シオンとの誓い
更新遅れてすみません!
今後もどうぞ、よろしくお願いいたします!
『勇者シオンとCランク冒険者のユクスのお陰でカールパントの街は守られた!!』
そんな題名の新聞が、この街で緊急号外で配られていた。冒険者以外の人も、それを手にとって感心していた。感謝の念を唱えていた人もいた。
なんにせよ、この街が助かって良かったと安堵した人が多かった。
さて、お気に入りの装備を台無しにされ、とても不機嫌な勇者シオンと共に俺は街に戻ってきた。正直、帰りの馬車内は不機嫌なシオンと二人で後ろの席に詰められたため、かなり精神的にキている。もう今すぐ飲み狂いたい。と言っても、報酬を受け取って、ジャイアント・クラブキングの核を売ってからだけど。
ちなみに報酬金額は金貨10枚。勇者シオンの了承もあって、1体しか倒していない俺でも報酬金額の半分を受け取れるので、ここの時点で金貨5枚。そしてジャイアント・クラブキングの核を売って金貨3枚。合計金貨8枚も手に入れる事が出来る。これで暫くは安泰だ。やっぱり生きていてると、こういう事があるんだな。金運が最高にいいんだな、今年。
というわけで、街に着いた俺は、不機嫌な勇者シオンから逃げるように颯爽とギルドへ走った。
シオンのプレッシャーにやられて青くなった俺の顔をみて、受付嬢は若干引いていたが、まぁ無事に換金することが出来た。
もうとにかく疲れた。
久々に俺も本気を出したし、どっと疲労感が襲ってくる。さぁて、新聞を見て駆けつけてきた情報屋とか、野次馬とか、ギルマスとかに絡まれないように、早く宿屋に戻るとしようか。
そうだ、女将さんに言って夕飯は豪華にしてくれと言おう。確かそんなサービスもあったはずだし、金ならあるし。
その宿は、通りを抜けて少しした所にある。名前は【金の幸運邸】。店のご飯が美味しいのがウリなのだが、大通りの方の宿屋を他の冒険者は利用するため、俺の他の利用者をあまり見かけないと内心で思っていた事は墓場まで誰にも言わずに持っていこう。
とやかく、俺は【金の幸運邸】にやってきた。移動中に知り合いに会わなかったのは幸運だったと思う。
宿屋に入ると、元気のいい女の子が毎回出迎えてくれる。
「あ、ユクスさん! お帰りなさーい!!」
この子は女将さんの娘さんで、名前はリラという。今年で13歳になるのだが、実は2年前から店の看板娘を任されていたりと、実はすごい娘さんなのである。
「ありがと、リラちゃん。あ、そうだ、女将さんにさ、今日の夕御飯は豪華にしてくれって頼んでおいてくれないか? 今日は難しい依頼を達成して、自分にご褒美をあげたいんだ」
「あ、それ知ってるよ! リラ新聞読んだもん! ユクスさんって凄い人なんだね! そんな人がずっとこのお店を使ってくれて、リラも嬉しい!! じゃあお母さんに言ってくるね! またお夕飯の時間になったら呼びにいくよ!!」
……本当、出来た娘さんである。
この子を見ていると、ノエリアを思い出してしまう。もう魔国には戻らないと決めていたが、唯一ノエリアは気掛かりだったりする。今頃ノエリアはよくやっているだろうか。親父の後釜としてうまくやっているだろうか。
……今はそんなことを考えても仕方無い。第一、魔国に戻らずにして会う方法が無いんだし、本当に仕方無い事だろう。
だから、この話は無しだ。さっさと2階の自室に向かって装備の点検でもするかな。そう思い、俺は足を進めた。
◇
装備の点検が丁度終わった頃、リラちゃんが部屋の中の俺を呼びに来てくれた。
これからとても豪華なご飯が食べられる、と思って心が高揚していたら、リラちゃんが妙な事を言った。
「ユクスさん! 晩御飯もうすぐ出来るから、下のホールに来てください! 皆もう集まってるから、早くね!」
はて、『皆』とはどういう意味だろうか。ここの宿屋の従業員の皆さんだろうか。
それならそれでいいんだが……。もう嫌な予感しかしない。
しかし、行ってみなければ美味しいご飯が食べられない事も事実。俺は重たい足に鞭を打って歩みを進めた。
すると、
「あ、ユクスさん! 遅いよぉ! パーティー始まってるよ!」
はい?
パーティー?
階段から降りた俺を待っていたのは、ウェイトレス姿のリラちゃん。この時点で従業員の線は消えた。
じゃあ、誰なんだよ。と思ってホールに入ってみる。
「おう! 遅いじゃねぇかユクスよお!! こっちは皆飲み始めちまったよ! なぁ皆!! 酒は足りてっかぁ!!?」
「「「おうともよ!!!」」」
そこには、ホールのテーブルを埋め尽くす程の人達がいた。その中は冒険者が殆どだが、もう顔が赤いギルマスや、今日ぐらいと言わんばかりにジョッキを空けている受付嬢やら、俺がよく知っている人たちもいた。つか、ギルマスはもう出来上がってんだろこれ。明らかにシラフじゃない。既に何杯飲んだんですか……。
「ユクス! お前はこの席だ!! こっち来いって!」
どうやら、俺の席は既に割り振られていたようだ。というか、そもそもの話ですよ。
――こんなん聞いてないんですけどーー!!??――
「おいギルマス。お前らなんでここにいる?」
「んなもん、お前の功績を称えて会食パーティーしてるからだろ。そら、お前も飲めよ。ここの酒は美味いぞ! あと飯も美味い。従業員が可愛いのもあるな」
「3年も利用してんだ。んなこと、分かってるわ!!」
もうヤケクソ気味に俺は酒が注がれたジョッキを飲み干す。その飲みっぷりに、思わず周りから歓声があがった。
って、危ない危ない。最初の酒は一気飲みって決めているから、思わず一気飲みしてしまった。
人前で酒を飲むとなると、酔い狂って話してはいけない事まで話してしまう可能性がある。一応、酒は強い方なのだと自負しているが、念には念を入れて、見えないところで『キュアー』の魔法を自分にかける。こうすれば、俺の魔力が枯渇するまで永遠と酒を飲める。
「やるじゃねえかユクス! おっしゃてめえら! 俺達も負けてらんねえぞ!! 女将さん! 酒追加頼むわ!!」
「やったろうじゃねえか! ボウズなんざ余裕よ! 今日という今日は、ギルマスを酔い狂わせるぞ!!」
「「「おうよ!!!」」」
あーもう、一気にテンションがおかしいことになった。女将さんもリラちゃんも、せっせとジョッキやらピッチャーやら樽やら持ってきてくれている。
……おい、誰だよ樽なんて頼んだやつ。
と思ったら、ギルマスだった。なにしてんだこの人。
この場にシオンが居ない事が唯一の幸運か。シオンにこの街のギルマスやら冒険者やらの実態を見せたくない。ドン引きは禁じ得ないだろうし、見たくないだろうし。
そこから、尋常じゃないぐらい酒を飲まされた。もちろん、キュアーはその都度してあるので、俺が酔う事はない。
それにしても、こやつら言うだけあって酒が強い。人間は皆、こうも酒が強い種族なのだろうか。早いペースで飲んでいるのに関わらず、まだまだペースは乱れない。
酒と共に、皆が色々な話をする。それは今日、俺とシオンがジャイアント・クラブキングを討伐した事のものだったり、それぞれの過去の武勇伝だったり、近頃の人間国の情勢だったり、とにかく色々な話だった。
酒で悪ノリしてくる奴等はウザったらしかったが、話を聞いている分には色々な事を知れて案外楽しかった。
暫くして、この宿屋玄関からカランカランと音が鳴る。誰かがこの宿屋にやって来たんだろう。魔窟みたいな――まるで地獄を具現化したようなこの空間に。
「遅れて申し訳ない! オーダーメイドの申請やら、なにやらしていたら遅れてしまった!」
「おっ、今日のMVP二人目のご登場だぞ! てめえら2度目の乾杯だ!!!」
やってきたのは、勇者シオンだった。
俺も来るんじゃないだろうかと、心のどこかで思っていたさ。来ちまったか、この魔窟に。
だが、俺が知っている装備――もとい服装をしていない。鉄の装飾が施された胸当てやらスカートやらではなく、その辺にいるような街娘のような格好をしていた。
そういや、ジャイアント・クラブキングに溶かされたんだっけ。あぁ、オーダーメイドって装備の新調って事か。あれオーダーメイドだったんだな。確かに店で見ない訳だ。
「じゃあ勇者殿はユクスの隣だな。ほらてめえら、2度目の乾杯だー!!」
うおおおお!!! という大歓声の中、皆一斉にジョッキを飲み干した。俺の隣で、『え? え? わ、私も飲まなければならないのか!?』等とあわてふためいている勇者がいる。
「おい、無理して飲む必要は無いぞ。一応、ギリギリ俺達は成人しているが、絶対に酒を飲まなければいけないなんて法は無いんだからな」
「……わ、分かっている。ただ、お酒を飲んでみたいという欲はあるんだ。その、初めて飲む訳だし……」
「そうかよ。じゃあ俺のをやるよ。アルコール度数は低いし、何より甘いんだ。これなら飲みやすいだろう?」
「お、お前の口付けた物を飲めと言うのか!?」
「なんだよ、そういうの気にすんのか?」
「……う、うるさい! 早くよこせ! 飲んでやる!」
「お前、雰囲気で酔うタイプだな。絶対にいつか後悔するぞ、その性格」
俺のグラスを奪い取るようにして、シオンはグラスを掴むと、それを一気に飲み干した。こいつ俺の分まで一気に飲み干しやがった。
まぁ、また頼めばいいんだろうけどさ。
「で、どうだった? 初めて飲む酒の味は」
「う、うむ。甘くて飲みやすい酒だった。すごく美味しかった! これ、注文していいか!?」
「ああいいさ。女将さん! この果実酒2つ追加お願いなー」
俺は女将さんに注文した。笑顔であいよ! と言って返してくれる。
この果実酒は、俺がよく飲む酒で、とても甘いのがウリだ。女性なんかがよく飲むが、男性だって苦い酒が苦手なやつは大抵これを飲む。俺もその一人なわけだし。
注文した酒が届く。勇者シオンは目を輝かせていた。元々は女性が飲みやすい酒として作られたらしいため、女性であるシオンが好きになるのも道理だろう。
そして時間経過とともに、次第にシオンの周りに人が集まってきた。
そりゃあ、有名人だものな。こうなるわな。
「あ、あの! 勇者様! 僕、ファンなんです! サインください!」
「あの勇者様! 是非握手してください!」
「勇者様! 私を弟子にしてください!」
もうそりゃあ、多くの冒険者が我先にとシオンを質問攻めにする。その隣でひっそりと酒を啜っているのは俺。シオンに対して『あのジャイアント・クラブキングを倒すなんて素晴らしいです!』という奴はいたが、俺に言ってくる奴はいなかった。格差よ格差。別に誉められたくてやったわけじゃないけどさ。
「そんな顔すんなよユクス! 俺は知ってるからよ、お前が活躍したって事をよ!」
背中をバンバンとギルマスに叩かれる。
クッソ痛い。
「はいはい、あざっすあざっす。出来れば可愛い子に言ってほしかったね」
「なんだよ、お前はそういうのに興味ないと思ってたけど、なんやかんや興味あるんだな」
「そら、俺も男だしな。興味無い訳ないだろ」
「ハッハッハ! そんなら、今度可愛いやつを紹介してやるよ! 楽しみに待っとけ!」
へいへい、と俺は酔っぱらいをあしらう。
その間も、シオンは質問攻めにされていた。少し困った顔をしていたので、助け船を出してやるか。
ほらよ、と俺はシオンの目の前に、先程と同じ果実酒を渡した。ありがとう、と小さく呟いて果実酒を受け取った。
「そういやシオン、前の装備はいつ届くんだ?」
間入れずに、俺がシオンに話しかける。
「あ、あれか。あれはもう3日ぐらい必要だな。王国の方から取り寄せになるからな。早急に作るとは言っていたんだがな」
「そうか、じゃあもう少しこの街に止まるんだな」
「そういう事になる。まぁ金なら余裕があるし、暇を除けば苦は無いな」
「それなら、是非ともこの宿をおすすめするな。飯も美味いし、通りの宿屋よりもずっと安いぞ」
「そうか、なら遠慮なく利用する事にしよう。後で女将さんに聞いてみる」
俺とシオンだけで話していたせいか、周りには人が群がっていなかった。各々の席に戻って騒いでいる。
なんにせよ、助かったならそれで良かった。初めての飲みに悪い印象なんて与えたくないしね。
と、そこでおもむろにシオンが席を立った。トイレかと思って何も言わなかったが、どうやら違うらしい。
俺に向かって言葉を放った。
「ユクス、どうか真剣に聞いてほしい」
その一言で、さっきまで騒いでいた奴等が、動きを止めて黙り始めた。
そして、皆一斉にこちらを見る。
え? どうした? いきなりなんだ??
「もう一度だけ、言わせて欲しい」
俺の方を向いて、シオンは話した。
女将さんも、リラちゃんも、厨房の親父さんも皆が黙ったままだった。
「君ほど優秀な魔法使いはこの世界で他に居ないだろう。どうだろうか、君さえよければ私と魔王を倒す旅に出てもらえないだろうか?」
人生で、2回目の勇者からの勧誘だった。
ど、どうしようか……と悩んでいると――。
うおおおおおお!!! と盛り上がる大歓声にホール内は包まれた。
「やったじゃねえかボウズよぉ!!」
「くぅぅ~! 俺も誘われてえよおお!!」
「オレオレ! 俺とかもどうです??」
等と、他の冒険者が口々に言ってきた。
隣のギルマスも、こりゃすげえよと驚いていた。
それもそうだ、冒険者をやっている上で、勇者から勇者パーティに勧誘されるなんて名誉この上ない出来事なんだろう。
だが、しかし。
しかしである。
俺、旅の目的である魔王の息子なんですよ。出来れば、もう魔族とは関わりたくないというのはある。
だが、これはチャンスだと思う自分もいる事は確かなのだ。
自分を見限り、早々に切り捨てたあの魔王に一発ぶちかます事が出来るチャンスではないのかと。
個人的な私怨になるが、親父に向かって怒りを今でもこの心に宿している。絶対にいつかぶっ飛ばそうと思っている。今のまんまでは殴るどころか灰にされそうではあるが。
つまるところ、半々なんだ。
一発殴り飛ばしたい。けど、魔国には行きたくないし関わりたくもない。
そんな二律背反が俺を葛藤させるのだ。
と、そこへ、
「どう……だろうか?」
上目遣いでシオンが俺にそんなことを言うのだ。別に可愛いから入る~なんて考えは無いのだが、ただ、シオンと――勇者と一緒に旅をするならば、この先に親父を殴り飛ばすチャンスは来るはずだ。
シオンと旅をしなければ、こんなチャンスは手に入らないだろう。だから、俺は真剣に悩んでいた。
待ってくれ、は通用しない。
今、ここで決断をするんだ。
記憶がフラッシュバックする。
幼い頃、死ぬより辛い鍛練を重ねた事。妹の才能を買って、それまで辛い鍛練をさせてきた俺を切り捨てた事。そんな感情とは別に、もう2度とこの地を踏むことはないと決意したあの夜もあった。
さぁ、どうする。
俺は悩んだ。
真剣に悩んだ。
生半可な言葉は発することすら出来ない。
俺を、家内以外で初めて評価してくれた人物。その言葉に嘘は感じなかった。
なら、信じてみてもいいのではないだろうか。
魔族の王子である俺が、勇者を信じてもいい世界があってもいいのではないだろうか。
本当に、魔王と対をなす勇者と旅をする魔族があってもいいのだろうか。
仮に一緒に旅をするとして、この先俺は素性を隠しながら旅を続ける事になる。
それは、旅の仲間に嘘を付きながら生きていく事だ。それを、勇者は許すだろうか。いや、そんなの誰が許すのだろうか。
俺は、震える声でシオンに問う。
「この先、仮に一緒に旅を続けるなら、俺はお前に大きな嘘を一度だけ突く。それをお前は許せるか? いつ、俺が嘘をついているかも分からず、お前は騙されながら旅を続ける事になるが、それをお前は許容できるか?」
「…………………………」
俺の真剣な問いに対し、シオンもまた真剣に悩んだ。
だが、数秒後。
「私は旅の仲間から嘘なんて突かれたくないし、嘘を突いてほしくもない。だが、それが必然なら、どうか私にだけその嘘を突いてくれないか? それと、この先いつか、その嘘の真実を私に教えてくれないか? それを許すなら、私は目を瞑るさ。さ、どうするユクス」
「…………分かった。俺はあんたのパーティに入る。これからもよろしく頼む、シオン」
そして、俺はシオンと握手を交わした。
パァン! とクラッカーが鳴る音が響いた。冒険者の誰かが持っていたらしい。釣られるように、皆一斉に口笛や大歓声やらを響かせた。
それから、朝方までこの騒ぎは収まらなかった。途中、女将さんやリラちゃん達、従業員が出ていっても、特別に場所を借りてパーティーは続いた。意外な事に、最後の最後までシオンは酒を飲み続けた。最後はぐでんぐでんに酔っぱらっていたけど。ちなみにこの宿のシオンの分の部屋は確保済みである。
顔を真っ赤にさせ、爆睡しているシオンを担ぎながら、2階の部屋へ向かう。他に倒れていた奴等は知らん。
担ぎながら、俺はこんな事を考えていた。
ああ、これから俺の運命はどのような道に進んでいくのだろう。
昨日までは、単純に毎日を生きるために冒険者をやっていくという未来しか想像できなかったが、それが今日、分からなくなった。
だけど、まぁ、当分の目標は出来た。
――魔王を1発ぶっ飛ばす――
それが俺の当分の目標になるだろう。
さぁ、分かれ道は進んだからな。
上手くやれよ、俺!
俺の歯車は、この瞬間から回り出したのだ。




