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魔族王子と侵入探索

毎度毎度、投稿期間が空いてすみません

 シオンの支援を受け、俺は単独で洞窟内に侵入出来た。

 俺はシオンほど魔力は察知できないが、それでも膨大な量の魔力源がこの近くにある事くらいは把握できる。そして、それは今も尚、膨張し続けていた。


「……早くカリーナを助け出さないと……! くそっ! カザイはどこにいるんだよ! って、道で迷ってる場合じゃないのにさ!」


 焦りと緊張から、苛立ちを含んだ言葉を叫ぶ。

 この洞窟、割りと分かれ道が多く、進めど進めど目的地まで辿り着けない。

 迷路……いや、迷宮みたいな場所だな……ここ。


「……ほんと、迷宮じゃないよな……?」


 基本的にダンジョンに迷宮は作る事が難しいとされている。

 理由は明白で、迷宮内で作られる魔物と、ダンジョンに生息している魔物との相性が悪いからだ。この魔物同士は相容れないというべきか。殆どの場合、視界に映るお互いの姿は敵として認識されるらしく、人間と魔族のように争い合うとされている。

 考えてみれば、氾濫なんて起きたら大変な事になる。魔物だって、言うなればダンジョンの生態系に大きく関わっているのだから、その魔物が全滅してしまうと、ダンジョン自体に何らかの影響を及ぼす可能性がある。

 例えば、生き物の血や腐肉などで植物の成長が止まってしまう、だとか。考えられる事は多くある。


 魔族の視点から考えても、ダンジョン内に迷宮を作るのは得策ではない。

 さて、迷宮には必要不可欠なモノが存在する。それは、迷宮を精製する上での基盤となる結晶コアだ。この結晶に魔力を注いで、大地を変動させて迷宮を作るのが、一般的な迷宮の作り方なのだが、魔物の生息していない森林や鍾乳洞なら何の問題もなく、すんなりと精製出来るのだが、魔物のいるダンジョンとなると話が変わる。

 ダンジョンの場合は、魔物が生息しているせいでダンジョンの土地自体に魔力が宿っている。その為、結晶を通じて迷宮を作ろうと、魔力と魔力の反発により、綺麗に迷宮を精製出来ない事がある。

 また、よしんば迷宮を作れたとしても、これも魔力と魔力の反発で、魔物の精製が極めて難しくなる。具体的には、精製する魔力量が多くなり、1匹を作るのに多大な魔力と多くの時間を要する。しかもせっかく作れたとしても、生成された魔物にはダンジョンの魔力も少なからず融合している為、身体を保つ事が出来ず、すぐに消えてしまうという。また、魔力の反応により暴走状態に陥った魔物が大量に発生したという事例もある。

 つまるところ、『何が起きるのか、迷宮主にさえ分からない』というのが結論にある。


 そして、迷宮を作る根本的な理由が、『自然の魔力をより効率よく搾取する』ためにあるので、自然ではないダンジョンの魔力を必要としていないのも、ダンジョンに迷宮を作る際のデメリットである。


 以上の点から、ダンジョン内で迷宮を作るのは非効率だとされている。


 だから、この場所が迷宮ではないと俺は思う。

 仮に俺が迷宮を作るとしても、ダンジョンの中には作らないだろう。

 だが、それでも、この周辺で迷宮を見たという目撃証言や、カザイやフウリンの背後の悪魔の存在などが、迷宮の可能性を捨て切らせない。


 この洞窟だってそうだ。

 こんな不自然な作りの洞窟があるのか? 自然界ならまだしも、ここはダンジョンなのに?


「あーもう、訳わかんなくなってきた! カリーナの魔力を辿って進んでるけど、逆に遠くなってるし、ほんとにどうなってんだよこの洞窟!」


 気付けば自棄になって叫んでいた。

 ただ、俺の声は虚しくこの空間に響くだけだった。


 ……ん?

 ちょっと待てよ?

 なんだろう、今少しだけ違和感を感じた。


 俺は少しだけ冷静さを取り戻し、走る事をやめて、歩きながら考えを巡らせる。


(……今の違和感は……何だったんだ? 何に対して、だとかは分からないが、多分、この洞窟の秘密と関係しているような……)


 よし。

 状況を整理しよう。

 全部、最初からだ。

 俺とシオンは、次の迷宮攻略の情報を聞き付けて、この街へ来た。様々な情報収集を各自がしている中、俺は不思議なお祖母さんと、カリーナと出会った。


 そして、カリーナが何度も商人試験に落ちている事を聞いた。

 そして受け付けられる回数が残り1回だと聞いた瞬間、カリーナが逃げるようにギルドの外へ飛び出て、俺もそれを追った。

 そこで悪いチンピラに絡まれているカリーナを助けて……そして、あの満月の日を迎えたんだ。


 カリーナは幻兎族だった。

 そして、幻兎族を狙っているカザイという人物に遭遇し、俺もカリーナに殺されかけた。

 だが、すんでの所でカリーナの意識が本の少しだけ戻りかけ、俺は助かった。


 ……そういえば、カリーナが覚醒するちょっと前、二人だけで話していた時に言っていた、あと2日は野宿しても大丈夫だと言っていた事を思い出した。

 今思えば、確かに覚醒していれば、深夜でも危険は無いだろう。

 それこそ、野宿しても殺気を感じればすぐに対応できる。

 ……という事は野宿してもその辺の適当な場所で良かったのか? いや、違う筈だ。何故なら、彼女は自分自身の事を分かっている。幻兎族、禁忌の一族である事を、自覚している。ましてや覚醒している最中、そんな姿を他人に易々と見せるとは思えない。

 無意識にでも、人目の気にしない場所へ行くと思う。


 それはどこだ?

 この広いダンジョンの中、彼女だけが知っている人があまり近寄らない場所。



「……ある。あるじゃねえか。そうだ、そうだよ。その場所こそが、迷宮なんだ!」


 そう、心当たりはある。

 俺すら、勇者すら、あまつさえ商人ギルドのグランドマスターすらも知らない場所。

 その場所こそ、俺達が探し求めていた場所。

 なら、それはどこにある?

 今までの状況を考えて、一番可能性があるのは……。

 

「……やっぱり、そうだ。そうなんだよな。これまでの考察と、俺の感じた違和感。それを繋ぎ会わせると……答えは、おのずと分かってくる」


 答えは……やっぱり。


「ここか」


 この場所しかありえない。

 理由として、カザイ達が俺達よりも先にカリーナを確保したことにある。

 言わずもがな、カザイは迷宮主の悪魔の力を使って、ここまで瞬時に移動した。フウリンを含む部下達を連れて。

 そしてこの場所、迷宮の場所を知っている人物、つまりカリーナならここに来ると予想していた。迷宮の場所を知っているのはカリーナだけだしな。カリーナの事を調べていたカザイなら、カリーナの性格も十分に考慮しているはずだ。絶対に来ると分かっていたんだろう。

 

 だが、それを確実なものにするために、事前に何かをカリーナに告げていたんだと思う。この迷宮の重要な何かを。


 そしてそれこそが、俺の感じていた違和感の正体だ。

 

「この迷宮には、魔物が存在しない」


 これが、違和感の正体であり、カリーナをこの場所へ誘導させるための最大の武器だ。

 前に言った通り、ダンジョン内に迷宮を作ると何が起こるか分からない。

 今回、魔物が存在できない迷宮が誕生したんだろう。


 その代わり、このような歪な道が出来たりしている。

 天然のトラップと言った方が正しいのかもしれない。本来は迷宮を作る上での副産物で、魔力的な効果は一切無い。ただ、目的の場所に届くのが遅れるだけ。

 そう、進んでいけば絶対に辿り着ける。

 魔力で次元に干渉したりしていない限り、ゴールはある。


「この迷宮の最大のトラップは、この迷路みたいな通路って訳か。さーて、どう攻略しようか……」


 おまけに、魔力探知を妨害している磁場でも発生しているかもしれない。

 その場合、一番簡単にゴールする方法は、自作の地図を作ってのマッピングになるのだが、もちろんそれをしている時間は無い。


 手っ取り早くこの迷路をどうにか出来ないか?

 この俺の持つ、限られた所持品達の中で一番役に立ちそうなのは……、やっぱり魔導書か。


 俺はすぐさま魔導書を開き、何か打開策は無いかと無造作にページを捲る。

 これも1ページずつ捲って確認しているだけじゃ時間が無くなるのだが、これしか方法は無く――


『魔導書へのリンクを開始しますか?』


 んん!?

 突然、頭の中に声が響く。

 その声は以前、満月の夜、カリーナが暴走した時に魔力で作られた甲冑の騎士達を作り出した時の声と同じだった。


 驚いている暇も惜しく、俺は後先考えず、その声を信じて叫んだ。


「なんでもいいから早くやってくれ!」


 その声が響き終わると同時、俺の視界が真っ白になった。

 体が浮いているような感覚に陥り、次々に視界が切り替わる。

 やがて本がびっしりと詰まっている本棚が空中にたくさん現れ、そこで視界は固定された。


「こんにちは、所有者さん。漸く君とのリンクが確立出来る魔力量に達したよ。今更になるけど、これからもよろしくね、所有者さん」


 背後から声が聞こえた。

 振り向いて確認すると、そこには小さな少女がちょこんと積み上げられた本の上に座っていた。

 黒く長い髪は後ろで1本の大きなみつあみに束ねられており、右目には小さなモノクルのような物を付けていた。

 白いワンピースを着ており、その琥珀の瞳は真っ直ぐに俺の方に向けられている。


「……君は一体……?」


「あ、ボク? ボクの固有名称は、魔導福音検索用集合魔力……って、分かんないよね。皆からはサーチって呼ばれているよ」


「難しい事は分からんが、とにかくよろしくサーチ。早速で悪いんだが、俺には時間がない。今の状況を打破できるとっておきの魔術が欲しいんだが」


「時間がない……ね。まぁここにいる間は外の時間とか気にしなくていいよ。ここは言わば君の精神世界。正確には君と魔導書を繋いでいるパイプの中なんだけど、まぁ簡単に言うと君の心の中だからね」


「……外の世界には干渉されないのか……。ってことはここでずっと時間を使ってられるって事か? それひょっとして、時間停止の1種なんじゃ……」


「まぁ、ここにいる間は時間を自由に使える事に代わりはないけど、勿論魔力を消費しますので永久にこの場所に入れる訳じゃないんだよ」


「そうか、それなら尚更早めにしないとな。って、大前提なんだが、ここでは何が出来るんだ?」


「ここは、ボクを使って探している魔術を引っ張ってこれるんだよ! ボクはこの魔導書の全ての魔術を知っているからね! 一番最初はどんな魔術がいい? あらゆる物を爆炎に包む地獄の業火? 世界全てを凍てつかせる氷結の波動? それとも対象を奈落へ引きずり落とす深淵と奈落の大穴? なんでもござれってね!」


「……じゃ、迷路を簡単にクリアできる魔術で」


 すると、さっきまで悠々と語っていたサーチがピタッと固まったかのように止まった。

 力の無い歯車のようなぎこちない動きで口を開く。


「……え、ええと。一番初めの魔術が……それ? 消滅魔術とかならこの迷宮ごと消せるのに? まぁ使うと反動で半年は仮死状態になるんだけどね」


「おい最後小声でなんつったよガキ。……じゃなくて、そんな大きな魔術を使ったら絶対に勇者にバレるだろ俺の正体が!」


「……うわぁ、今度の所有者さんはめんどくさい人だった……。まぁいいけど。じゃあこんなのはどう? 【心眼】っていう魔術なんだけど、魔力を《視る》んじゃなくて、そこにある様々な事象や因果をよく《視る》事が出来るんだ。今回のような強力な魔力の乱れが観測できる場所にはうってつけだと思うよ!」


「……ちなみに使っても脊髄損傷とかしないよな?」


「消滅魔術みたいにそこまで強い魔術じゃ無いから、今の所有者さんの魔力でも無理なく発動できると思うよ。あ、もちろん強い魔術も、所有者さんが強くなって、所持している魔力量が多くなれば簡単に使えるようになるから安心して頑張ってね!」 


「……あ、ちょっと待ってくれ。欲しがった魔術は分かったが、どうすればそれを唱えられる? ここでは探すことしか出来ないんだろ? どうすればすぐに魔術は使えるようになる?」


「大丈夫、前にも言ったけど、この魔導書と所有者さんとの間にはリンクが繋がっているんだから、所有者さんはもう魔法名を言うだけで唱えられるよ。まぁでもイメージ力が大事だから、本当は魔導書のその項目を熟読してからの方が効率もいいし強力になるからいいんだけど」

 

 ともかく、とサーチが手を叩く。


「じゃあこれ以上魔力を無駄に消費しないためにも、さっそく現実に戻ろうか。また魔術を探したくなったり、困った事があったら呼んでね。いつでもこの場所に連れてくるから!」


 そういうサーチは笑顔だった。

 まさか、悪魔の魔導書の中にいる人物が、こんなにも悪魔と掛け離れていた奴だとは……。少しだけ拍子抜けしてしまった自分がいる。

 というのも、悪魔の魔導書には悪魔が住み着いている、なんて昔、師匠に教えてもらった事があるため、もっとムキムキのガチムチ悪魔を想像していたんだが、サーチの見た目からして悪魔には到底見えな――。


「――じゃあ今回分の対価は、問題が解決したら請求するから、よろしくね!」


「………………はい?」


「はい? って、対価だよ? ボクの呼びつけ料と検索料かな。まさか無料で悪魔と契約しているつもりだったの!?」


「……いや、ほら、俺と繋がっている限り、魔力を少なからずそっちに供給してるだろ? それで十分対価に……」


「なりませんね。って事で後でよろしく~!」


「おいまてふざけ、ちょ、せめて対価の内容だけでも――」


 そしてまた、俺の意識が混濁した。

 現実の世界に戻ってきた時には、もう目の前の魔導書は【心眼】のページを開いたまま空中で制止していた。


「……背に腹は代えられないって意味、今なら誰よりも分かる気がする……」


 そんな事を呟いて、俺は魔術を唱えたのだった。







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