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魔族王子と大衆浴場  そしてーー

投稿遅れました。

時短営業でしたが、ウマを育て始めて時間が削れ……(言い訳)

 カポーン!


「くはぁぁぁ。久々の温泉かぁぁ。入る前は別にと思ってたけど、いざ入ってみると懐かしくて気持ちいいな」


 俺はこの宿の醍醐味である、大衆温泉ーー浴場の入り口には大浴場と書かれていたーーに浸かっていた。

 大衆というだけあり、かなり広く作られている。

 勿論の事だが、俺以外にも宿泊客はいる。かなり居る。それも人間だけでなく猫人族などの獣人だっている。普段なら獣人は体毛の関係で人間と……というよりは人間の作った風呂には基本的に入れない。排水管が詰まるからだとか。

 大方、彼らは河川とかで自分達で入る事になる。

 そんな獣人も今は一緒に大きな広い風呂に浸かっている。

 体毛が抜け落ちてしまう問題点は、風呂の水が魔法によって常に綺麗になっているのだ。

 排水管が詰まるどころか、水面に体毛が浮かび上がる事すらない。




 それにしても凄い設備だと感嘆の声をあげてしまいそうになる。


 一般的な宿では、大きな桶とお湯とタオルを渡されるだけだし、少し高いところだと小さな風呂場に案内される。勿論小さいので何事においても不便だ。

 それに料金だって追加でいくらか払う事になる。そりゃあここに比べれば安い方だが、ここは一度払えば期限内なら何回でも入れる。しかし一般的な所では一回につき料金が発生するので、何泊もする冒険者なんかには財布に深刻なダメージが入るだろう。

 俺は魔法で毎日綺麗にしていたから、余計な出費には至っていない。




 ふと、大浴場に浸かりながら周囲を見渡してみると、どうやら露天風呂もあるらしい。

 これも懐かしいな。

 天候や気温、季節の星空なんかで毎度毎度違った景色になるから、幼かった頃の俺は露天風呂がとても好きだった。

 雨の日なら、屋根に当たる雨音を聞きながら自然を感じていた。

 晴れの日には広大な星空に圧倒されながら、夜空の向こうには何があるのか考えたりもした。

 そうだ、あの頃の俺は夜空いっぱいに輝く星空にひどく関心を覚えたんだった。

 星座の位置なんかを使った古代魔術があるとか何とか師匠が言ってた時は凄く興奮したなぁ。

 師匠と一緒に露天風呂に入って、2人だけの星座とか言って遊んでいた記憶も……って、何考えてんだ俺!? 

 あの頃の無垢だった俺は純粋すぎる子供だったから! ええい思い出すな!! そんな事!


 そんな昔の記憶はいい。

 とにかく俺は露天風呂に行ってみる事にした。

 扉を開けて外に出る。

 そこには、石や竹、草や花などと言った自然を使った風情のある庭のような場所だった。

 それらに囲まれて透き通った色の風呂がある。

 屋根はあるが、そこからでも夜空を見ながら浸かる事も出来る様に設計されている。


 内心、かなり興味心をくすぐられているのだが、それは1人の時に爆発させようと思う。

 先客がいた。

 狼のような風貌のガタイの良い獣人だった。

 まぁ、ここまで来たんだ、使ってみようと思う。

 大浴場に戻るってのも、この人に嫌な思いをさせてしまうだろうし。


 だが、実際に浸かってみて、改めて良い物だと感心してしまった。

 幸いにも今日は雲一つない晴天だ。お陰で余す事なく星空を堪能出来る。


 星を見ながら浸かっていると、何やら湯船に盆にのった徳利とっくりが流れてきた。

 もう1人の客の物だろう。流れてきてしまったのか?


「1人で星空を見ながら酒を飲むのも悪かねえが、少しばかり飽きが回ってきてな、兄ちゃん少しばかり付き合ってくれねえか?」


 どうやら故意に流れてきた物らしい。

 断る理由もないので素直に受け取っておく。


「へぇ、星見酒とは良い趣味をお持ちで」


 徳利に注がれた酒を飲み干して言う。

 露天風呂で飲む酒というのも悪くない。


「ああ、そうさ。いつどこにいても、あんな大きな星空は変わらずそこに居るからな。見ていれば安心するし、同時に俺ってやつはなんて小さい奴だと思わせてもくれる。俺にとっては恩人だからなあ」


「恩人、か。それなら俺も同じようなもんだな。1人でいても、ずっと俺を見てくれているような気になるからな」


 そう言った俺の分のおちょこに、どんどん酒を注ぐ獣人。


「がっはっはっは!! 俺の話に乗ってくれて、それでいて酒も飲めるたぁ兄ちゃん優秀だなぁ! 気に入ったぜ! 俺ぁ人狼族のガルデン。一応冒険者をしていて、ランクはAランクだ。白銀の傭兵団ってな獣人だけのパーティーに入っている」


「名乗るほどじゃないが、俺も冒険者の端くれだ。ランクは……Cランク程度とだけ言っておく」


 ちょっと考えたが、まあその辺が妥当だと思う。

 カールパントのギルマスからはお前はAランクは絶対にあると言われたが、昇級には興味も無いので未だにCランク。

 勇者パーティーにいるから今更昇級なんか意味も無い。でもまぁ、面倒事になりそうだから勇者パーティーの一員とも名前も言う必要は無いか。


 そう言えば白銀の傭兵団は聞いた事があるな。

 魔王城を出て冒険者になってから、ギルド内でたまーに聞くよう名前だ。

 名前だけ聞いた事かあるってだけで中身は知らんけど。

 

「もしかして兄ちゃん、白銀の傭兵団を知らんだろ。俺にそんな口調で話す人間族は稀だからな」


「いや、他の事に対してあんまり関心が無かったもんでな。俺が特別知らないだけだと思う」


「何年ぶりに怖気付かない人間族に会ったか分からんなぁ! これは俺の奢りだからよく飲め!」


 それからガルデンの冒険譚を星見酒を嗜みながら聞いていた。

 俺の知らないダンジョンや迷宮を攻略した話や、共に戦ってきた仲間の話、そのどれもが俺にとっては未体験の話であり、興味をそそられた。

 徳利に入った酒が無くなると、俺はシオンらを待たせていた事を思い出す。

 時間を忘れるほど、心地の良い空間だった。


「さて、俺はもう上がる事にするよ。ガルデンはどうするんだ?」


「俺の夜はまだまだこれからよ。金ならたんまり稼いであるし、腹の調子もすこぶる良い。これでもかってくらい酒日和を満喫するさ」


「そうか、また縁があれば今度は俺に奢らせてくれ」


「ああ! うんと高い奴をよろしく頼む!」


 バカ言うなとガルデンを一蹴して湯から上がる。

 脱衣所で確認した時刻は、既に1時間以上の時が経っていた。

 しまった、確実に待たせてる。

 鍵はひとつしかないし、シオンの鬼のような形相が容易に浮かぶ。

 女は長風呂を良くする傾向にあるが、流石に1時間は長過ぎるよな……。


 俺は怒られる未来を想像しながら、溜息と共に脱衣所を出るのだった。







      ◇






 案の定、鬼の形相で腕を組みながらシオンは浴場前のロビーに居た。

 その隣ではカリーナが【ゼロから始める商業書】とかいう書物を熟読していた。何度も言うが商人とは間違いなく前衛職では無い。使う武器は口先であり、でっかい太刀では無い事は確かである。


 2人を見つけ、咄嗟に柱の影に隠れてしまう。

 シオンの殺気に怖気付いた事は内緒にしよう。

 その殺気のせいかは分からないが、シオンとカリーナの周りには人が居ない。

 異様な光景になっているが、さてこれからどうしようか。


 考えられる選択肢は3つ。

 1つ目は単純に謝りにいく事。欠点はめちゃくちゃ怒られる。いや、普通に行けと思うかもしれないけど、シオンの説教は魔王すら寒気を覚える程である。出来れば2度とされたくない。

 2つ目。1つ目を回避する方法になるのだが、まぁ簡単な話、嘘をつく。重要な話を聞いたいたとか、勇者パーティーにとって有能な話をでっち上げる。本当は酒と星とおっちゃんの冒険譚の話しかしてないけど。

 3つ目、なんかのバグで説教どころではない状況になる。この空間で殺人事件が起こったとかなったら、まぁそんな雰囲気にはならんわなぁ、って事。可能性は限りなくゼロに近い。


 さーて、どうするか。

 なんかのバグを願いながら、2つ目が丸いか……?


 般若の顔のシオンだから、できれば1つ目は嫌だ。

 じゃあ、適当に話をでっち上げてしまうか。

 この辺に迷宮があった、ような話とかのなるべく不明瞭な感じにしよう。たかが噂程度だけど責任は取られない方向でいこう。

 そうと決まれば善は急げだ。

 こうしてる間にシオンの怒りメーターはぐんぐん上昇しているだろうし。


 さて、切羽詰まったような表情をして、なるべく焦ったフリで……


 俺は隠れていた柱の影から飛び出すかのようにロビーの中に入り込む。

 シオン達目掛けて早歩きで向かう。




 のだが。

 アクシデントが起こった。




 これから俺はシオンに嘘をつく。

 もう何度目か分からん嘘だが、俺はそれ以前に何かを願っている。

 そう、3つ目の選択肢だ。


 正直、ネタ枠として考えていた選択肢だが、どうやら運命の女神は相当いじわる……いや若しくは相当いい性格をしている。

 シオンと目があった瞬間、絶対に俺が生涯聞くことが無いだろうと思われていた声が聞こえてきたのだ。





「……お兄様!?」




 咄嗟に俺はシオンに向けていた視線を体ごと、声の方向へ向けていた。

 忘れるはずも無い。

 聞いた事のある声。

 でも、もう聞こえる事はないとされた声。


 振り向いた方向の先には、俺が知っている頃よりも少し大きくなった妹……ノエリアの姿があった。




「……やっぱり、お兄様……ですよね」



 ああ、やっぱりそうだ。

 忘れるはずも無い。

 昔と同じく、青く長い髪の毛は以前よりも艶が増し、その透き通るような白い肌と相まって色気が増しており、顔立ちは昔ながらの可愛さに加えて美麗さも重ねられた美人へとなっていた。

 1番変わったのは……言い難いのだが、胸だった。

 3年前はまだ子供のままだったのだが、今はもうメロンのように大きな実が立派に実っている。3年間で何があったのだろう。超絶成長期なのか。今まで出会った女性の中では、その胸の大きさでトップを争うくらいに育っている。

 あとこれは一応俺自身の名誉のために言っておくのだが、妹をいやらしい目で見た事はない。今も過去も。ただの1度も。


 そんな妹を見て、俺は何も言えずにいた。

 また妹と会った感激よりも、この異種族が混濁する特別な施設で、俺と同じく魔族であるノエリアの兄だとバレれば、自動的に俺も魔族だとバレてしまう。

 獣人もいれば魔族だって居ても、誰も驚かないだろう。というか俺みたいな魔族なんか、自分から言わなければまずバレないだろうけど。

 でもまぁ、俺がまさか勇者パーティーをやってるなんて夢にも見ないだろうから、ノエリアから見ればシオン達は、俺が魔族と分かってても一緒に居てくれる理解ある人間としか認識されないんだろう。

 そうなるとマズイ。確実に自己紹介で俺の本性もバレる。




 大分、考え抜いた先に、俺は心を鬼にする事を決意した。

 ノエリアには悪いが、知らない人のフリをしよう。

 俺はそう決意し、何事も無かったかのようにシオンへと視線を戻す。

 もうこの頃には嘘をつくだとかの事は完全に忘れている。怒られる方が面倒くさくなくて良いとさえ思えていた。


「お兄様? お兄様ー!! 聞こえていらっしゃるのですよね? どうして聞こえない振りなど……?」


 何やら言っているが、シカトしよう。

 流石にバレたら全てが水の泡だ。


「な、なぁユクス、君の妹を自称する女性が何やら呼んでいる気がするのだが、あれは放っておいて大丈夫なのか?」

 

「気にするな、熱狂的なファンも増えてきたって事だろ。俺に妹は……」


 そう言い掛けた時、ノエリアの小声が聞こえてきた。


「あ、そうですよね……。やはりお兄様、あの時の約束をお覚えでいらっしゃるのですね……!」


 うん?

 なんだって?

 今ノエリアはなんて言ってーー、


「もう、お兄様ではありませんものね!」


 そう聞こえた。

 恐る恐るそちらを向くと、

 ノエリアが笑顔でこちらに走ってきていた。

 そして距離は近くなり、

 俺の右腕へ抱きついてきた。





「妹、ではなく婚約者フィアンセ! ですものね!!」




 これ以上無いと言うぐらいに笑顔で抱きつき、そう言い放った。

 とりあえず状況が飲み込めないのだが、何かを察知した俺は両目だけをシオンの方へと向ける。




 シオンがすごい顔をしていた。

 語彙力が無くなるくらい、すごい顔をしている。


 


 胸元が空いたワンピースを着て、俺の腕に抱きつくノエリア。

 そのノエリアから婚約者と呼ばれ、未だ固まる俺。

 すごい顔したシオン。

 我関せずのスタイルで本を読むカリーナ。

 修羅場か? と囃し立てる野次馬。


 俺は思考を放棄しようと思った。

 いや、放棄した。

 どーーーーーーーーなってんねん。



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