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勇者パーティと後日談

 少女が一人、月夜に照らされた森林の一角で目を覚ました。

 まだ半覚醒のまま、遠く浮かぶ大きな月を見る。

 その次に彼女は仰向けのまま、その両の手を空に掲げてみる。それは、手を広げたり握ったりと何かを確認しているようだった。

 やがてだらりと力を抜き、最初の仰向けの状態へと戻る。


 少女は考えていた。

 何故自分はここにいるのか。

 自分の使命は何だったのか。


 考えていくうちに、欠落していた記憶が蘇ってくる。

 そして悟ってしまう。

 自分は負けたのだと。

 いや、訂正する。自分だけではない。

 負けたのは、自分達だと。


 悪魔に体を命を……魂までも差し出して勇者を討ち取ろうとした。

 その後の記憶はぼんやりとしか思い出せない。

 それだけだが、分かることがある。

 悪魔の力を持ってしても、負けてしまった事実。


 そして、魂すら無くしてしまった自分が、今ここで生きているという事は、何が起きたのか理解せざるを得なかった。

 悪魔の契約の上書きだ。

 契約は本来、上書きも横流しも出来ない決まりだが、それは本来の悪魔と別の悪魔の多重契約が出来ない為だ。

 同一悪魔であれば、勿論それらは可能である。


 同じ悪魔と契約している者は1人しかいない。

 彼の身に何かがあった。

 いや、この状況下、何があったかは容易に予想がつく。

 

「……カザイ様……。私は……あなたに何も……何も返せなかったのですね……っ!」


 少女は泣いた。

 一度はこの体で悪魔と契約した身。死者蘇生の対価が何かは知っている。

 魂だ。

 死者蘇生は、言うなれば魂の等価交換。

 自分とあの方の魂が同じ釣り合いの筈がないのに、それは行われてしまった。

 この涙は、自分の弱さのせいであの方を死なせてしまったが故の、悔しさから出る涙だ。


(貴方が……命を賭してまで生かす意味は……私に、あるのでしょうか……っ。私は……私は……)


 溢れる涙を止められず、されど苦悩は続く少女の耳に……声が聞こえてきた。


「よぉ。あの時ぶりだな、フウリンさんよ」


 その声は、その顔は、いつか前に見たあの勇者パーティの一味。

 そしてその隣には……


「……ッ!!!」


 男の隣の人物を視界に捉えた瞬間、少女の体は何かを考える前に行動に移していた。

 素早く腰の探検を抜きつつに体を起こし、ジグザグと斜めに移動して敵の視界を翻弄しつつ標的の側まで来れば一気に飛びかかり、その短剣を振り下ろす。

 

 ガキィンッ! と、鉄と鉄の交わる音が響く。

 攻撃は相手の光を放つ剣によって防がれた。

 だが、まだだ。

 攻撃の手は緩めない。

 体の動きがまだうまくいかなくとも、ここで奴は仕留めなければならない。

 それこそ、それが少女の存在意義となっていた。

 あの方を手にかけた、その張本人をこの手で討つ。そんな復讐だけが自身が今生きている意味だと己に言い聞かせて。


 幸いにも、自分が生きている事に困惑しているのか、それ以外の外的要因かは分からないが、完全に敵意の無い状態の内に殺す。


 そして放った短剣の一撃は……標的の隣にいた男の腕に突き刺さりーー失敗に終わった。

 男が標的の前に立ちはだかり、その腕で短剣を受け止めたからだ。

 短剣は貫通し、鮮血が月明かりで反射する。

 少女は必死に叫ぶ。


「……どうして邪魔をするっ! 私には……私にはそいつを殺す権利がある筈だっ! だって、そいつは……私と……私の……う……あああ……うわああああああ……!!」


 突き刺さった短剣を抜く力は、勝手に溢れ出していた涙と共に抜けていった。

 その言葉を口にした途端、自分が認めてしまったからだ。心のそこでは、彼が生きていていると思ってしまっていた。でもそれは、彼らの表情を読み取って分かる。彼は死んだのだ。


 ーーーーカザイ様は、もう居ないのだ。







      ◇





 短剣を腕に突き刺して、眼前の少女は泣き喚いた。

 尻餅をつくように、その場で崩れ落ちる。

 大きな瞳から大きな雫が流れていった。

 この少女の心の傷に比べれば、腕の傷なんて大した事はない。

 

 勇者はやはり震えていた。

 それでも、ちゃんと両足で立ちながら、少女を……フウリンを両眼で捉えていた。

 

「返して……っ!! カザイ様を……返してよぉぉぉ……ああぁ……」


 力の籠ってない手で俺の足を殴りつける。

 俺は膝を突き、フウリンを抱きしめた。

 シオンにもやったような、気持ちが安らぐ行為。

 震えるフウリンは、もう戦いの時の怖さは感じない。その逆に、小動物が獣に怯えるような、そんな目に見える弱さを身近に俺は感じている。


「悪い、なんて俺達は言える立場じゃない。仕方が無かったなんて正当化もしない。お前には俺達を怒る権利だってあるかもしれない。だけど、あいつは……カザイが言ったんだよ。お前を頼んだって。自分を殺した相手に、そう言ったんだよ……」


 ハッと、フウリンの表情が変わった。

 抱きしめている俺の位置からじゃ顔は見えないが、フウリンの何かは変わったと思った。


「訳わかんないよな。ついさっきまで殺し合いをしてたんだぜ。そんな奴が最後、死んでも死にきれなくて言った言葉なんだよ。あいつは最後まで、お前の事を思ってたんだとさ」


 だらりとしたままのフウリンの両手は、いつの間にか俺の背中にしがみつくように握られていた。

 そして、また泣き出した。

 言葉を知らない幼児のように、強く涙を流している。無意識に両手に力が入り、声が枯れるぐらいの大泣きだった。

 俺はただ、その涙も声も両手の力も、全てを受け止めるかのようにフウリンを抱きしめる。

 勇者も、自分自身に葛藤しつつも、視界からフウリンを捉えて離さなかった。


 全ての涙を出し切った少女は、暫く何も言わなかった。

 俺もシオンも、同じく沈黙を貫く。

 カザイとの記憶を探っていたのか、暫くしてからまた瞳を潤していたが、涙は流さなかった。


「フウリン、カザイから預かっている物がある。受け取ってくれ」


 時が過ぎ、完全に泣き止んだフウリンに俺は問いかけた。

 フウリンは自身が置かれた状況を改めて理解したのか、強引に俺を押し除け座り込んだまま素早く後方に下がる。

 血は止まってるけど、腕に短剣が刺さったままだからちょっと力強いのは勘弁してもらいたい。

 一応、血が止まるのは魔族の体の構造故のものだが、シオンはまだ俺が大怪我している状態だと思っているようで、心配して駆け寄ってきてくれた。

 心配するシオンに一言、大丈夫、回復魔法使ってるからと嘘をついて安心させた。


「ほら、あいつのペンダント。それ以外は悪魔との契約で全て無くなった。それだけがあいつの形見だ」


 短剣の刺さっていない方の腕でペンダントを投げる。

 放物線を綺麗に描き、ペンダントはフウリンの元へ送られた。

 ペンダントを開き、フウリンは絶句する。


「……これは……あの人との、形ある思い出のペンダント。幼い時に、一回だけ写真に収めた……お揃いの……」


 今まで服装で気付かなかったが、フウリンも似たようなペンダントを首から下げていた。

 同じ形状、同じ大きさ、そして同じ写真。

 受け取ったフウリンは、当時の事を鮮明に思い出していた。


「なぁ、勝手で悪いんだが、向こうにあいつの墓を作らせてもらった。簡易的な物で、今度またちゃんとした物を作ろうと思ってる。ちょっと前まで殺し合ってた奴からなんて作られたく無いだろうけど、俺達なりの誠意の見せ方だ。頼まれてしまった以上、雑な事は出来ない。だろ、シオン」


 それまで、後ろで見ているだけだったシオンが前に出る。

 氷の上を歩くように覚束ない足取りだった。


「私は、勇者だ……。善と悪の裁定者であり、人類の希望。魔族に心は売ったが、あいつの心の根底にあったのは人類への希望。そんな彼から頼まれたのだ。私を許せとは言わない。私があなたにした事は……許されないかもしれない。だが、カザイの思いを私は尊重する。私達に出来る事があるなら、なんでもする! 私は……!」


「もう、いい」


 シオンの言葉をフウリンは遮る。

 だがそれは、決して拒絶の反応では無かった。


「……カザイ様は、孤児だった私を引き取ってくれた、恩人だった。親の顔も知らず、ただ孤児院と言う名の奴隷放置所で死ぬか奴隷になるかしかない運命だった私に、手を差し伸べてくれた人だった。その最初が、たとえよこしまなものだったとしてもいい。私は救われた。それで十分だった。その恩を返す為だけに今まで生きてきたし、何でもしてきた」


 フウリンは語った。

 カザイが自分に何をしてくれたのか。

 カザイがどう思ってたのかは知らないが、フウリン自身は愛を感じていた事。本当の育ての親だと思っていた事。

 そして、カザイ自身も分かっていた事があったと言う。

 それは、自分達のしている実験が誰かを絶対に不幸にしてしまうという事実。

 幻兎族の名前は出なかったが、人類の未来の為だと自分達に言い聞かせながら研究を進めていた事。


「善か悪かで言えば、悪なのでしょうけど、カザイ様の研究を私は肯定した。だってあの人は、いつだって人の未来を考えていたのだから」


 だから、と話を進める。


「カザイ様はいつの日か私に言った。勇者は私を許さないだろう。けれど安心してほしい、私がお前を守るから。そう言っていた。だから私は、守られる立場から守る立場になる為に、初めてカザイ様の作戦を無視して勇者ーーあなたに勝負を仕掛けた。きっと、その報いなんでしょうね。こうなってるって事は。私の力じゃ、あの人を守るには弱過ぎたんだ」


 そう言ったフウリンは俯いて動かなくなった。

 月が雲に隠れて光が乏しくなった頃、フウリンは言った。


「今日は、もう1人にさせて。カザイ様があなた達に私を託したとしても、考える時間が欲しい」


 勇者と俺は見合う。

 そして立ち上がり、その場を離れた。

 何も言わなかった。

 けれど、それで十分だと思った。






       ◇





 翌日、俺は見知らぬ天井を眺めていた。

 バルドーーあの筋肉ダルマの店主に短剣が刺さった腕を見せたら速攻で彼はロイズに連絡し、そのまま商人ギルド内の医務室に緊急搬送され、そして今に至る、という話なわけだが。

 それにしても商人ギルドには腕利きの治癒魔法使いがいるらしい。痛みも感じる間も無く……というか疲労のせいでぶっ倒れて俺が眠ってる最中に全部終わっていたらしい。お陰で今の俺の腕にはぐるぐる巻きの包帯で出来たギプスがついている。


「本当は、こんなの必要ないんだけどな」


 ぼそりと呟く。

 一度眠れば、体が勝手に魔素を取り込んでくれるから、傷は早く回復する。

 だから俺にギプスは必要無いんだよな。

 まぁ、側からみればコレが無ければ不自然か。短剣が腕を貫通してたしな……。人間なら全治するのにもう少しかかるだろう。上位の治癒魔法を使えれば別だが、それでもこの傷の治りの速さは魔族の特権だな。


「って、俺の秘密バレてないか……?」


 あ、あれ。

 俺の腕にギプスを付けた人物なら俺の正体に確実に気付くと思うが……。いくら鈍感な奴でも違和感は覚えるだろうし、これちょっとマズくないか!?

 いくら幻兎族のロイズの部下が処置したとして、その秘密を知られていいのか……?


「大丈夫でしょ。手当てしたの、ロイズだし」


 隣から声が聞こえてきた。

 カーテンで仕切られていて分からなかったが、ここ個室じゃないのか……。

 聴き慣れた声で助かりはしたが、少し油断していたな……。


「カリーナか。お前、具合は大丈夫なのか?」


 そう、この声は俺の知るもう1人の幻兎族、カリーナのものだ。

 カーテン越しにカリーナが返答した。


「ええ、さっきまでぐっすりだったからかしらね。魔力も戻り始めて来てるみたいだし、問題ないわ」


「そうか、そりゃよかった。目覚めた瞬間に魔力譲渡とか、結構無茶な事してたから心配したぞ。少しだけ」


「無茶ばっか……か。それはそっちでしょ。今回の話は貴方の方が巻き込まれた側なのに、そんなボロボロになるまで戦って……。私なんて助ける義理なんて無いのに……」


 その声はどこかか細く、また弱くも感じた。


「今回は俺ら勇者パーティーが倒すべき魔族、そして迷宮が関与してる。俺達は義理や人情で動いてるわけじゃない。困ってる奴らも助けて、そんで魔族も倒して迷宮もぶっ壊して進んで、めでたくハッピーエンドを目指してんだよ。捕まってるのがお前じゃなくても俺達はきっと助けていたさ」


 って、勇者なら答えるんだろうな。

 俺もそれに近い答えは自分の中にあるが、ここは勇者の心の内を代弁しておこうか。


「……魔族のくせに、変な奴」


 ぼそっとカリーナが呟いた。

 聞き逃してなるものか。


「うっせーよ。魔族は魔族でも俺は勇者パーティーの一員なんだよ。言うなれば、ぼく悪い魔族じゃないよ!! ってとこだぞ」


「……なにそれ。バカじゃないの?」


 なんてバカにした口調で話すカリーナは笑っていた。

 ふと、窓からやわらかな風がそよぎ、窓にかかったカーテンが靡く。

 心地の良い風だった。


「まぁ、何にせよ、だ。お互いに無事で良かったじゃねえか」


「……そうね。私が助けられた後の話はロイズから聞いたものだから詳しい話は分からないけど、カザイに借りてたお金もチャラになったらしいから、その面でも助かったわ」


 その辺はロイズが工面したんだろうな。

 ロイズは一通りの話をシオンから聞かされているし。俺がここに来る時にその話はしていた筈。まだ意識が辛うじてその時はあったし、確かだ。

 その時は商人ギルドのグランドマスターとして話を聞いていたけど、この件の本当の裏事情も何も知らない勇者は、カザイの逆賊行為としてロイズに伝えていた。

 まさかこの事件に禁忌の一族、幻兎族が関与しているとは思わないだろう。

 事情を知っている立場のロイズが話を聞きながら、引き攣った顔をしているのを俺は見逃してなかった。


 そこで、俺はふと気になる事をカリーナに質問してみた。


「お前さ、なんで勇者パーティーに入りたかったんだ? 前も質問したけど、その時ははぐらかしただろ。事も一段落したし、今なら聞いても答えてくれるか?」


 少しの間があった後、カリーナは少しゆっくりと答えた。


「そう、ね。いいわ、教えてあげる。私の目的はね、私の一族である幻兎族の復興よ。勇者パーティーに幻兎族である私が入り、見事魔王を討ち取れたら流石に他の皆も幻兎族の事を納得するでしょう? それが、私が勇者パーティーに固執した理由。その為に村を出て、これまで旅をしていたの」


 でも、とカリーナは続ける。


「でも、もういいの。私じゃ単なる足手纏いにしかならないのは身でもって体感したから。事実、今回だって何もしていない。いや、寧ろ迷惑をかけたのは私の方。幻兎族の中でも特別だって言われていたけど、この世界を変えることなんて私程度じゃ無理だった訳」


 悲しそうに言うカリーナ。

 俺はただ、そうか、と相槌を打つしか出来なかった。

 しんみりとした空気を感じたカリーナは、ハッと我に帰り、慌てふためくように言葉を放った。


「あ、でもね、大丈夫! こうして旅をしていて、まさか商人ギルドのグランドマスターの一族が幻兎族だった訳だしさ! ロイズに任せておけば、いつかはこの世界も幻兎族に優しくなる時が来るんだから! 大丈夫、私は大丈夫だから!」


 あからさまな、取り繕った感情が伝わって来た。

 その言葉の裏の感情を、俺は知っている。

 だから、俺は伝えた。


「……カリーナ。お前、本当はロイズじゃなくてさ、自分の力で一族を立て直したいって思ってるだろ」


 その一言で、カリーナは沈黙した。

 やがて、ゆっくりと弱々しく言葉を紡ぐ。


「……思ってる……けど、私じゃ……」


 ……思ってるって言った、か。

 その言葉に嘘偽りは無さそうだ。

 だから、俺はカリーナに一つの質問をした。

 俺が、勇者に気付かれず、密かに計画していた事を包み隠さず話をした。


「……今、なんて言ったの……?」


 俺の計画に2度聞きするカリーナ。

 その声色だけで表情も手にとるように分かる。

 驚くのも無理もない、か。

 良かろう。

 もう一度だけ言ってやる。



「カリーナ、お前、勇者じゃなくて俺と手を組んで魔王を倒さないか?」



 はっきりと、堂々と言った。

 勇者じゃない。

 俺だ。

 勇者が魔王を倒すのではない。

 俺が倒すのだ。

 勇者パーティじゃない。

 俺のパーティが魔王を倒すのだ。


 これが、俺の計画。


 だからこそ必然的にこの計画の最後には必ずーーーーーー








 俺達は勇者を裏切る事になる。











 

 

 

ようやく、本当に書きたかったシナリオに突入します。

本当に……亀更新で遅くなっても見限らずに見てくださっている皆様、ありがとうございます。

生活リズムを見直し、早めに執筆を心がけますので……何卒……!!

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