独りよがりなんだが。
「って、なんでお前が泣きそうになってるんだよ。いねーよ! 俺もお前と同じで恋人なんて出来た事ねぇよ! って言わせんなよ恥ずかしいな!」
はてさて、シオンが泣きそうになったのは、まぁ十中八九、同類だと思われてたからだろうけど、この反応をされると、普通の人間の男子なら少しくらいは期待してしまうぞ。
俺は魔族だから平気だけど。
いや本当に平気だけど。
気にして無いけど。
「別に泣いてなどいない。取り乱しても居ないし、お前は何も見てない聞いていない。そうだな?」
「あーはいはい。それでいーやもう」
取り乱した後にはこうやって意地を張る事も、今までの旅で分かってきた。
適当に流せば、無かったことにして話が進む事も分かってる。
「んじゃ、俺は行くぞ。カリーナとも話してくる。また夕飯頃に落ち合おうぜ。あ、言い忘れてたが今度はノエリアに悪いから普通の食堂を使わせてもらうからな」
そう言うと俺は部屋を出る。
カリーナは、俺が昨晩泊まっていた部屋に居る。フウリンも居る事だし、裏勇者パーティーとしての会議だからな。
勇者からはこの建物を探索してくると言ってあるそうなので、妙な事には至らないと思う。
ちなみにあの部屋はノエリアの自室ではあるのだが、そのノエリアは執務室という場所で絶賛奮闘中だそうだ。一体何と戦っているんだ。
◇
「……元気そうだな、お前ら」
ノエリアの自室で、いの一番に見えたものは、これまでに何度か見た事のあるカリーナとフウリンのキャットファイトだった。
ベッドの上で掴み合ってゴロゴロしている。
「マスター! この女が私の茶菓子を勝手に食べていたのですよ! その罪! 万死に値します!!」
「何が私のものよ。食べたいと思ってただけで所有権は自分になる訳ないでしょ!」
「おいちょっと待て、あのお菓子食ったんか!? ノエリアから食べていいと言われたのは俺だぞ!? お前ら許さねー!!!」
きっちり15分後。
ベッドメイキングに来たノエリアのお付きの人(メイドっぽい)に止めてもらってなかったら永遠と喧嘩していたと思う。
食べ物の恨みは強い。
まぁそれより片手でベッドを掴んで持ち上げてたあのメイドさんの方が強そうに見えたけど。もう片方の手を頬に当てて『うふふ〜。あまりオイタが過ぎて姫様の部屋が汚れたら〜、全員〜、息の根を止めるからな。静かにしてろ雑菌ども』と言われて3人怯えながら部屋の隅に震えて固まっていた。
流石はノエリアの付き人。かなり手練れだと思うし、強いと思う。めちゃくちゃ怖かった。
「や、とりあえず、明日以降の作戦会議と行こうか。大会当日は、俺とシオンで何故か知らんが大会に出る事になった。個人戦が行われている午前中なら自由に行動は出来ると思うが、午後に行われるタッグ戦に間に合うまでが俺の自由時間になる。っと、悪いな、カリーナにはまだ依頼とか話してなかったよな?」
「話ならフウリンから聞かせてもらったわよ。闇奴隷がどうこうって話でしょ? あんたのような魔族が売られているかもしれないとか、そういうのよね」
「なんだ、説明済みか。メリハリはちゃんとしてるんだな、やっぱ仲良いんじゃんか」
「「それは違(う)いますわ!!」」
真っ向否定。
シンクロ率100%だが、本当に君たち仲悪いか?
「まぁ兎も角、俺が自由に動けるうちはカリーナと一緒に街を散策してみる。まず地図を買って、奴隷が販売されている店に印をつけようか。それが1日目の俺たちの目的で、フウリンは悪いけど、影に隠れながら何か怪しい動きがあるかの確認に加えて試合の観戦も少ししてもらいたい。シオンの大会のシーンの感想も言えないと後でどやされちまう」
「分かったわ」
「私も了解です、マスター」
「それと、確証はまだ無いのだが、大会は2日かけて行われると思う。今年の詳細は分からないが、昨年の大会は1日目に予選、2日目に本選ってな形だったらしいんだ。今年も恐らくは前と同じだと思うんだがなぁ」
そう、まだパンフレットでしか確認が出来てないが、まぁ恐らくは同じだろう。
実を言うとそこはあまり気にしていないが、違ってくると若干自由時間が減りそうだ。
「2日目の詳細は分からないが、動ける時間は確保するつもりだ。あと懸念するのは……闇奴隷商を壊滅させる際、どうやってシオンを呼ぶかと言うのがあるんだが、あいつ個人戦にもタッグ戦にも出てるせいで、もうどうする事も出来ない。そこはもうノエリアに後で相談してみる」
「分かりましたマスター。戦闘になった際、私も文字通り影ながら応戦させてもらいます故、ご心配なく」
「私も、商人とは仮の姿。本当の職業は別にあるのよね。だから……」
「いやお前、どっちかって言うと剣士とかの方が仮の姿っぽいぞ。仮の姿だとしても商人の才能は無いと思うけど」
「違いますマスター。ここは恐らく【笑うところ】でありますわ。彼女の渾身のボケですのよ」
「ぶっころしてあげる!!」
「望むところですわぁ!!」
いがみあった瞬間、魔法陣が光り、中からあのノエリアの付き人のメイドが現れて、カリーナとフウリンを見た。いや睨みつけた。
そして一瞬で2人の背後を取り、恐ろしく早い手刀を首裏に見舞い、2人を気絶させたのだ。
俺でなかったら見逃していたかもしれない。
「次、この部屋で粗相をしたら、首にいくと伝えろ、いいなヒョロガリ」
声は出なかったが、もげるぐらいに首を縦に振って首肯する。
すると彼女は帰っていった。
会議はこれにて終了する事になる。
2人が話し合いが出来ない状況であることが理由という、なんともおかしい結果だが、まぁ有用な会議だった……よな?




