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勇者パーティと迷宮脱出

更新遅れました(挨拶

 双身の悪魔を名乗る古代の魔族は、その双頭の両方を無力化され、完全に絶命した。

 俺一人で立ち向かった所で、状況は変わらないと思っていたが、そこにシオンが駆けつけてくれた事により、一気に好転した。

 1番は、シオンがメフィストフェレスの半身を瀕死寸前まで追いやっていた事が勝因だろう。

 今まで半分の力で戦っていても、敵うビジョンが見えなかったが、瀕死の半身を取り込んだ事によりその力の半分の半分、つまり4分の1の力しか発揮出来なかったお陰で、俺の【黒溶】だけでも倒せるようになったのだから。


 敗れたメフィストフェレスは今、その巨躯なる体が魔素へと返還されている。

 元より、魔族は人間よりも保有魔力が多い理由に、体を構成する成分の多くに魔素があるからであり、その為死ぬと魔素へと変わっていくのだ。


「本格的に迷宮の崩壊が進み始めてきた。早く脱出するぞユクス! これだけ派手に崩壊してるなら証明用の素材なぞ必要ないだろう」


「分かってる。ほらあそこ、迷宮主を倒したから脱出用の転移陣があるぞ」


 ロイズ達は崩壊した壁を飛び越えながら脱出したけど、あれはレアケースです。

 迷宮主が倒されると崩壊されるタイプの迷宮は、こういう仕組みを作っているのが多い。

 なんでも、部下を脱出させるためにある非常用の魔法陣なのだが、この特異な迷宮にもあるあたりカザイはどうしても部下を失いたくなかったらしい。

 ともかく、俺達はすぐにその脱出用の魔法陣を目指す。

 が、その魔法陣のフロアへと道に立ち塞ぐかのように人影が現れる。

 

「……おい、まだ動けんのかよ、お前……」


 カザイだった。

 だが、おかしい。

 死に体だった筈のカザイの体は全て修復されたかのように傷一つない。

 いや、そんなバカな。

 あの時、俺が……完全に殺した筈なのに……。

 無言で勇者が聖剣を構える。


「落ち着きなさい、私はもう長くない。今は契約の報酬が発動されている為、このような形で生きながらえているだけなので」


「契約……? どういう事だ。悪魔との契約は力を借りる事じゃないのか?」


「ええ、その通りですよ。『半分』正解です」


「半分だと?」


「双身の悪魔だからでしょうね、契約を半分の力で良いなら2つにしてやると言われましてね。半分は君のいう通り、力を欲しました」


 カザイは淡々と告げる。

 しかし、その体は次第に薄くなっている。

 どうやら時間はあまりないらしい。

 やがて奴は死ぬ。

 どうにか生きながらえている事は本当の事のようだ。


「もう一つは、保健のようなものですよ。上手くいかなかった時のために、ね」


 そう告げるカザイ。

 シオンが何かを察し、声を張り上げた。


「まさか、お前、自分が死んだ時に発動する時限式の契約で私達を殺すつもりか!?」


 それは俺も考えた。

 カザイがこうやって出て来る事に意味があるなら、それしかない。

 でもそうなると矛盾が発生する。

 悪魔との契約は『半分でもいい』ということ、つまり100%の力を1つ欲することも出来た。

 その方が効率的だし、確実に成功率は跳ね上がるのだから。

 でもそうしなかったという事は……


「私の望みは、あの子です。私の1番の部下である、フウリン。勇者である君に質問ですが、あの子は君と戦い、負けたのですね?」


「……私は勇者だ。この国の為に動き、そこに悪が立ちはだかるなら……斬り伏せて進むだけだ」


 そう答えるシオン。

 言葉を濁しているとなると、そのフウリンは死んだ、か。


「……やはり、あの子ではあなたに敵いませんか。分かっていましたよ、この結末になるのは。だから、願ったんですよ私は」


 カザイが首から下げていたペンダントを取って俺に投げた。

 受け取ったペンダントに貼られていたのは1つの古びた写真。今よりもっと若かった頃のカザイと思われる男性の手を握っているのは、1人の少女。綺麗な花のように笑う少女は、そこはかとなくフウリンと呼ばれる少女に似ている気がする。


「私の子供ではありませんよ。気まぐれに孤児だったあの子を引き取っただけです。最初は何かの実験に使う予定だった。ですが、歳月が流れていくにつれて私でも情が芽生えてきましてね、今では私の命よりもあの子の方が大事に思えてしまっている」


「……なら、その脱出用の魔法陣は、フウリンの為のものか?」


「ええ、ですがフウリンは当初の作戦をねじ曲げて自ら前線で防衛をすると行って駆け出してしまうんですから、困ったものですよ、全く」


 そして、勇者との一騎打ちの末に……。


「だから私は、ずっと保留にしていたもう半分の契約を結んだのです。本当は当初の予定なら100%の力を借りましたが、こうなればあの子の安全を守る以外に私に選択肢はない。こんな狂った男が、最後に縋れるのは彼女しかいませんからね」


 もう半分以上消えかかったカザイが俺達に歩み寄って来る。

 

「私の願いはフウリンを一度だけ死から救って欲しいという願いだ。蘇りの代償は高い、が、迷宮主である私だけの命で助かるなら安いものです。このまま私が消えれば、彼女の蘇りは成功します。その時、どうか彼女を支えてやって欲しい。あの子は抵抗するでしょうが、受け止めてやって欲しい。それが私の、人生最後の望みだ」


 そう言ったカザイは、やがて消えていった。

 魔素に変換されることもなく、ただただ無に還っていく、というのが悪魔との契約である。その魂は今頃……どうなっているかは想像したくも無い。

 残ったのは、このペンダントだけ。


「ついさっきまで、敵同士で、命の削りあいをしてたのに、どうして俺達にそんな事を頼むんだよ……。図々しいにも程があるだろうが!!」


 俺は怒りで叫んでいた。

 それでも、俺は聞いてしまった。

 これは、一種の呪いだ。

 どうせ口約束、今ならこのペンダントだって壊れていく迷宮の中に置き去りに出来る。

 だが、


「わ、私は……人々を救う為に……、頼む、ユクス。私は、どうしたらいい? 悪魔に支配されていたとはいえ、私がその子を手にかけた……でも、その子を助けるのがかの者の願いなら、私は……」


 勇者は人を裏切らない。

 これは、勇者が勇者たる由縁だ。

 たとえここにいる勇者がシオンでなくとも、絶対に苦悩する筈だ。

 何故ならば、人々の為に行動するという、勇者としての指針があるから。

 その事を踏まえて、カザイは俺たちの前に現れたんだ。絶対に願いを裏切らない俺達勇者パーティの前に。


「……行くしかないだろ。お前が勇者なんだろ。狂人だとしても、あいつはあいつで人が生活しやすくなる事を考えて行動していたんだ。そんな人間らしい狂ったアホの最後の願い、叶えに行くぞ」


 無理矢理シオンの手を掴み、魔法陣に乗った。

 勇者としてのシオンと人間としてのシオンの、心の中で起きた矛盾を突き通すには、勇者パーティで仲間の俺が導かなくてはならない。

 例え、本当は魔族であったとしても、今の俺は勇者パーティの一員だ。

 魔族関係なく、シオンの仲間なのだから、こうするしかないと思ったんだ。







      ◇






 転移された場所は、まだ森林地帯だった。

 満月に照らされた森の中は、青い海のように澄んだ風が少し靡いていて気持ちが良く感じた。

 周囲に敵意は感じられない。一応、心眼の魔術を使ったが、やはり魔物の類は居なかった。

 危険がない事をシオンに伝えようと振り向くが、まだシオンはカタカタと震えていた。


「ユクス、もう少しだけ、この手を握っていてはくれないか? 私の中で、何か怖い事が起きているんだ……。言い表せないが、力が思うように入らない……」


 多分それは、恐怖だ。

 自分が殺した相手に会いに行くなんて、普通の人間はしない。そもそもそんな思考にならないよう、脳が出来ているからだ。

 だが、今回は違う。

 人の願いを叶える為の勇者の人格と、人間としての人格が、シオンの心の中で互いにぶつかりあって矛盾を形成している。

 

 俺が取った行動は、彼女を抱きしめる事だった。

 いや、深い意味はない。

 前に一度、そう、あれは前の街の看板娘、リラちゃんから教えてもらった事がある。

 人が1番落ち着いていられるのは、誰かから抱きしめてもらう事だと。

 現にリラちゃんが怖い夢を見た時に、女将さんに抱きしめてもらって落ち着いた事があると言っていたし、間違いはない……はず。


「ユ、クス?」


 震えた声で俺を呼ぶシオン。


「お前は勇者だ。でも、お前も人間だ、シオン。お前が悩んだままで救える世界なんざ無い。人が1番落ち着くのはこうやっている事らしいから、お前が落ち着くまでこうしておいてやるよ」


 シオンの肩が震えてきた事に気づく。

 俺の胸に顔を埋めるシオンは、いつしか泣き出していた。子供のように、わんわんと泣きじゃくっている。

 その顔に勇者という肩書きは無く、あるのは少女であるシオンだけ。

 この涙は、きっと今回だけじゃ無い。前から募っていた不安が爆発した結果だろう。

 鼻水が服につくのは嫌だが、もう暫くはこうしておいてやるか。


 それからどれくらいの時間が過ぎただろうか。

 長かったと言えば長い時間な気もするが、短かったと言われればそうかもしれない。

 ただ泣きじゃくるシオンを抱きしめながら、ただ上を見ていた。


「……ユクス。少し、聞いてくれるか?」


 不意に、シオンが口を開く。

 だが、顔はまだ下を向いている。泣いた後の顔が見られたく無いのだろう。察した俺はそのままで返事をする。


「ああ、聞かせてくれ。言いたい事は言うべきだ」


 なんて、言いたい事を言えずに逃げ出した俺が言う権利なんて無いのかもだけれど。


「勇者は、人を裁けない訳じゃない。賊や野盗の類なら、私は彼らを遠慮せず裁くだろう。何故ならば、彼らが悪だからだ。勇者の行いは全て善だと、この血に流れる勇者の記憶が言っている。善が裁くのは悪。魔物も魔族も、全て悪だと彼らは言っている」


 シオンは続けて話す。

 俺は黙ってそれを聞く。


「それでも、あの者の……カザイの死ぬ間際の魂だけの姿は、私はそれを悪と見れなかった……。だが、その願いは私にとって残酷だ。あの者の願いは、私が自ら手にかけた者を支えてほしいと、そう言ったのだ! その時から私の中で何かが蠢いている……」


 一度は止みかけていた震えが、またシオンを襲う。

 装備越しでも分かるくらいに、それに支配されている。


「あのカザイが善なら、その願いも善だ。だから、あの者を手にかけた私は……善なのか悪なのか……。もう、分からないんだ。悪ならいっそ、この命……」


 そう言った所で、俺はシオンの手を強引に引っ張り、その言葉の先を言わせない。

 俯いていた顔が強制的に上がり、泣き腫らして赤くなった表情がよく見える。まだ涙は流れていた。


「善も悪も関係ない。『お前』は勇者である前に人なんだよ。神じゃねえ、人だ。だから、迷っていいんだよ! 溜め込まないで『お前』がどうしたいかだけ出してみろ。……なぁシオン、お前はどうしたい? カザイの言葉を忘れて旅を続けるか、カザイのくだらない『お願い』を任されてみるか。俺はお前に従う。どっちを選んでも俺はついていく」


 気付けば俺も声を少し荒げていた。

 シオンの顔と顔の距離が近い事に今気づいたが、言ってしまった手前、ここで引くのも違う気がする。

 照れる思いを隠しながら、返事を待つ。


「わ、私、は…………この行いが悪であってもいいから、あの者の願いを聞き受けたい。私に願いを言っていたんだ、恨まれる以上の行いをした自覚もある、けれど、出来る限りの事はしたい……ユクス、手伝ってくれるか?」


 満月が照らすこの場所で、シオンが俺に手を差し出してきた。

 俺は笑い、その手を握った。


「ああ、仰せのままに」


 もうシオンは泣いていなかった。

 涙の跡はまだ残っているが、その後に咲いた笑顔はとてもいい表情だった。




もしかしてですが、これタイトルでネタバレっぽいの食らってたり……しません? 大丈夫ですかね…

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