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魔族王子と迷宮決戦

あけましておめでとうございます(激遅

今年はpcを新調したので、更新頻度を上げていきます。

よろしくお願いします

 迷宮主が倒されれば、その迷宮は核となる物を失い崩壊していく。

 この特異溢れる迷宮も例に漏れず、現在進行形で崩れてきている。土砂が頭上から降り注いでいる最中、俺は自分の腕を見る。

 未だに発現したままの【黒溶】。元より俺には魔力が無い状態だったのだが、あの時……。


 振り返ると、気を失っているカリーナを抱えるようにロイズが立っていた。


「もう、さっきまで意識があったのに、またすぐ気を失っちゃったんですけど!? これ100%魔力の譲渡によるものだけど、この子正気なのかな!? 覚醒状態とはいえ、スカンピンになる手前までの全ての魔力を君に預けるなんて、下手したら死んでるかもしれないのに!」


 ……やっぱり、あの時助けてくれたのはカリーナだったのか。

 俺は……あの時死んでいた。

 鮮明に、死という概念を見た気がした。

 カザイの持つナイフが俺の心臓を貫くビジョンが想像できた。


「……助けるつもりが、助けられた……な」


 眠るカリーナに向けて、俺は呟いた。

 

「ちょっと早く脱出するよ! このままじゃ危ないし!」


 ロイズが催促する。

 幸い、このフロアの上は吹き抜けてあるから、そうそう死ぬ事は無いが、崩れた衝撃で吹き飛ばされそうにはなりそうだ。

 たしかに危ないな。

 少しでも体力は残さないといけないから、余計な体力は使いたく無い。


「ねぇ! はやくってば!」


 俺の袖を掴んで引っ張るロイズ。

 でも、俺はロイズに一言告げるだけで動きはしなかった。


「とりあえず、あんたはカリーナを連れて逃げてくれ。あんたの言う通り、ここは危ないからな」


「何バカな事言ってるの!? 君も一緒に行くんだよ! って、なんで動こうとしないの!?」


 何故かって?

 そんなの決まってる。


「……終わってないからな。この戦い」


 俺は視線を後ろに向け直す。

 土砂の崩れる衝撃で砂埃が舞う。

 その奥に揺らめく影があった。


「終わってない……って、まさか……」


 大きな塊が降り注ぎ、より一層衝撃波が舞う。

 それでも俺は逃げない。

 ゆらりと動く黒い影から視線を外さない。


「あっちからしたら、ようやく始まりってのが癪だがな……」


 砂と煙が舞う最中、それは唐突に起こり出す。



 

「ガ、オアァァァァ、ゴアアアアアアアアアッ!!!!」



 それは、獣のような咆哮だった。

 たかが一つの咆哮。

 それでも、そのたかが一つの咆哮で周りの土煙は一瞬にして消し飛んだ。

 咆哮の衝撃波は龍の吐くブレスのように、崩れ落ちる迷宮の破片を全て塵と化させ、余波で周りの樹木を弾き飛ばした。


「嘘……なに、あれ。あんなの、見たことない!」


 背後から聞こえるロイズの悲鳴。

 声色で震えている事がわかる。


「に、逃げようよ! 勝てる筈無いよ、あんな化け物! とにかく今は逃げて人を集めてもう一度挑み直そう! それしか方法は無いよ!」


 そう、ロイズの言う通り、視界に入るあれはまるで化け物だ。

 漆黒の大きな体はゆうに2メートルを越え、腕の部分の筋肉は大木のように太く、背中に生えている翼はその巨躯な体二つ分ありそうな長さだ。

 目は3つあり、鋭く光る牙はそのどれもが長く尖っている。

 こんな魔物、見た事は無い。

 というか、魔物でも変異種でも無い。


 これが、悪魔だ。

 俺の世代の、もっともっと昔の世代の悪魔。

 

「……ようやく分かった。あれが、【古代種】か」


 最古の魔族。

 【古代種】。


 その【古代種】が俺を捉えてニヤリと笑った。

 そう、本当の戦いは今ここから始まるのだ。







    ◇






「ロイズ、カリーナを連れて早く逃げろ。反論はするな、とにかくここを離れろ」


 俺は振り向かず、目の前の悪魔を視界に捉えながら口だけを動かしてロイズにそう伝えた。

 感情が伝わったのか、ロイズは何かを言おうとして、その言葉を飲み込んだ。


「……死なないでよね。その命、この子が一度救ってるの、忘れないでよ」


 そう伝えるとすぐに足音が遠ざかる。

 これで全滅の心配は無くなった。

 のだが、はてさて。


「……規格外だな、俺の先祖の代は……」


 改めて見えど、異様な肉体だ。

 どの部位も戦闘に特化したような骨格をしている。

 その悪魔が口を開いた。

 俺は、あの咆哮がもう一度来るのかと身構える。


「ああ、ようやく半分程度が受肉出来た……礼を言うぞ小僧。お前が宿主を殺してくれたお陰で我は現界した。お前には褒美にこの世界で初めて我に殺される権利をやろう」


 俺を指差し、不気味な笑みを浮かべる悪魔。

 カザイはあいつを解き放つ為の鍵にすぎなかったらしい。


「我は悪魔メフィストフェレス。双身を司る悪魔であるぞ。我に殺される事を誇りに思いながら死ぬが良い」


 悪魔が指を鳴らす。

 すると、満月輝くこの空から、いきなり黒い雷が降り注いだ。

 これは……魔術だ。

 古の魔術を、コイツは指を鳴らしただけで唱えやがったのか。


 俺は咄嗟に身を投げ出し、なんとか直撃を回避したが、これは余興だと言うようにメフィストフェレスは笑う。


「存分に逃げろ。我を楽しませろ。頼むからつまらぬ死に方だけはするなよ?」


 パチン、とまた指を鳴らす。

 そして降ってくる雷。

 魔導書に載っていたな。確か【豪雷】と言った筈。

 手の平から水平に出現するのではなく、今のように必ず上から雷が出現される。

 地面に当たればその衝撃が周囲の地面を這うように進んでいく為、避けるには少しばかり距離を取らなければならないが、着弾までが恐ろしく早く、何とか致命傷は避けている、と言う感じだ。


「どうした? お前が攻撃しないなら、この雷は止まらぬぞ? 止めたいなら攻撃をしてみせろ」


 言われずとも、と俺は魔導書を手に構え、反対の手を前に突き出す。


「【炎尾】!!」


 カザイにした時と同じ魔術。

 今の俺の魔力なら、前よりも威力も上がっている。

 この【炎尾】自体の殺傷力も上がっている。

 変則軌道の3つの炎がメフィストフェレスを襲う。


「ぬるいぞ、小僧」


 だが、メフィストフェレスは虫を追っ払うように手を振り、たったその動作のみで【炎尾】を消し去ったのだった。

 一筋縄ではいかないとは思っていたが、ここまで戦力差があるとは……正直、予想したくなかったが、かなりの戦力差を想像してしまう。


「【黒溶】……も、無理だよな。近付ける気がしれないし」


 とにかく相手の魔術を避ける事ができている内に、対策なりを考えて行動しなければな。

 まだ相手だって、全ての手の内を晒しているわけじゃ無いし、もしかしたら勇者レベルの魔術を唱えてくるかもしれない。

 ……つーか、勇者どこ行ったよ。

 シオンが真っ向勝負で負けるなんて到底思えないけれど、それにしても遅い。

 

「【黒槍】!!」


 思考時間を増やす為、牽制の意味も兼ねて魔術を放つ。

 一応は幻兎族の力も加わって強化はされてるんだがな。

 俺の放った暗黒魔術、【黒槍】は太い腕で防がれる。闇の魔力で作られた鋭利な槍ではあったが、案の定、ダメージに期待は出来そうにない。


「くそっ! まだ俺が唱えられる魔術が少なすぎる! 初歩の初歩程度の魔術なんて目眩しにもならないか」


 敵の攻撃をかわしながら、俺は吐き捨てるように言った。

 現在、俺が覚えられた魔術は【黒溶】を含めて6種類のみ。

 炎魔術【炎尾】。暗黒魔術【黒槍】。炎と暗黒魔術の複合魔術【黒炎】【黒溶】。そして、回復魔術【治癒】と【心眼】の魔術。

 火力の高さでは【黒溶】が秀でているが、攻撃を当てた所で致命傷になるかと言われると、そうでもなさそうだ。

 相手の悪魔、攻撃力は勿論、相当な耐久力と体力はありそうだし、本当に俺1人じゃ倒す事は不可能だ。


「つまらぬ攻撃ばかりだが……もしや、手の内がそれで全て、と言うわけでは無かろう? 見せてみよ」


「一々上から目線でムカつく野郎だな……! 挑発には乗りたくないが、打開できる可能性が高いのは【黒溶】だけ。これは一か八か……ちょっと待て、何か……来る!!」


 その時、膨大な魔力を全身で感知した。

 あの悪魔と同じ程度の魔力だ。

 

「……おお、これは我の半身の魂。これで私はついに完全なる姿に変化する!!」


 な、なんだと!?

 前に言っていた、半分の力がどうのこうのって、自身の半身を別の場所へ向かわせていたからだったと言うのか!? 

 あの強さでまだ半分……。

 考えたくない未来を連想させやがる……。

 

 その魂を取り込んだのか、悪魔はさらに自身の形を変化させていく。

 ボゴボゴと耳鳴りのするような不快な音を立てながら、その変化は始まる。

 筋肉隆々な体格はそのままで体が一回り大きくなり、そして新たに首が2つに分かれ、双頭の悪魔へと昇華した。


 だが、どうも様子がおかしいようだ。


「……なんだ、どうしたというのだ。我の力、この程度ではない筈だ。双身の悪魔である我が、この程度の魔力量しか保持できないだと? 何が起きている……」


 悪魔の言う事は分からない。

 だが、悪魔は気付いていないようだ。

 その身にも変化が訪れている事は。


 左半身、その殆どに切り傷が出来ている。

 特に腹部の大きな傷は特に目立つ。肉がえぐれており、敵ながら見ていて痛々しく思ってしまう程だ。


「まさか、我の半身がやられたというのか!? 肉体の支配権まで所有し、受肉すら出来たというのにか!? ありえぬ! こんな事、出来るはずがない!」


 何やら1人で騒いでいるが……。

 だがこれで確信した。間違いない。

 あの傷をつけたのは勇者シオンだ。

 傷跡に聖剣で斬りつけられた時に出来る【浄化】の跡がうっすらとある。


「……屈辱だ。この屈辱、ただでは済まさぬぞ人間どもが。殺す。皆殺しだ! 眷属の魔物を率いてまずは近くの街を壊滅させる。殺し、犯し、蹂躙するのだ! その手始めに、まずは貴様からだ小僧。我と似た匂いがするが関係無い。敵対する奴ら全てを滅ぼしてやる!!」


 その怒号と共に、悪魔の体の内側が赤く発光する。黒と赤が混ざったようなその体から、瘴気に似た霧が吹き荒れた。

 そして闇の空間を発生させ、その空間から杖を取り出すと、それを大きくかざして詠唱する。


「滅せよ。【豪雷浄土】!!」

 

 それは雷属性の魔術、最高クラスのもの。

 見ただけ、感じただけで分かる。

 食らえば死ぬ。避ける事は不可能。

 天井のそのまた上空にて、月が曇る程の雷雲が集まっていく。やがて形を組み、魔術の術式が展開される。

 俺だけじゃ無い。

 この周辺一体を焼き尽くす熱量を持った魔術だ。

 避けようにも時間も安全な場所も無い。

 ……これが、古代魔術。

 俺はまだ、そのスタート地点にすら立っていなかったという事だったのか。


(仮死状態覚悟の消滅魔術……はダメか! カリーナとロイズも範囲外に行けたのか分からないし、それに勇者も場所が……)


 魔力の乱れで周囲の魔力探知が出来ないが、勇者の所在も気になる……。

 ダメだ、どうすれば打開出来る?

 【黒溶】で今のうちにあの悪魔をどうにかすれば……。

 出来るのか? この短時間で、発動数秒程度前だが……?


 様々な不安要素が俺の中を渦巻く。

 結局、俺に出来たのは空を見上げ、ポツンと居ることだけだった。

 一度助けてもらえた命。

 すぐに捨てることになるとは……な。

 俺の死に場所は、ここだったのか?


「……違う。まだ抗ってやる。俺はまだ何もしていない。出来ていない! 俺の死に場所は、ここじゃねえええ!!」


 【黒溶】を発動させ、俺は悪魔に突進する。

 無謀と誰もが笑うかもしれない。

 それでもと抗うしかない。

 ここで終わる夢なら、俺の悲願は絶対に叶えられないだろう。

 生きている限り、負けでは無い!


「……その通りだユクス! 私達は死なぬさ! 私が全て守ってみせるからな! 無論、お前もだユクス!」


 その声は、突如として爆発した迷宮の壁から聞こえた。

 力強く、希望のある声だ。

 こんな声、あいつしかいない。


「おせーんだよ、アホ勇者!」


「まだ間に合うさ! 息を合わせろユクス!」


 聖剣を構えた勇者は悪魔の背後から、【黒溶】を発動させた俺は悪魔の真正面から、挟み込む形で悪魔を捉える。

 双身の悪魔と言うだけあり、二つの首は各々が俺とシオンの各自を狙っていた。

 

「忌々しい女勇者よ! 貴様もその負け犬と一緒に死ぬがいい!!」


 悪魔はその双頭からブレスを吐き出した。

 俺は【黒溶】で、勇者は聖剣でそのブレスを押し返すように駆ける。

 事実、今は俺たちの方が力比べで勝っている。

 押し返されている悪魔の表情に曇りが見えた。

 そこに、勝機を感じ、逃さない。


「「うおおおおおおおおおお!!!」」


 2つの咆哮は、悪魔を捉えて離さない。

 やがてブレスは打ち負け、勇者は悪魔の胴を真っ二つに斬り伏せ、俺は悪魔の頭を思い切りぶん殴った。




 迷宮、最後の戦いが幕を閉じた。


 

 




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