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シオンとの出合い

 シオンと出会ったのは、俺が魔王城を出てから3年が経った日だった。


 俺は人間の冒険者として、3年間生きてきた。魔物を狩り、依頼を達成し、その報酬で生活する。そんな日々を繰り返していた。

 幸いか、幼い頃からの鍛練により、そんじょそこらの冒険者は勿論、強い部類の冒険者にも引けをとらない強さを俺は持っていた。まぁ、強すぎて目立つと俺が魔族だってバレる恐れがあったから、極力目立たないで生きてきたけど。


 その日だって、一人で依頼をこなし、酒を飲んで寝るという1日の作業を変わらずする予定だった。

 だが、その日は違ったんだ。

 冒険者が依頼を求めて集う場所――冒険者ギルドの隅で武器の整備をしていた時、声をかけられた。


「突然ですまない。私と一緒に冒険をしないか?」


 と。

 話しかけてきたのは、ここらじゃ全然見かけた事がない少女だった。

 眼前の少女は、ピンク色の髪の毛を後ろで縛っており、頭のてっぺんからはアホ毛がピョコンと2本生えている。ノエリアに負けないくらい、整った顔をしており、一般的に見て美少女だろう。歳は俺と同じか、ちょい下か。

 装備を見る限り剣士らしい。軽めのアーマープレートに、膝上までの素材の良いスカート。そして、今までで見たことのない長剣を装備していた。


「悪いけど、俺は誰ともつるむ気はないよ。他を当たってくれ」


 少しぶっきらぼうに言ってしまった。

 だが、確かに俺は誰ともつるむ気は更々さらさら無い。事実、3年間の間、俺は誰ともパーティーを組んだ事がない。

 今と同じ風に、度々パーティーに勧誘はされたが、その都度拒否している。

 理由は、俺が他人を全く信用していない事と、俺が魔族――それも魔王の息子だということがバレないようにするためだった。前者は親父と側近の件のせい。後者は、まぁ限りなくこの容姿は人間なのだが、どこから漏れるか分からないから、極力他の人との接触は避けたかったからだ。


 そう言うと、俺は彼女から視線を外し、手元に残ったままだった、装備の手入れを再び始めた。

 彼女は、暫くすると立ち去っていった。

 厄介だったなと軽く溜め息をつく。

 それからまた、暫くすると俺の前に先程の女の子が現れた。前と違う点は、その手に1枚の紙が握られている事。


「そろそろ装備の手入れは終わった頃だろう? さぁクエストに行くぞ!」


 はぁ? なに言ってんだこの人。

 と言うことを視線で訴えたら、それに察した彼女がその紙を見せた。

 そこに書いてあったのは、クエストの名前とクエスト報酬、それとこのクエストに参加する人の名前。不自然な事に、恐らくこの女の子の名前であろう文字の隣に、綺麗な字で俺の名前とそっくりな言葉が書かれてあった。俺はこんなクエスト知らないし、こんな綺麗な字をしている訳でもない。


「いや、なにこれ?」


「普通に知っているだろう? クエストの紙だ。今さら何を聞くことがある?」


「そうじゃなくって、何で俺の知らない間に俺の名前が乱用されてるんだ? 俺は書いた覚えが無いぞ」


「私が代わりに書いておいた。さぁ、さっさと行こう。今回はブラックハウンドの群れの討伐だ。君ならこれくらい容易いだろうが、目ぼしいクエストはこれ以外になかったのでな。すまないが我慢してくれ」


「いや、いやいやいや、ちょっと待ってくれ。話が見えない。そもそも俺はあんたに名前すら名乗ってないんだが?」


「受付嬢に聞いたら、すぐに教えてもらったぞ」


「受付嬢……。てか、そんなことより、俺はあんたとクエストを一緒に受けるなんて肯定してないからな? 寧ろ、否定したんだけどな?」


「クエストの掲示板を見た中で、報酬金額が一番良いものがこれだったのだが、いかんせん、安全性の考慮からか、クエスト参加人数が二人からなのだ。どうせこのクエストを受ける予定だったのだろう? なら私と組んでも問題ないだろうし、なんなら、報酬は私が4割……いや3割でいい」


 うぐ、と魅力的な提案を前に心が揺らいでしまう。確かに、いつも一人で依頼をこなすため、一人でも可能な依頼ばかりで報酬が少ないとは思っていた。でも可能な限り節約して、1ヶ月に1度くらい贅沢は出来ていたんだ。

 でも、この依頼をこなせば、その贅沢が1週間は続けられる。なんて、なんて魅力的な提案なんだ!


「報酬3割は嘘じゃないだろうな?」


「勿論だ。勇者の称号を持つ私に二言はない」


「………………………」


 …………………………………………ん?

 今、何とおっしゃったのでしょうか。

 勇者とか聞こえた気がするんだが、気のせいか?


「…………え? 何に二言はないって?」


「だから、勇者の称号を持つ私に二言はないと言ったんだ」


「…………あの、あんた勇者なのか?」


「…………待て、私の事を知らないのか? 先月、各街に号外の新聞が配られた筈だが。見てないのか?」


 先月? いや知らない。

 ていうか、知るすべが無かったと言うべきか。


「……悪いな、俺は興味の無いものには全く関心を持てないんだ。先月なら、ずっと朝から晩までクエストをしていたな。新聞なんてここ最近ロクに読んでないな」


「そ、そうなのか。そういう人間もいるのだな。ま、まぁ、とにかく私は勇者だ。勇者のシオン・リンクライト。あなたは?」


「……俺はユクス。今日はよろしく頼む」


 俺達は軽い挨拶を交わし、渋々ながらクエストに出るための準備にかかった。

 とは言っても、やることなんて地図で目的地確認して、目星の場所を見つける事ぐらい。

 ブラックハウンドか。戦ったことは無いけど、遠目で見たことがある。薬草を採取している最中に、少し遠くの茂みに群れがいたのを見かけたんだ。狼みたいな体つきたが、素早いし、何より群れで行動する習慣が恐怖だろう。まず初心者なら足がすくむ事は確定だろうし、実際にブラックハウンドに殺された冒険者だって聞く。

 ブラックハウンドは初心者にとっての登竜門って感じらしい。


 ともあれ、気を引き閉めていこう。

 いやでも、相方が勇者だし、楽に狩れるんだろうなぁと思う俺であった。





     ◇






 雲1つ無い晴天の下、俺はシオンと目的地に辿り着く。その場所に正確な名前は無いが、一応ダンジョン扱いはされている森林だ。ブラックハウンドが多く生息する森林だから、ブラックハウンドの森なんて呼び方をしている冒険者もいる。


「ここか、ブラックハウンドが多く生息するという森は。見たところ、普通そうな森なのだが」


「油断するなよ。勇者の相方ってだけで緊張してるのに、俺と一緒にクエスト受けて、勇者が死んじまったなんて事件になったら、俺は生涯日の下を歩けねえぞ」


「なんだ、心配してくれるのか? 案外、見かけによらず優しいんだな、ユクス」


「……俺は自分の保身をしてるだけだ。ほら、さっさと行くぞ勇者殿」


「ああ、案ずるな。伊達や酔狂で勇者をしているわけじゃない。全ての人々に安寧を与える為に私は勇者になったのだ。この程度、造作もな……わきゃ!?」


 そう豪語していた勇者が草に足をとられ、盛大にコケた。幸い、傷なんかはつかなかったらしいけど、スカートが翻って中の淡いライトグリーンの下着が丸見えだった。


「……っ!! み、見たか?」


「あん? ガキのパンツなんざ興味ないから安心してくれ」


「なっ、私は18だぞ! 成人年齢を越えているからな!?」


「なんだ、タメだったのか。その低身長のせいで年下だと思ってたぞ。まぁ、兎に角先に進もう」


 わなわなと震える勇者を置いて、俺は先に進む。早くクエストを達成しなければ夜になってしまう。流石にこの森で一晩は過ごしたくない。危険すぎる。


「わ、私を愚弄するな!! 私にだって魅力は少なからずあるだろう!? ましてや勇者だぞ!? 勇者のパンツを見てその態度はどうなのだ!?」


 後ろで勇者が吠えていた。

 顔を熟れたリンゴみたく真っ赤にして。


「いや、じゃあお前はパンツを見られてどんな反応を期待したんだよ。遠回しにスルーしてやったんだからな、感謝さえしてほし「死ねえ!!」うごぉっ……!!」


 ドンッ! と鈍い音が森に響いた。

 あろうことか勇者が俺の脇腹を本気で殴りやがったんだ。勇者補正の入った筋力で殴られた俺は吹っ飛んだ。そしてそのまま生えている大木に背中を叩きつけられる。


「……ってえな!? 何すんだよ!」


 これ、人間だったらタダじゃ済まないからな!? 俺だったからこの程度で済んでるんだからな? けど、バレないように充分な痛みを見せるポーズはしっかりとしておきますけど。


「う、うるさい! このデリカシーの欠片もないバカ男が!! 乙女心を何だと思っているんだ!」


「知るか!! つーか、こんなすぐに暴力にすがる奴が勇者なんてこの国はどうかしてるわ!」


「何だと!?」


「何だよ! 正論だろうが! つか、それより俺は半ば強制的にこのクエストを受けることになってんだぞ! お前のせいでな! その態度はどうなんだ!?」


「それでも着いてきただろうが! 結局、了承したのは貴様だろう!? 態度など関係なかろうに!」


 深い森の中、俺達の声が響く。

 俺達はいがみ合った。本気の本気でいがみ合った。

 暫くすると、舌打ちをしたシオンが俺を置いて歩き出した。こう台詞を置いて。


「分かった、もういい。貴様はそこで待っていろ。ブラックハウンドなぞ私一人で十分だ。分け前は当初の3割でいい。貴様をパーティーに誘った私が浅はかだった」


 そして傷1つ無い状態で、シオンは帰ってきた。およそ10分程だろうか。魔物の急所とも、心臓とも呼べる核を10頭分手に持って。


 核とは、全ての魔物が持つ器官の1種であり、魔物の魔力を溜めるための内臓とでも表現しよう。この核を壊されると、魔物は生命活動を終了する。

 この核だが、各武器の精錬のために必要な材料になる他、倒した事の証明にもなるため、狩猟系のクエスト後はこの核を所持することが多い。一応、強固ではあるが、核ごと破壊してしまうケースも少なくないけど。その場合は尻尾や耳などが、討伐証明になる。


「貴様の取り分だ。持っていけ」


 シオンが持っていた核の中から7つを渡された。

 俺は何も言わずにそれを受け取った。


「今回は迷惑をかけた。2度と関わる事はないだろう。じゃあ達者でな」


「……そうかよ」


 そう言うと、シオンは颯爽と帰っていった。

 俺は暫く立ち止まって、シオンの背中をずっと見ていた。

 やはり、勇者と魔族なんて相容れる関係じゃなかったのだ。どうしてもウマが合わない。舌打ちをして、俺も来た道を戻るのだった。


 こうして、俺とシオンは最悪の関係で出会ったのだった。



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