魔族王子と悪魔博士の決戦
更新遅れました
今回もよろしくお願いします
レジストファイアを唱えたせいで、カザイを倒し切る事は出来なかったが、それでも相当なダメージは負った筈だ。
殴り飛ばしたカザイはというと、壁側に設置されていたよく分からない装置の方まで吹っ飛んで、今は土煙の中だ。
今だから、隣にいるロイズに向けて俺は言葉を放つ。
「……あんた、その姿は……」
「……まぁ、見ての通りだよ。私は幻兎族。そこのカリーナと同じ種族。そして、君と同じく人間族じゃない」
……やっぱり気付かれてたんだ。
この口ぶり、この戦いで確信を持ったわけじゃなさそうだ。もっと前から、俺の事に気付いていたのかもしれない。
「簡潔に言うけど、敵じゃないよ。君が魔族だって、私にとってはあの子を守ろうとしている人が悪な訳ないでしょ? だから、今は共闘しようよ。私があの子の鎖を外す。君は時間稼ぎ、でどう?」
「あの鎖、外せるのか? 魔力に抗体のある物質で出来てるが」
「通常の魔力なら通さないだろうね。でも、幻兎族の魔力は普通じゃないからね。こんな事だって出来る」
そう言うと、カリーナは俺の背中を強く叩いた。
「うおっ! っと……って、なんだこれ、魔力が回復してる……?」
その瞬間、俺の体が白い光で包まれた。
その光は一瞬だったが、その一瞬で枯渇されていた俺の魔力は補充された。
全回復とまではいかないけれど、あと何発か強い魔術は撃てるくらいに回復している。
「回復じゃない、あげたんだよ。幻兎族はね、幻兎族の持つ魔力を誰かに譲渡できるんだ。あげられる量に限りはあるけどね」
とは言うが、この魔力。
とてつもない【光】の力を感じる。
それは月から力を得ている幻兎族のせいなのかは分からないが、俺にとっては全く新しい感覚だった。
しかも少量だが魔導者にもその魔力が行き渡ってるし。どっちかというと俺の魔力は【闇】っぽいんだけど、混ざって大丈夫なのだろうか。
「さて、じゃあ陽動よろしくね! 私はカリーナを!」
「……任せろ。元々は俺のせいだ。俺達魔族の戦いに巻き込んでしまったんだ。ケリはつける」
俺は【黒溶】を発動させる。
まだ奴は倒れていない。
いいダメージが入ったのは事実だが、まだまだ致命傷には遠そうだ。
次第に土煙が収まる。
見えてくるのは割れた眼鏡を捨てて、鋭い眼光でこちらを見るカザイ。
「……やってくれますよ、本当。私の計画がめちゃくちゃだ。それに、そっちの方、あなた商業ギルドのグランドマスターだ。まさか、実験体がこんなにもすぐ隣にいるとは思いませんでしたよ」
よろよろと立ち上がる。
俺は突撃して追撃の姿勢でいる。
「……でも、私はついているらしい。何故なら、この場所には実験に打って付けの被験体が2人もいるんだから。邪魔ですよ。私の実験はこの世界にとって善なんだから、邪魔はしないでください、ねぇっ!!」
カザイが初めて拳を振るった。
悪魔の力の効果なのか、それは素早く風を切って俺の頬を狙っている。
でも、甘い。
すんでの所で俺は首だ動かしてそれをかわす。
カウンターの【黒溶】を発動したままの右手を握ってカザイの顔面に叩き付けた。
悪魔の魔法抵抗力で【黒溶】本来の熱によるダメージこそ軽減されたものの、物理的なダメージはさほど緩和されていない様子だった。
衝撃でカザイのメガネがどこかへ飛ぶ。
頬を押さえながら蹲るが、その憎悪に満ちた視線は俺をずっと捉えたままだ。
「……なぜ、なぜ私がこんな目に合っているのです!? 本来ならその場所に私がいるはずなのに!」
珍しく感情に身を任せたカザイが激昂する。
俺はそれをただ見下ろすだけだ。
カザイに付いた悪魔の力が無くなったのではない。それは未だカザイの背後に悪魔の影がある事から証明済みだ。
ならば何が違うのか。
これは至極単純な話である。
「お前は、接近戦……いやそもそも喧嘩慣れしてないんだよ。動きが甘い」
「なんだと……!」
そうだ、コイツの動きは甘過ぎたんだ。
考えてみればそうだ。ずっと研究室に篭もりっぽい体質の人間が、ろくに外出て喧嘩なんて経験した事がある筈ない。
魔法や悪魔の力についての知識は豊富だったが、カザイ単体での近接戦闘能力は皆無といっていい。
悪魔の力を借りてあの程度の動きなら、完封など他愛もない。
「その口を……閉じろぉぉ!!」
カザイの拳が光る。
魔力を込めて殴りかかってきた。
遠距離魔法を使わない事を見ると、それは恐らくカザイの意地なんだと思う。
それでも俺は容赦しない。
拳ごと俺は蹴り上げて攻撃をいなし、叩き付けるように拳を振り下ろす。
「ごぉ、はっ!」
頭から地面にぶつけ、カザイの額から血が滲み出た。
「例え悪魔の力を持ってしても、間違った力の使い道をすればその程度のクズに成り果てる。力を持ったって、お前がその程度なら結局結末は変わらねえよ」
カザイは腕に力を入れて起きあがろうとする。
まだ這いつくばるような姿だが、痛みに震えながらも体を起こす。
「……何が、何が分かる……。あなたに……お前に何が分かるんだッ! 私が開発するものは、きっとこの世界の為に生まれてくる……生まれなくてはならない物だ! 人間誰もが平等でなくても、弱者の居ない世界を作るために! 私達の理想の世界に必要な物だ! 所詮、人間などどうでもいいと思ってるお前ら魔族と私は違うッ!!」
拳を握りしめ、誇りを抱いてカザイは叫ぶ。
そして再び、その右腕に魔力を注ぎ始めた。
今度は先程と比べ物にならない魔力量。
カザイの右腕だって、ただじゃ済まされない程の量だ。
「……俺は3年間、この人間国で生きているが、冒険者ギルドはむさくるしい野郎ばかりだし、酒をすぐに勧めてくるし、ギルドの受付嬢にはセクハラされたと嘘をつかれる。でも宿屋の女将さんはこんな俺にパンをサービスしてくれるし、看板娘は兄のように慕ってくるし、街の住人も話を聞けばいい奴ばかりだ」
フラフラとした覚束ないカザイがようやく俺の前に立つ。
燃えた眼光で俺を捉えているが、俺はまだ動かない。
「皆が皆、自分に課せられた事を全力でこなしている。冒険者は魔物を狩り、宿屋の店員なら帰ってくる者へのサービスを、行商人も店の露店の店主もそうだ。自分ができる事を最大限にやっている。それが例え過度な無理をしても、だ」
「……なんの、話をしている?」
「いや、ただ馬鹿ばかりだろう? ってさ。自分が瀕死になろうとも街への被害を考えて後ろに引かない冒険者、手にタコや血豆が出来ても文句ひとつ言わずに破れたシーツを編む女将さん、嵐で露店の屋台が破壊されてもまた一から作り直す露店の大将。お前は会ったことあるか?」
「何の、話をしていると言っているッ!」
カザイが踏み込んで殴り込んでくる。
悪魔の力の効力もあるかもしれない。迫り来る度、踏み込みや突進速度が増している。この短時間で慣れてきているんだ。
1番最初の踏み込みに比べ、圧倒的に速さと重さが分かる。
ダメージも相当あるのかもしれない。
それでも、
「お前は勘違いをしている。お前はお前の目的に囚われすぎて、たった1つ重要な事を忘れていると忠告だ」
あと1秒、その時間で俺は殴り飛ばされるだろう。
それ程までに早くなっている。
カザイの右足が地面を叩き、俺との最後の距離を詰める。
そして歯を食いしばり、その魔力の塊と化している腕を放つ。
「私は……間違ってない! 私のやっている事は全て正しい! 間違っているのはお前の方だァァァァッ!!」
正確な右ストレート。
だが、哀しいかな。
それは正確すぎた。
近接慣れしていないのが仇となったか、その『どの角度から殴れば1番ダメージがいいのかを計算され尽くした右ストレート』を避ける事は容易かった。
俺は攻撃が当たる直前、身を屈めて攻撃を避ける。
喧嘩でよくある反則的な動きをしないカザイの拳は力の限り空を切った。後に残るのはブォン、という風切り音。
「お前が思ってる程、俺が見てきた人間達は決して弱くなんてなかったぞ」
屈んだ状態から素早く立ち上がるように、俺は拳を昇らせる。
顎を穿つように放たれた俺の攻撃は、全身全霊のアッパーカット。
カザイの意識を刈り取る程、強烈な一撃だった。
◇
長く感じた沈黙を終わらせたのは、ロイズの声だった。
「こっちはあとほんの少しで鎖を外せるよ!」
との事。
俺は重たい体に鞭打って歩き出す。
カザイは既に遠くの方で伸びている。
またあのよく分からない機械の近くだ。
流石に死んではいないと思うが……。
「その鎖、どうにか出来るんだな?」
「鎖ならもう余裕。だけど、私が思ったよりこの子が衰弱してる。本来、月から供給される筈の魔力をこの鎖と魔法陣のせいで供給が出来ていないからだと思う」
「俺は何をすればいい?」
「やれるなら魔法陣を消して。そっちは鎖と違ってその右手の魔法で消せると思うから」
【黒溶】、そういえばまだ顕現できているな。
受け取った魔力も残り少ないが、やはり幻兎族から嬢出された魔力は効率のいい魔力だからかもしれない。
月からの魔力はかなり魔力としての純度が高いらしい。
さておき、とりあえず床を殴ってみる。
魔法陣は精密な魔法を編んでいる為に、少しでも陣が霞むと機能に支障が出る。大体は3分の1程度でも消してしまえば機能しなくなる。
躊躇いなく俺は魔法陣を破壊した。
「やった! 鎖の効果も無くなった! これなら!」
パチン! と音がしたかと思うと、カリーナの両手を塞いでいた鎖が割れるように消えていく。
そうか、そもそもあの鎖はアイテムではなく悪魔の魔法の力だったらしい。魔法陣とセットで扱う魔法な為に、片方の魔法陣が破壊されたらもう一つの鎖の効果も薄まったのか。
最初から魔法陣をどうにかすればよかったと思うが、それは難しい話だったのだろう。
【黒溶】の力があったから簡単に魔法陣を破壊できたが、あの魔法陣には何重にも結界魔法がかけられていた。ロイズでは魔法陣をどうにかする事は出来なかったのかもしれない。
(……でもこれ、【魔法】でこんな事が可能なのか? 拘束だけなら似た魔法は知ってるが、魔力そのものを別の場所へ転移させるなんて、ただの魔法じゃ無理な気がするが……)
考えても答えは出ないが、何か引っかかる。
考えられるのは古代の魔術……だが、それを扱える奴は俺しかいない筈。
……俺の知らない何かがこの人間国で起きているのか……?
だが、考え事をしている中、ロイズが俺に向かって叫んだ。
「……この子、ろくに魔力を吸えずに覚醒してるから意識が無い! 早く魔力を貯めないと最悪死んじゃうよ!!」
「なんだと? 魔力を分け与えられないのか?」
「……ごめん、渡すだけの魔力はもう少し経たないと無理っぽい。でもこの辺りに本来この子が持つべき魔力が貯められてる筈! それを見つけるんだ!」
「わかった!」
魔力が無くなれば人は気絶する。
幻兎族の場合は、覚醒中のみそれが死になるのか。
早いところ見つけなくては。
ロイズと手分けしてそれらしい物を探す。
「……あ、これ! ねぇこの水微かだけど月の魔力が混じってる!」
ロイズが試験管に入った緑色の水を持ってきた。
それ、本当にあってるのか……?
毒とかなんじゃ……。
「まって、このフラスコの水もそう、この水も……この辺の液体全部そうだよ! 早くこれを持っていこう!」
「ああ、任せろ! 飲ませればいいのか!?」
「額の角にかければ大丈夫! 君は水を集めて持ってきて! 私がかけるから」
言われるがまま、俺は機械の上やらその辺にある水の入った容器を持っては走り、持っては走りを繰り返す。
それを丁寧な処置でロイズがカリーナにかけていく。
その迅速な処置で、悪かったカリーナの表情もだいぶ良くなってきた。
「ど、どうなった?」
「……大丈夫。足りなかった分は私が譲渡したから。はぁ、もうクタクタだよ」
若干の疲労が混じった笑顔でロイズが言う。
「……悪い、助かった。俺だけじゃカリーナを助けられなかった」
「何言ってるのさ。それなら私だけでも無理だったんだよ。2人でやったから助けられた、でしょ?」
するとロイズが小さな拳を前に出す。
? と疑問を浮かべたが、すぐに理解した。
ああ、そう言うことか。
「ああ、そうだな。ナイスチームワーク」
俺とロイズはコツンと拳を重ねた。
そして互いに人間じゃない者同士、笑い合った。
あとはカリーナが回復するのを待つだけ……。
「……バカばかりだ……。本当に、私以外の者はバカばかりだ。私の実験も成功目前に邪魔をして……」
不気味な、それは毒々しく、極めて殺意の籠った声だった。
その声の方向に視線を向ける。
そこにいるのは、既に魔法の詠唱を詠み終えたカザイが立っていた。
見れば分かるほどの死に体だが、今撃ち出そうとしているのは破壊の熱線【ディオス・エクスプロード】。
それは極めて単純な強さを持つ魔法。
遮る物を全て焼き尽くす破壊の魔法だ。
とっさに俺は【黒溶】を顕現させる。
相殺するにはそれより強い力をぶつけるしか無い。
「こ、のぉぉぉぉっ!!」
【黒溶】と【ディオス・エクスプロード】がぶつかり合う。
絶対に引けない。
背後には倒れたままのカリーナと、魔力を使い果たしてしまったロイズが無防備な状態でいる。
俺が負ければ俺だけでなく、後ろの奴らも全員もれなく死ぬ。
絶対に負けられなかった。
とは言え、俺もそろそろ魔力量的にも肉体的にま限界が近づいて来ている。
(それでも……それでもッ!)
足に力を入れ、右拳をさらに強く握りしめる。
【黒溶】の事だけを考えろ。
少しでも集中して、競り負けない事だけを考えろ!
「う、おおおおおおおおおおっ!!」
咆哮して自分を鼓舞する。
これさえ勝てれば、カザイは攻撃が出来ない。
あの死に体だ。
魔力の連発は難しい筈だし、こちらまで飛んでくるとは思えない。
ここだ。
ここさえ凌げれば!!
「ま、ける……かァァァァ!!!」
直後、俺の腕は大きく弾かれた。
俺はそのまま後ろに小さく吹き飛ばされる。
が、断じて打ち負けたのではない。
耐え切ったのだ。
俺の持つ魔力全てを使ってカザイの攻撃を全て受け切り、相殺した。
が、
「貴方ぐらいは殺しておかないと、損害に割りに合わないので、ね」
悪魔の力を借りたカザイがすぐ目の前まで走ってきていた。
よく見れば、体の至る所から出血している。死に体の癖に限界を超えてきていた。
しまった! まさかカザイにそこまで勝ちに執着があるとは。
カザイが懐から取り出したナイフを逆手に持ち、俺の胴体に向けて振り下ろした。
(やば、死んーー)
死を覚悟したその時、
とん、と背中に何かが触れた。
それは触れれば壊れそうな、華奢な細い手だった。
だが、それが触れた瞬間、俺の中で魔力が爆発する。
「なっ……」
本能の反射だった。
【黒溶】を発動させ、振り下ろされたナイフごと、カザイの体を殴り飛ばした。
ナイフはおろか、カザイの右手をも穿ち、そしてそれは確実にカザイの心臓まで貫通した。
今度こそ、確実にカザイを仕留めたのだ。
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