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魔族王子と魔族の証明

投稿遅れてすみませんでした。(テンプr…

今後ともよろしくお願いします。

 間を待たずして、俺は2人から氷点下すら超える程の冷たい視線を受けた。

 目のハイライトは瞬時に消え失せ、節足動物を見るような蔑んだ目を向けられた俺は、弁解の言葉を思うよりも早く破滅の未来を想像してしまう。


「……ふーん、私達と話してる間、その女の子とよろしくやってたんだ。最低すぎ。見損なった」


「ろ、ロイズ……! ち、ちが、これは……」


「やっぱり下心全開だったわけね。じゃ、私もそんな風にみられてたのね。ケダモノ。相部屋辞めてもらえるかしら」


「カリーナ……。俺は純粋に……」


 言葉が詰まる。

 息が思うように出来ない。

 だが俺に抱きつくサーチだけはこの状況を楽しんでいるように見えた。


「お、おいサーチ! お前から何か言ってくれ! 俺がお前に何もしてないって証明してくれよ!」


 俺の腹の上でうつ伏せになっているサーチに助けを求めた。

 俺の話を聞いたサーチは少し考える素振りを見せた後、俺の顔をマジマジ見てきた。

 そして、ニヤリと笑ったのだった。


「所有者様……。あの時の対価の残り、ボク……今欲しいな……。またあの時のように優しく……お願い……」


 凍った空気に今度はヒビの入った音が聞こえた。

 凍える温度はいつの間にか絶対零度に変わっている。

 そして2人は表情を変えずにこの部屋から出て行こうとする。


「おいサーチ! お前本当に何なんだよ! 何がしたいんだよ! お前、俺の所有物なら俺をサポートしてくれよ! 俺はこんなの望んでねぇよ!」


 サーチの肩を揺さぶり、激しく言葉を放った。

 サーチの表情が変わっていく。

 面白くないと言わんばかりに冷めていき、ついには『あっそ、なんか冷めちゃった』なんて言い出した。


「【停止】」


 魔術を唱えながらサーチは指を鳴らした。

 すると、この場所から離れようとしていた2人の動きが不自然に急に止まった。

 

「え!? なになに!? どうしたのこれ!?」


「身体が……動かない!」


 言葉は喋れそうだが、身体が固まったように動かない。

 【停止】の魔術……と言っていた。

 まだ俺が唱えられない魔術。それを唱えたのだ。


「所有者様、手を出して」


「え? あ、ああ」


 差し出した俺の左手の甲に、サーチの小さな手が触れる。

 少しだけ弱い電流が走ったような、そんな妙な感じがしたかと思ったら、俺の手の甲に禍々しい紋章が出現していた。

 紫色の不気味に輝くそれは、昔見たことがあるような……。


「それ、魔王一族の家紋。それを見せれば、そこの幻兎族の冒険者はともかくとして、もう1人の偉そうな人なら分かってくれると思う。もう一度手の甲を抑えれば消えるから安心して」


「家紋……。そっか、見た事あると思ったらあの城に飾られてた物だったんだ」


「所有者様、ちょっと悪ふざけが過ぎたね。ごめん。あの停止の魔術も時間が立てば消えるし、ボクはこの辺で失礼するね」


 しおらしくなったサーチ。

 そんな彼女の表情を見て、俺も少し強く言ってしまったと思った。


「またね、所有者様。ボクの事、嫌いにならないでね」


 そういうとサーチは消えていった。

 まぁ恐らくは魔導書の中に戻ったんだと思うけど。

 ま、何とか俺が魔族の王子である事の証明方法は分かったんだ。

 後はこれを見せるだけ、なんだけど。


「ねぇちょっと、この訳わかんない魔法を早く解きなさいよ!」


 カリーナから怒声を浴びせられる。

 そうなんだよな、固まったままの2人なんだよなぁ。

 しかも背を向けたままだから、サーチがこの紋章を出現させた時は見てないし。

 仕方ないから2人の前まで行くか。


「あーまぁ、なんだ、色々あったけどさ、この紋章を見て貰えば……」


 俺が手の甲を見せようとしたその時……。


「……私達の前に来て、動けない私達をどうする気なの……!」


「……え? ちょっと待ってくれ、誤解してるって! 俺は別にお前らに何も…」


「さ、触るなら私だけをお願い。だから、カリーナには手を出さないで……」


「待って! 襲うなら私だけでいいから! ロイズには手を出さないで!」


「カリーナ……。無理しないでよ。私だけで済むならそれでいいから」


 庇い合いが始まった。

 ……あ、分かった。

 こいつら、多分俺で遊んでやがる。


「ユクス、君は私みたいな小さな胸がいいんだろう!? 勇者と同じサイズだよ私!」


「わ、私はロイズよりはあるわよ! その、大きいかどうかは別として……」


 俺はジト……と2人を見る。

 2人の表情は先程と打って変わって『あ、バレた?』みたいな緊張感の無い表情になっている。


「お前ら、遊んでんだろ」


「……ナ、ナンノコトカナー」


「……ソ、ソンナコトナイヨー」


「さっきの芝居どこ行ったよ!? 下手過ぎか!」


 こ、こいつら最初から分かってやがったんだ。

 分かって1芝居打ったんだ。

 クッソ! ハメやがった! 


「ま、君の言動が可笑しくなったのは魔導書を持った時からだから、何となくだけど想像ついてたよ。驚いたのは私の即興の芝居にカリーナが乗ってきた事だけど」


「私は途中からしか分からなかったけどね。最初の方はクソ野郎って思ってたけど、ロイズとのアイコンタクトで分かって、すぐやめようと思ったけど反応が面白くて……」


 コイツら……。


「あーそうかよ分かったよ。お前ら、自分の立場が分かってないようだな。お前らは今丸腰も同然なんだぞ。本気でそのまな板揉んでやろうか?」


「誰がまな板じゃコラ! 商人ギルドのステータスだぞこの胸は!! 触るか? この胸いっぺん触ってみるか!?」


「上等だコラ! 肋骨と大して変わんねえその胸触らせて貰うからな!」


「ちょ、2人ともこんな所誰かに見られたりしたら……」


 カリーナが言いかけたその時だった。

 ガラッと扉が開いて、恐らくギルド職員のお姉さんがやってきたのだった。


「すみませんロイズ様、今月の納品についてお伺いしたくて……ひゃっ! あ、あ、あの、すみませんでしたーーーー!!!!」


 大声をあげて出ていかれた。

 俺はとりあえず深呼吸した。

 そして、走り出した。

 走らなければならない気がした。

 弁解を……。

 そう、弁解をしなければ……。


「お願いだから話を聞いてくれえええええ!!!!」


 全速力で駆け出した俺。

 当然のようにその場に取り残されるのは身動きの取れない2人の少女。


「「……え、私達、このまま?」」


 余談だが、その日1人の青年が商人ギルドのグランドマスターを襲ったという噂が流れたという。

 尚、真偽は不明である。







       ◇






「ふーん、なるほどね。本当に君は魔族の王子様だった訳だ。一応聞くけど、人間を滅ぼす為のスパイじゃないんだよね?」


「な訳ねーだろ。それなら今までの3年間をもっとそれなりに使ってる筈だろ。普通の冒険者で普通の生活なんてしてねぇよ」


 俺は2人に向けて、自分の事を全て話した。

 幼少の頃から厳しい訓練をされてきた事、期待されていなくて魔国を出た事、それから前の街で冒険者を始めた事、最近勇者から勧誘されてパーティーに加入した事。

 魔王の血統が持つこの手の甲にある紋章の事もあり、半信半疑だった2人を認めさせることが出来た。


「魔族の王子が家出して勇者パーティーに加入するって、どんな偶然なんだよ……」


「それはまぁ、俺も思ってる。この件に関しては勇者……アイツを利用してるようで悪いとは思ってるんだが……それでも俺は、親父をぶっ飛ばしたいね。実の息子を人形のように使わせて、要らなくなったら捨てるようなアイツを俺は絶対許さない」


 病室のベッドで上半身だけ起こした状態の為、込み上げてきた怒りを抑えるようにして掛け布団を握り締める。

 それを見た隣のベッドにいるカリーナが声をかけてきた。


「貴方の言っている事に嘘は無さそうね。それで、協力してくれれば勇者パーティーに迎え入れてくれるらしいけど、そうすると私の目的の勇者パーティーの一員として魔王を倒す事になるから、貴方の考えにはついていけないわよ?」


「その点なら問題ねぇよ。勇者パーティーに入ってみて、それからお前が決めてくれ。勇者パーティー側につくのか、魔族側につくのか、お前ら幻兎族に有益な方に入ってもらって構わない。ただ、俺はお前ら幻兎族が勇者側についたとしても、魔王を倒すのは俺だ。その後、勇者パーティーと戦う事になるかもしれないが、俺は絶対に後悔はしない」


 そう言い切った。

 

「カリーナ、ここは素直に喜んでおこうよ。私達、禁忌の一族の復興に選択肢が増えたんだ。大丈夫、村の皆が君に想いを託して行かせたんだ、君がどんな選択をしようが皆ついてきてくれる筈だよ」


「……私に、一族の未来を決めろって言うのね」


「なんだ? その覚悟を持って勇者に会いに来たんじゃねーのか? 変わんねーよ、勇者も魔王も。どっちに転んだって目的は達成される。どの道、魔王の元に行くまでには時間がかなりある。悩む時間なら余る程あるさ」


 そう言われ、少し考えたカリーナは何かを決めた表情をして俺に向き合った。


「分かった。私を勇者パーティーに入れて。貴方の提案にはひとまず飲む事にする。貴方が魔王を倒すために協力するわ」


「そう来なくちゃな。じゃ、これからよろしく頼むぜ、カリーナ」


「ええ、こちらこそよろしく頼むわ、ユクス」


「勿論、私も君に全面協力するよ。一族の復興のために、私からも手伝わせてほしい」


 3人で拳をコツンと当てあった。

 この日、俺はかつて人間と共に魔族を蹂躙した一族とパーティーを組んだのだった。





「それにしても、魔王を魔王を倒す算段をいつ裏切るか分からない私と共に考えるなんてね、本当に大丈夫なの? まだ貴方を完全に信用した訳じゃないからね。貴方も私の事、信用しないでよ」


「ああ分かってる。お前らが例え勇者側についたとしても、それ込みで作戦は考えておく。じゃ、まずは最初の任務の為に一度眠って英気を養おうか」


「ふふ、最初のオーダーは眠る事、だなんてね。なんだか拍子抜けしちゃったわ」


「ちゃんと理由はあるさ。なんてったって最初の任務は今日の夜行うからな」


「夜? えっと、分からない事だらけの私に内容を教えてほしいんだけど」


「ああ、まずは今後の俺達の行動について話させてくれ。最強の一族に商人ギルドのグランドマスターを取り入れた俺達に裏パーティーだが、それでも3人しかメンバーはいない上にロイズはグランドマスターとしてここを離れる訳にいかないだろ? つまり圧倒的に人数が少ないんだよな」


「そうね、実質行動できるのは私と貴方の2人になるわね」


「だからまずは人員の確保が最優先になるな。一応少数精鋭で考えているし、そこそこ当てはありそうだからそこまで時間はかからないと思うけど」


「ふーん、それでその心当たりがあるのが、夜に会おうとしてる人ってわけね」


「そう言う事だ。だけどまぁ、唯一懸念する事があるとすれば、会おうとしてる奴、お前を誘拐した敵の一味だったりするんだよね」


「……は?」



 空気が弾ける音がした。

 俺はそれだけ伝えて布団にくるまり、逃げるようにして眠りについた。






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