勇者パーティーと新たな冒険
また、書き置き投稿がミスってしまってました。
途中のものが投稿されていました。
すみません。
「ええ!? ユクスさん達、この街を出てっちゃうの!?」
開口一番、リラちゃんは驚愕の表情でそう言った。
俺はこの街を出ていく事を今朝、この宿の従業員に伝えた。リラちゃんはそれを聞いて、どこか泣きそうになっている。女将さんは「やっとかい……」と言いたげな表情をし、親父さんはいつも通りの無表情で、ただただ親指を俺に向けて頷いた。
ま、勇者パーティに入ったんだ、遅かれ早かれこの街からは出ていくさ。
「3年ぐらいかね……この宿にあんたが宿泊して。ま、いつかは巣立つとは思っていたさ。こら、リラも泣いてないでお見送りなさい」
宿屋の女将さんから俺はそう言われ、この宿屋の思い出を振り返った。
確かに、俺が魔王城を出てからはこの宿にずっと宿泊させてもらっていた。
正直な話、質の良さなら魔王城の方が上だ。だが、魔王城には無かった暖かさなあった。リラちゃんも、いつも元気に振る舞ってくれて、まるで妹のようだった。……なんて、そんな事思ったらノエリアに怒られるか。
「ユクスさん……たまには遊びに来てね? ね? 絶対だからね?」
「ああ、約束するよ。またここに戻ってくる。武器屋のゲイツさんとの約束もあるし、戻る用事が出来たら来るよ。うん、絶対だ」
「本当だからね!? 指切りしたからね!!」
そう言うと、リラちゃんは安堵したのか、少し落ち着きを取り戻したみたいだ。
ちなみに、シオンはまだ自分の部屋にいる。あいつは朝が弱いのか、寝坊の常習犯だ。今日も寝てるんだろうな。ま、昨日は迷宮探索だったし、俺は出発時間は何時でもいいから、別にいいけどさ。
「後は……あいつが起きるのを待つか。って、どこで待つかなぁ」
そんな事をぼやきながら、俺は特に目的も無く外をブラつく事にした。
暫くこの街には戻ってこないし、今のうちに思い出でも作っておこうか。
「冒険者ギルド……。入ってみるか」
暫く歩いて、俺はふと立ち止まる。
3年間、ずっとお世話になった場所だ。
色々あったなぁ。
俺の本当の実力がバレそうになったり、ギルマスに連れてかれた店の店員が俺の師匠だったり、後は他の冒険者と勇者とギルマスとかとで、盛大に宴会をしたり、ここのところはいつも賑やかだったな。
ギィィと音がして、扉が開く。
中はいつもと変わらない。まだ昼にもなっていないというのに、酒を入れている冒険者がいる。女性冒険者をナンパしようとして、逆に返り討ちにあっている冒険者がいる。依然として仕事をしないギルマスに呆れの視線を送る受付嬢がいる。
俺が3年間、よく見た光景が、まだそこにある。
きっと、ずっと変わらない光景なんだろう。
「……んぁ? おお、ユクスじゃねえか! なんだ? どうしたって、ああ、そうか。行くんだな、今日」
椅子に座って新聞を読んでいたギルマスが声をかけてきた。
そして、俺をみると何かを察したような口調に変わる。
「……ま、そう言う事だ。最後に立ち寄っておこうかと思ってさ」
「なるほどな。ま、ここには何もねえけど……そうだな、最後にユミちゃんのお尻でも揉んでくか?」
ギルマスが言うユミちゃんとは、ここの受付嬢をしている女性だ。
彼女はサッとスカートのお尻の部分を手で隠す仕草をすると、俺とギルマスを交互に睨み付けた。
いやあの、俺は何もしてないんですけど……。
「……ユクスさん、最後にセクハラですか?」
「……勘弁してくれ、そのハゲの言うことなんざ真に受けるな。これから疲れるぞ」
俺がそう言うと、『がはははは! 違いねえ!』とギルマスは笑った。
俺とユミは冷たい視線を絶えずギルマスに送る。
「……ま、ユミちゃんの事は冗談だ。まぁ、なんだ。これから頑張れよ、ユクス。自分の進む道が間違っていると思ったらここに戻ってこい。いくらでも話に付き合ってやる。から、これからの冒険は――ちゃんと楽しめよ?」
ギルマスに背中を叩かれる。
3年前の俺なら、こんな事をされると舌打ちして去っていたと思う。
が、今となっては――そうだな、悪くない。
「ユクスさん。勇者様とご一緒の冒険ですので、大変緊張はされると思いますが、気合い、ですよ。頑張ってください。応援しています」
ユミから応援される。
この3年間でユミとは大分コミュニケーションが取れるようになったな。あまり人とは話さないが、流石に受付嬢は嫌でも話す事になるが、最初は返事しかしてなかった。が、今では冗談も言い合えるような仲だ。
ああ、この関係も悪くない。
人間関係は複雑だと、誰かから聞いたことがあるが、本当にそうだろうかと疑う程だ。
そりゃあ、人間にも魔族にも裏の顔ならある。が、この人達なら腹を割って話せていたと思う。
「……約3年間、世話になった。また戻って顔を出す。じゃあ、またな」
「……ああ、行ってこいユクス!」
「……いってらっしゃいませ、ユクスさん」
振り向き、扉に手をかける。
すると、瞬間的に背後から複数の声が聞こえてきた。
「頑張れよユクス!!」
「応援してるからな!」
「僕もいつか君みたいな冒険者になるからね!」
「君はこの街の誇りだよ。頑張ってくれ」
「大好き愛してる!」
「勇者なんか越えちまえ!」
……なんか一人すごいカミングアウトしたような気がするが、ネタだろうな?
何はともあれ、何だかんだで俺はこの街の冒険者と仲はよかったらしい。
俺は振り返らず、背を向けたまま後ろに向けて手を振った。
そして、今度こそ扉を開いて外へ出た。
◇
一通り、俺は通りを歩き終えた。
ゲイツさんの武器屋にも行ったし、八百屋や精肉屋にも立ち寄った。
主要なところはこんなところだろう。
時間を確認すると、そろそろ正午になろうとしていた。
「……流石に起きたよな、シオン」
そう言って、勇者が起床している事を祈って、俺は宿屋へ向かう。
「ユクス、挨拶回りは終わったか? 昼間の内に、街を出るぞ。夜までには山脈を越えておきたいからな」
宿屋に入れば、食堂でシオンが待機していた。
テーブルの上にはコーヒーがある。
「……ああ、終わったよ。俺の方も準備は万端だ。いつでも行けるさ」
「そうか。なら悪いがもう少し待ってくれないか? 最後のコーヒーなんだ、もう少し味わわせて欲しい」
「別にいいさ。存分に味わってくれ。俺は荷物の最終確認でもしてるからさ」
優雅にコーヒーを啜るシオンは置いて、俺は荷物の確認をする。とはいっても、旅の軍資金はシオンに預けてあるし、武器は腰に携えてあるし、あとは――フィルナから受け取った魔導書ぐらいか。
この魔導書は、まぁまだ開かないでおこう。ゆっくりと時間がある時で、尚且つ俺が一人の時限定で読むとしよう。それまでは、腰の後ろに携えておくか。ここならマントでも隠せるし、誰も触らないだろう。
この魔導書は、文字こそ人間は読めないとは思うが、フィルナいわく、この魔導書からとても多くの闇の魔力が放たれているらしいし、他の人間が迂闊に近づくと何らかの被害が出るかもしれない。
だから、その意味も兼ねて、俺一人でゆっくりとできる時間がある時のみ、見ることにしよう。
「そうだ、なぁシオン。次はどこの街に行くつもりだ?」
「ああ、言っていなかったな。次の目的地は、ここから北へ向かった所にある大商業都市テルディアに行こうと思っている」
「……ああ、なんか聞いたことあるな。どっかの冒険者が、商業活動に尽力を注いでいる街って言っていた気がする。それに、商人を養成する施設とかあるんだろ?」
「ま、大きく言えば、そうだろうな。だが、あと1つ言っていないのがあるぞ。テルディアはこの大陸で唯一の商人ギルドがある場所だ。まぁ、我々冒険者ギルドに世話になっている人達は関係ないだろうが」
商人ギルドか。
確かに俺達には無縁だな。
商人に転職する気も無いし。
「ああ、ちなみにテルディアにはここからだと約1日かかるぞ。途中に森林のようなダンジョンがあるから馬車での移動はもちろん無理だ」
「………………マジ?」
コーヒーを飲み終えたらしいシオンが、コーヒーカップをソーサラーの上に置く。
清々しい程の笑顔で――
「マジだ」
言った。
…………………マジか……。
「てか、なんでそんな遠くの場所に行こうとしてるんだよ。何か特別な理由があるのか?」
「もちろんある。私達にとっては避けられぬような理由がな」
俺は何かを察して口を開く。
「ああ、もしかして迷宮か? 魔族関係の」
「確証はまだないが、9割型魔族絡みだとされている。テルディアの商人ギルドに、迷宮主を見たという情報があるらしい。だから、まずはそこに向かおうと思う。いいか?」
いいか? と聞かれて、俺は少し戸惑った。
が、すぐに表情を戻して答えた。
「俺はもう勇者パーティの一員だ。お前の行く道こそ、俺が通る道だ。だから、その質問は愚問だぞ」
「……そうか。そうだな。なら、向かうとしようか。コーヒーも飲み終えたし、荷物は全部【アイテムボックス】にしまったし、私は準備万端だ。ユクスはどうだ?」
なんか、さらっとアイテムボックスとか言ってたけど、スルーしとこう。
すごいレアスキルだけど、ここで突っ込んでもきょとんとされるだけな気がする。勇者だから、と言うことで割りきろう。うん。
「俺ももう大丈夫。さ、行こうぜ」
俺は宿屋の扉に手をかける。
扉を開け、太陽光を浴びながら、振り替えって受付にいるリラちゃんと、その隣の女将さんに言った。
「ほんと、3年間お世話になった。こんな俺に、格安で部屋を貸してくれて本当に助かった。また、この街には遊びに来るよ。だから、その時はまた部屋を貸してくれ」
「……うん! ユクスさん! ありがとうございました! ヘアピン、大切にするね! シオンお姉さんもありがとう! 勇者のお仕事頑張ってね!」
無邪気に笑うリラちゃん。
その笑顔はどこか、向日葵にも似たような明るさがある。見ていてとても気持ちが晴れ晴れしていくような感覚がある。
「ああ、ありがとうリラちゃん。今度は私ともどこかへ出掛けて貰えないか?」
「うん! 絶対だよ! 約束だからね!」
その様子を、満足したような顔で女将さんが見ていた。
俺はこの宿屋を出る直前に、受付に向かって深く頭を下げる。
――3年間お世話になりました。
と、心の中で呟きながら。
そして、宿屋を出た。
ふと、背後から、
「いってらっしゃいませ!!」
と大きな声が聞こえた。
――ああ、行ってきます。
今度こそ、俺達は歩き出した。
◇
街を出て、夕暮れになる前に俺達勇者パーティーは、ディープフォレストと呼ばれるダンジョンに入った。
道という道はなく、獣道のような所を何とか通るようにして進んだ。舗装された道など無い。成る程、どうりで馬車でここを通れない訳だ。
名前の通り、この森は深い。
この森林を構成している木々達の、その1本1本が太く、大きく、そして高い。
その大木達のせいで、太陽はおろか、木漏れ日さえも完全に遮られていた。時間的にはまだ太陽が仕事をしている時間なのだが、この場所だけが限定的に夜の世界に入ったかのようだ。
辺りはとても暗く、視界は悪い。
「視界が悪いな。周りに十分気を付けて進むぞ」
松明を持った俺が言う。
もちろん、先頭を歩く。
「先導役なら私がやってもいいが――」
「勇者様にそんな役を回せるかよ。いいから遠慮すんな。っと、ここ木の根で足を取られるなよ」
「そうか、悪いな。おっと」
視界も悪ければ、足場も悪い。
木の根や泥水などで足場に凹凸が出来ている。
油断していると、すぐに足を掬われそうだ。
「あと、こことそこも。あ、その木に直に触ると炎症を起こすから気を付けろ。あと、その草は、一時的にステータスが上がるが、その後に幻覚症状と麻痺症状に悩まされるからな。触れんなよ」
一つ一つ、丁寧に説明していく。
この森にある植物は、魔国のものと酷似している。だから説明が楽でいい。それでも、初見の植物もちらほら見るが。
「大丈夫だ。こんなことで足など掬われる筈などないだろう。だから、あまり心配はするな。これでも勇者だから――わっ!」
そう言いながら、泥道で滑って盛大な尻餅をつく勇者シオン。
フラグ回収早すぎないか? いつかはすると思っていたけど、早いなぁ。しかもまたパンツ見えてるし。
「――さっき私は何か言ったか? 言ってないよな? これからもひどい足場がある時は言ってくれ。私がこうなる前に、だ」
真面目な顔して、尻餅を突きながらもそう言った。そんな、睨まれても俺のせいじゃないからな? 俺はちゃんと言ったし。
てか、こういう事をする辺り、結構こいつってポンコツというか、天然というか……。
「はいはい、分かりましたよ。ほら、お手をどうぞ」
「……ありがとう……」
小さく呟いた。
視線はそらしながら。
それから、俺達はずっと歩き続けた。
魔法を用いて作られた時計があるため、このダンジョンにいても時間は確認できる。
簡易的だが、地図もある。勇者が露店で手に入れたものだ。その地図にはこのディープフォレストの大まかなマップが表示されている。
歩き続けて三時間が経った。
松明を交換した回数は5回。シオンが足を滑らせて転んだ回数は8回。俺が転んだ回数は1回。野生の魔物と遭遇した回数は4回。転びすぎてキレたシオンが斬り倒した大木の数は3つ。
シオンさんや、あんた転びすぎだ。
「……なぁ、そろそろ機嫌を直してくれ。いつまでもキレてるなって」
「……キレてない。怒ってもないし、不機嫌でもない。あと転んでない」
「……はいはい」
本人はキレてない怒ってないとは言うが、確実にキレている。背後からピリピリとした憤怒のオーラを感じるもの。
そのお陰か、周囲の魔物は一目散に逃げていくけど。
でも、ずっとこのままというのも嫌だ。
何度も言うが、この空気は昔から嫌いなのだ。
なんで歩くだけでこんなにピリピリせねばならんのだ。
もう、根本的にシオンを絶対に転ばせなければいいんだ。そうだ、そうしよう。
俺は不意に歩くことを止め、その場に止まった。
「……どうした? その道に何かあるのか?」
急に止まった事を不審がるシオン。
振り向きながら、俺はシオンに言った。
「……はぁ。ほらシオン。手を出せ」
「何だ、急に。幸運上昇のお守りでも渡そうとしてるのか? い、いらないぞ! 私は転んでなんかないからな!?」
泥だらけのその見た目でなに言っても説得力は微塵もないけどな。
俺がするのはそんなお守りのプレゼントなんかじゃない。てけ、そんなお守りなんであるのかよ。
「いいから、早く」
「……な、なんだ……」
恐る恐る差し出されたその手を強引に握る。
そしてまた歩き出した。
「……な、ななな何の真似だこれは!?」
背後でシオンが騒ぎ出した。
「何って、お前を転ばせない方法だけど?」
「て、手を握るなら最初に言え! いきなりだとビックリするわ!」
「ビックリでも何でもしてろ! これなら嫌でも転ばないだろ。ほら、もう少ししたら結界魔法とか張って野宿に備えるぞ。いいな?」
「…………わ、わかった」
それから、俺達は歩き続けた。
手を握ってから、シオンは転ばなかった。
こいつ、体幹とか体さばきとかはいいんだけどなぁ。足元が悪いとたちまちこれだからな。
前までとは違って、勇者があまり喋らなかった事が最大の不安なのだが、ピリピリした雰囲気は伝わらなかったし、別に言うこともないか。
そしてまた、しばらく時間が経った。
そろそろ休憩……というか野宿の準備だな。
「じゃ、今日はこの辺で野宿にしようぜ。テントか寝袋を出してくれ。結界魔法は俺が張ろう」
「……結界魔法も適正者は少ない筈なんだがな……。まぁ深くは聞かないが。さて、寝袋があったな。アイテムボックスから取りだして…………あれ?」
俺は結界魔法を周囲に張る。
これで睡眠中に魔物から襲われる事は無い。ちなみに結界魔法内で焚き火をしても、煙による中毒症状にはならない。もちろん、暖まる事は可能だ。
俺は野宿の準備をしているシオンを見る。
何やら固まっていた。
「おい、どうしたんだよシオン。今度はなんだ? 何があったんだ?」
するとシオンは振り向いて答えた。
「……なぁ、街を出る時、露店で寝袋を買ったのは覚えてるだろう? その時、私達って何と間違われていたか覚えてるか?」
「……ま、まぁな。あれだろ? ……こ、恋人。だ、だけどそれが何だよ、今さら。別に問題ないだろ? ただの誤解なんだし」
いや、これを見てくれ。
そう言ったシオンは寝袋を俺に見せる。
……明らかに大きい。一人用では、無いな。
「私達は寝袋を二人分注文したよな? そこで確認しなかった私の落ち度なんだが……」
またもや顔を真っ赤にして、視線を逸らしながらシオンは言った。
「この寝袋、2人で1つの寝袋に寝るタイプの寝袋らしい……。なんというか、その、カップル向けの……」
………………………マジ?




