魔族王子と次の街
投稿間隔が空いてしまい、すみません。
失踪は絶対にしませんので、ご安心ください。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
大きな満月の光を浴びながら、俺はまた魔導書の1ページを捲った。
辺りは静かだ。シオンに、少しでも物音がすると飛び起きるからと言われて、今回は火を焚かずにいる。ま、火は焚かなくても近頃は夜も暖かいから風邪を引く心配は無いけど。
もちろん、結界魔法はかけておいてある。お陰で魔物はこの周辺には近付いてこない。
寝袋は1つしかないため、30分もの話し合いの後、交代交代で眠ることになった。ちなみに、その30分間の殆どの時間はどちらが先に寝るかが議題となった。
最終的にはシオンが先に寝ることになった。三時間経ったら起こしてくれと言われているが、ま、気の済むまで寝かせておいてやるか。俺は魔族だから別に1日や2日眠らずとも生活に支障はきたさないし。
と、いうわけで、俺は一人で魔導書を眺めていたのである。
やることが無いし、辺りに人もいない。
これは魔導書を読む絶好のチャンスではないだろうか。いや、断言できる。今読むべきだ、と。
読んでいくと分かるが、1ページ1ページに刻まれている情報量が多く、シオンが寝てから1時間は経ったが、未だに2ページ半しか読み終えていない。このペースで読むなら、完読まであとどのくらいの時間が必要になるのだろうか。
ただ、書いてある内容はとても興味深いものである。
例えば、1ページ目に書かれてあったのは【治癒】と呼ばれる古代の回復魔法。本の中では魔法ではなく魔術と称されてあったが。
この本には、【治癒】がどうやって対象を回復させているのかを事細かに書かれているのだった。
本によると、傷を【治癒】で癒す為にやっているのは、その傷とその周囲の皮膚の辺りに、『自然回復機能の向上』という効果を付与しているのだそうな。
その為、傷が大きければ大きいほどに効果範囲が広くなる訳だから、その分の消費魔力は大きくなるらしい。
そして、この【治癒】の効果は自身の持つ自然回復能力の底上げ、であるために、千切れた手足や穴の空いた腹などの重傷には効果が無い。今で言う【ヒール】と似たものらしい。ま、効果はこっちの方が断然に上だが。
なぜ、この本にこんな事が書かれているのか、俺は不思議で仕方がなかったのだが、この本にはその理由すらも書かれてあった。
魔術――恐らく魔法も――とは、イメージする事が根底であり、イメージを強く持つ事により、魔術はさらなる進化を遂げる。と。
何が言いたいのか、簡潔に説明するならば、イメージせずに魔法を使うより、その魔法で何が出来るのかをハッキリとイメージしながら魔法を使った方が強力だし、効果も高い。という事である。
確かに、今の魔族や人間が使う魔法とは、詠唱さえすればあとは勝手に発動される便利なもの、としか思っていないような節はある。
俺だって、回復魔法の深い内容なんて今の今まで知るよしも無かったし、こんな風になっているなんて思ってもいなかった。というか、こんなことすら今に生きる奴等は考えることすら頭に浮かばないだろう。
強くなる為の道は、すぐそこにあると言うのに、俺達は知らなかったんだ。
古代の人達が今の人達よりも強いとされている理由は、ここにあると思う。その強さの全てがこれでは無いだろうが、ここに書いてある内容を知っているのと知らないのでは段違いだとは思った。
2ページ目は火の魔法の基礎。
書いてある内容は、火の魔術の原理。回復魔術のページのような魔術名は書かれていなかったところを見ると、ここらのページは本当の基礎的なものしか書かれていないようだ。
さて、内容だが、基本的に俺達は魔術の詠唱と同時に、火の属性を持つ精霊、または悪魔の力を借りて発動されているらしい。
彼らとは一時的な契約を結んでいるらしく、こちらが払う対価は魔力だ。威力によって魔力の消費が増減するのはそのせいである。
ちなみに、回復魔法は誰と契約しているのかというと、天の遣い――つまり天使なんだとか。
今は3ページ目の途中だが、このページには氷の魔術について書かれてある。
半分ほど読んでいるが、所々にギャグやネタが挟んであるのが作者の性格を想像させる。
氷属性の精霊や悪魔は、仕事が遅くていつも作業が滞っている――恐らく伝えたかったのは、とど『こおる』だろうか……――らしい。
…………確かに周りの温度が低くなった気がするな。イメージのお陰だろうか。
とまぁ、こんな風に面白くないネタが度々挟んである。一体、誰を笑わそうとして書いたのだろうか。
こんな禍々しい瘴気を漂せていた魔導書にはイマイチ、イメージが違うと感じてしまい、俺は無表情で文を飛ばす。
ここも先程と同じような魔術の基礎の内容が殆どだった。詠唱やら何やらのページは後になるんだろう。
もうすぐこのページも読み終わるが、何やら背後で物音がする。
シオンがいきなり起きたみたいだ。まだまだ約束の時間には早いというのに。というか、疲れているんだからもっと寝てろってのに。
「……まだ一時間半程度しか経ってないぞ。どうした?」
「……いや、不意に目が覚めてしまった、らしい。さっきまで空中庭園で呑気に遊んでいた夢を見ていたが、いつの間にか起きていた。しかも、不幸にも完全に目が覚めたみたいだ」
「……トイレに行きたくなっただけじゃねーのか? 結界魔法を出ても、周囲に魔物は近寄ってこないから安心していいぞ」
「――誰がトイレに行くなんて話をした? デリカシーというものを学び直したらいいんじゃないか? あぁん?」
……寝起きってだけに、色々と口が悪いらしい。いるよなぁ、寝起き時は機嫌悪くなる人。
でも、今のは俺も悪かったと思う。反省。
「で、どうしたってんだよ。ちなみに俺も眠くはないぞ。寝袋に入っても眠れる気はしない」
「……夜明けまではまだまだ時間はあるだろう? 何か話でもしよう。寝袋じゃないが、毛布なら2つ程ある。これをくるんで即席のスープを飲みながら、眠くなるのを待つ、というのはどうだ?」
なんて、シオンが提案してくる。
俺は魔導書を読みたかったが、シオンがいるならこれは読めないな。
それに、即席のスープといえど、俺はこの薄味なスープをわりと気に入っている。俺もシオンも眠れないというなら、このスープを飲みながら、話をするのも悪くないだろう。
話す議題はなんだろうか。
これからの旅の事だろうか、それとも、他愛のない会話だろうか。
まぁいいか、時間はあるんだ。
とりあえず今は魔導書とか全部忘れて小休止を満喫しよう。
◇
さて、日が登り、太陽が照らす中、俺達は既にディープフォレストの内部を歩み続けていた。
太陽のせいか、視界は妙に透いており、シオンがコケる心配もない。
昨夜の会話のなかに、ふと、こういう話が出た。
これからの旅に、新しい仲間は出来るのだろうか、と。
確かに、旅をして行く中で、二人では不便な事が多い。
例えば、情報収集。確実に人数の多い方が効率がいい。
戦闘時だって、人が多ければその分、戦いは楽になる。
これから先、二人だけで旅をするというのも何だか効率が悪いように思えてくる。が、問題はその仲間はどこで出来るか、だ。
はぐれ魔族がいるといえど、事実上の勇者パーティーである。適当な冒険者をパーティーに入れるなんて出来るわけがない。
シオンは、俺を見た時に神から神託がくだったとか何とか言ってたけど、ようはシオンが認めなければいけないんだろう。
……つか、神託って……。俺魔族ですけど。神様に目は付いてるんだろうか。
はてさて、これから先にそんな人物が現れるかどうかは別として、一応この人間国には奴隷制度が存在している。亜人や禁忌の一族を捕まえて、そいつらを売り飛ばすという、人徳の欠片もない制度だ。
魔国ではこんな制度を魔王が立てようもんなら、ボイコットで国が終わりを迎えるだろうな。さてさて、どっちが本当の正義の国なのだろうかね。
話は逸れたが、俺はこの勇者パーティーに新たな人物を入れるのには賛成ではある。
理由は単純明白。デメリットよりもメリットの方が上回るからだ。
デメリットはただ1つ、俺が魔族だとバレる可能性が上がること。まぁこれは正直、勇者にもバレていない辺り、あんましバレないような気もするけど。
メリットは、先程言ったように、旅自体の効率が上がる。旅をする上で、効率というのはとても大事で、何をするにしたって早め早めの方がいい。それをするのに、人材は必要だ。
だから、俺は賛成派なんだ。
ここまでは俺の主観なだけで、当のシオン本人は一体何を思っているんだろうか。
ま、そんなの俺には分からない。
結局はシオンに付いていくだけだしな。
シオンが仲間は他に要らないといえば、それに従うし、傭兵でも雇うか! となっても異論は唱えないし。
……やっぱり訂正。ガチムチ傭兵集団だったら異論は唱えるわ。
ディープフォレストも、もうすぐ出口に着く頃合いになってきた。
出口を知らせるフォレストバタフライの群れが至るところで見られるのが理由になる。フォレストバタフライは、出入口付近によく群れて生息している為、その周囲に出入口がある事が分かるのだ。
丁度、シオンもフォレストバタフライの群れに気付いたようだ。
「あれがフォレストバタフライか。その個体で羽の色が変わっているが、それはその一匹が持つ魔力の大小で変わっているのか?」
「いや、フォレストバタフライの羽の色の変化は魔力によって変えられているが、それは周囲に自身の情報を伝えようとしているからだ。例えば、赤い羽は雌を意味しているし、反対に雄は青。交尾が終われば雌は黄色に変化し、雄は緑に変わる……だったかな。群れているのは、単に繁殖期だからだな」
「へぇ、なるほど。流石は博識の魔法使いだな。よくもまぁこんな情報を知っているものだ。――あぁ、勘違いしないでくれ。今のは単純に君を誉めているんだ。嫌味じゃない」
「分かってるさ、素直にありがとうと言っておくよ。実は、この知識はだいぶ前だが、ギルマスがギルド内で勝手に講義を始めた時に、勝手に知らされただけだから、大した情報でもないんだけどな」
「……ほぅ、あのギルドマスター、自分の店で講義をしてるのか。じゃあ相当頭は良いんだな」
「ま、腐ってもギルマスだからな。経験と知識は悔しいけど街でトップクラスだと思う」
「……なんだ、そこは素直なんだな、ユクス。もっとこう、突っかかるかと思ったぞ」
そこまで頭は悪くないでーす。
適当にあしらって出口を探す。
と、そこで俺達は舗装されている道を見つけた。
カールパントの街側の出入口は舗装されてなかったが、この道は舗装されている……。つまり、この道を行けば、目的の街まで行けるんだろう。
テルディアの街、か。
迷宮の詳細を知っている人物に会うのは、旅の目的だから仕方ないが、知り合いの魔族とまた会ったらどうしようか、なんて考えも生まれてくる。
実際、もう会う予定すらなかったフィルナに会い、あまつさえ戦闘もしたんだ。今度はどうなるんだろう。
フィルナはそうではなかったが、俺の事をクズや低能呼ばわりしていた教官もいた。フィルナのように何かを察して立ち振る舞ってくれる事もしてはくれないだろうし、その場合はシオンに魔族だとバレてしまう可能性が高い。
迷宮探索の前に、そのカバーだけしなければ。
例えば、お面を被るとか、喋らないとか、いっそのこと装備を新調させて、今よりもフードを深くしてもらうとか? まぁ、そこら辺は追々考えていくとしよう。
そんなことを考えながら、歩き続けて約10分。
フォレストバタフライの群れも居なくなって来た頃、俺達はついにディープフォレストを越えたのだった。
「……ようやく出れたな。シオン、怪我はないか?」
「もちろん無い。コンディションも良好この上ないぞ」
そう言いながら、軽く胸を叩く仕草を見せるシオン。
俺は視線を道の向こうの方へと変えた。
そして、思わず声を漏らしてしまう。
「……あれが、大商業都市――テルディア……。ありゃあ、圧倒されるなぁ」
遠くに見えただけだが、その凄さが分かる。
まず見えるのは大きな建物。恐らくあれはテルディア1の観光名所であり、人間国に2つとない場所。
そう、商人ギルドだ。
近くで見なければ、詳しい事は分からないが、遠くに見据えているこの状態で一番目立っているのは紛れもなくあの建物。
「テルディアが見えてきたな。そう言えば、ユクスはテルディアは初めてと言っていたな。私もまだ数回しか訪れた事はないが、有名どころなら案内できる。街に着いたら、まずは街を見て回らないか?」
「そうだな、是非、そうしてくれ。カールパント以外の街は全くと言っていい程に無知だからな、俺」
「……魔物や植物の知識はあるのに、周辺の街の事が分からないなんて、つくづく不思議な男だよな、ユクスは。まぁ、山籠りをしていたなら仕方がないか」
何やら自己完結してくれたみたいで助かった。
そう言えば、山籠りの設定だったっけ。
違うこと喋ると矛盾が生まれるから、この設定だけは覚えとこっと。
咄嗟に出た嘘が、こんなところでも活躍するとはな……。
「じゃ、案内はよろしく頼むぜ勇者様」
「ああ、承った。テルディアは結構複雑な構造をしているから、道は間違えるな。あと、はぐれないように。人混みも激しいからな」
そう言い合い、俺達はテルディアへと足を進める。
ようやく、旅のシナリオは一歩進んだのだった。
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