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魔族王子と迷宮の深部

予約投稿ミスりました。

更新遅れました。

すみませんでした。

コロナに負けず、書き続けます。

 【心眼】の効果は、効果範囲は決まっているものの、目的の場所を視界に認識させ、それまでのルートを自身しか見えない特殊な光で辿らせるという魔術だった。

 なんでも、魔導書いわく光の精霊と一時的な簡易契約を行っており、これ程の力を得られるそうだ。


 ちなみに契約魔法と簡易契約は似ているようで全くの別物である。具体的には、消費魔力の上限があるのが簡易契約、上限が無いのが契約魔法になる。

 簡易契約では、上限がある分、効果時間や得られる恩恵が契約魔法に劣っているが、安全性は確かである。

 一方、契約魔法には上限が無いため、自身の魔力量を越える契約になる場合は、その代償を命で補う事になる。危険だが、その代わり得られる恩恵は大きい。現に、フウリンはこの契約により、勇者にすら退けを取らない力を得ている。


 俺は【心眼】によって示された道を辿る。

 その照らされた光が示す方向は、例えば3つに分かれた道の1つであったり、落石によって隠されていた道だったり、わざと落とし穴に落ちたりと、いつも通りに探索し続けていれば、到底辿り着く事の出来ない場所ばかりだった。


 だからだろうか。

 正解の道を進み続け、ようやく出合ったカザイの顔が、通常通りの不気味な笑みから、死んだ人間を見たような驚愕の表情になっていたのは。


「……バカな……。まさか、あの道を辿ってきたというのですか? 奈落の迷宮にも匹敵する、あの道を?」


 俺はカザイの質問に応答しない。

 そんな事よりも、その隣の彼女の姿の方がよっぽど重要だった。


「……カリーナ」


 ボソリと呟いた。

 その小さな声に呼応するように、彼女の長く純白の耳がピクっと反応した。


「……あんたは……なんで……ここに?」


 彼女の掠れた声を聞いて、俺の心の底で何かが沸々と込み上げてくるのを感じていた。

 何故なら、彼女は奴隷のように両手首の部分を鎖で繋がれ、足には黒く重い鉄球を枷として付けられ、彼女のいる付近の地面には何かの魔方陣が描かれていた。だが、彼女の衰弱した様子と、このフロアの真上が吹き抜けになって、超満月と呼ばれる大きな月が輝いている事を見るに、何らかの悪影響を与えているとは容易に想像がついた。いや、十中八九、《強制的に魔力を供給されている》。


「……いいでしょう? この魔方陣。そしてこの鎖。全てオーダーメイドなんですよ。他に1つと無い、特注品なんです」


 カザイが聞いてもいない事をペラペラと喋る。

 その説明がどうであれ、彼女に苦痛を与えているなら、対処するしかない。


「……今すぐカリーナを解放しろ。そいつが今どんな状況なのか分かってるのか?」


「変なことを聞きますねぇ。えぇ、分かってる。分かってますとも。分かっているからこそ、この処遇なんですよ」


「……それが、お前の研究とやらなのか?」


「……ええ、そうですよ。これが私の研究なんです。研究のテーマは【幻兎族の力を用いて誰もが魔法同様の力を使えるアイテムの開発】ですね。どうです? 画期的でしょう?」


 その表情は、一切曇りの無いものだった。

 本気で、その研究のためだけに生を全うしているんだと、そう思えた。

 だが、それは……。


「……それは、カリーナを傷つけてまでもするべき研究には思えないがな」


 そう言うと、カザイは黙り、俺を睨むように見据える。


「……ま、私も万人に対して、全員の同意を得ようなどと絵空事は思いません。あなたの同意や意見など、私にとっては無意味でしかない。何を言われようと、私は私の研究を止めませんよ」


「……カザイ、お前にとってカリーナは実験台か? ふざけんなよ。お前のそんな下らない研究で苦しむ奴が居てたまるか。俺はお前のような人間が特に嫌いだ。自分勝手で、人を人だと思わない奴が、一番人間場馴れしてる」


「……下らない、ですか。人の価値観の相違は認めますが、この研究で救われる人間が居ることを忘れずに。幻兎族の、魔力を供給する力を利用して、それをエネルギーに変換する技術があれば、今よりも暮らしが楽になる、何なら人だって救えるかもしれない。そんな世界、あなたは望みませんか?」


「一人の少女を苦しませて楽になった世界か。ヘドが出るな。結局、お前は利益しか見ていない。その金のために、お前は犯罪に手を染めたか」


「……残念ですよ。あなたとは1度、話し合いを通して分かり会えたと思ったものですから」


 そう言うと、カザイは白衣のポケットから小さなナイフを取り出した。

 それを右手で持ち、切っ先を俺に向ける。


「邪魔をするなら殺しますよ。今なら見逃してあげますが、どうします?」


 俺は言葉を発するより早く動いていた。

 地を蹴り、一気に間合いを詰める。

 既に鞘から剣は抜いてある。

 カザイは反応できないだろう。

 このまま肩をぶち抜いてやる。

 そう思い、力を込めた。

 切っ先が肩を貫く直前だった。


 ガァァァァンッ!


 と、鈍い音を立てて剣は弾かれた。

 見えない何かが俺の攻撃を防いだのだ。

 何が起きたのかは分からない。

 だが、想像は出来た。

 過去に同じような事が起こっていたからだ。

 照らし合わせて想像する。


「……ま、だろうと思ったさ。お前もだったんだな」


 俺はカザイにそう言った。


「……ええ。そうですよ。研究のためなら、この命は惜しくないと、そう言ったでしょう?」


 やがてカザイを包み込んでいた何かが、段々と彩られていく。

 それは漆黒で、ここに来る前に見たような、あの忌々しい鋼鉄の羽だ。

 そしてついにそれは次第に顕現し、その全貌が露になった。


「魔族フェレイア。この迷宮の番人である悪魔です。ちなみにフウリンが契約した魔族メフィリアとは双子だそうですよ」


 全身が漆黒に染まっており、ただ一点だけ、2つの眼球が燃え盛る火炎のように真っ赤に染まっていた。その2つの赤はカザイと同じく、鋭く俺を敵視している。


 だが、ここで1つ問題がある。

 それは、俺がこの魔族を知らない事だ。

 少なくとも、俺がまだ魔国に居た時にはこの魔族は幹部にすら居なかったと思う。

 ノエリアが魔王になった事で、新体制になってから入った新参だろうか?

 ま、敵として倒す時に、一切の感情が要らないというのは楽だからいいんだが。


「ほう、いい眼をしていますねぇ。この悪魔を前に、怯みもしないとは。もしかして、悪魔を見ることに慣れていたりします?」


 不気味に笑ってみせるカザイ。

 俺はその表情に裏があるように見えて仕方がなかった。もしかして、俺を知っている? 『魔王の息子である』俺の事を。


「ま、別に興味はありませんから、詮索はしませんよ。例えこの悪魔にどんな情報を得ようと、全て聞き流していますから安心してください、ユクスさん」


「悪魔に心を売った奴ほど、信用できないものはない。俺はそう教えられてきたぜ?」


「……はは、これは失敬。確かにそうだ。今の私の言葉ほど、軽いものはない。でも、もう関係ないですよね。この状況、もうこの戦いが終わる頃には、私か貴方、どちらかは既に死んでいる筈ですから」


「だろうな。もう後戻りは出来ない。だからまぁ、最初から全力でいかせて貰うからなッ!」


 その言葉を放つと同時に俺は風魔法【エアリアル】を無詠唱で唱える。

 透明の真空の刃が一直線にカザイに向かって放たれるが、唱えた魔法は対象を切り刻む事無く消滅した。いや、正しくは打ち消された、という表現の仕方の方が正しいのかもしれない。

 ――悪魔の加護、か。

 それは契約した人間に、契約元の悪魔の魔法耐性を付与するもの。羽を持っているからか、風属性には滅法強そうだ。打ち消されたなら、どこかで風の精霊と契約でも結んでいる可能性が出てきた。その場合は風魔法は全てそよ風程度の威力になるから厄介だな……。 


 だが、魔法にも相性がある。風属性に強いなら、炎や氷の魔法が効きやすい傾向が魔物にはある。魔族も例外ではない。比較的効きやすい、程度のものだけど。


 俺は間いれず炎魔法【フレアマグナム】を放つ。

 この魔法は威力よりも、貫通力と速度に重点を置いている魔法で、なにより無詠唱で放っても、あまり効力が薄れない事が最大の利点である。

 原理は魔法自体の威力が減衰しているが、速度は支障をきたしていないからなんだとか。しっかり詠唱すれば、大木を3本は貫通する威力だが、無詠唱だとその10分の1にも満たさない、が、それでも人一人ぐらいは貫通できる力は俺にある。

 

 放った魔法は、音速でカザイにぶつかった。

 音速の攻撃を、フェレイアの羽がその速度を越える速さで防いでいた。

 漆黒の羽に煙が立っている。

 この魔法でこの程度のダメージならば、奴の魔法全体に対する耐性が高そうだ。

 魔族フェレイア、こいつ、もしかして護り型のタイプか? 持久力がありそうな……めんどくさい相手になったな……。


「……その程度の攻撃なら効きません。そして、その程度の速さなら、簡単に追い付ける」


 瞬間、カザイの声が背後から聞こえた。

 振り向き様に剣を抜刀して回転切りのような形で切り伏せたが、手応えは無い。

 虚しく空を切るだけだった。


「当たりません。というか、そもそも魔族に人間は勝てないんですよ。そこの幻兎族はともかくとして、今のあなたじゃ攻撃すら当たりません」


「うるせぇ、なッ!」


 凪ぎ払うような手の軌道。

 無詠唱で【イグニスエッジ】を発動させた。

 炎を剣状に出現させ、それを振りかざして攻撃する魔法だ。

 範囲が大きく、カスっただけでも火傷を負うことになる危険な魔法だ。


「それ!」


 だが、その攻撃を気の抜いた掛け声と共に、羽を靡かせて出来た衝撃だけで、炎を鎮火させられた。

 蝋燭の火を吹き消すように、魔法で出来た炎の剣は、瞬く間に消失した。


「魔法の相性は知っています。が、圧倒的な力の前では、それは誤差でしかない。こんな風に簡単に消えるんですよ」


 冷静な声が、俺の脳に入ってくる。

 だが、その力は圧倒的だった。

 

「私は今すぐにでも研究に時間を割きたいんです。悪いんですけど、もう終わりにしましょうか」


 カザイが羽を広げながら地を蹴り、空へ飛翔した。

 その漆黒の羽は、よく見れば4枚羽。

 だがどの漆黒の羽にも、瘴気のような黒いモヤがまとわりついている。

 大きな月を背面にして、空を舞うカザイが告げた。


「死んでください」


 その言葉と同時、その4枚の大きな羽を、力強く降り下ろした。

 そして、比喩表現ではなく、本当に【死の雨】が降ってきた。


「……ぐ、うああああああああああッ!!!】


 何十枚もの羽根が、槍の雨のように降ってきた。

 顔は何とか両腕で覆って防いだが、足や胴などに羽根が刺さる。貫通こそしていないが、刺さった部分は勿論、鋭利な羽根のせいで切り刻まれた箇所もある。


 攻撃が止み、俺はふとカリーナを見やる。

 咄嗟に動くことが叶わなかったが、見ればカリーナに外傷は無い。

 最初からカリーナには当てる気が無かったのは、カザイの眼を見れば分かっていたが。


「まだ一振りですよ。それなのにもう満身創痍ですか? 早く本気とやらを私に見せてくれませんかね? それでこそ、私の貴重な時間を消費した理由になるのだから」


 羽を広げたままのカザイが空から告げた。

 カザイの背後にいる魔族は何も語らない。ただ、その漆黒の羽に魔力を注いでいるだけ。

 ……しまったな。まさかここまでカザイが強いとは思わなかった。


「……お前こそ、俺の本気を出させて、すぐにバテるなよ」


 カリーナをチラリと横目に見て、俺は腹を括る。

 これを使えば、魔力察知も素の勘も鋭いカリーナなら、恐らく俺が人間じゃ無いことぐらい感付くだろうが、そうしなきゃ、俺はカリーナを守ることすら出来ない。

 やるしかない。

 俺は腰の魔導書を手に持った。

 そして、目一杯の魔力を注いでやった。


「……これは……」


 あまりの魔力量にカリーナが呟いた。

 バレてもいい。

 それでも、この件においてカリーナは被害者だ。

 それでいて、加害者は魔族だ。


 なら、同じ魔族としてけじめぐらいつけなくちゃな。




 俺は魔導書を開き、リンクを開始した。








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