勇者パーティーと大修羅場
ぼちぼちと更新します。
なので皆様も日々の箸休め程度に見ていってください。
「さて、説明してもらおうか」
と、腕を組み仁王立ちで、正座する俺の眼前に立ちはだかるシオン。
説明も何も、俺だって状況を分かっていない。
ちなみにカリーナは俺達に全く興味も関心も無いようで、本を持ってロビーでくつろいでいる。お前は本当にマイペース過ぎるだろ。
そして俺達は、本来は従業員の休憩の為の部屋に通され、この状況下にある。
「どうもこうもありませんわ。お兄様が私の婚約者と言っただけですよ?」
ノエリアは、正座をした俺の隣でシオンの鋭い眼光に屈する事なく堂々と立っている。
そんなノエリアがよく分からない返しをする。
これ程までに返答で頭を悩ませたものは過去に無い。
「おいユクス、お前は既婚者なのか? それともこれから結婚する予定でもあるのか?」
「もちろん、既婚者でも無ければ結婚する予定もない。ただ、コイツは正真正銘の妹だよ」
俺と似て、ノエリアも人間とさほど変わらない容姿をしているのが幸いしている。
どうやらノエリアの方も魔族を隠しているらしく、状況的には俺に乗ってくれている。
「そんな、酷いですわ……。私、お兄様と結婚の約束をしたが為に、連なるお見合いを放棄してまでここに来たと言うのに……」
「そう言ってるが? というか私はお前が結婚しようがしてようが、それ自体はどうも感じんのだが、隠し事をしていた方が引っかかっているだけだ」
「いや、俺は本当に知らないんだって! というかノエリア、お前は師匠に婚約者が居るとか何とか言ってたらしいじゃねえか! そいつはどうなったんだよ!」
「だからそれもお兄様だと言ってますのに……」
「おいちょっと待て、師匠にも言ってるって事は……」
「関係者の方々にはお伝え済みですよ♪」
「……マジで言ってんのか……」
故郷の隅々まで伝わってるんじゃ無いのかってぐらい、噂の伝達スピードは速い。
どんな顔して魔国に行けばいいんだよ……。
ちょっと魔国に行きたくなくなってきたわ……。
「あのなノエリア、第一にお前……」
「ところでお兄様? ずっと気になっておりましたが、この方はどなたですか?」
ちょっと話そうと口を開いたら、ノエリアが上から被せるように喋ってきた。
あ、そう言えばシオンの事は話してないな。
いきなり勇者だと言ったら困惑するよな……。
「私はシオン・リンクライト。勇者をしている。君の婚約者とされるユクスは私達、勇者パーティーの一員だ」
どうしようか悩んでいるとシオンがぶっ込んできた。
ド直球に来たなオイ。
「勇……者? お兄様、勇者パーティーに入っておられるのですか?」
「ああ、間違いない。彼は我々のパーティーの一員だ。お前も名前くらい知っているだろう?」
「……いえ、私はここの都市建設に没頭しておりましたから、社会の情勢などさっぱりでして……。勇者パーティーにお兄様が在籍されていると言うのは本当の話なのですね」
「悪いなシオン、俺もコイツもあまり世間に疎くてな……っておい、今なんて言った? 都市建設? もしかして……この都市作ったのって、ノエリア?」
「はい! お仕事も兼ねて、この都市を建設させて頂きました! でも実は、お兄様がどこかへ行ってしまわれた時から計画させてありました。色々と片付ける問題が出来たりしていたので、少しばかり時間を取ってしまいましたが、この通り、うまくいきました!」
無垢な笑顔をこちらに向けるノエリア。
恐らくだが、ノエリアの言うお仕事とは魔王城で他の魔族がやってるような統制だの統治だのとかいう面倒くさい仕事だろうが、まさかその仕事と兼ね備えての都市建設か。
しかも人間の娯楽をリサーチ済み、と。
温泉街なんて人間国に無いから、人寄せにはなるだろうし、資金集めか情報収入、もしくは有望な兵士のスカウトだとか、本来の理由は分からない。
が、都市として見て、絶対に失敗では無い事は確かだ。目的は分からないが、人を呼び込む事には成功している。
「君は……ノエリアと言ったな……君はこの都市の領主という認識でいいのか?」
「ダーレルム建国を指示しただけです。領主とは少し違うのかもしれません。領主に1番近いのは私ですが、この都市に領主はいませんの」
「……ユクス、君の妹は何者なんだ? というか君の家系は一体……」
と、シオンが怪しむ素振りをする中、ノエリアは話を割って入る。
「妹、だけではないですよ。婚約者、ですから」
「婚約者……。まぁ、君がそう言うのは別に私達には構わないのだが、その、ユクスを困らせているのではないか?」
「そうですか? お兄様直々に婚約は承諾したのですよ? 私の目を見て、です」
おい、と言うようにギロリとシオンは俺を睨む。
家出するから良いと思っての行動が、ここで足枷になるとは……本当に思わなかったな。
「……分かった、本当の事を話そうか」
ため息を吐き、突如そう言うシオン。
これから彼女は何を言い出すんだろうか。
皆目見当もつかないが。
「悪いがノエリア、ユクスは既に私の夫なのだ。夫の不祥事は悪いと謝罪するが、これ以上彼を困らさないで貰いたい」
「……は?」
な、何を言い出すかと思えば、本当に何を言ってるんだろうこのポンコツ勇者。
案の定、ノエリアも目を点にして困惑している。
その隙にガバッと立ち上がり、勇者の首筋に手を回して、ほのままくるりと回ってノエリアに背中を向ける。
「お前何言ってんの!? 頭おかしいんじゃねえの!?(小声)」
「う、うるさい! お前が困っていたから断腸の思いで言ったんだ! こうすれば諦めがつくかと思ってだな! だから寧ろ私に感謝しろ!(小声)」
「何が断腸の思いだ! お前これ以上余計な事は言うな! 収拾がつかなくなるわ!(小声)」
ヒソヒソと目の前で何かを呟いているのが怪しまれたのか、ノエリアが俺の腕を掴んできた。
突然で変な声が出たが、もはやこの状況下では誰も気にしていない。
「お兄様は……婚約者が居られたのですか?」
「いやいるわけが……いっでぇ!? ……あ、その……ですね、なんと言うか……」
即答しそうになった所にシオンが俺のふくらはぎを蹴り飛ばす。
どうやら突き通せとの事らしい。
正直、ここで嘘を突き通してノエリアとの接触を最小限にするのはアリだと思うが、どうしてもその嘘がつけないでいる。
「お兄様、嘘だとおっしゃって……ください。私は……お兄様だけを……ずっと、見て……ぐすっ、ひぐっ……」
ポロポロと、ノエリアの大きな瞳から大粒の涙が溢れ始めた。
目の前で、ノエリアを、妹を泣かせてしまった。
大切な妹を、傷付けてしまった。
……放っておける訳無かった。
焦るより先に、体は動く。
が。
「ノエリア、その……え?」
ノエリアの側に近寄ろうとした時、俺の右手を掴んで阻んできた奴がいた。
シオンだ。
でもその表情は読み取れない。
自分でも何をしているのか分かっていないような表情だったからだ。
「な、なんだよ。別に、婚約とかそういうの関係無しに妹が悲しんでんだ。側によっちゃ悪いか。勇者パーティーの事もちゃんと話す。悪いようにはしない」
「……すまない、分かっているんだ。こうなってしまったのも、自分のせいだという事も。だけど、自分でもどうしてこの手を掴んでいるのかは、分からない。なぜか、お前にそっちに行って欲しく……無いんだ。本当に、理由は分からない」
それは、もしかしたら勇者としての、本能的な何かなのかもしれない。
俺達魔族の王族に反応しているのだとしたら、正体が知られてしまう恐れはある。
いや、もしくはそれ以外の事象も考えられるが、今言うべき言葉は、俺の本心だろう。
「……ったく、大丈夫、俺は勇者パーティーだ。当分辞める気は無い。お前も、ノエリアも同じくらい大切に思ってる。今はどっちが上とか関係無いだろ」
そう言うとシオンは掴んでいた手を離した。
表情は最後まで読めなかった。
俺はへたり込んで泣きじゃくるノエリアの頭を撫でる。
すぐに、俺の胸に顔を埋めて離れなくなった。
「お兄様は……変わってしまったのですか!? 私だけを見ていた、あのお兄様は居なくなって……しまったのですか……?」
「……昔はさ、バカやる友達とか、つるむ仲間とか居なかったからノエリアだけが頼りだったけど、今は俺にも仲間が出来たんだ。でもそれは、ノエリアを嫌いになった訳じゃ無い。環境を変えたくて離れてしまった事は認めるけど、なんて言うかな、視野が広まったんだ。仲間が増えて色んな事を考えるようになった。勿論、ノエリアの事も考えてる」
本当の事だ。
昔は考えられなかった事を、最近は考え続けている。仲間の事を考えるなんて、昔の俺は想像出来ただろうか。
きっと出来なかった。
事実、人間国に来たばかりの時も、心なんて開く事はしなかった訳だし。
それでも、シオンと出会ってから俺は変われた気がする。
親父を一発殴り飛ばす目標も、勇者パーティーに入隊したから実現出来る可能性が浮上した。
何も無かった筈の俺に、何かが出来たんだ。
「ノエリア、遅くなったけど、何も言わずに家出してごめんな。ノエリアにも話すべきだったと思う。でも、それでも俺は家出した事を後悔していないし、これから先もしないよ」
「お兄様……」
「不甲斐ない兄でごめんな。ノエリアと結婚は出来ないけどさ、ノエリアの事は誰よりも大切に思ってる。自慢の妹だぞ」
「私も、お兄様は最高のお兄様です……!」
頭を撫でながら、俺はノエリアに告げた。
ノエリアはしばらく泣いた後、自然と俺から距離を取る。
どうしたのだろうとノエリアを見る。
「……すみません、大切な方の前で抱き合うなんて、たとえ親族でもあまり良いものではありませんよね。失礼いたしました」
って、おい。
大切な方って、もしかしてポンコツ勇者の事か?
ああ、そうだった。
婚約とかなんとか言ってたなコイツも。
つーかアレに意味はあったのか? ノエリアを泣かせただけじゃねーか。
「あのな、ノエリアには悪いがさっきのは……」
バァンッ!!!
扉が凄い勢いで開かれた。
そこに居たのは風呂上がりのカリーナだ。
さっきまではロビーで本を読んでた癖に、今更になってなんの用だ。
「いつまで待たせんのよ全く。仕方ないわね!」
そう言ってズカズカとこちらの方に寄ってくる。
今シオンとの関係を弁解しようとしている最中だが、何やら嫌な予感がする。
というか、今日感じる嫌な予感は全て的中しているような気がするが……。
「カリーナ? ちょっと待ってくれ。今終わる……って何しやがっ……」
袖を引っ張られ、体制を崩しかけた俺を体で支えるカリーナだが、頬を両手で固定されたかと思ったら。
その時、何かが触れた。
感触を表現するならば。
そう。
ちゅっ、と。
数秒間、辺りの時が止まった。
全部真っ白になったように、ただ時だけが進んでいく。
脳が再稼働し始める頃、カリーナはノエリアを指差して言い放つ。
「悪いけど、コイツ、私のコレなの。邪魔しないでもらえる?」
そして、後ろからは殺気が迫ってきた。
見れば勇者はアイテムボックスから聖剣を取り出して構え始めたじゃないか。
あ、コイツ今バーサーカーモードだ。
もうコレは手がつけられん。
一旦、ノエリアに助け舟を……。
「…………ふふ、ふふふふふ。そうですか、そうですか。お兄様? これは一体どういう事でしょうか? からかっておられるのですか? それとも、まさかお兄様は複数の女性に簡単に手を出す節操無しさんだったのですか?」
彼女の右腕には既に魔力が練られていた。
大気の魔力に干渉しているのか、強烈な力で風が巻き起こっている。
「おおお落ち着けノエリア! こんなとこでぶっ放したら他の人に迷惑がかかるぞ!!?」
「あら? 人の迷惑を考えていないお猿さんは、お兄様の方では? でも、そうですね。いちオーナーとして、お客様優先に行動しなければなりませんよね」
「お、おお。多少の言葉の棘には目を瞑ろう。完全に誤解なんだが、今はその事にとやかく言う場面じゃない」
流石、話の分かるノエリアは優秀だと思った矢先、後ろの殺気がもう誤魔化しきれない物になっている。
「ノエリア、まずは後ろのバーサーカーを……」
「では、お客様を第一に考え、少し私とお話をしましょうお兄様。勿論、私の部屋で」
「なんとかしてくれ……って、何て?」
「安心してくださいお兄様。多少無茶しても部屋は防音ですし、特殊な緩衝材もありますので他のお客様には迷惑はかかりません」
「いや、その、俺の安全とかも守ってくれたり……するんだよね?」
「ふふ、お兄様。私も久々に本気が出せそうです♪」
ノエリアが指を鳴らすと、すぐに俺はその場からどこかへ転送された。
ノエリアも後を追うように居なくなる。
残されたのは2人。
シオンとカリーナ。
いや、第一の標的を見失ったシオンが狙うは第二の標的だった。
「あ、あれ。これ、私……やっちゃいました?」
改めてもう一度言おう。
残されたのは2人。
捕食者と被食者。
後はもう、語る事は無いだろう。




