魔族王子と商人志望の少女
投稿期間があいてしまい、すみませんでした。
またぼちぼち更新していきます。
翌日、十分な睡眠を取った勇者と共に、商人ギルドの本部の前まで来ていた。
間近で見る機会が無かったのか、勇者も『おー……』と驚いていた。
入口の扉を開け、大理石の床の上を歩いて進む。大きなエントランスにも勇者は再び驚いていた。
さて、俺達はこの商人ギルドのグランドマスターたる、ロイズ・クーレンダルトに話を伺うために受付カウンターに歩み寄る。
「あのー、この商人ギルドのグランドマスターの方に会いたいんですけど、今は大丈夫ですか?」
「ええと、すみませんが、ご連絡はお入れでしょうか?」
だよな、商人ギルドのグランドマスターだもんな。連絡入れてなければすぐに会えるはずないよな。
と俺は思ったのだが、そこに横槍を入れたのは勇者であるシオンだった。
「いや、連絡は入れていないが、勇者パーティーが来たと言って貰えれば通してもらえるか?」
「は、はひっ!? 勇者様でしたのですか!? す、すみません、只今確認いたします!」
そそくさとカウンターの後ろの部屋へと駆け出す受付嬢。
そこでフォローを入れたのが、隣の受付嬢だった。先日、カリーナの件で世話になった受付嬢だ。
「すみません勇者様。彼女はまだ新入りでして、勇者様の事を知らなかったのです。マニュアルの方をちゃんと読んでおくように言いますので、ご無礼をお許しくださいませ」
「い、いや、何もそこまで……。私は大丈夫だからそう畏まらないでくれ」
「ありがとうございます、今後ともよろしくお願いいたします」
ぺこりとお辞儀をする受付嬢。
この人は若そうに見えて、結構ベテランの香りがするな……。
そうしている内に、先程の受付嬢が帰ってきた。
「すみません! お待たせしました! グランドマスターから、勇者様のみでしたら面会をするとの事です。ですので、お連れ様は申し訳ありませんが、あちらの休憩スペースの方でおくつろぎくださいませ」
勇者1人のみ、ね。
警戒しているんだろうけど、まぁ妥当な判断か。
シオンだから、大丈夫だとは思うが……。
「じゃあそう言うことだ。万が一ってのがあるからな。用心だけしておけよ」
「大丈夫だ。私を誰だと思っている?」
そう言った勇者は、案内をする受付嬢の後に続いてカウンターの奥へと消えていった。
これであと俺に出来ることは、有益な情報を貰えるように祈るだけか。
せめて迷宮の場所程度の情報は欲しいところだ。
「……あ、あの。すみません、少しよろしいですか?」
「んぃ?」
どうしようか迷っていると、もう一人の受付嬢から声をかけられた。
やべ、いきなりだから変な声を出してしまった……。恥ずかしい。
「実は、カリーナさんの事でお話がありまして……。その、言いにくいのですが、今回も筆記試験は落ちてしまっていて……」
「……また落ちたのか……。これであと1回しか受けられないな。あいつもどうするんだろうかなぁ」
「……まだ、結果はお伝えしていないのですが、このままのペースですと、明日にでもまた試験を受けに来そうですので、せめてもっと勉強してから来てほしいと、お手数ですがお伝えして貰ってもよろしいですか?」
確か……1年に15回だったよな、一般枠での試験は。
まぁでも、あんな他人を嫌ってるようじゃ、俺も含めて誰も相手にはしないだろうよ。
というか、そもそもなんであいつは商人になろうとしているのか分からない。見た目は絶対に冒険者……それも前衛でバリバリ戦うタイプのものだし。
どうでもいいとは思ったけど、ここまで何に対して執着しているのかは気になるな。
ま、機会があればって感じか。
「毎度言うけど、そこまで親しくないからな? だから絶対に伝えてくれって言う頼み事は無しだ。機会があれば言うだけだから」
「それでいいんです。カリーナさんの事、よろしくお願いいたしますね!」
無駄に笑顔だった。
この商人ギルド側からすれば、毎日お金を持ってくるカモだというのに、何をそこまで心配するんだろうか。
魔族の俺には分からない心理……的な何かだろうか?
「ま、よろしくするつもりは無いけど、出会ったら言うさ。じゃあそういう事で……」
「何? またあんたなの。で、私に何の用?」
「……うぇ!? お、おま、カリーナ!? 何でここに!?」
「……私、あんたに自分の名前なんて教えたっけ? 教えてないわよね? あんた何なの? 私のストーカー? そういうのウザいから消えてほしいんだけど」
「……こいつ、相変わらず口悪いな……。別に今回はお前に会おうなんて思っちゃいねぇよ。前回のおばあさんも居ないしな」
「だったらどきなさいよ。私はそこに用があるんだから」
あーそーかよ、と俺は一端その場をカリーナに譲る。少し離れて受付嬢とカリーナの話を眺めていた。
少し話をしていた後、突然にカリーナが脱兎のように走ってこの建物から出ていった。
何事かと受付嬢の方を向く。
受付嬢の表情も、落ち込んでいるように見えた。
すぐに受付の方まで駆けていく。
「……何かあったのか?」
「……あ、いえ。その、試験の事を話していて、やっぱり、試験を受けられる回数の事を知らなかったみたいで……」
「ああ、だからあんなに絶望してたのか」
カリーナが先程、走っている時の表情がフラッシュバックする。
カリーナは、絶望を抱いて涙を流していた。
「……何をそこまで早く商人になりたいんだろうなぁ。別に一年かけてゆっくり商人を学べば良いだろうに……」
そう呟いた。
なんか、冷めたな……。
あんな表情を見てしまった後、嘲笑うなんて鬼みたいな事、俺はできないし。
なんなら、逆に興味が沸いたぐらいだ。
「すみません、私の言い方が悪かったかもしれないです……」
受付嬢がそう言う。
いや、根本的に違うんだろう。
悪いのは、話も聞かずに試験を受け続けていたカリーナだ。この話の責任を負うのはきっと、この人じゃない。
だからこそ、何をそこまで商人に拘る?
ここまで試験を落ち続けていると、どんなバカでも流石に何か思うことはあるだろう。
商人に向いてない、とまでは思わないだろうが、もっと勉強しなくちゃ、とは思う筈だ。
だが、連日、試験を受け続けている。
その理由はなんだ。
俺は、どうやらあの頭の悪いアイツに興味を抱いたらしい。
何かが引っ掛かる気がするんだが……。
「あの、そう言えば、こんな噂を聞いたことがあるんです」
ふと、受付嬢がそう言った。
「カリーナさん、あまり評判の良くない人と絡んでるって……。もしかしたら、そこに早く商人にならなくちゃいけない原因があったり……って、噂ですもんね、すみません。忘れてください」
「……さぁ、どうなんだろうな」
良くない奴等……ね。
俺は、再びその場を離れる。
そして考えた。
カリーナには謎が多すぎる。や、俺が知らないだけってのが殆どだけれども。でも、まぁ謎は多いだろ。客観的に見て。
そしてその一つに、金の工面がある。
決して安くはない金を払って、毎日商人になるために試験を受け続けている。
さて、その金を払い続け、尚且つ生活面でも金を払わなきゃいけない。そりゃそうだろ、生活費はバカにならん。
じゃあその金はどこから来る?
身なりからして貴族じゃない。
この街に冒険者ギルドは無い。周辺の森林系のダンジョンには定期的に金で傭兵を雇ったり、俺や勇者みたいに訪れた冒険者に頼むこともある他、商人試験等でも魔物の駆除はするからと、冒険者ギルドは必要ないらしい。
つまり冒険者ギルドが無い為、冒険者にとっての収入源である【ギルドの依頼】は使えない。小さい魔物の駆除なんかは商人ギルドでも承っているらしいが、報酬金は出るけども、その日暮らしが出来るような額ではない。
それらを踏まえた上で、あの噂。
さて、何かが見えてきたような気がするな。
噂の信憑性も上がってきた。
何か、あるな。
少なくとも、他人に言えない秘密をカリーナは持っている。
「少し、調べてみるか」
俺は、三度、カウンターの方まで歩く。
そして、受付嬢に『用事が出来たから、勇者には先に宿に帰っていてくれ』と伝えた。
そして俺は、商人ギルド本部を出る。
そう遠くに行ってない筈だ。
まずはカリーナを探さなくちゃな。
◇
街の広場を抜け、大通りの方面に行く途中の道でカリーナを発見し、今は彼女を尾行している最中だ。
そう言えば、先程カリーナにストーカーと言われたが、いよいよ本物のストーカーと言われても反論できなくなってきた気がするが、無視しよう。
通りを歩いていると、カリーナはふと止まり、辺りをキョロキョロと見渡した後、裏路地の方に入っていった。
お、ついに進展があったか?
俺もその裏路地の方に向かって歩いた。
すると――
「なぁねーちゃん。少しだけ俺らと遊ぼうよ~」
「つか、こんな裏路地に一人だけってヤバくない? なに? 誘ってんの?」
「ハハハハ! 無理矢理されたいんじゃねーの?」
「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ! ただ単に道をショートカットしたかっただけよ! あんた達と絡む気はないんだから!」
そこには男三人組とカリーナが言い争っている光景があった。
男達はカリーナを囲むように陣取り、しまいには彼女の細い腕を掴んでいた。
最初、やっぱり柄の悪い奴等と闇商売的な事をしているのかと思ったが、違うらしい。
これ、単に絡まれてるだけか……?
「いーじゃん、俺らと気持ちよくなろーよー?」
「は、離してよ! 近付かないで!」
「つか、こんな人目につかないとこなら大丈夫じゃね? やっちまう?」
「さんせー!」
「……嫌、来ないで……! 離してよっ!」
うわ、ガチだ。
しかもこんな狭い所じゃあのバカでかい太刀も使えないだろうし、何より3対1じゃ部が悪い。
あんまし顔を出したく無いんだけどなぁ……。
仕方無いか……。
「やーゴメンなー! 少し遅れたわー! 予約の時間まであんまし無いから、早くいこうぜ! っと、ちょっとすみませんねー! ほら、行くぞー」
っと、強引に男を払い除け、カリーナの手を取って路地裏を抜けようとした。
あまりに突拍子のない行動に、男三人はおろか、カリーナまでもポカンと口を開けていた。
「……って、待てコラァ! いきなりなんだテメェ!」
が、そう上手くはいかないもんだ。
いち早く、正気に戻った男に肩を掴まれた。
「おい、待てよ兄ちゃん。いきなりなんなんだよ。舐めてんの?」
「こっち向けよ、おい!」
強引に振り向かされ、男と対面する。
さて、これからどうしたもんかな……。
そう思っていると……。
「ったく、痛い目見たくなきゃ、金払ってとっとと失せろ。さもなきゃ……って、お前、その顔、まさか……勇者パーティーに唯一選ばれている魔法使いじゃ……!?」
んんんんん???????
「ん、んなわけねーだろ!!? 大体、そんな奴こんなところに来ねーよ!」
「そ、そうだよな……。ビックリさせんなよ。ったく」
――――――あい?
ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ。
え、俺、顔バレしてんの?
え? この街の、こんなチンピラにすら、俺の顔ってバレてんの?
ちょ、これはマズいんじゃ……。
確かに、勇者パーティーに唯一俺しか居ないってなると、存在感とかそんな事関係ないよな……。いくら存在感を無くそうとしても、二人しか居ないって……。
くっ……本当に盲点だった。油断していた。
これ、魔族に聞かれたら、色々と不味いことにしかならない運命が見える……。
勇者に正体がバレたり……、いやそれよりも勇者パーティーに魔族の……しかも魔王直属の息子が入っていたとなると、シオンの方にも面倒な事が起きる気がする……。
これは早急に策を練らなければ……。
「お、おい! 聞いてんのかテメー!!?」
「シカトくれてんじゃねーぞボケが!!」
「ぶっ殺すぞマジで!!!」
「――うるせええええ!!!!!」
ドゴォォォン!!! と、大きな音を立てて、周囲にあった物という物が弾け飛んだ。
ちなみにその中にはさっきの男三人組も含まれます。
「………やべ、やっちまった」
穏便に事を進めるつもりが、つい衝動的に魔法をぶっぱなしてしまった。
ちなみに無詠唱で唱えた魔法は【タービュランス】。風属性の魔法で、周囲の物を吹き飛ばす程度の魔法だ。詠唱つきでは割りと火力が出るが、無詠唱ではこの程度に収まる。
「……え、この威力……あんた、本当に……」
隣でカリーナが何か言っている。
が、それ以上に聞こえてくるのは野次馬の声。
ま、まずい。
この状況で無罪を主張するには証拠が足りなすぎる。
まずは、ともかく。
「と、とりあえず逃げるぞ!」
「え、ちょ、ちょっと!」
困惑するカリーナの手を取って、俺達はその場を後にした。




