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勇者パーティーと大商業都市

 大商業都市テルディア。

 人間国唯一の商業都市であり、その規模は国内でも首位を争うほどの大きな街である。

 街のメインストリートでは、数々の店が構えており、このメインストリートを歩けば、必ず欲しいものが買えると言われている程、多くの店がある。


 このテルディアは、大きく分けて3つの区間に分けられる。

 1つ目は、メインストリートを含む商業区。正門から入って、まず見えてくる区間だ。この区域が目当てでテルディアに来る客や冒険者はとても多い。その為、この区域はいつも騒がしい。が、それもこの街の味の1つである。

 メインストリートが大きい分、当然と言えば当然となるが、この区域が他の2つよりも面積比が大きい。


 2つ目は、テルディアの象徴でもある、大きな建物――商人ギルド本部を含んだ管理区。

 この区域は、商人ギルド本部とその周辺の場所を指している。

 言葉だけで言えば、然程大きくは思えてこないと思うが、商人ギルドの建物は、これまた大きいのだ。

 遠くの方から見ても、上に大きい分よく見える。

 商人ギルドはなんと10階建ての大きな塔のような建物であり、外見は黒塗りされているため、高級感がある。

 また、この商人ギルドでは、新人の商人を育てるための施設もギルド内で作られている為、一流の商人を目指す人達もこの商人ギルドに通っている。


 最後、3つ目だが、それは工場区。

 他の街へ輸出するような、簡単な日用品等を製造している区域である。

 この区域にはあまり人は見かけず、魔力で動くゴーレムが殆どであり、また、働いているのもゴーレムである。

 区域内の清掃や、設備の点検だけを人間がやるらしい。


 簡潔極まりなく説明するならば、以上になる。

 後の要所要所はシオンが説明してくれるだろう。

 ちなみに、先程の説明は正門にいた門兵から教えてもらったものになる。

 もっと詳しい説明はシオンがしてくれるだろう。

 まずは――宿探しから始めるか。







     ◇






「……マジかよ。テルディアのメインストリートって広いなんてもんじゃねぇぞ……。このメインストリートだけでも1つの街として認識できるレベルだぞ全く……」


 メインストリートの一角で、俺は嫌みたらしく呟いた。

 確かに、このメインストリートには色々な種類の店があって、買い物をするに当たって飽きないとは思う。

 だが、ただ1つの店を探して歩き回るのは、この広さでは苦行でもあった。


「一応、宿屋を見付けたは見付けたんだがな……」


「ははっ、あれは宿屋なんて言わねぇよ。つか、よく『部屋に空きが無いので、馬小屋でよければ貸し出せますが』なんて言えるよな。宿代めちゃくちゃ安くて心が揺らいだけど」


「ユクス、君は馬小屋で寝たいか? 少なくとも私は嫌だ。というかユクス、毎度毎度言うが、私も女の子であるんだからな? ただ勇者として選ばれただけで、元はしがない村娘だったのだからな? 身だしなみとかとても気を使うからな? な?」

 

「……や、分かってるよ。冗談だから怒らないでくれって」


 ふん、と鼻息を荒くしてシオンが俺を追い越して歩き出した。

 俺だって、シャワー室完備の宿に泊まりたいと思ってるさ。

 あまりの安さに心は揺らいだけど、シオンはほっとけば昼まで眠るような熟睡タイプだし、それほどまでに眠る事が好きなんだってことぐらい俺にも分かる。

 財布に余裕がある今、流石に馬小屋なんて泊まりませんよ。


 俺はぷんすこ怒るシオンを追いかけるように歩き出した。


「そう言えば、シオンはテルディアには過去に訪れた事があったんだっけか。なら、料理が美味しい店とか、いい武器を売ってる武具屋とかは知ってるか?」


「……そうだな、まだ数回しか来たことは無いが、私が気に入った店ならいくつかあったな。当時泊まった宿屋は、メインストリートの西側にある【クロガネの宿】という名前の店だったと思う。で、だ。その店主が結構な手練れの元冒険者であってな、一度模擬試合を申し込んでみたんだが、さらっと承諾してくれて、その後はもう……」


 唐突に語り出す勇者シオン。

 それはもう満面の笑みで。

 当時の頃を思い出して、感情豊かに話してくる。

 その感情だけで、話のイメージが出来た。

 模擬試合では、相手の剣筋はこうで~とか、それに対してこうした~とか、その時の技の駆け引きが最高で~だとか。

 

 気付けば、俺達の足はメインストリートの西側へと勝手に向かっていた。

 無意識の内に体がそうしたんだろうか。


 というか、今更ながらシオンの言う『当時』がいつかは分からない。まぁ勇者になる前の話だから、もっと過去の話なんだとは思うが。

 そういや、俺は勇者になる前のシオンをよく知らない。何をして来て、なぜ勇者に選ばれたのか、全くもって謎だ。今度機会があれば聞いてみようかな。


「……おっとー、昔の話をしていたら、その【クロガネの宿】に来てしまったー。無意識だから仕方ないなー」


 ……あ、この棒読み……。

 さてはコイツ、話をしてる内にその元冒険者の店主ともう一度戦いたくなったな? 無意識じゃなくて、故意でここに来やがったな……。

 あと演技が下手クソすぎる。


「……お前な……。まぁ、宿が取れるならどこでもいいけど、深夜にドガドガすんなよ。近所迷惑だからな?」


「な、なんの事だ? 私は別に『もう一度手合わせをしてもらいたい』なんて思ってもいないし、思ってもいないんだからなぁ!」


「……今なんで2回言った? ――ま、いいからさっさと入ろうぜ。ここ取れなかったらまた違うとこ探さなくちゃいけないんだからな」


「わ、分かっている。で、では開けるぞ?」


 シオンが店の入り口のドアに手をかける。

 と、その時にちょこっと俺はシオンに聞いてみた。


「ちなみにここの店主は何の武器を使ってた?」


「それは聞いて驚け、2つの長槍を自由自在……変幻巧みに扱う、それはそれは化け物のような人だった。中々懐に入れずに苦戦したんだ。次の手合わせはそこの所をカバーしながら戦っていこうと思っている…………あっ」


「……近所迷惑を忘れんなよ」


 へへっ、と子供のように笑うと扉に向き合い、今度こそドアノブに手を伸ばした。








     ◇







「頼もぉーーーーうっ!」


 ――バゴォォォン!!

 あろうことか、シオンは扉をドアノブごと殴り付けて店に入ったのだった……。

 吹き飛んだ店の扉は綺麗に柱に刺さっていた。


「いや入り方ぁ! 絶対おかしいだろ!! 俺達は普通の客だから! 道場破りとかそういう類いじゃ無いっつってんだろ! 店の人とか他のお客さん居たらどうするんだよ!?」


「……っと、すまない。前に来た時もこのように開けていたから、つい……。――前はこんなに扉は吹っ飛ばなかった気もするが」


「……お前本当に勇者かよ……」


 シオン・リンクライトを勇者として認めたこの国の王様に今一度問いたい。

 コイツは狂戦士とかバーサーカーとかの職の方が合っていると思いませんか?

 どのご時世に店のドア吹っ飛ばして入る勇者が居るんだよ。ああほら、店の周りに人とか集まってきたし……。


「おいバーサーカー、とりあえず周りの目が痛い。早く受付まで逃げるぞ。あ、あと扉の弁償代も用意しておけよ」


「……自分でもバーサーカーと言われて反論出来ない状況に陥っているのが嫌だ……」


 そそくさと俺達は逃げるように店の中を駆けた。

 玄関の扉を開ければすぐに受付があるような店の構造じゃなくて良かった。うん、本当に良かった。

 すぐの突き当たりを曲がると、晴れて受付が見えてくる。


 この宿の受付嬢も、この勇者の非常識な行動には耐性が無いらしく、その表情はひきつっていた。

 そらそうだ。いきなりバゴォォォン! だもんな。すみませんでした。


「……あ、あのぅ」


 受付嬢は震えた声で俺達に問う。

 

「……すみませんでした。コイツ、これ以上無いってぐらいに馬鹿力なんです。壊した扉も弁償しますので、憲兵だけは……」


 俺は深々と頭を下げる。

 隣のシオンも同様に『すまなかった』と言って頭を下げていた。

 が、それに対する受付嬢の返答が予想外だった。


「あ、いえ違うんです! そ、その、勇者シオン……さんです、よね?」


 ん? ん? どういう事だ?

 何が違う、と言うんだろうか。

 どこも違ってない筈。扉壊したのも、弁償しますと言った事も、全て事実だ。

 だが、どうも様子がおかしい。


「あの、少し待っていてください! 店主をお呼び致しますので!」


「……え? は、はぁ……」


 そのまま受付嬢は、奥の部屋へと走っていった。

 店主? 店主って、シオンの話に出てきた店主のことか? おいおい、また脳筋な未来が想像できるんだが……。

 シオンも『なに? 店主だと? ま、まさかな……?』と言いつつ、顔は何かを期待している表情をしていた。


 そして受付嬢が連れてやって来た店主。

 伸長2メートルも越えた、がたいの良いムキムキのオッサンだった。それはもう、睨むだけで人を殺せそうな、絵に書いたような筋肉ダルマだった。

 ――おいおい、冗談だろ?

 こんなのと小さかった時のシオンは戦ったって言うのか? いやいやいや、流石に違うだろ。この人はこの店の守衛さんとかだろ、きっと。

 

「……聞き覚えのある爆発音が聞こえたかと思えば、やはりお前か。なんだ、肉が付いてきてますます良い女になったじゃねえか」


「……そういうあなたもだ。どうしたらそんなに筋肉を付けられるのか、教えてほしいものだ」


 バチバチバチッと、両者の視線だけで火花が飛んだ気がした。

 しかも、シオンから察するにやっぱりこの人が店主で決まりらしい。

 小さい頃にこの人と戦ったっていうシオンは化け物か何かだろう。完っ全にバーサーカー認定です。


「ちょちょちょ、扉を壊したのは謝りますけど、俺達、ここで宿を取らせてもらおうと思って来たんですよ。なんでそんなにピリピリバチバチしてるんですかねぇ」


 ハッと気付いたのはシオン……ではなく、受付嬢のお姉さんだった。

 二人はまだ睨みあっている。しかもなんか不敵に笑い始めたし、これもう戦闘開始するぞ。


「シオン、落ち着けって。あ、それで部屋は空いてます?」


「あ、はい! 空いてるには空いてるんですけど……その、お部屋がですね……」


 お、良かった。

 何にせよ、部屋は確保できそうだ。


「1つしか空いてないんですよ……」





 ………………あぃ?






       ◇






「……っつーこって、この部屋に案内されましたとさ。あーあ、こりゃあ良い部屋だわ全く。見事なシャンデリア、窓を開けば美しい深緑と小鳥の組み合わせ、テーブルは綺麗だし、風呂もトイレも別にある。そして極めつけは――」


 ドスっと、この部屋の設備の1つであるベッドに顔から倒れながら俺は言った。


「この超キングサイズのベッド……なんだよなぁ。なんで1つしかないのさ、この部屋。そういう宿屋じゃないだろ……」


 シオンはと言うと、この現状もあまり頭に入っていないらしく、今ではストレッチをしている。何かの準備運動みたいだ。

 あーあ、こりゃ去り際に店主と内緒話をしたのが関係あるな。んま、十中八九、模擬戦的な奴だろうけどな。


「おいシオン、本当にこの部屋でよかったんだなー? 他でも良かったんだぞー?」


「ふっ、この宿でなければならないものもある。例えば、夕飯前の『軽い運動』や、食後の『簡単な運動』なんかもここでしか出来ないと思う。私はここで良かったと思うが、ユクスはそうは思わないのか?」


「……いや、まぁ俺はお前が良いならいいんだけどさ、そーゆーのに敏感みたいだしな、お前」


「……なんだ、その言い方は。私が何に対して敏感だと言うんだ。魔物の気配か? ご飯の匂いか?」


 はぁ、と俺は溜め息を付いた。

 コイツ、目が眩んでやがる。いや、正確に言えば輝きすぎて何も見えなくなってんだろうな。

 ま、それほどまでにわくわくしたんだろう。

 この化け物みたいな勇者をここまで奮い起たせるなんて、相当な化け物だろうよ、店主あっちもな。


「まぁ、お前に楽しみな事があるってのは分かったが、この街に来た理由を忘れるなよ。この街の近くにある、魔族が作った迷宮の情報を持つ奴を見つける事だからな。お前のそれは、ついでのもんだからな?」


「分かっている。でも今日はもう疲れただろう? まずは1日、十分な休息を取ってからでも遅くはないと思わないか? 今日はユクスも自由行動にしよう。鍵だって2つ貰ったし、問題ないだろう?」


「……シオンが良いなら俺はいい。が、くれぐれも無茶はするな。模擬戦で腕とか足の骨が折れたなんて絶対にやめろよ」


「もちろん、分かっているとも。それで、ユクスはどうするんだ?」


「……ホントに分かってんだろうな? まぁいい、どうせ止めれないんだから祈るしかないし。俺は少し街を見てまわる。夕飯まで時間はあるしな、少しでもこの街に慣れておかないとな」


「そうか。じゃあ迷子にはなるなよ。万が一のために、夕飯の時間になっても帰ってこなかったら、メインストリートの広場のベンチに座っていてくれ。そこなら私も迎えに行けるからな」


「あいよ、そーしよう。じゃ、ちょっくら歩いてきますわ」


 俺は立ち上がり、部屋を出ていく。

 ストレッチをしているシオンとすれ違う際、


「……無茶しない程度には頑張れよ」


 とだけ言っておいた。

 扉が閉まると同時に、元気な返事が聞こえた。








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