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勇者と悪魔の激戦の末

 ――次の攻撃は絶対当たる。


 そう高らかに宣言したシオンは、それから次々に攻撃をメフィリアに当てていった。

 最初は聖剣の切っ先が僅かに触れる程度の攻撃だったが、次第に攻撃が通るようになっていた。

 まだその全てが致命傷には至らないものの、悪魔メフィリアからは完全に余裕の2文字が抜けている。

 今はただ、致命傷を受けないようにするための本気の逃げを繰り返しているに過ぎない。挑発的な発言も、あの不気味な笑みすらも消失している。


 正真正銘、今度は自分が追われる立場になっていた。

 

「……ナ、何ナンダヨ、オマエハァァ!!」


 空を舞いながらシオンから距離を取り、ありったけの憎しみを込めて悪魔が吠える。

 だが、音すら越えるスピードで懐まで距離を詰めたシオンは容赦なく聖剣を降り下ろす。


「……グ、オアアアアアアァァ!!!」


 それは完全に胴を斜めにぶち切るような攻撃だった。当たっていれば、完全に悪魔は絶命していた攻撃なのは間違いなかった。

 悪魔は致命傷を避けるため、咄嗟に羽を使って防御したのだが……。

 鋼鉄のように固かった悪魔の羽を、今度は聖剣が両断した。鮮血が吹き荒れ、絶叫が周囲に響き渡る。


 それだけで勇者は止まらなかった。


 両手で聖剣を持って羽を両断した後、今度は片手で持ち変え、フリーになった左手で悪魔の頭をわしづかみにする。

 そのまま悪魔を引き寄せて、心臓部分に思いきり膝蹴りを食らわせた。


「……ゴ、ォ……!」


 声にならないような呻き声をあげながら、悪魔は口から血を吐き出す。

 そして間入れずに勇者の横薙ぎ。

 完全に悪魔の胴が2つに割れる。

 そのまま上半身をシオンは蹴り下ろし、悪魔は背中から地面に落下して大きな衝撃と土煙と共に仰向けに倒れた。


(……マ、マズイ……。アイツ、私ノ能力ニ気ヅキヤガッタ……!!)


 悲痛な表情で悪魔が焦りながら内心でそう思う。

 余裕をしすぎたのだ。

 初めから本気で殺す気でいけばよかった。相手に対策を取られない内に、すんなり事を運べば良かったのに、と後悔が自身を責め立てる。


 悪魔メフィリアの能力は【霊態移動】。

 自身の存在そのものを、あの世の場所……つまり別の次元へと移動させる事で敵の攻撃を避ける能力だった。

 これは幻覚や視覚誤認等の能力と違い、完全にこの世界から消えているため、どこにいても次元が重ならない限り攻撃は当たらない。


 もちろん、シオンも完全に能力を見切った訳ではない。が、とりあえず『目に見える場所には相手が存在しない』程度は分かっていたので、後はそれを対処するだけだった。


「悪魔メフィリア、お前を今から浄化してやる。来世ではもっとマシになって生まれ変わる事を心から祈ってやろう」


 ダメージの蓄積でまともに動けない悪魔メフィリアに向かって、慈悲の言葉を投げ掛ける勇者が近付いてくる。追い詰めたかのように、それはゆっくりと歩いていた。


「ク、来ルナ……! 私ハマダ、ヤルベキ事ガアルノダッ! 貴様程度ニハ理解ナゾ到底出来ヌヨウナ目的ガナッ!」


 腕だけでもがき、必死に後ずさる悪魔メフィリア。

 しかしシオンが手にしていたのは悪魔が最も恐れるとされた聖剣。その斬撃は悪魔の身体に影響を与えていた。

 角や羽、やがて肩や腕、そして遂に胴までがボロボロと崩れていた。これが聖剣だけが持つ唯一の武器能力ウェポンスキル。これぞ正しく魔族だけに効く状態異常【浄化】である。

 かすり傷程度なら回復力の低下程度で済むものの、致命傷となると話は変わり、毒のようにじわりじわりと体を聖なる光が蝕んでいく。


 悪魔メフィリアが1歩這いずる毎に身体のどこかが崩れて白い光へと溶けていった。

 もうシオンが何もせずとも眼前の悪魔はやがて朽ち果てるだろう。

 そんな悪魔を、シオンは哀れだと思った。

 さっさと楽にしてやるのが、せめてもの情けだろうか。

 シオンは聖剣を握りしめ、未だ這いずる悪魔の背後まで歩を進めた。


「……最後の手向けだ。今楽にしてやる……」


 聖剣を逆持ちに変えて振り上げる。

 後はただ突き刺すだけだ。

 それでこの戦いは終わりを迎える。

 その後は……。

 そうだ、迷宮の中にユクスがいる。

 早く応援に向かわなくてはならない。


 そして力を込めて思いきり悪魔を突き刺し――。


「我ラ悪魔ノ古代種ノ話ヲシテヤロウ。オマエガ倒サントシテイル魔王ノモット昔ノ世代デアル古代種ノ話ダ」


 その寸前。

 悪魔が動きを止め、ひとりでに語り出した。


「……古代種……だと?」


 そうシオンが返すと、悪魔は俯せの上体を起こし、シオンと向き合う姿勢になる。

 それでも【浄化】の力は止まりはしないが。今だって崩れ落ちている最中なのだから。

 当然、崩壊に伴って感じる痛みはある筈だ。

 その痛みに耐えながらも、こいつは何を話すと言うのだろうか。

 何か企んでいるに違いはないが……。


「アア、セメテ死ヌナラバ貴様ヲ絶望ノ淵ニ叩キツケテルノモ興デアルト思ッテナ」


「……古代種。先代勇者が全てを滅ぼした、もしくは封印したとされているが……お前は自分を古代種とでも言うのか?」


「ソウサ! 我々古代種ヲ封印シヤガッタ憎キ人間共ヲ殺ス為ニ、我々ハ解放サレタノダ!」


 悪魔の古代種。

 それはこの世界で一番最初に始まった戦争――人魔戦争で人間と敵対していた悪魔の事を指す。

 今以上に知性があり、【魔法ではない何か】を使用して戦うとされていた悪魔の古代種。

 勿論、戦争によって多くの悪魔は死に絶え、強力だった悪魔の幹部達も先代勇者パーティーによって封印され2度と現世に姿を表す事が出来ないとされていた。


「お前が悪魔の古代種だという証拠は?」


「証拠? クッククク! 笑ワセルナヨ。アノ攻撃回避ノ能力ガ使エル魔族ガ今ノ時代ニ存在スルノカ?」


 ……確かに、あの能力はコピーや劣化版の能力では無かった。

 確実にオリジナルそのものの力だ。

 少なくともシオンの持つ情報ではアレと同じ能力を持った悪魔は人魔戦争以来は聞いたことがない。

 だからあれは、本当に古代種だと確信を持ってしまった。とするならば、他の古代種の封印も解かれてしまった可能性がある。



 ――シオンには、元々持っていた魔法と剣技の才能の他に特殊な能力が存在する。それは、勇者としての能力だった。

 シオンのような神から神託が直接下り、勇者になった場合に顕現する能力。その能力とは、歴代勇者の記憶を読み取れる事。

 この力によって、歴代の勇者の技なり魔法なりをシオンは使えるのだ。

 勿論、その勇者が倒した魔物や魔族の情報も頭の中に入ってくる。だからこそ、確信してしまった。

 眼前の悪魔は本物だ。本物の古代種であると。


「……貴様の封印を解除した奴は誰だ。そいつは人間なのか?」


「クヒヒ、私ハ知ラン。人間ナノカ、魔族ナノカスラモ。タダ――」


「ただ?」


「トテツモナイ憎悪ヲ感ジタ。私デスラ戦慄スルヨウナ、巨大デ禍々シイ憎悪ヲ」


「……憎悪、だと。人間に対してか? それとも魔族か? いや、魔族ならお前を解放する理由がない。なら、神か?」

 

「……人間……神……近イダロウガ……アレハ……。マァ、私ニハ理解出来ヌサ。精々、奴ノ逆鱗ニ触レナイヨウニ生キル事ダナ。ケケケ」


 悪魔はそう笑った。

 この古代種は封印されていた為に、相当な実績を持つ悪魔である。勇者ですら苦戦を強いられたのだから。

 そんな奴が戦慄するほどの存在が、この世界に存在する……というのか。

 顔も性別も、種族もその目的すらも分からないが、人間にとって脅威になる事は間違いない。


(魔王討伐と並行にこの件は進めなければならないな……)


 勇者とは、常に人間にとって最善の選択を強いられる存在。

 最優先事項は魔王討伐だが、人類の脅威となれば同じぐらいの優先度で事を進めるしかない。何としてでも情報を集めなければ……。

 と、考えている内に眼前の古代種が既に死の直前に瀕していた。【浄化】の力でもう事切れそうになっている。


「……最後に聞かせろ。お前自身は今の魔王と関係があるか?」


「魔王? アノ弱ッチイ老イボレの事カ? ソレトモ未ダニ腑抜ケタママノ、タダノクソガキノ事カ? ハッ、生憎私ハ奴等ニ興味ハ無イ」


「言うじゃないか。貴様ら魔族にとって魔王は絶対的な存在なのだろう? なのに随分な態度だな」


「……私ガ仕エタ魔王様ハモウ居ナイ。私ガ封印サレテイタ間ニ世代ガ変ワッテイタ。ソシテ、魔王ガ変ワレバ思想モ変ワル。アノ頃ノ魔族ニハモウ……グ、フッ……」


 何かを言い掛けていた古代種が呻く。

 もうこいつに残された時間は……。

 何も言わずに剣を振り上げ、眼前の古代種に止めを刺そうとした、その時だった。


「……グ、フフ……フフハハハハッ!! 私ノ長話ニ付キ合ッテクレテ助カッタヨ! ヤハリ人間ハ単細胞ノバカ種族ダッタナァッ!」


 シオンは既に聖剣を降り下ろしていた。

 だがそれは古代種の体を貫通しなかった。

 それは他でもない、シオン自身が剣を止めたからだった。


「……迂闊……だった。…………やられたッ! 畜生がッ!!」


 次第に悪魔だったフウリンの体が元に戻っていく。

 悪魔の羽や角やらが消えていくのに伴って、斬られたはずのフウリンの下半身が再生していく。おそらく、不当な契約破棄の為だろう。負っていた全てのダメージは今やメフィリアに全て行っていると思われるが、既にメフィリアは……。


「【魂解放ソウルパージ】か……ッ! 長いチャージ時間を長話で相殺しやがったか! 不覚、過ぎる……。こんな事ではこれから……。いや、まだだ。奴の魂の行き先、恐らくは迷宮の最深部……迷宮主が居る場所だろうか……」


 情報を聞き出す事に頭が一杯だった不覚を、シオンは心底後悔している。

 聞き出せば聞き出す程、魔族についてのアドバンテージが取れる事という事に気を取られすぎていた。

 

 魂解放ソウルパージとは、悪魔側から一方的に契約を打ち切る、言わば悪魔側の最終手段である。自らを魂となって肉体から離れる事が出来るが、それまでに受けていた攻撃を全て次の憑依時に肩代わりして受けてしまうデメリットがあり、さらに魂の状態では長く存在自体を維持出来ず、この魂解放ソウルパージは2度は使えない最終手段なのである。

 肩代わりが確立された為、フウリンの体は修復されたのだが、その魂までは修復はされない。

 今のフウリンはただの死体である。


「……確かに、このままには出来ず……か。ああもう、中ではユクスが頑張っているというのに! 勇者として、戦士として勇敢だった相手に敬意を払うのは当然……! 私の……馬鹿野郎がぁぁぁっ!!」


 悪魔と契約したとは言え、勇者と死闘を繰り広げたフウリンは、少なからずその力をシオンは認めていた。そんな相手の亡骸をそのままにしておくというのは、勇者としての性格上無理な話だった。

 フウリンの亡骸を背負い、シオンは自身の性格に後悔の涙を流しながら森へと駆けて行ったのだった……。






 

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