魔族王子と新たな依頼
あけましておめでとうございます。(超絶劇遅
今年こそはペースを上げて投稿したいです。
コロナ禍も相まって仕事も休業やら出てくるので、まぁまぁ執筆に力を入れられる環境になってきました。
エペやら遊戯王やらに負けずに投稿していきますので、宜しくお願い致します。
そして、見てくださってる皆様、今年もよろしくお願い致します。
「……朝か」
結局、一睡もできないまま夜が明けた。
窓から差し込む陽光が作り物じゃなければ、恐らく朝だと思う。
ふと、右に左に隣を見た。眠る前までガッチリと俺の両腕を挟んだままでいたくせに、互いに俺とは反対の方向を向きながら寝てやがる。別にそれで悪い事じゃないけど。
「って、シオンとカリーナは結局どうなったんだろうな。早いところ戻らないと後が怖そうだ」
寝巻きにすら着替えずにベッドに放り込まれたせいで着替えは必要無いのが幸いしたな。
これで音も立てずにこの部屋から出られる筈だ。たしか隣の部屋に転移の魔法陣があったな。あれで外に出られるだろう。
と、ベッドから降りて魔法陣に向かって少し歩いた矢先に。
「お兄様。少し話をしませんか?」
眠っていた筈のノエリアが話しかけてきた。
「まだ眠ってから4時間しか経ってないぞ。睡眠不足は美容に悪いって宿屋の女将さんが言ってたから気をつけろよ」
「ふふ、魔族に睡眠なんてあまり必要無い事くらい分かってますくせに」
「ああ、まぁそうだな。でもフウリン、お前はちゃんと眠っとけ」
え? とノエリアは隣を向く。
ノエリアの視界には向こうを向いて眠るフウリン。眠っているようにしか思えないが……。
「あら、バレてます? 流石はマスター。私の事なら何でも知ってらっしゃる。って事は、トップシークレットである私のスリーサイズですら把握されていらしたり!? くっ、私の豊満なバスト90の秘密が赤裸々に……!?」
「「いやねー(ですよ)だろ」」
「兄妹でハモんなやコラぁ!!」
寧ろ90ならノエリアの方が……っていかんいかん、妹の事をそんなふうに見るんじゃ無い。
あ、危ない危ない、身近で胸の大きい女性が居なかったから免疫が無いってのは、下手したら兄妹関係にヒビが入りそうで危ういな……。
「ま、いいですよ、猫さんが起きていようが起きていまいが。ただ、お兄様に聞いてほしい依頼があるんです」
「依頼? 俺って事は、勇者パーティーに依頼って事だよな?」
「いえ、これは私からお兄様当てに個人的な依頼です。勿論、報酬もそれなりに出させて頂きますので」
「アホ。妹から金取る兄がいるか。妹の依頼ならいつだって無償で何でもしてやるぜ」
「な、何でも!? ななな何という素晴らしい響きのある言葉でしょうか!? で、では個人的に今夜……」
「妹様? 今絶対、当初と関係無い話をしようとしてましたよね? とんだムッツリさんですわぁ」
と言うフウリンの言葉を合図に両者が掴み合う。
その衝撃で机の上のものが落ちそうになった。
まぁあの魔法合戦の余波に比べりゃ可愛いものか。
「ああもう、話が進まないっての! んでノエリア、俺に何を頼みたいって?」
掴み合いながら、ノエリアがこちらに視線を向けてくる。
力はちゃんと入れているっぽいが、表情はいつも通りだから割と余裕があるらしい。対するフウリンは歯を食いしばって本気でやっているみたいだけど。
まぁ魔族の王に1番近い存在が相手だしな。こんな力比べなんて赤子を捻るような程度か。
「おほん。話を戻しまして、お兄様にしてほしい事ですが……」
パッと掴んでいた手を解放し、ノエリアが言う。
「隣の街のことはご存知ですよね? 闘技街と呼ばれる街、通称【闘技街コロッセス】。実は近々、闘技王者杯と呼ばれる大会が開催されるらしいのですが、そのせいでコロッセスに多くの冒険者達が集まります」
闘技街に闘技王者杯か。
察するに、そこで優勝してきて欲しいとかその辺だろうか。この街の宣伝とかが目的かね。
「私自身、闘技街にも大会にも関心も興味もありませんが、1つ悪い噂を耳にしておりまして……そちらの調査をお願いしたいのです」
おっと違った。
思考が先走ってしまうのが俺の悪い癖だな。
「その噂ですが、どうやら大会の為に集まる冒険者をターゲットにした奴隷商達がこぞってやってくるそうなんです」
「……? 別にそういう大会で奴隷商が集まるのは常識だろ? 今更何がおかしいっていうんだ?」
「はい、お兄様の言う通り、それだけでしたら気になどしません。ただ、中には闇奴隷商と呼ばれる連中もやってくると噂しれていまして……」
「闇奴隷商? 何が違うんだ? 奴隷制度自体、グレーな所はあるけど、闇がつくとどうなるんだ?」
その質問の答えは、いつの間にか俺の隣にいたフウリンが答えてくれた。
「闇奴隷商というのは、本来ならば借金の返済やら犯罪を犯してしまった者、もしくはカリーナのような禁忌の種族でしか人間、並びに亜人族の奴隷化は認められていませんが、監視の目を欺いて一般市民や禁忌種族でない亜人族などを強制的に奴隷に仕立て上げ、さも普通の奴隷かのように売っている社会のゴミクズ集団の事ですよ」
「そりゃエグいな」
「しかも見た目だけで『あ、ソイツ闇奴隷商だ!』と分かる訳もなく、また巧妙な手口とやり口で高位の鑑定能力が無ければ闇奴隷も闇奴隷商も見分けがつかないのが厄介な所ですね」
「はい、概ね猫さんの言う通りの解釈で闇奴隷商の説明は合っています。その闇奴隷商を見つけ次第、壊滅させて頂きたいのです」
「壊滅って、いきなり物騒だな。どうしたんだ? もしかして友達とかが売られたりしてるのか!?」
俺がノエリアにそう言うと、ノエリアは首を横に振り否定する。
「友達ではありませんが、私達には関係があります。何故ならば、今回の奴隷には魔族の子供達が居るとの噂なのですから」
そう聞くと俺は絶句してしまった。
あまりにもその非道な言葉に、思わず固まってしまった。
「魔国側の領土で、人間国に1番近い村が人間達に襲われたと知らせもありまして、この情報は限りなく信憑性が高いとの事です」
淡々とノエリアは告げるように話すのだが、その表情は悔しさで覆われている。
改めて、人間の醜さを体感しているような気分になってくる。シオンと過ごして、俺は人間の綺麗な部分も知ることが出来た。たが、魔族にせよ人間にせよ、醜い部分の集合体のような、そんなクズみたいな奴等は何処にでも居るもんだと改めて思い、腹が立つ。
「分かった。でも闇奴隷商ってな名前だし、そいつらのバックにデカい組織とかありそうだ。俺とフウリンだけじゃ戦力に難あるな」
「個々の能力は低く無いんですけどね。それでも囲まれたりして数に物を言わせられるとキツいですから。この際、あの勇者にも作戦に加わってもらいますか?」
「そうだな、それっぽい事言って手伝ってもらうか。多数相手でもそれなら苦戦しないだろ」
フウリンの提案に乗る。
闇奴隷商なら勇者の敵だろうし、シオンも問題無く仲間になってくれるだろう。
問題は、シオンとフウリンをどうやって接触させないか、だな。
おいおい考えるとするか。
「お兄様、依頼を受けて貰えるのでしたら、こちらからも出来る限りの支援はさせて頂きます。しかし、少しでも身の危険を感じたら即撤退してください。魔王候補として最低な言動ですが、私の中での1番はお兄様ですから。だから、作戦は【いのちだいじに】ですよ!」
魔王候補ね……。
いや、考えるな。それはいい。
今回の相手は古代種の魔族は絡んでいなさそうだから、カザイの時みたいにド派手は戦闘はあまり無さそうなんだが、裏社会が相手ともあって未知数だ。
気を引き締めよう。
こういうのが1番厄介なタイプだと知っている。
だがまぁ罪の無い魔族の村を襲った罪は償って貰わないと。
これは報復でも復讐でも無いけれど、それでもそんな奴らには罰が必要だ。
久々に俺の心の中のドス黒い部分が鼓動し始めているのを感じていた。
◇
「………………」
「………………」
ノエリアに頼んで貰い、元の部屋へと転移した先に待っていたのは勇者パーティーのお二方の鋭い視線。
朝弱い筈のシオンも眠気の欠片も感じさせない冷たい視線だった。
「最初に言っておくが、今回はガチで死にかけた。ブチギレた妹に殺されかけたんだよ。何とか説得して、寝床は貸してもらったけどさ」
って理由にしておこう。
まぁ殺されかけたのは本当だし。
「あぁそうか。つまり私達ではない別の女と眠った訳か。そうかそうか」
「私達には微塵も興味無いのね。もしかして本当に女だと思ってないの?」
「え、なんで怒られてんの? 寧ろお前らが女だからこそ遠慮したんだろ。あと妹の事を別の女って言うのはやめてくれ。変な誤解はするな、家族だっつーの」
はやいところ闘技街の話をしたいんだけどな。
中々、それを言うタイミングが掴みきれないでいる。
乙女心は複雑とは言うが、今回は何が悪かったのかさっぱり理解出来ないんだが。
年頃の女性と同じベッドで眠るなんて、お前らも抵抗持つだろ。
恐らく昨晩の一緒に寝ようって会話は、売り言葉に買い言葉で言ってしまっただけだろうし、寧ろその意図を汲み取った俺に感謝して欲しいぐらいなんだがな。
「……何にせよ、お前がヘタレだと言うのは分かった。それで間違い無いな?」
見えすいた挑発だ。
そんなもんは買ってやらん。
「はいはい俺はヘタレですよー。……んな事より聞いてくれ。ちょっとした情報を仕入れてきた」
そう言うと、シオンは渋々とした動きで寄ってきた。続くようにカリーナも歩いてくる。
そんな2人に俺は紙を1枚見せつけた。
「闘技王者杯ってな大会があるらしい。試合はトーナメント方式で進んでいき、5回勝てば優勝だ。優勝すれば高価な装備品や副賞に大金も入る。今の財政難を覆すには丁度いいだろ?」
理由はこんなところか。
実際、懐は寂しいままだからな。
それを潤す意味でもシオンには大会に出て欲しいところだが。
もちろん、本心は別の場所にある。
この問題には重要な欠点があり、それはというと、俺自身が表の勇者パーティーとして活動している点にある。
要は勇者パーティーとして闘技街に乗り込まなくてはならない。勇者パーティーの一員として、単独行動なんてもっての他である。
結局、フウリンやノエリアには勇者を利用すると言ってはいたが、誘い出す理由に大会を使ったのはマズかったな。それしか思いつかなかったのは本心なのだが、どうやって1人で戦ってるシオンに闇奴隷商との戦いに参加させるかが思い付かない。
まぁなるようになれか。
なるようになるだろ、知らんけど。
「で、どうする? って、まぁお前ならこの大会に出ないの文字は無いだろうけど」
「勿論、そんな面白そうな行事には参加するしか無いな。私の腕でどこまでいけるか気になる所だ」
「だと思った。カリーナもいいだろ? 入ったばっかだろうけど、どうせ目的地である聖女の住む街には闘技街を越えなければならん訳だし、戦わない俺らにとっては休暇みたいなもんだ。休める時に休んどくのが俺らの方針なんだよ」
「……そう。そう言う事なら、それでいいわ。でも後で闘技街の地図が見たいの。どうせ暇な時間は一緒に見て回るでしょう? 一緒にデートプランを考えましょう」
ややこしい言い方をしているが、今ほどカリーナが言った言葉を訳すと、勇者が大会に出ている間に何をするのか知りたいから会議しましょう、となる。
勿論、カリーナもデートする気なんて更々無いだろうし。
「そうだな、効率よく見て回るための会議だな。なら昼御飯食べたら、ノエリアから一部屋借りてそこでしようか。ああ、その間にシオンは武器の手入れをしておいてくれ。今日の夜にはここを出て、向こうに着き次第、大会のエントリーだろうから手入れの時間はそんぐらいしか無いらしいからな」
よし、これで自然な流れで話し合えるようになったな。
何故だか知らんが、シオンの奴が鬼のような視線を送ってくるのだが、何かしただろうか。
「……なんだよ?」
「……別に。何をそんな鼻の下を垂らしているのか、甚だ疑問でな。要するに何も無い!」
「何怒ってんだよ……」
ふん! と背後を向き、それと同時に俺の持っていた大会のチラシを奪い取る。
よく分からん事を言っていたが、何にせよシオンが大会に出ている間が肝だな。滞在期間は約3日。大会が行われるその3日だけが闘技街に居られる日数であり、俺たちの依頼のタイムリミットでもある。
3日という長いようで、その実、短い日数での闇奴隷の解放及び、闇奴隷商の壊滅。
裏勇者パーティーの初の依頼となるこの一件。
絶対に成功に収めてやる。
と、強く心に誓った。
その時にシオンがふと振り向いてこう言った。
「む、今年から2人制の2対2の大会もあるらしいな。カリーナとデートするくらい暇らしいから、丁度いいじゃないか、私とタッグを組んで大会に出よう。断る理由は無いな?」
な、なんだ、と?
そんな話はノエリアから一言も聞いていないぞ!?
くっ、ノエリアからの話だけを聞いてたから、チラシなんぞ見せかけだけのアイテムとして持ってきただけで目すら通してなかったのが裏目に出た……。
なんとか反論を……。
「い、いや、それだとお前、本来の個人戦の大会はどうするんだよ? まさかお前みたいな戦闘狂が大会に出ないって訳にもいかんだろ?」
「次に戦闘狂と言ったらころす。……というか、何を言っている? 私はどちらも出るに決まってるだろう?」
「え? いやでも、午前中に個人戦、午後にタッグ戦てな感じで一日中大会はあるんだぞ?」
「知っているが? それが何かしたのか?」
いやスタミナ……。
ああ、違うんだな。
その程度の事なんだな。
さも当然のように首を傾げてやがる。
まぁ別にいいか、みたいな、そんなついでにこれもやる感覚で二つの大会に出るとコイツは言ってるんだ。
「それで、断る理由は見つかりそうに無いが、やるよな?」
こ、これは……。
いやでも、まだ午前中ならば空いているから動ける時間ならある……よな?
その瞬間、俺の脳をフル活用しても、どんなに効率よく進めてもこの3日間はハードスケジュールになると予想された。
「や、やってやらぁ! どうせお前さえ居れば優勝は出来んだから、こうなりゃヤケだ! 向かってくる敵どもは殲滅だ!!」
「その意気だ! 私とお前なら容易く優勝は余裕だな! だがそれでも作戦会議とかは必要になるな。という事で、カリーナとの話し合いが終わり次第、作戦会議にしよう。昼御飯の後、武器の手入れが終わったらそれくらいの時間だろうから、終わったらここに来て欲しい」
「作戦会議っつっても、お前が前線出て瞬足で2人を蹴散らして荒らすだけだと思うが、それでも作戦必要か?」
「う、うるさい! 作戦会議が必要と言ったら必要なのだ! いいから来い! 絶対だからな! いいな!?」
何でコイツ必死なんだよ。
あとカリーナ、何をクスクス笑ってやがる。
「勇者も可愛い女の子の1人よね、意地になっちゃって」
「何か言ったかカリーナ!?」
「いえ何も?」
その獣のような視線を俺だけでなくカリーナにも向ける始末。
この猛獣、どうやったら収まってくれるだろうか。
麻酔とか必要になるのだろうか?
「ま、とりあえず落ち着いて昼御飯にしない? 丁度、ここのオーナーのお兄様もいるし、豪華なところに連れて行ってくれるのでしょう?」
「それはノエリアに直接聞いてみないと分からないが……まぁ昼御飯にするか」
なんかややこしい事にはなったが、とりあえずは飯にしよう。
昼御飯食べてから、それから考える事にした。
とりあえずノエリアを探して、出来るだけ美味しい料理を頼もうと思った。




