表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/50

勇者パーティーと旅立つ日

 長く感じたこの都市の滞在も今日で終わりとなる。

 ある程度の旅支度は済ませてある。

 流石、大陸きっての商業都市との事もあり、俺を含む3人の買い物はかなり長く続いてしまった。故に軍資金は心許ないのだが……。

 まぁさておき、野宿用のテントやら食糧やら買い込み、それらを全てシオンのアイテムボックスにぶち込んで買い物は終いとなった。

 こういう時にアイテムボックスは便利であるとしみじみ思う。


 次の行き先はもう決めてある。

 勇者パーティーにおいて欠かせない1人である【聖女】の住まう都、【大聖地ヘヴンベル】。

 古来より、魔王を倒す神話には勇者とその仲間が描かれていたが、数多ある神話のそれぞれに勇者の仲間として聖女が描かれていた。

 その為、魔王を倒すには聖女の力が必要不可欠だと言われているのである。

 そして代々、聖女はその【大聖地ヘヴンベル】にて生まれるという。

 今回も例外ではなく、その都に聖女の称号を与えられし少女がいる。その聖女に会いに行くことが我々の今の目的なのだが、問題が出来てしまった。





「ここから聖地まで……遠すぎだろ」




 俺は今、バルドの宿屋のロビーで大陸の地図を広げて見ていた。

 そしてその地図を見て絶句した。

 元々、人間界の地理なんて覚えた事もなかったからこの落胆のしようは仕方無いのだが、それでも遠いなんてものではない。山を数回も越える旅になる。

 カリーナも俺と同じく絶望の表情をしていたが、打って変わってシオンはさも当然の顔をしていた。

 いや、大陸の地理を知っているならその表情が自然なんだろうな。元より覚悟していたという顔だ。


「まぁそう落胆するな。先代の勇者達もその前の勇者達も通ってきた道なのだ。勇者パーティーに聖女は必須である、そう習ってきただろう?」


 勇者が俺の肩を叩き語ってきた。

 悪いが勇者物語なんざ魔国では御法度なのでな、あんまり読んだ事はない。


「何も歩いて行くわけでもあるまいし、想像よりもそう遠くはないと思うがな。ああ、しかも私達は運が良いぞ」


「何が運が良いんだ?」


「ここから聖地までの道のりの丁度中間地点にな、先代の時には無かった都がごく最近新設されたらしいのだ! しかもこれを見ろユクス!」


 食い気味に顔を突き出したシオンだが、その手には1枚のビラがある。

 シオンが言っていた、新しく出来た街のモノらしい。


「ええっと、『新興都市ダーレルム。極上の大温泉で旅の疲れを癒していきませんか?』か。ほう、珍しいな、温泉なんて」


「そう! そこだ!! 念願の温泉に入れるのだ!! ああ早くこの露天風呂という温泉に入って疲れを癒したい……! 分かるだろうユクス!? 人間にとって温泉がいかに大事か!」


「いや、そこまで言うほどか……?」


 とまぁ、そうは言うがシオンが興奮している理由も分からなくもない。

 というのも、この人間国には温泉の出る場所が限られており、しかも出ても少量のみの場合が殆どである。その為、温泉は貴重な資源として今では貴族連中の御用達になっていて、まず一般の平民ではお目にかかる事は出来ないのだが、この新興都市は温泉の源泉を掘り当てる事に成功し、尚且つ商売が出来る程の量だと言うわけだ。

 ……というか、こうなると温泉の価値が圧倒的に下がると思うのだが、新興都市がこれをやると他の大都市の幹部連中が黙っていないような気もするが、その辺は大丈夫なのだろうか。


 ま、まぁ余計な詮索は野暮だろう。第一、俺たちが心配したところで何になると言うのか。

 兎も角、人間は温泉に飢えているのは間違いない。それも平民であれば尚更だ。


 が、魔族である俺にはそれがよく分からなかったりする。

 理由を言うのならば、まず魔国には温泉になるための源泉がいくつもあるからだ。

 場所によっては集落全体の家の一つ一つにそれぞれ一つずつあるようなものだし、価値的にはそれ程無い印象だ。


 勿論、今回のそれは大衆向けに仕立ててあるのは間違いないだろうし、気持ちがいいのも間違いでは無い。

 が、よっしゃやったるぜ! とはならないのは、やはり俺が魔族だからなんだろうなと、1人文化の違いを感じるのだった。


「前まではその道のりに闘技街と呼ばれた街しかなくてな、それはそれで面白かったそうだが、癒しがそこにあったかと言われれば無かったな。だから今回はすごく楽しみでな」


 まぁ、コイツが楽しそうならそれでいいか。

 別に……みたいな事は先程言ったが、楽しみの欠片も無いのかと言われればそれは違うしな。魔族のそれとの違いを楽しもうとは思っている。


「それに、お前といると長旅も悪くないものだぞ?」


 なんて、不意打ちをしやがる。

 深い意味なんて無さそうだけど、どうも勘違いが発生するような言い回しをしやがって。

 俺じゃなきゃそのまま飲まれただろうよ。

 少し小さく笑って俺は言う。


「俺もお前との旅は退屈しなくて楽しい方だな」


「なんだ、素直じゃない奴め。ま、及第点にしておこうか」


 なんて言っていると、横からカリーナが割り込んできた。


「イチャコラしてるとこ悪いけど、なんの話?」


 べ、別にイチャコラなぞ!? とか狼狽する勇者はスルーして、俺は手に取っていたビラをカリーナに見せてやる。


「あら、温泉街……。私、温泉って初めてなのよね。確か、皆で裸の付き合いをする場所よね? で、ところで裸の付き合いって何? エッチな事?」


「エロじゃねえよ。身を隠さず、全てを曝け出してするやりとりの総称だ。エロくない」


「裸で何のやりとりをするの? 子作り?」


 後ろの勇者が吹き出した。


「ば、ばば、馬鹿な事を言うなカリーナ! おま、お前は今何を口にしたのか分かってるのか!?」


「え、えっと、私何か悪い事でも口にしたかしら」


「こここ、子作りと……!!」


「え、だって裸でするなら子作りしかないじゃない。あ、言い方? じゃあセッ……」


「ぴゃ……っ!!」


「やめてやれカリーナ。どうやらうちのリーダーは相当な初心ウブらしい。ちなみに18で俺とタメだ」


「うーん、その年齢でこの程度で慌てるのって相当箱入り娘だったんじゃないの? あ、勇者ってそういう話はダメなのかしら」


「さてな」


 本当にコイツ18なのかと思えて来る。

 今だってほら、顔を押さえて地面に蹲って小さくなってるし。小言で『セッ……! セッ……っ!』とかぼやいてるし。


「お前そんなんで温泉なんて行けんのか? 周り全員裸なんだぞ」


「そ、それとこれとでは話が違うだろ! おいカリーナ! これからその話は無しだ! セッ……は禁止だ! ユクスもいいな!?」


「いや、普段から使おうとは思わない単語だから別にいいけど。お前そう言うの過敏すぎるよな。それ克服できないと結婚とか出来ないんじゃーー」


「うるさいっ!」


「ぐっはぁ!!!!」


 キレたシオンのグーパンが俺の鳩尾を貫き、そのまま後方にぶっ飛んだ。

 掃除用具入れに激突し、見事にそれは破壊された。


 そして俺に近づく足音。

 カリーナの物だった。

 カリーナは倒れる俺の前まで来ると、俺の顔の位置を合わせるようにしゃがみ込む。


「私の言えた事じゃないけど、今のはあんたが100悪いと思う」


 反省してます。

 身をもって。







       ◇






「じゃ、私達はこれで。少しの間だったが世話になったな。店主よ、また来ると思う。その時はまた稽古をよろしく頼む」


「ああ、楽しみにしているぜ」


「楽しみにしているじゃないよバカ! バルド、君って奴は運動場ぶっ飛ばしたの忘れたのか!? そこの勇者もね! ツケにしておくんだから!!」


 勇者とバルドの会話を全力で否定するロイズ。

 筋肉隆々の肉体にビシィッ! とツッコミを入れる様は、いつか聞いた昔の関係の2人のようだった。


「ま、正直お前らには感謝してるんだ。なんやかんやあったが、宿の増築と従業員の増加がほぼ無償でやって貰える事になったからな」


「それは他でも無い勇者様の頼みだからね。私が直々に話をつけたんだ。君達がまた来る時には今のショボい宿じゃなくてもっと立派になってるから楽しみにしててよね!」


「ショボくて悪かったな!」


 バルドのツッコミに皆が笑った。

 そして、馬車が出発する時間となる。

 俺達は今日、ここを出る。

 新たな仲間を1人増やして、また一歩、勇者の物語のコマを1つ進めるのだ。

 俺は俺でコマを1つ進めているが、な。


「じゃあ、旅が終わったらここに寄りなよ。君達の話が聞きたいんだ」


「ああ、その時は是非寄らせてもらおう」


「その時は俺の秘蔵の酒でも空けてやるから、まぁ死なない程度に頑張れよ。死ぬ事以外はーー」


「擦り傷、だろう? いい言葉だ」


「厳密には俺の言葉じゃねぇが、まぁこの言葉を活かしてくれや。じゃあな、そろそろ時間だ」


 そして俺達は馬車に乗り込む。

 間もなく馬車は発車された。

 次なる目的地を目指して。

 手を振る彼らが小さく見えていく。


「魔王を倒して、必ずここに戻ってこよう」


 揺れる馬車の中、シオンが言った。

 俺の心情を知っているカリーナは俺の表情を伺っていた。

 俺はこう答えていた。


「ああ、そんな未来もいいのかもな」


 曖昧な答え、不明瞭なその答えにシオンは疑問を持たなかったが、カリーナは、いや、何より俺自身がそんな未来は絶対にありえないと訴えていた。

 この度の先に、俺と勇者は相容れない。

 それでも、今だけは勇者パーティーの一員だ。


 俺はこの間だけ、勇者の事を信じられるのだった。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ