勇者パーティーとロイズの話
今回少し長いかもしれませんが、どうぞお付き合いください。
追記 ミスを訂正致しました。
「……それで、とりあえず俺の店にこの子らを置いてって欲しいって?」
「そういう事になる。どうかよろしく頼まれてくれないか?」
「そ、そういう事になるって、ちょっと待て。良いとか悪いとかの前に、本人達はどうなんだ? 言わなくても、訳ありだってのは分かるからよ」
それは俺も思ったのだが、ちゃんとここに来る前に話はしてあるから大丈夫だ。
亜人族の少女を代表して、1人の女の子が話す。例の、最年長の少女だ。
「わ、私達は暮らしていける場所さえあれば問題ありません。寧ろ、働かせて頂ける方が光栄です」
「だ、そうだ。丁度、人手が欲しいと言っていた事を思い出してな。一石二鳥だろう?」
「いや、人手が欲しいとは言ったけど、10人も俺のとこで引き取れるかってんだよ!?」
そんな店主の大声が店内に響き渡る。
確かに、そうなんだよなぁ。
亜人の……天弧族の少女らは総勢で10名もいる。
そして、言い方は良くないが、この【クロガネの宿】は然程大きい宿ではない。
メインストリートにある宿の方が大きいし、人通りもよくて売れている。
そんな中なら、人件費などの問題も出てくるだろう。簡単には決められない問題だった。
「せめて俺の店がもうちっと大きければなぁ……。確かに、人手は欲しいんだよ。しかも求人広告を出さずに雇えるときたらこんなに嬉しい事はねえ。この街、求人広告出すと一回で金貨10枚も取られるんだよ……。だから、この提案はありがたいんだが……なぁ」
「金貨10枚って……マジかぁ……」
広告料……そんなに取られるものだったのか……。
でも、確かにこの店で10人もいきなり雇うと、店が店員でぎゅうぎゅう詰めになるな。
かといって、この子達も放っておく訳にも行かないしなぁ……。
どうしたものかな……。と、俺が頭を抱えていると、ふと、シオンがこう言った。
「ならいっその事、この宿を大きくすればいいのではないのか? ここの立地だって横にも縦にも増築できるスペースはあるだろう?」
「……増築か……。確かに、シオンの案は悪いものじゃないよな」
「……まぁ、悪い話じゃないのは分かる。が、それは無理だ。単純に資金難だからな」
「……なるほど。では、資金面だけどうにか出来れば、増築は可能であると、そういうことでいいんだな?」
「……まぁ、そうなるけどよ、言っておくがマジで広告料とかの話と規模が違うからな? 規模っつーか、桁も違うし」
でも、そう反論されてもシオンは表情を崩さなかった。
まるで、宛があるみたいに。
「増築をするのなら、店内のやるべき事が増えて大変だろうが、店主殿の言う問題なら簡単に解決出来るだろう?」
「……なんでぃそりゃ。お嬢ちゃんらが出してくれるってのか? 額を考えろよ、額を」
「まぁ、別に我々から出してもいいのが、果たして足しにすらなるか? と思う……。それより、我々には頼もしい味方が一人居るだろう?」
ちょっと考えてみる。
俺達の共通の知り合いで金持ち……。
おい勇者、お前まさか……。
「ロイズ・クーデンタルト。私が知る中でこの街一番の金持ちだ」
「……ロイズ……って、まさかアイツに頼むのか? 無理だろうがそんなの! 大体、どうやって交渉する!? アイツはこの街の……商人のグラマスなんだぞ!? あっちが賛同するメリットがねぇんだぞ!?」
店主は無理だと反論した。
俺も確かに、そう思うが……。
だって、そうだろ? 店主の言う通り、あっちにメリットが何もないんだ。俺がロイズの立場なら、交渉はしないだろう。俺達と違って、交渉はどんな場合でも平等にしなければならないのが商人の掟であるらしいし。
「いや、大丈夫だ。話は付けてある」
だが、そんな俺達の疑問も、シオンは一言でバッサリと切り伏せた。
「……は、話は付けてあるって、どういう意味だよ」
「どういう意味も何も、そのままの意味だ。私がロイズと交渉した、その結果、私に【貸し1】が出来たんだ。その貸し1を使えばいい」
「貸し1って……いや、貸し1をしたのはお前だろ!? あの時、貸し1をしたのはお前だった筈だ! 勇者の貸し1だと、ロイズだって喜んでいたしな」
「話せば長くなるが、私が貸し1を貰ったのは本当だ。それで、その話って言うのがだな……」
が、シオンが話をする前に、この店のドアが開き、客が来たという合図の金属製のベルが鳴った。
そして、現れたのは……まさか、
「その話は私からするよ。君達も気になっているだろうからね」
そう、現れたのは……。
「……ロイズ、お前、なんでここに……!?」
「やっほーバルド。この店に来るのも久し振りだね」
まさか本人が来るなんてな。
これ多分、相当大事になっているんじゃなかろうか……。
なんて俺の疑念も知らず、ロイズは俺達の座るテーブルにやってきた。
宿の店員がお茶を持ってくる。ありがとうと言いながら、そのお茶を受け取った。
ロイズは店主の隣の席だ。
なんだろう……。対面にいる俺達の方が見てて気まずいような……。
「……さて、どこから話そっか。今なら何でも話してあげるにゃー」
そう言ったロイズ。
シオンに脇腹を小突かれた。どうやら質問しろと言っているみたいだ。
ああ、分かったよ。
「……じゃあ早速……どうやって勇者に貸し1を作ったのか、それを教えて貰いたい」
俺はロイズに向けて言葉を放った。
ロイズは少し笑って口を開いた。
◇
ユクスに促され、ロイズは話を始めた。
あの時の話だ。ロイズの持つ水晶を使って、カザイの居場所を見付けた、あの時の話。
私も、あの時の事は印象強く残っている。
そう、あれは――
カザイという研究者の居場所が分かると、ユクスはすぐにこの場を出ていこうとした。
正直、私にはカザイという男も、ユクスが何故焦っているのか、全く分からない。が、多分それはいつも通りのめんどくさい事に巻き込まれているんだろうと感じていた。
いつも勝手にどこかで厄介事に巻き込まれているし、今回もその限りじゃないと思っていた。
しかし、それをロイズは止めた。
「待ってユクス君。すぐに行くんじゃなくて、ちゃんと下準備をするべきだよ。恐らく、カザイもまだ準備の段階だと思うから、そのくらいの余裕はある筈だよ」
「余裕ったって……、カリーナが狙われてるんだぞ!? そんな暇は……」
「大丈夫、彼なら入念な準備がいると思うよ? だって、相手が相手でしょ? 今回をしくじったら、カリーナは流石に警戒する。だから今回ばかりはしくじれないの。その為に、入念な準備が必要なのね。まぁ、そうじゃない可能性はあるけど。それでも、私が彼なら間違いなくそうするよ」
何故だか、その言葉には妙な説得力があった。
そんな説得力を感じたのはユクスも同じらしく、彼も納得しているようだった。
商人ギルドのグランドマスター故の威厳だろうか。それとも別に何かがあるのだろうか。
「……分かったよ。で、俺の下準備って何をするんだ?」
「簡単なこと。カザイの情報を集めるんだ。そうすれば、何かと役に立つかもしれないしね」
「……何だか、未来を見通されてる気がするけど、まぁいいか。分かった、あんたがそう言うなら、そうしていく」
「うん、その方がいいよ。カリーナの捜索はこっちに任せておいて。多分ダンジョンの中に隠れていると思うから、この水晶で探すには時間と魔力が必要なんだよね。だから――」
そこでぐいっと右手を引かれてロイズの体の方に寄せられた。
いきなりの事で私は少し混乱した。
ただでさえ二人のよく分からない会話で混乱しているというのに……。
「君の勇者、ちょっと借りるね! やって欲しい事があるんだ」
「ん? ああ、まぁ分かった。が、別に勇者は俺のものではないぞ」
「そ、そうだっ!! 私は誰のものでもない!」
私は否定した。断固として。
だがまぁ、貸し1を作ってしまった手前、ロイズの頼み事を断れなかった。
本当は、ユクスと一緒に潜入捜査というものをやってみたかったのだが……。こればかしは仕方無いか。
「あはは! ごめんね、ちょっとしたグラマスジョークだよ! じゃあそういうわけだから、ユクス君、是非頑張ってね、潜入捜査!」
そしてロイズがユクスに近付いて何やら耳元で囁いていた。
「……後はよろしくね。便りにしてるよ」
その言葉は小さすぎて私には聞こえなかった。
だが、その時のロイズの表情は読み取れた。
あれは、緊張と真剣が合わさったような表情だ。
そして、ユクスは去っていった。
取り残された私に、ロイズが言う。
「じゃあ勇者様、話があります」
「なんだ? 私に出来る事ならなんだってやれるが……?」
「え? なんでも? じゃあパンツ頂戴! きっと売ればかなりの額に……きゃういっ!?」
ちょっと何を言ってるのか分からなかったから、取り敢えず頭に2発ほど鉄拳を喰らわせてやった。
加減してなかったら、もしかしたら血が出てたかもしれない……。
ロイズの茶色い髪の上からでも分かるようなたんこぶが2つ出来ている。ロイズは鉄拳を喰らって涙目だ。
「じょ、ジョークだよぅ……。場を和ませようと思ってさぁ……」
「下らんボケはやめろ。次は聖剣を抜刀するからな。……で、私に何をさせようって?」
「ああ、少しだけ魔力を水晶に流して欲しいんだ。私の魔力じゃ全然足りなくって……。勇者の聖なる魔力なら、少量でもかなりの魔力量になるから、そんなに取らないとは思うけど……」
「……最初からそう言えば良いものを……。まぁいい、早く水晶を持ってきてくれ」
「はいはーい、今出しますよーっと」
そう言うと、機敏な動きでロイズは水晶を持ってきた。
「改めて言うけど、本当にこれ、門外不出のアイテムだからね? バンバン使ってるけど、君達相手だから特別に使ってるんだからね? もしバラしたら……」
「バラさぬから早くやってくれ。さっきのユクスを見ていて分かったが、時間が無いのだろう? 早くするのが得策だろうに」
「本当に分かってるのかな……。まぁいいや、じゃあ早速だけど、この水晶の中に残存してる魔力を取り出して、新たに勇者様の聖なる魔力を注ぐんだけど、基本的には他のアイテム同様、普通に魔力を注ぐだけでいいよ。ただし、あまり魔力を入れ過ぎると、魔力過多で水晶割れちゃうから気を付けてね? 割ったら、色々と覚悟しておいてね?」
「……割らん割らん。私を誰だと思ってるんだ」
ほんとかなぁ……とジト目で私を見るロイズ。
そんな視線を向けるのと平行に、ロイズが水晶に何やらポケットから取り出した、小さな石のような物を近付けた。
するとどうだろうか。水晶に残っていた微弱な魔力を感知できなくなった。勇者である私が言うのだから間違いない。この水晶には米粒程度の魔力片すら感じない。
ロイズが取り出した、あの石のような物に吸収されたんだと察せた。
「ほう、何かと便利じゃないか、その石ころ」
「ああ、これ? 便利でしょ? 魔力吸収石って言うんだよ。まだ試運転の段階だけど、まぁ売れるでしょ。魔力の回収と吸収ができて、それでいて持ち運びしやすいデザインと来た。さぁこれは、皆買わざるを得ないでしょ……! ふふへへへ」
いや、なんの話だ。
しかも試運転って、まだそれ企業秘密なやつだろ。
「いいからもう魔力流すからな?」
「くれぐれも怖さないでくれよ?」
言われぬとも分かってるわ。壊したらもう何をされるのか、勇者である私すら想像がつかないからな。
とは言え、この水晶のキャパが分からないから、かなり最小限の魔力をちょっとずつ注いでいこうか。
いきなり魔力流して壊してしまうより、幾分もマシだろうし。
「ああ! もういいよ! 十分十分!」
「いや、全然足りないだろう。私の見立てなら、せめて今の5倍は入れられる筈だ」
「いやいやいや、今ので十分の魔力になってるから! あと5倍も入れたら、私がお釣りを返さないといけなくなる!」
「そ、そうなのか。分かったが、こんな少しだけの魔力で本当に起動できるのか? 私が注いだ量、ちゃんと把握して言ってるんだろうな?」
本当にこの程度で大丈夫なのかと、私はすごく不安になる。
いくら勇者の魔力だとしても、果たして起動するのか……。
――そう思っていたのは、どうやら私の杞憂に終わったみたいだ。
ロイズが水晶を起動させると、水晶が白く光出し、その光はやがて何かの地図を形作っていく。見覚えのある地図だと思ったが、それもそのはず、この街の外のダンジョン全域を含む、周囲一体の地図だったのだから。
さらに魔法の地図は展開していく。暫くして、ようやく動きが止まった。
「……これは、凄いな……」
私は、口を開けて驚きのあまり、その光景に見入ってしまっていた。
「これが、あの水晶の本当の機能……。勇者のような純度の高い魔力を注ぐと、本当の機能が発現するように設計されてたんだ……!」
ロイズもこの光景に感激しているみたいだ。
だが、そんなことよりも私はロイズに聞かなければならない事がある。
「ロ、ロイズ! これは、このアイテムは何だ!? 私が考える限り、このアイテムは、ただの人間が使えるようには設計されていないだろう!? そんな代物を何故お前が持っている!? お前の言う一族とは、何だ?」
私はロイズに詰め寄った。
そうだ、以前この水晶を起動させた時に使った魔力はロイズ本人のもの。その本人ですら、本来の機能を使えないという点を見ると、この水晶、誰が誰の為に用意したアイテムというのだろうか。
1つ言えるのは、このアイテムは人間が使うために設計されていないという事。
そんな物を何故、ロイズが持っている?
誰かから譲り渡されたか、あるいは……。
「これは、とある一族が作って、それを私が譲り受けた物なんだ。勇者、君の言う通り、このアイテムに一般的な普通純度の魔力を注いでも、ちょっとした範囲で探し物を見付ける事しか出来ないように設計されている。それでも君みたいな規格外の魔力にも対応してないケースもあるけど」
「……だから、あの程度の魔力量でいいと言ったのか。でも、その知識が有りながらお前は何故それを持っている? 【人間】であるお前なら、本来の機能は使えないと分かっているのに」
「……それは言えないよ。たとえ勇者相手にだろうと、その情報は売れない」
その眼は真剣そのものだった。
確固として曲げる事を許さない、そんな感情が込められていると理解した。
そしてロイズは腹を括ったように、言葉を紡いだ。
「だからさ、勇者。――私と取り引きしよう?」
「………………ふっ、ふははは! ここまで来て取り引きとは、中々に良い商人魂を備えているじゃないか」
「生憎、私にはこれくらいしか才が無いようでね。こんな時だからこそ、私の才能に頼ってみたんだ」
……何というか、一気に脱力した。
なんだ、ただの意思の固い商人だったじゃないか。
一瞬だが、私はロイズが人間とは別の種族なんじゃないかと疑ってしまったが、それこそただの杞憂に終わったらしい。
なら、ここは商人としてのロイズの話を聞いてみるべきだと私は思い、ロイズの言う内容を聞いてみた。
「簡単な話だよ。これ以上、この水晶の詮索をしない。この水晶について知っていることは他言無用。これが僕が欲しいもの」
「それで、見返りは何をくれる? お前の行動で、この水晶の情報は価値の高いものだと知ってしまったが?」
「見返りなんて、決まっているじゃないか。君には商人ギルドのグランドマスターから【貸し1】をあげるよ」
デジャヴ感があるのだが、まぁそれはいい。
まさか、そういう見返りだとは。
でもまぁ、悪くはないと思うが……。その【貸し1】を使う場面は果たして現れるのだろうか。
「大丈夫、君の【貸し1】も取り消すし、カリーナの捜索もタダにしておいてあげる。これでどう?」
「……分かった。それで手を打とう。今後私はその水晶について何もしない事を約束する。だが、その水晶を使って悪行を働くというのなら、容赦はしないからな」
「もちろんだよ! そんなこと、するわけないじゃないか!」
と、ロイズは言う。
ならその言葉、信じようじゃないか。
こうしてロイズとの取り引きは円満に終わった。
「交渉成立、だね。あ、そうだ、じゃあこの情報も特別にタダであげよっか。実はね、私達がそうこうしているうちに、ユクス君の方は終わったらしいよ、潜入捜査」
「そうか、良かった、無事なんだな」
「無事は無事なんだけど、ちょっっっと厄介事に巻き込まれてるっぽいんだよね」
「……! ま、またなのか……。あいつ、事ある事に巻き込まれおって……! ロイズ! 場所は!?」
「ええっと、メインストリートの一番大きな宿の裏路地だけど……って、早!? お、おぉーい! え、ええ……。もう居ないや……。じゃなくて! ここ、最上階なんだけどーーっ!?」
ユクスの場所を聞くと、私の体は既に動いていた。
この建物の最上階にあるこの部屋からなら、メインストリートを展望する事が可能で、それもメインストリートで一番大きな宿といったら見付けやすい。一瞬で場所が分かった。
私は間入れずに窓を開け、そして身を放り出す。後は魔法で落下の衝撃を緩和させて、ユクスの救援に行くだけだ!!
こうして私は目的の場所に向かい、亜人族の少女らと彼女らに囲まれているユクスに出会ったのだ。
そして話は【クロガネの宿】へと戻るのだが、水晶の件を上手く誤魔化す為に用意したロイズの話は支離滅裂で、それはもう、聞くに耐えない物だった……。
◇
「…………って言う訳なんだ。何か質問ある人は手をあげて欲しい」
ロイズがそう言うと、透かさず俺を含めた3人は天に手を掲げた。
ロイズの言う話が少し……いや、かなりおかしかったからだ。
「じゃあまずユクス君から行こうか。どこが分からなかった?」
「いや、話の内容は分かったんだけどさ。……シオンの【貸し1】を使って、シオンと交渉するのは分かった。シオンを相手に有利な取り引きが出来るからな。だけど分かんねーのはその後だ。なんでその貸し1を使ってまでした交渉が《勇者シオンのパンツが欲しい》なんだよ!? 意味わかんねーよ!? しかも全然応じてくれないから、自ら【貸し1】を作るだなんて、あんた本当に商人ギルドのグラマスか!?」
俺はもうありのまま思ったことをぶちまけた。
カウンターの方で受付の人が驚いて椅子から転げ落ちた二次災害には全力で謝った。
だが、俺の言葉から分かる通り、ロイズの話はメチャクチャだった。コイツら、俺が潜入捜査してる間になんて平和な話を繰り広げてやがったんだ。
「ちなみに俺もボウズと同じ意見だ」
店主も俺と同じ意見らしい。
というかその意見が大きくて、それ以外が見当たらない。
そして当の本人の勇者シオンは、顔を真っ赤にさせてずっと手を掲げたままフリーズしてる。とりあえず放置する事にした。
「別に、変な話じゃないと思うけどなぁ。だって勇者様のパンツだよ? 誰だって欲しいじゃないか。男なら欲望のままに欲するし、女なら勇者のような凛とした人が履いたパンツを履いて、自分も凛とした人になりたいと思うだろう? 少なくとも私は後者だよ」
「いやその理屈はおかしい。すごい叫んで否定したいけど、毎度毎度店員さんが驚くから我慢してやるが……なぁ勇者、今の話は本当なのかよ?」
ロイズはもういいや。
何でもかんでも事実だというような表情で話してやがる。ポーカーフェイスは得意のもんだってか。
なら話す相手を変えてやればいい。
俺は隣に座る勇者に視点を替えた。
「……い、いや、その、何というか……」
「……ったく、お前も大概だよなぁ。ロイズの言う与太話に付き合わされてよ。本当は全く違うんだろ?」
「そうだぞロイズ、お前の冗談話も時と場所ぐらい弁えろってもんだぞ。見ろ、被害者のあいつが困ってんだろ」
店主は店主でロイズを説教していた。
いや、何なんだよこの時間。
こんな無駄な時間を作るためにここに居るんじゃないし、早くカザイよりも先にカリーナを見付けて保護しなければならないってのに……。
天才は本当に頭のネジがぶっ壊れてやがるな。
こうなりゃロイズは諦めて、一人で闇雲に森の中を探した方が今ここでグズグズしているよりはマシだと思ったその時。
「ほ、本当だ! ロイズの話は間違ってない! だから私には【貸し1】があるんだ! も、もういいだろこの話は!」
シオンが声を荒げてそう言った。
その顔は熱があるんじゃないかと思うくらいに赤に染まっていた。
「ほ、本当なのかよ……。今の与太話って」
俺の言葉に、シオンは無言で解答する。
……いや待て、考えろ。
この手の話は勇者が苦手な分類だろ。仮にこの話が本当だとしても、それはそれで【貸し1】が手に入った事になるから別にいいとして、問題はその逆にある。
もし、ロイズの話が嘘で、パンツの話も何もなかったとして、勇者がそれを庇う理由はなんだ? ロイズから口止めを食らっているのか? 仮にそうだとしても、口止めした理由が勇者を納得させる物だったのなら、今の勇者を信じるのが得策なのでは……。
って、信じる、か。
魔族の、魔王の息子の俺が勇者を信じるのに、慣れてきたのが怖く感じてくるなぁ。
まぁでも、それが得策なら、それに応じるだけだな。
「……そうか。ならこの話は終わりだ。こいつがそうだって言うならそうなんだろうよ。悪いけど店主さん、ここは納得してくれ。というか、そのロイズならやりかねない事だろ?」
「……確かに、コイツは何考えてるか分からんし、時おり突拍子もない事をやらかすしなぁ。今回もその限りじゃないとは言えないしなぁ」
と言って、何とか理解はしたらしい。
納得はしてそうに無いが。
だがまぁ、この話はこれで終わり。奥にいる亜人族の彼女らには居場所を提供出来る事になった。
ただ、増築には時間がかかる為、暫くは数名だけがここに交代制で働きに来ることになり、残りの少女達は一時的に商人ギルドで預かるそうだ。
ともあれ、一件落着って訳だ。
ま、すぐに俺達は動かなきゃならないけど。
「……あと、カリーナの居場所が分かったよ。地図を持ってきたから、印のついてる場所らへんにいると思う。雨風凌げるような洞窟だから、他の場所に移動はしないと思うけど……」
そう、ついにカリーナの居場所が分かった。
時間も少し経っている。カザイだって動いている筈だ。
あの時見かけた黒い羽、見間違いじゃなければあれは……。
とにかく、早く蹴りをつけよう。
何故だろうか――
とても嫌な予感がするんだ。




