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魔族王子と王子の妹

投稿遅くなりました。

今回もよろしくお願いします

 俺が転移させられた場所は、一面が石造のドームのようなフロアだった。

 所々に大きな石などが置いてあり、それらがこの場では遮蔽物としての役割を持っていそうだ。

 ノエリアはここを自分の部屋だと言っていたが、どう考えても年頃の女子の自室だと思えない。

 修練場やらと言われれば納得は出来るが、自分の妹の部屋をこんなだと思いたくないだけかもしれないが。


 少し離れた所にノエリアは立っている。

 青白い魔力を全身から放出させながらも、その顔は女神のような柔和な表情をしている。多分ブチギレていると思う。

 ま、まずはノエリアの直線から離れなくちゃな……。殺気がものすごい。


 急いで近くの岩に身を隠し、そのままノエリアに話しかける。


「ノエリア! 多分お前今誤解しているぞ! 俺は別に誰ともそんな関係になっていない!」


「うふふ、言い訳は要らないのですよ? そのねじ曲がった性根を治して差し上げますね」


「お願いだから話を聞いて!!」


 ヒュンヒュンと風切り音が周囲から聞こえ、その数秒後にドゴンッ! と爆発音が聞こえて来る。

 いとも容易く魔力弾をぶっ放して来る妹。

 兄である俺は情けないが、遮蔽物に隠れて怯える事しか出来なかった。


「安心してください、お兄様。この部屋の大岩は全て魔力を吸収する鉱石で出来ていますので、大抵の攻撃では壊れませんから」


「いや、それはありがたいですけど、さっきから許容範囲超えた大岩がぶっ壊れていくんすけど」


「あら、私としたことが。あまりの苛立ちで思った以上の魔力を練っていましたの。これでは『私の一方的な躾』になってしまいますわ」


 口ではそう言うものの、一向に魔法を止める事はしていないノエリア。

 俺は逃げ続ける事しかできなかった。


「タイムタイム!! まって、ほんとに洒落になってないからっ! お兄様死んじゃうから!!」


「……では、約束を守ってもらえますか? 私と結婚するという約束を」


「いや、それは……」


 口黙ってしまう。

 元はと言えば、俺がしてしまった口約束が原因なのは百も承知だ。

 だが、それでも血の繋がった妹とは……結婚なんて出来る訳がない。


「……お兄様は、やはり誰かと婚姻をなさっているのでしょうか?」


 残りわずかとなった大岩に背を隠した俺の背後、この岩の向こう側から声が聞こえてきた。

 この向こうでノエリアは話しているのだ。


「……してない。多分みんな、ややこしくなる事を恐れての行動なんだよ。まぁ、結局ややこしい事にはなったんだがな」


「……そうですか。それで、お兄様は私も含めて3人のうち、結婚したいと思える女性は……いますか?」


 その質問をしたノエリアの口調は、今までのどの言葉よりも真剣だったと思う。

 もちろん、俺にはやるべき事があって、結婚なんざまだまだ考えている余裕は無い。

 でも、真っ先に思い浮かんだのは……。


「……悪いけどさ、俺にはやる事が出来たんだ。だから、まだ結婚どころか、他の誰かと付き合う事も考えてない」


「……わかりました。私も、分かっていたのです。3年前のあの時お兄様と結んだ約束は、本気で結んだ約束じゃない、ただの口約束程度のものなんだって。でもね、お兄様。私はその程度の約束があったからこそ今日まで頑張ってこれたのですよ……?」


 心臓が……痛かった。

 ただの口約束。言葉にすればその程度だった。

 でも、ノエリアにとってはそれ以上の言葉だったのだろう。本気で結婚を思っていたのかは別として、不意に消えた兄と唯一繋がっていた『約束』だったんだ。

 今更だが、俺はノエリアにとって最低な事をしていたんだと気が付いた。

 あの時の俺は、俺の事しか考えてなかった。ノエリアの事なんてこれっぽっちも考えたか? 考えてないんだ。


「ノエリア、ごめん、俺が不甲斐無い兄で。心底自分に反吐が出そうだ。あの時に唯一、俺の味方だったノエリアを置いて、自分だけ楽になろうとした。俺は確かに楽になったけど、ノエリアはそうでは無くなったんだな」


 そう言った時、黒い影が俺の上から伸びている事に気が付いた。

 ノエリアが岩を歩いていた。

 やがて無言で歩くノエリアは俺の隣にちょこんと座る。


「お兄様が居なくなったあの日の事は鮮明に覚えています。少しだけ慌ただしい朝、朝食の場にお兄様は居ませんでした。でも、私はどこかで分かっていたのです。約束を交わした昨晩、もうお兄様はどこかへ行ってしまわれると」


 ノエリアは語る。

 俺の知らない、あの日の朝の事を。


「朝食も昼食も1人でした。あの日はお兄様の好きなコーンスープにパンといちごジャムのセットでした。お父様とお母様は職務で忙しいので、それまでは殆どお兄様とお食事をしていましたよね。覚えておいでですか?」


「忘れる訳ないだろ。朝、お前の顔を見てから鍛錬するのは日課だったんだからさ。……でもそうか、あの日の献立は俺のスペシャルメニューだったんだな。こんな事ならもう1日遅く出るべきだったかな、なんて……って冗談だよ、怒るなって」


 服の裾をキュッと少し強く握るノエリア。

 でも、あの日の決断を後悔はしない。そう思って今まで生きてきた。

 あの日はあれで最善だった。

 何も間違えてない。

 ……本当に?

 ノエリアに話さなかったのは、置いてけぼりにしたのは、なんで?

 ……ノエリアから親父に密告されるのを恐れたからだ。だから、言えなかった。

 俺はあの時、愚かにも妹の事を疑ってしまった。

 最低な兄だ。


「私の日常が劇的に変わった訳ではありません。ただ、魔王としての振る舞いなどを勉強と鍛錬の合間に教わる事にはなりましたけど」


「ま、それに関しては俺が居ても居なくても習う事になったと思うけどな」


「……お兄様はそう言いますが、本当にそうなのでしょうか? お父様は長男であるお兄様を特別扱いしていたと思うのですが」


「単に才能が無いからだ。剣も、魔法も、俺には何もかも無かったんだ。だから、魔王の息子として相応しい魔族になる為の特別扱いだろ」


「……それだけでは無さそうでしたけど……」


「いや、実力主義の親父に限って俺だけに私情を入れるなんて事は絶対に無いだろ」


 そう言うノエリアにキッパリと告げた。

 そうだ。あの人が俺だけに、なんて事は絶対に無い。俺がもし、ノエリアのような才能の持ち主なら状況は少し違ったのかもしれないがな。


「じゃあ、今度は俺の話を聞いてくれるか? 3年前、俺があの場から家出した後の話をさ」


 それから俺はずっとノエリアに話をしていた。

 カールパントで勇者に出会った事も、その成り行きで勇者パーティーに入った事も。

 それを楽しそうにノエリアは聞いてくれていた。

 俺は、久しぶりに家族と一緒に過ごしていた。







      ◇






 話が終わって、俺もノエリアもダンマリとしていた頃だった。

 互いに寄り添う形で、ただ隣同士に座ったまま。

 そんな中で、俺はノエリアに言った。


「やっぱ、俺なりのケジメをつけようかな」


「お兄様? ケジメ……? とは?」


「ノエリア、俺を一発殴ってくれ!」


「お兄様!?」


 驚愕するノエリア。

 若干、その表情は引いている。

 もちろん、俺が言うに値する理由はある。


「これが俺なりのケジメなんだよ。さっきから俺は悪くないとかノエリアは言ってるけどさ、俺が1番、俺自身を許していない。あの日の俺は、ノエリアにとって許されない行動をとったんだ」


 平気で嘘を吐き、何も言わずに妹の前から離れた事。

 当の本人は、俺の話を聞いた後に納得はしてくれた。だが、それでも俺の心の中にはとっかかりが残っている。

 だから、形だけでもいいから、ケジメをつけようと思った訳だ。


「お兄様、だから私はもう良いと……」


「いや、頼むから思いっきりやってくれ。ほら、さっきの勢いのままでいからさ。何なら魔法でドカンでもいいけどな」


「そ、それは……。あの、お兄様ってもしかして、殴られたい願望をお持ちのお方でしょうか?」


「いやそれはない」


 断じて違う。

 これはケジメだ。

 断罪だ。

 嗜好的な問題はここにおいて無い。

 いや本当に。


「……ま、まぁそれでお兄様の気が晴れるのでしたら、一回だけ……」


 すっと俺達は立ち上がる。俺は歯を食いしばり、ノエリアは腕を捲った。


「では、お兄様、すみません。手加減は無しでいきますね」


「ああ、魔王の本気を見せてみろよ!」


 ノエリアは魔力を右手に込め、雷光の如く鋭い右ストレートを放った。


「せえぇぇぇぇいっ!!」


 目を瞑り、歯を食いしばり、両足で大地を踏みしめて時を待った。




 …………ん?




 その攻撃は、何故だかダメージを感じなかった。

 もしかして一撃で即死でもしたのだろうか。

 痛みを感じさせずに妹に……殺されたりする?


 とりあえずは瞑ったままの目を開き、視界をクリアにしてみた。

 すると驚愕な事に、ノエリアの渾身の一撃は俺まで届いていない。

 リーチとか、そういうのではなく。

 単純にそれは防がれたのだ。

 誰でも無い、俺の部下に。


「あらあら、私の前でマスターを殴ろうとするなんて、困った子猫さんですね……!」


 あの強烈な一撃を片手だけで抑えている。

 こんな事が出来るのは……指で数える程度の人数しか出来ないだろう。

 俺は無理だと思う。多分。


「マスターが変な女に絡まれているとリークがあったので、本来の仕事をそっちのけで帰ってきて正解でしたね。ええ、ええ! 私が来たからには任せてくださいね、マスター! もう指一本も触れさせませんから」


 拳を止められたノエリアも勿論驚いているが、それ以上に俺が驚いていた。

 なんでその一撃を止めれるのとか、ここって転移魔法で送られてきた部屋な訳で、その場所を何故知っているとか、様々な疑問は頭の中を支配していくのだが、それよりも真っ先にフウリンに問いたい。


「お、お前、どこから来やがったよ……?」


 何も無いところから出現した事が1番謎だった。






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