魔族王子と夜の森
投稿遅れてすみません
ボチボチ描いていきますので見捨てないでくださぃ(懇願
昨夜よりも月の光が乏しく思えるのは、超満月が終わったからだろうか。
薄暗い獣道を俺とカリーナは歩いていた。
しかし、月の光が乏しけれど、今宵は超満月の代わりとなる光源があった。
「知ってるか? 超満月の恩恵を受けているのはお前ら幻兎族だけじゃ無いんだ。よく見てな。っと、ほら出てきた」
俺は地面に埋もれていた小さな石を、不意に茂みの中に放り投げる。
すると、驚いて出てきたのは小さな光。
葉に滴る朝露のように小さな光が幾つも現れ、シャボン玉のように無造作に飛んでいる。
「……綺麗」
その言葉は恐らく無意識だったと思う。
心の底から感動を覚えたカリーナが、ふと口にした言葉だった。
「ホシボタルって言ってな、普段は地中の中で眠ってる虫でさ、超満月になると木の1番上の方に集まってお前らと同じく魔力を補給するんだ。ま、小さいからすぐに供給自体は済むんだけど」
話しながら進む俺たちを追うようにホシボタルの群れがついてくる。
「こいつらが幻兎族と違うのは、ホシボタルにとって本番は超満月が終わった後、ってとこだな」
「終わった後?」
「そう、終わった後だ。こいつらの寿命はもって明日、殆どは今日潰えちまうからな」
「短命って事?」
「ああ、しかもその理由が笑えてさ、超満月の魔力を供給するとキャパオーバーでぶっ倒れるんだよ」
「そ、そうなの。なら供給なんてしなければいいのにね」
そう呟くカリーナの指先にホシボタルの1匹がとまる。
一応、虫の部類ではあるのだが、カリーナは平気らしい。村で生活していただけあって逞しい。
勇者だったら、慌てふためいてすっ転んでそうだな。
「俺もそう思ったよ。でも、こいつらが繁殖するにはこうやって光を放って異性を誘うしかない。ちなみに今カリーナの手にとまってるホシボタルは黄色だからオスだな。メスは青く光るんだ」
「そっか。君たち、綺麗なのに短命なんて勿体無いわね。せっかく私と同じ特性を持ってるのに」
「ま、儚いから美しい、なんて言われてるらしいけどな。どっかの村ではこいつらを見ながら酒を飲む文化もあるらしいし、案外、幻兎族だってすぐに人間達と打ち解けられたりしてな」
「ふふ、だといいわ。さ、君も早く綺麗な奥さんを見つけなさい」
カリーナがそう言うと、言葉が理解できたのか偶然かは分からないが、ホシボタルはひらりと指を離れて空へと飛んでいく。
「お前らだって、別に人間に害は与えてないのにな」
ホシボタルを見て、俺はそう思ってしまった。
人間に対して幻兎族は何もしていない。
だが、この世界の一般教養では幻兎族は禁忌の一族として見なされている。
理由もわからず、今も人間の子供はそう教わっているんだろう。
ただ、幻兎族は悪だ、と。
人間が息をすると同じく、それは常識とされて、誰1人として疑いの眼差しを向けない。
必ずしも人間は悪では無いが、人間のこういう部分は悪いと俺は思う。
不意に言った言葉にカリーナが反応する。
「なに? もしかして点数稼ぎ? やっぱり幻兎族の力が欲しくなった訳?」
「な訳ねーだろ。独り言だよ忘れろ。気にすんな!」
他愛もない会話を続けながら俺達は歩き、そして目的の場所は辿り着いた。
「ねぇ、ここって一体……」
「ここは、多分この森で1番古い大木の根本だ。運命か偶然か、俺は知らずにここに建てたんだな」
俺の視線の先をカリーナは辿る。
見えてくるのは、小さな石が積まれた何かだった。
その端に小さな木の板が刺さっており、薄暗いが何かが書いてあるとかろうじて分かった。
「これは、お前を誘拐した張本人の墓だ」
「……っ!」
肩に力が入る。
腹の底から何か分からない感情が沸き立ってくる。
恐怖とも、怒りとも呼べない感情だ。
カリーナはただ、それを抑えて震えていた。
「おい、フウリン! いるんだろ。出てきてくれ。話がしたいんだ」
「フウリン……。もしかして、あの女の子の事?」
何かに気付くカリーナ。
その言葉に返事をしたのは俺じゃなかった。
「ねぇ、どういうつもりなの? その子に仇を取らせようって事でここに来たわけ?」
「昨日の今日でそんな事が出来る精神は持ち合わせて無いね。言っただろ、話をしに来たって」
「1人にさせてって言ったでしょう? まさか1日で立ち直るなんて考えで来た訳ではないでしょうけど」
「ちょっと気になる事があってな。カザイから俺の事について何か聞いてはいないか?」
「あなたの事? 答えて何になるの?」
「別に、ただの事実確認だ。カザイが俺の事を何と言っていたか気になってな」
声の主はフウリンだが、姿は一向に見せていない。
声色で分かるが、相当警戒しているようだ。
それも、勇者を探しているとかの警戒じゃない。
俺に対する警戒だった。
「何か言っていたら、どうするつもり?」
そう言うと、大木の太い枝からフウリンが飛び降りてきた。
木の枝に身を隠していたらしい。
その手には短剣を持っている。
「お、おい。俺は話をしにきただけだって。その物騒なのは下げてくれると助かるんだが」
「あなたをまだ信用していない。仇でもあるわけだしね。やましい話じゃ無いならこのままでも大丈夫でしょ?」
頑なに警戒は解こうとしない。
その警戒心は見事だと称賛したいが、今言ったら煽りになるだろうな。
出来るだけ対等な立場で話がしたかった。
「俺の事を知っていたら話の手間が省けると思って言った質問だ。他意は無い。で、どうなんだ?」
「……カザイ様は、魔族の可能性がある、と言っていた」
「そうか、やはりあの時から既に気付いていたんだ」
「そうか……って、まさか本当に魔族……?」
驚愕して片手で口を塞いだフウリン。
相当驚いているようで、後退してよろけてしまっている。
「あ、あなたは知ってるの?」
声はカリーナに向けて言っている。
「ええ、と言っても今朝知ったばかりだけど」
カリーナも普段通りに言葉を返す。
震えはまだ治ってはいないが。
「ああ、俺は魔族だ。それも、魔王の血筋を引く魔族の王子でもある……。この手の甲に映った紋章がその証拠だ。魔族……それも王族だけが扱える魔力で光っている。鑑定でも何でもしてみるといい」
恐る恐る手を触り、それを慎重に調べるフウリン。
触れればすぐに分かる。この魔力は人間に扱えないと言う事が。
何故ならば……
「あつっ! え? 弾かれ、た?」
「言っただろ。人間には扱えないって。体が拒否反応を起こすんだよ。アレルギーみたいなものか。体の外でこれなのに、人間の内部にこれが流れてたら、すぐに四肢が飛んでいくだろうな」
笑えないわよ……と鋭いツッコミをカリーナがボソッと言う。
「……あなたが魔族だって事は分かったけど、本来敵対する種族同士でパーティーを組んで何が目的なの?」
「……信じてもらえるか分からないけど、俺の話を聞いて欲しい」
俺は、そのままフウリンに俺の過去を全て話した。
鍛錬と勉学に明け暮れた幼少期、そして俺を見捨てた魔王の話、魔国を出てただの冒険者として生きていくと決めた俺に勇者が現れた話。
全て包み隠さず話をした。
幸い、それをフウリンは真剣に聞いてくれていた。
そして、勇者パーティーに入り、俺が魔王をブン殴る計画も立てている事も話した。
「……成る程、ね。勇者を利用して魔王を討つって事。ま、その話が本当なら動機は十分だしね」
「そう言う事だ。あと、俺は殺す訳じゃない。ただブン殴るだけだ。一発だけ殴れれば後はアイツに任せるさ」
「アレはあなたのお父さんを殺すよ。絶対に。だってそれが勇者が勇者たる理由だから。それが無くなれば、彼女は元の女の子に戻る。国から認められた兵器ではなくなるけど、あなたは自分のお父さんを目の前で殺されていいの?」
「……」
答えられなかった。
いや、とっくに腹は括った筈だ。
勇者とパーティーを組むと言った時、その未来は予測出来た。
でも、心のどこかで両者が死なない選択肢を願ってしまっていた。
方法なんてある筈ないのに。
今言葉が出ないのは、俺の甘えだ。
考えの甘さ、それが今剥き出しになっている。
誰かに言われなければずっと心底で眠っていたその想いは、今ようやく浮上しかけている。
「答えられないなら、私はあなたに従わない。1人で勝手に生きていく」
そう言うとフウリンは俺に背を向けて歩いていく。
その姿が闇に完全に溶け込むその直前に、俺は声を出していた。
「俺は! どっちも殺させねぇよ! ……戦うのは俺だけで十分だ。親父には……魔王の座から降りてもらう」
フウリンの動きが止まる。
背を向けながら語りかけた。
「ユクス……でしたっけ? あなたがまさか魔王になると?」
「俺は……」
頭の中に映ったのは妹、ノエリアの顔。
俺より、頭が良くて、人望もあって、才能もあって、俺より強い。
その顔が浮かぶ。
「俺じゃ……ない。魔王候補はまだいる。その中には、話し合いの通じる奴だっている。血を流すだけがこのクソみたいな戦争を終わらせる方法じゃ無い」
「……は、ははは。聞き間違いかな。話し合い? 誰と誰の? まさか人間と魔族が話し合いをするって? 冗談だってさ……」
フウリンが動く。
「言っていい時ってのがあるんだよ!!!」
そのまま、俺に向かって一直線に弾丸のように突っ込んできた。
胸ぐらを掴まれながら、その勢いに体が耐えられずにそのまま倒れ込んでしまう。
馬乗りの状態のまま、彼女は俺に向かって叫ぶ。
「話し合いで終わってるならあの人は死なずに済んだんだッ! 殺したのはあのイカれた人間とお前だよ魔族の王子!! あの時お前らは話し合いを望んだのか!?」
「やめなさい! 元はと言えば、あんた達が私を……幻兎族を利用して違法な実験をしていたのが原因でしょう! あんたがユクスを怒る権利なんてないわ!」
激昂するフウリンに、それを見るに見かねたカリーナが割って入る。
だが、フウリンはカリーナを憎悪の籠った目で睨む。
「うるさい! 所詮幻兎族は禁忌の一族! 人間以下の分際で人権なんてない! だったらせめてその身で人間にとって有益だって証明されてみれば良かったんだ!」
「なっ、あんたいい加減に……!」
「やめろカリーナ!」
ついに背中の太刀に手をかけたカリーナを俺は叫んで止める。
「頼む、今は抑えてくれ」
数秒、どうすればいいのか困惑していたカリーナだが、その手は太刀の持ち手から離れていった。
「何? 止めなければ死んでいたとでも? はっ、残念ね。私は死んでもあなたぐらいは道連れにしてやるつもりだったけどね」
「別に、そんなつもりは無いさ。前にも言ったが、俺はお前の父親同然の奴を殺した」
ピクリとフウリンの眉が動く。
「今の状況だって俺は心のどこかで罪滅ぼしだって思ってる部分もある。それでも、死んだアイツにお前を託されてんだ。俺は全力でお前が生きやすい世界にしてやる! この魂に賭けてな!」
「……なにそれ、馬鹿じゃないの……」
「あとお前もだぞカリーナ! 俺はお前ら禁忌の一族も見捨てない! お前らを見捨てれば俺が親父にされた事と一緒の事をしちまってるようなもんだしな!」
「……そう」
「だから、お前らの目的、俺に預けてみろよ。絶対に力になるからさ」
その言葉を聞いて、フウリンは泣き出していた。
カリーナも、脱力して近くの切り株に座って俺たちを見ている。
きっと馬鹿な奴だと心の中でコイツらは思ってる筈だ。
「馬鹿な事を、言ってんじゃない、わよ」
「馬鹿な事だと俺も思う。でも、それを叶えればハッピーエンドだろ」
「……バカね」
「なんだ、今頃気付いたのかよ」
俺は笑っていた。
フウリンは、涙で顔がまた台無しになっている。
カリーナがフウリンに声をかけた。
「フウリン、だったわね。あんたまだ躊躇ってるみたいだけど、あんたは信じないの? あんたがさっきからずっと言っている人が最後の最後に信じた人の事を」
「……カザイ様が、信じて、私を託した人……」
「あんたがその人を信じてるなら、ソイツも信じてみれば? きっと悪いようにはならないわよ」
「…………そう、ね。確かに、カザイ様はあなたを信じていた……。だから、託した……か」
フウリンの両手はもう俺の胸ぐらにはない。
かわりに、その細い両手は俺の顔の隣に置いてある。
顔と顔の距離が触れ合う寸前までに近く、事実フウリンの髪は重力に従い俺の頬に触れている。
琥珀の瞳のその深部すら見えそうな近さでフウリンが言った。
その口調は今までのそれではなく、どこか取り繕っているかもしれないけれど、いつものフウリンの様な気がした。
「ユクス、あなたはかつての研究施設でカザイ様と交渉のテーブルに着いた事を覚えていますか?」
「ああ、覚えてるさ。忘れるわけがない。あの事もあって、俺はカザイを信用しているんだからな」
「私はあの時、正直ドン引きしていました。一触即発の敵同士なのに、2人とも笑みを浮かべて会話をしているんだから」
「交渉の場とはそういうもんだよ。もっと上の偉い奴らもそうだ、大して変わんねぇよ」
「私はこの瞳で相手の眼を見るのが得意なんです。嘘をついているとか、真剣なんだとか、そういうのが何となく分かるんですよ」
「へぇ、そうかい。だったら、あの時の俺たちの眼はどう映っていたんだ?」
「2人とも、心の底から楽しんでいました。だから私はドン引きしたんですよ? 先程も言いましたけど、貴方達は敵同士、一人は禁忌に触れた闇の科学者、もう一人は商人ギルドのトップから遣わされた冒険者兼勇者パーティーの一味。だから、なんでそんな心情になるのか理解出来なかった」
フウリンの右手が俺の頬を触れた。
「私は、期待してもいいのですか? あの人が信じた貴方を」
俺は迷わなかった。
「信じろ。俺がお前を助けてやる」
「ふふ、嬉しいです。じゃあ、契約です」
契約? と疑問符が浮かんだが、それは次の瞬間吹っ飛んだ。
「ちょ! あんた、何して……」
とカリーナの狼狽した声。
「んむ!? んむむむむむ!!」
と、これは俺の狼狽した声。何故かどもっている。
「……んっ」
この色っぽい声を出しているのはフウリン。
狼狽した訳はここにある。
その唇が俺の唇を奪っていたからだ。
やがて唇が離れると、そのまま状態を起こしたフウリンは人差し指を自分の唇の前に持っていき、こう告げた。
「これは契約です。私を上手く使ってくださいね? あ、今のはちょっとした前金代わりです。こういう事も得意なんですよ? 諜報員としても役立ちますし、なんなら今夜、お試ししちゃいますか?」
やれやれ、サキュバスにも似た人間が居たものだ。
「バーカ。寝言は寝て言ってろ。あと早く退かないと理由は分からないが激怒したカリーナが襲ってく」
「ひゃあ危ない!」
あっ、コイツギリギリで太刀の振り下ろしを回避しやがった。
って事は、これ俺危ないんじゃ……?
何はともあれ、仲間が増えた、でいいんだよな?
結果どうあれ、いい終わり方だろう。
傷口が塞がってきたばかりに何本も縫う様な傷を貰ったけど、まぁいいか。
俺達の目標に一歩近付けたのだから。
それはきっと、些細な事なんだろう……。
って、んな訳あるかあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!
絶叫と共に勢いよく鳥達が森の空を駆け抜けていった。




