勇者パーティーと作戦会議
無事、街に戻れた俺達は、既に活気が無くなった通りを抜けて、宿へと戻った。
宿の受付嬢に軽い挨拶をし、部屋へと戻る。
一応、部屋には防音魔法をかけて、他の人に声を聞かれないようにしておいた。話す内容が内容だし、念には念を入れて、っと。
ちなみにその際にシオンから『……防音魔法……いやもう何も言うまい……』何て言われたけど、これも多分、一般人には使えない魔法らしい。魔族ならこれが普通なのにな。
「さて、早速だが、まずは今日の出来事をお互いに話さないか?」
「ああ、そうしよう。俺も、そっちの商人ギルドの話は聞きたかったんだ」
部屋の備え付けのテーブル席に座り、俺とシオンは対面した状態になる。
まずは私から、とシオンが切り出した。
「まず私は、商人ギルドのグランドマスターである、ロイズ・クーデンダルトの部屋を訪れた。まぁ、色々あったんだが、最終的にロイズ本人と話せる機会が出来たんだ」
「なんだ、行ってすぐには話せなかったのか?」
「まぁそんなところだ。本題に関係ないから割愛させてもらうがな」
なんか、逆に興味が出てくるな。
どんな人なんだろうか、ロイズ・クーデンダルト。
「彼女の話を聞く限りでは、彼女の力を持ってしても、迷宮の場所は分からなかったという。だが、その手掛かりを持っている人物は突き止めたらしい」
「へぇ、やっぱ商人ギルドのグラマスは情報通だな。ま、考えてみりゃそうか。情報ってのは、言わば商人達の切り札らしいしな」
「なんだ、お前もそう言うのか。なんだって情報が大事なのか、私にはさっぱり分からんぞ」
「いやいや、考えてみろって。流行りのものが売れるのは当たり前だろ? なら、事前に何が流行るのか分かれば、それに合わせて物を売るだけで簡単に利益が出るからな……って、経済の勉強の時間じゃないよな。悪い、話を続けてくれ」
昔習った経済の勉強の成果がたった今発揮された。
将来、使うことなんて無いだろうと思いながらも、耐え続けて勉強したあの頃を思い出したら、何故か止まらなくなってしまった。
こんな時くらいしか使わないと思ったからだろうか。
何にせよ、反省しなければ……。
「ま、まぁ、それで、ロイズが探している人を映し出す水晶を……あっ、違う、なんというか……そそ、そう! 鏡だ! 鏡だからな!」
いきなり大声を出すシオン。
あまりにも唐突でとてもビビった。
防音魔法はついてるが、それでも対面の俺には無力なんだからな? 心臓止まるかと思ったわ!
「どうしたんだいきなり!? ロイズに口止めでもされてるのか?」
「い、いいから! ゴホン……。その鏡に映し出されたのは、青い髪の女の子……そして、その女の子と手を繋いで走るお前の姿があった。しかもこの街の近くのダンジョンの中だったんだが」
「……ん? と言うことは……俺達が探していたのは、カリーナの事だったのか!? あ、あいつが迷宮の場所を知ってる奴だとは……」
「それは私も驚いたぞ。その、カリーナという女の子と知り合いになっていたとはな。どういう経緯で知り合ったか、詳しく聞きたいんだが?」
ずいっ、と額に青筋が入ったシオンが顔だけ俺の方に向けてきた。テーブルに両手を叩きつけ、イスから立ち上がった彼女の顔は、笑顔なのか怒ってるのか、もはや分からなかった。
こ、こいつまた疑ってやがるな……?
前回は仕方無くギルマスに連れていかれたせいだし、今回だってそうだ。見知らぬお婆ちゃんに厄介事を頼まれただけだからな!?
つか、出会って早々罵倒される奴を知り合いにしたくないし!
「マジで頼まれただけだ! 変なお婆ちゃんに! 俺が暇潰しに商人ギルドの試験問題を解いてたら、車椅子のお婆ちゃんに、あの子に勉強を教えてあげてって言われたんだよ! そのまますぐに居なくなったから、とりあえず話をしたりしただけだ!」
「いつの話だそれ! というか普通、そんな簡単に見知らぬ奴と手を繋ぐ女性がいるか! まさか、お前……犯罪に……」
「よし分かった、今すぐお前は口を閉じろ! これ以上、話が絡まっちまう前にな!」
俺も負けじと睨みを効かせて立ち上がった。
バチバチ……と、メンチを切りながら、お互いに一向に引かなかった。
暫くそのままで、無言でお互い睨みあっていたのだが、どうもこのままでは話し合いが進まないので、とりあえず俺が冷静になって椅子に座る。
「……とりあえずその話は置いておいて、なんで俺がカリーナと手を繋いでいたか、だよな」
「……知り合った経緯はこの際置いておく。私達はもはや全体陸に知れ渡った勇者パーティーなのだぞ!? 勝手な行動はつつしめと言ったろうに!」
「分かった! 分かったから、その聖剣をしまえ! 危ねえよ!」
や、止めろ!
聖剣はマズイ!!
他人にゃ擦り傷でも、俺には大ダメージになるんだよ!?
……はぁ。
ともかく、俺は激昂するシオンを宥めつつ、俺は昨日の事を話した。
カリーナが商人試験に落ちた事、カリーナが変な奴等に絡まれた事、その際に魔法をぶっぱなして、顔が割れると悪いからがむしゃらに逃げた、と。
だが、その後の話はしていない。
別に、勇者パーティーに入りたかったカリーナを思って、とかじゃない。単純に、まだ俺自身、信じきれていない事があるからだ。確証を得られないで口走るのは得策ではない。
幻兎族、それが何なのかを俺は知るべきなんだと思う。俺だって禁忌の一族の事は知っているが、その深くまでは知っていない。
何か、行動する前に、ちゃんと準備をしてから行うべきだ、とは昔に散々言われたが、本当にその通りだと思う。
じゃあ今回も、ちゃんと準備、しなきゃだな。
「まぁ、そっちにも事情があるのは分かった。確かに、普段は新聞すら読まないお前なら、いきなり大陸全土に顔が割れていた、なんて大層なことになっているとは思いもしなかったんだろう? だからビビって逃げたのだな。全く、こういう時は小心者のくせに」
「し、仕方ねーだろ! 俺はあんまり人から敬われるだの、仲間になるだの、そういうのは好きじゃないんだよ。本当に仲良くすんのは、限られた少人数で十分だと思ってる」
「ほーう。その割にはあのカリーナにはかなり興味を持っているんじゃないか? どうした? 弱味でも握られたのか? それともやはり……」
「だーっ!! 違うっつの!! あっちから煽ってきたんだよ! 男たるもの、売られた喧嘩にゃ買わねばならんもんなんだよ!」
「そ、そんなルール聞いたこと無いわ!」
なにおう!?
なんだよ!!
と、再びテーブルを挟んで唸る両者。
今度は手と手を合わせて力比べの体勢になっていた。
ぐぬぬぬぬ、この馬鹿力、本当に女なのか疑うレベルで強いな……!
俺だって魔族の端くれだ! 才能なんて無かったが、俺の努力の結晶をナメんなよ!?
俺も負けじと力を込めて対抗する。
「お前今、心のなかで私を貶したな!? 分かるんだぞ!? 絶対に今、馬鹿力関係の貶し文句を思ってたな!?」
「お前自身も馬鹿力だって認めてんじゃねーか!! って、痛い痛い痛いっ! 強い強い強いっ! 分かった、分かった! 俺の負けだ! 俺が悪かったから離してくれーっ!!」
涙を浮かべ、そう悲痛な叫びをしたところで、シオンは解放してくれた。
結構力を使ったのか、息を少し荒くさせて椅子に座る。
「……最初から、そうしておけば良かったのだ。そうすれば、痛い目を見ずに済んだものを……」
「……マジで指無くなるかと思った……」
俺も痛めた指を交互に擦りながらも椅子に座った。
「……で、肝心のカリーナはどこだ? その後、森で何かあったんだ? というか、今になって思うんだが、何故お前一人で走っていたのだ?」
「……カリーナは森で見失った。どうも悪い奴等と揉めているみたいだった」
「……まさか、みすみす放置して逃げてきたのか? 悪い奴等から絡まれていたところを助けた癖にか?」
シオンの瞳が厳しくなった。
俺は慌てて弁解をする。
あんまりこの事をシオンには言いたくないのだが……。
ああ、仕方無い。また嘘を吐く事になるんだなぁ……。とんだ極悪人だな、俺。
って、魔族か……。ほんとに笑えない話だ。
「カリーナは、一人で森の中に逃げていった。俺を、逃がすために……。奴等は俺よりもカリーナを優先したから、俺は逃げることが出来たんだ。俺は、悔しいけど、あいつに1度だけ助けられてるんだよ」
多くの嘘と、本の少しの真実を織り混ぜて作ったその話を聞いて、シオンは真剣な表情で、こう答えた。
「……ユクス、君は……カリーナに借りを作ってしまったんだな」
「……ああ、そうなる」
でもこれは、案外嘘じゃないのかもしれない。
最後の最後、あいつは必死に俺をを逃がすために行動した。
あいつに殺されそうになったけど、あれは恐らく、カリーナであってカリーナではない。何故か、そんな気がするんだ。
だから、これは借りを1つ作ってしまった、という事になる。
さっきまで真剣だったシオンの表情が、急に柔らかくなったと思ったら、少し笑ってこう言った。
「……部下の借りは上司の借りだな。仕方無い、カリーナを助けよう」
「……シオン、お前……」
「ここまで聞いてしまったら、勇者たるもの手を差しのべねばならん。それに、カリーナは迷宮の場所を知る唯一の存在だ。もしかしたら、ユクスの言う悪い奴等とは、魔族の手先かもしれんしな」
「……そうか、ありがとな、シオン。お前が味方なら、何だって出来る気がするよ」
「私だって一人でやれることに限度はある。だからユクス達の力を借りてるんだ。さあ一緒にカリーナ救出作戦だな!」
「おうともよ!」
そして、俺達は明日の予定を組み立てた。
何をするのか、何を用意するのか、どこにいけばいいのか、散々話し、明日に備えた。
今日は夜遅い。
完全に帳が落ちた今、ダンジョンへカリーナを探す事は出来ない事が悔やまれた。
幻兎族なら大丈夫だと、無理矢理心を落ち着かせて、今日は眠った。
◇
「……それで、とりあえずここに来たって言うんだね? あのね、私だって忙しいんだからね? こうみえてね!!」
翌日、俺達はとある場所に来ていた。
それは、商人ギルド本部の最上階に位置する部屋。すなわち、商人ギルドのグランドマスター、ロイズ・クーデンダルトの元を訪れたのだった。
「悪いが、急用が出来てな。あなたにも一応、関係はあるんじゃないか?」
「……その口ぶり、カリーナの件かな? 彼女に何があったんだい?」
「……カリーナは今、悪い奴等に襲われているんです。あいつ、俺のために自分が囮になって、俺を逃がしてくれたんです」
「……君は、ユクス君だったかな。で、それで、君達は私に何をさせにここまで来たのかな? ただ話を聞いて欲しかっただけなら、何十回でも相槌を打ってあげるけど?」
ちょっと小バカにしたような口調でそう言った。
「ロイズ、単刀直入に言おう。あのアイテムをまた使ってくれ。人探しがしたい」
シオンがそう言った。
そう、人を探すことの出来るアイテムを、このロイズは持っている。
昨夜、シオンの慌てた口調に違和感を覚えたが、あの話自体は本当らしいので、それを使わせてもらえるよう、ここに来たのだった。
受付嬢には無理を言ってしまったけど……。
「……あれ? その話、ユクス君はどこまで聞いてるの? 返答次第じゃ、そこの勇者様の株価が大暴落するよ?」
「人を探せる道具だと聞いているが、違うのか? もし違うなら言ってくれ。実はシオンからはあまり聞いていないんだ」
「……はぁ、これは企業秘密なんだけどね?」
そう言うと、机の引き出しから、水晶を取り出した。
「あ、ユクス君、ちなみにこれから見るのは決して他言無用だよ? もしバラせば、君の事、骨の髄まで調べあげてあげるからね? その上で、君の性癖だとかを冒険者ギルドに噂として流してあげるから」
「……絶対に他言はしませんよ」
俺の事、バレれば完全にチェックメイトだ。
そうなれば、魔王の息子を勇者パーティーに入れた、こいつにも多大な迷惑はかかる。
そうならないよう、墓場まで持っていきますとも……。
「……素直でよろしい。それで、まずは交渉の話だよ。君達は対価として何をくれるのかな?」
「まぁ無料ではないよな……。そんな虫のいい話は無いはずだしな」
ここまでは想定通りなんだが、その対価をどうするべきなのか、それはいくら考えても分からなかった。金は一杯あるだろうし……。
結局、シオンが任せておけと言っていたから、とりあえず任せたのだが……。
「私も、伊達に商人ギルドのグラマスではないよ。商人たるもの、どんな場面でもきっちりするべきところはきっちりと、ね?」
「……なら、勇者である私に借りを1つ、で手を打っては頂けないだろうか?」
ずいっ、と、昨夜と同じ雰囲気を出しながらシオンがそう言った。
俺は慌ててシオンに話し掛ける。
「お、おい、いいのか? それ、何でもしますと言っているのと同じだぞ?」
「……別にいいさ。結果的に、その行動で迷宮が見つかるなら安いものだ」
俺にはそう言うシオン。
こいつ、俺のために……。
「……ぷっ、くくく。貸し1つ……か。いいんだね? それで」
「ああ、それで十分だろう?」
「うん、十分過ぎるくらいだね」
話は進んだ、が。
やはりシオンには申し訳無い。
俺のために……こんな、
「……自分のために、なんて思うなよ。確かにユクスのこともあるが、これが一番早く迷宮を攻略する方法だ。そう気に病むな」
「……ああ、悪いな。そして、ありがとな」
「はいはーい、いい雰囲気は他所でやってくださーい。そんで、誰を探せばいいの?」
「……ああ、その事なんだけど、実は二人いるんだ」
なに? とシオンが俺を向く。
でも、俺は最初から一人だけを探すとは言っていないし。
「ま、一人で二人でも変わんないよ。カリーナちゃんは確定として、あと一人は誰?」
「……カリーナと、あと一人教えてほしい」
それは昨夜、あの場にいた人物。
そして、一番の情報を持っているだろう人物。
その名前は――。
「……カザイ、という男を探してほしい」
そう、あの白衣の男性、カザイだった。




