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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
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49 動き始めた事態と、それぞれの動き その2【視点:アリエーゼ】

ブックマーク、ありがとうございます!!(*゜▽゜)ノ

いつも読んでくださり、感謝ですm( _ _ )m


今回、アリエーゼ視点で書いていくと、なぜかいつもよりも一人称の色が濃くなってしまいました。。。

文体を直すかどうかは未定です、すみません(´·ω·`)



 私の名はアリエーゼ=エンバッハ=ヴァルファラン。


 このヴァルファラン王国の第四子であり、兄二人、姉一人、弟一人を持つ、王位継承権4位の王女なのです。


 ふふ、何だか周りの方々は私のことをじゃじゃ馬だとか暴君姫ぼうくんひだとか呼んでおりますが、こう見えて花も恥じらう10歳の乙女なのですよ。


 乙女たる私は今、後宮内に設置された庭園にいます。庭園に咲く草花と微笑ましく会話をしているかのように、笑顔で向き合うのです。


 どうです?


 遠くから騎士の方々がこちらを見ておりますが、きっと私の年相応の姿に思わず口元を緩めてくれていることでしょう。


 あら? でもまだどこか堅い表情をされていますね。


 何故私が視線を動かしただけで、いつでも動けるように、と前傾姿勢に切り替わるのか……騎士たちの態度は実に不思議なものです。


 そんな態度をされては私があたかも護衛騎士たちを振り切ってどこかに足を伸ばすことを警戒されているみたいではありませんか。


 心当たりは腐るほどありますが、全く失礼なお話です。


 私は目の前の美しい色合いで楽しませてくれる花々を眺めて、これだっと思う一本を茎からちぎって手に取る。赤が基調のカーネーションだ。その花を鼻元に近づける。花だけにね。なんつって! そしてその香りを静かに嗅ぎ、微かに感じるその匂いを楽しむ。


 くるくる、と茎を指先で回し、花の様子を360度眺めつつ、私は小さく微笑んだ。


 どうでしょうか、花を慈しむ聖女のような雰囲気を目指してみたのですけれど。


 騎士の方々をちらっと見ると、どうにもまだその顔色は優れたものではありませんでした。


 むしろ私の一挙一動に対して、さらに警戒心を強めているように見えますが、私という華奢でか弱い乙女に対してとは思えませんので、きっとこの場を護る者としての意識が強く出すぎてしまっただけなのでしょう。ええ、過去に確かに薔薇の花を投げて騎士たちの動きを牽制して城下町に遊びに抜け出した実績がありますが、まさかそれを覚えての反応ではないと願いたいですね。


 うーん、しかし、遠くの騎士たちはこの王城内の後宮の雰囲気に慣れていないのかもしれませんね。今までは護衛騎士たちは、私が外への政務時にあたる時のみ後宮外で合流して共に行動するのが常でしたが、どうも最近は後宮内で常時待機、という勤務形態が流行りのようです。という背景もあって、本来であれば女性主体で運営がされる後宮の景色に気持ちが追い付かないのでしょう。


 未婚の乙女が住まう後宮区画は独特な雰囲気ですからね。特に男性の騎士の方々はそういった雰囲気にのまれやすいのかもしれません。


 いいでしょう!


 その緊張、私の華麗なる乙女っぷりで、これでもかっていうぐらいの筋弛緩状態になるまで解してさしあげましょう!


 さて、何をしようかな。


 やっぱり緊張を解すには追いかけっことかがいいですかね。


 レジストンが全然教えてくれないから、噂の彼女を見るために、そろそろ王城外に遊びに行こうかなって思っていたところですし。


「アリエーゼ王女殿下、何をされているのでしょうか?」


「あら、ナタリアさんじゃないですか」


 背後から声をかけられ、私はその声の主に応えた。


 私は手元の花をくるくる回しながら立ち上がり、見慣れた専属侍女長の方へと向き直った。


 ナタリアさんはいつも私の身の回りの世話から、他の侍女や護衛騎士たちへの的確な指示を送ったりと、万能感たっぷりな私の信頼置く大事な女性です。


 ただ残念なことが一点あるとしたら、整った顔立ちをしているというのに、いつも眉間に皺をこさえ、太陽の光を反射して白く光るメガネをつけ、仁王立ちするかのように腕を組み、こうして私の前に立つことが多いことでしょうか。


 おかしいですね。


 私以外の人の前ではこんな腕を組むなどの姿勢は取っていないはずなのですが。


 まあ原因は分かってますが、分からないフリをして、笑顔を作ることにしましょう。ふふ、父王は国政で忙しく、母は貴族の方々との社交でほぼ後宮におりません。そんな中で甘えられるのは、やっぱり幼少期からともに時を過ごしてきたナタリアさんなのです。だから、これは精一杯の甘えなのです。


「もう一度お尋ねいたしましょう。何をされておられるのですか?」


「ええ、こちらの庭園にはとても綺麗な花が咲いているでしょう?」


「はい」


「私も恋する乙女……こうして綺麗な花咲く場所に足を踏み入れますと、花の一つも愛でたくなるものですわ。それでつい一輪の花を手に取ってしまったの」


「左様ですか」


「左様なのです」


「ですがアリエーゼ王女殿下」


「はい、なんでしょう」


「貴女に課せられた役目は綺麗に咲き誇る花を――それも庭師が成長過程や収穫時期を綿密に計算して育て上げている花を、その時期から外れて無残にも摘み取ることではありません」


「ま、まぁ……」


 ふと、いつもこの庭園を整備してくれている庭師の顔を思い出す。


 思わず素っ惚けたものの、私の背中に冷たい汗が一筋、流れていった。


 庭師たる彼は、人一倍、草木や花に関して造詣が深い。同時に愛情も深い。もちろん無碍に扱わないのであれば、こうして花を一本拝借したところで怒られはしないのだが……どうも「この花」を今摘み取ること自体まずかったようだ。


 計画を立てて育てていたのであれば、それを踏みにじった際の彼の怒りは私と言えど、ちょっと恐ろしい。


 試しにちぎった茎の断面に、手に持つ花の茎を合わせてみたが、当然くっつくわけもなく、パサッとカーネーションは土の上に横たわってしまった。


 私は恐る恐るカーネーションを手に取り、変わらぬ姿勢のナタリアさんに差し出した。


「こ、これ……ナタリアさんにプレゼントいたしますわ。受け取ってくれると嬉しいです」


「まあ、王女殿下のお気遣い、ありがとうございます」


 ナタリアさんは恭しく私のカーネーションを受け取り、にこやかにほほ笑んだ。しかし太陽の光を反射し続けるメガネだけが怪しく光り続けている。


「ですが私、情けないことに花に関する知識をあまり持ち合わせておらず。王女殿下のご厚意により頂戴しました美しい花を最悪、枯れさせてしまう可能性もございます。つきましてはこちらの花は、王城随一とも呼べる知識を有するジョンに育て方を教授いただきに参りたいと思います」


 ジョンとは、まさにここの庭師の名前である。


 花を愛する彼の前に、花が最も美しく咲く時期から外してちぎったカーネーションを持っていけば、きっと彼の額から角が生えるに違いない。


 不慮の事故で致し方なく取ってしまったのであれば、彼も鬼ではないので許してくれるだろうけど、きっとナタリアさんは「アリエーゼ王女殿下が気まぐれでこの花を摘んでしまったのだけれど、どうしたらいいかしら? おほほ」といった感じで言ってしまうことは過去の経験上、間違いない。


 私自身、そんなに花に思い入れはないから、ジョンに怒られる機会は今までなかったけど、後宮務めの侍女がお喋りに夢中で、足を引っかけて庭園の花をお尻で駄目にしてしまった時、恐ろしい悪鬼のごとく怒りを露わにしたシーンを遠目に見たことがある。


 不慮の事故には目を瞑る彼であっても、同じ事故でも情状酌量の余地がない事故については、当事者たちに厳しいのであります。


 ……アレを自分に向けられるのはご勘弁いただきたいところです。


 私は慌てて手を振って「待った」をかける。


「まま、待って、ナタリアさん!」


「あら、なんでしょうかアリエーゼ王女殿下」


「やっぱりその花は私が責任を持って育てますわ!」


「そうですか? ではお返しいたしますね」


 呆気なく私の手元に戻ってくるカーネーションの茎を掴み、私は思わずほっと息をついた。


 しかし、ナタリアさんが何の布石も残さずに、私にとって好転する材料を返すのは違和感があった。

そんな疑問を浮かべつつ、頭上を見上げると、にっこりと笑みを口に固めたナタリアさんのお姿が。


「では、きちんと王女殿下が花を育てられているかを確認するため、ジョンに毎日、花の状態を見るよう話を通しておきますね。『責任』を持って……育てられるのですものね」


「ええっ!?」


「まさか……この機を脱して、秘密裡に燃やして有耶無耶にしてしまおうだなんて……思ってないですよね?」


「え、ええ~……えーっと、えへへ~」


「うふふふふ」


 頬に手をついて笑うナタリアさんの威圧に押されて、私は目を泳がせる。


「ああ、それと……本来の仕事はいかがされましたか、王女殿下」


「…………えへ」


「まさかとは思いますが、昨日、就寝時間を過ぎているというのに部屋を抜け出し、王族であり未婚の身でありながら、深夜に、独身男性であるレジストン様のお部屋へと足を向けたことに対する罰――庭園の雑草処理が面倒になって、現実逃避代わりに別のことを考えていたときに、ふと目についたそのカーネーションをちぎってしまった……というのが、今、私の目の前にある光景というわけではありませんよね?」


「……」


 とりあえず、両手を胸元で合わせ、上目使いで「私、悪気はないんです」とアピールしてみましたが、鉄壁の精神を持つナタリアさんには微塵も効果はありませんでした。


「見たところ、全然作業が進んでいないようにも伺えますが……進捗をお伺いしても?」


「ええと……それがですね。ここはジョンが管理している庭園ですので、雑草の類があまり無く……」


「はい、存じております。ですが、ジョンはここ三日ほど陛下のご用命により、明日みょうにちの会議会場のセッティングのために席を空けております。常に庭園を万全の状態にしているジョンのことですから、それでも雑草の類はほぼ生えていないかと思いますが、皆無というわけではないでしょう」


 確かに……庭園に足を踏み入れた際に一通り確認はしましたが、ほんの僅か……1センチもあるかどうか程度の小さな雑草はいくつかありました。ですが……それをチマチマと抜く作業は……どうにも耐え難いほどつまらないのです。もちろん、それを正直に言えば拳骨が容赦なく落ちるので言いませんが。


「ジョンは本日の夕刻に後宮に戻るとのことですが……ふふふ、この千切られたカーネーションと、残ったままの雑草を見たとき、彼は何を思うのでしょう。彼には今日、王女殿下が先日の反省を踏まえて雑草を綺麗に抜いておく旨を伝えたら『高貴な御身に雑務をさせてしまうことは大変恐縮ですが、お美しい王女殿下に撫でられた庭園はきっと今後も繁栄することでしょう』と頬を緩ませておりましたが……」


「……」


 ほぅ、と困ったわ笑顔を浮かべるナタリアさん。


 私も非常に困ったわ笑顔を貼り付けて、額の汗を裾で拭った。


 今日はいい天気なせいか、とても暑いですね。


「さ、移り気も大概にして、真面目に雑草の処理をお願いいたします。王女殿下の反省も含めたものなのですから、きちんと自身の行動も顧みながら行うのですよ」


「はぁい……」


「雑草を綺麗に取り除けましたら、そうですね……このカーネーションについては私の方からジョンに口利きをしておきましょう」


「ほんとっ!?」


「ええ」


 なんと、まさかのナタリアさんが飴と鞭を使い分けてくるとは思いませんでした!


 ナタリアさんも幾度と私を叱ることで、飴の有用性に気付かれたのかもしれません。


 実を言うと、怒られ慣れているナタリアさんに叱られるのは気構えがあるのでいいのですが、初めて怒られるであろう庭師ジョンについては怖かったのです。


 慣れって大事ですね。


 そういう意味では、ジョンにも何度か怒られて習慣化しておく必要もあるのかもしれませんが、そのためには彼の沸点具合や怒り方、お仕置き手法などを予め調査しておかないと、覚悟ができませんので……それはまたの機会ですね。


 あ、別に私はマゾというわけではないですよ。痛いことや辛いことは可能なかぎり避けたいわけですが……それを抑えてでも湧き上がる好奇心の方が優先度が高いだけのお話なのです。


「それでは頑張って雑草を抜きますね!」


「はい、頑張ってください」


 そのあと、やる気を出した私は雑草をすべて抜き取り、勢い余って雑草と一緒に掴んで引き抜いた花も抜き取り、その数々を成果物として見せると、笑顔のナタリアさんに「お尻ぺんぺんの刑」を言い渡され、非常に痛い目に遭いました。


 しかも庭師のジョンにカーネーションに加え、無駄に抜いてしまった花々の話までされてしまい……。


 ナタリアさんの嘘つき!

 飴が全然機能してませんよ!


 しかし不幸中の幸いといいますか、ジョンは実刑後の私の涙目を見て溜飲を下げてくれたのか、特に怒らずに「次回から気を付けてくださいね」と優しく頭を撫でるだけで済ましてくれました。


 もしかしてナタリアさんのジョンへの「口利き」って……「お尻ぺんぺんの刑」だったのかしら、と、そんなことを考える日中の出来事でした。



*************************************



 とまぁ、そんな賑やかな時間を過ごした日中帯でしたが、後宮での夕食も済ませ、いよいよ夜の帳が降りる時間帯になりました。


 専属侍女たちが夕食中に就寝準備をしてくれた部屋は、ピシッとした雰囲気をいつも私に与えてくれます。


「アリエーゼ王女殿下、就寝前に心身をリラックスさせる紅茶などは飲まれますか?」


「ありがとう、いただきます」


 専属侍女の一人が紅茶の準備をし、他の三名が私の就寝用ドレスを手に持って私に着せようとします。


「あ、今日はそちらのドレスを着たいと思いますわ」


「あら、王女殿下。失礼ながら、こちらは外出用の軽装ドレスですわ。今からご就寝されるのにこちらは不要であると思います」


「今日は夢の中で冒険に出たいと思いまして。冒険と言いますと、やはり動きやすい服装が鉄板ではありませんか」


「まあ、それでしたら夢の中で私共がお着せいたしますわ。今は現実。大人しくこちらの就寝用のドレスへとお着替えください」


 悲しいやら嬉しいやら、私の専属となる侍女はどなたも優秀です。


 最初の頃こそ、こういえば仕方なく私の要望通りの服へと着せ替えしてくれたというのに、今では自然体の笑顔であしらわれる始末。人とは多くの壁を乗り越えて成長するのだと実感する瞬間ですね。


 気付けば私は寝間着姿へと変身しており、あとは紅茶を飲んで寝るのみとなってしまった。


「ではドレッサーを片しますね。明日はいつもと同じ時間に参りますので、それまでどうぞごゆっくりとお休みください」


「あの、いつも思うのですけれど、わざわざドレッサーを部屋から出さなくてもいいのですよ? 着替えの度に移動させるのは大変ではありませんか?」


「あら、うふふ……もう、王女殿下はご冗談がお好きですね」


「冗談ではなく、真面目な提案なのですが……」


「ふふふ、嫌ですわ、もう」


 はい、綺麗に流されました。


 まあ、私が侍女抜きで勝手に外向きのドレスに着替えて、思いのままに外へと遊びに出かけていた過去が原因で、勝手に寝間着以外に着替えないよう今のような措置が取られてしまったわけですので、文句は言えませんね。


 困ったわ、と頬に手をついてため息をついていると、ノックが響く。ナタリアさんが誰何を確認した後、私に許可を取って二人の騎士を部屋に招き入れます。こちらも恒例行事。今日の夜間帯に、私の私室の外を警護する方たちの紹介です。こうして毎晩顔見せすることにより、万が一、騎士を装って別の誰かが部屋に入ってきても、すぐに異変に気付けるようにする、という対策になるわけですね。


 入ってきた騎士は、一人は良く顔をみかける騎士で、もう一人は……初めて見る顔でした。アレ、と思わず首を傾げてしまう私を余所に、騎士二人が私の前で膝をつきます。


「王女殿下。本日は私共が警備にあたります。何卒よろしくお願いいたします」


 恭しく頭を下げる二人に「こちらこそ宜しくお願いします」と告げると、二人は顔を上げました。


 その顔には何故か緊張が浮かんでいます。庭園の時にもいた騎士たちの表情にどことなく似ていますね。


「王女殿下。畏れながらも発言をお許しください」


「別にそこまで畏まらなくても、私相手でしたら気軽に話してくださっても大丈夫ですよ」


 堅苦しい様式美は嫌いではありませんが、時に円滑なコミュニケーションを邪魔する場合もあります。


 自室でのやり取りに関しては、どちらかというと皆、気軽に会話をしてくれると助かる……というのが私の本心なのですが、中々浸透しないのが困りものです。


「ハッ。では申し上げさせていただきます。実は私の横にいる者ですが、トリノと言いまして、今日をもちまして初めて警護に当たる若手の騎士となります」


「ああ、なるほど」


 道理で見た顔でないはずだ。


 新人騎士は髪を後ろで束ねた若い女性のようで、今も緊張で塗り固めたような表情で私を見ていた。


 これはいけない、と「緊張しなくても大丈夫ですよ」という意味で微笑むと、彼女はなぜか一層、怯えを含んだ表情を濃くしてしまった。


 ……なぜに?


「つきましては……彼女は腕は立ちますが、護衛騎士としてはまだ未熟者であるが故に、極度の精神的負荷に耐えれる身ではありません。下手をすれば、あまりの衝撃に心臓麻痺を起してしまう危険性もございます」


「……ええと、何のお話でしょう?」


「王女殿下の護衛のお話です」


 どうやら私を護ることと彼女の精神的負荷や心臓麻痺には深い繋がりがあるらしい。


 ……なぜに?


「ふふ、そんなに警戒を強めなくても、ここは王城の深部――後宮です。外敵なんて早々ありえませんよ。ですから一応、王女たる我が身を警護する職であるとはいえ、そこまで肩肘張らずとも構いませんよ」


「仰る通り、外敵というより内敵の方が厄介です。ですので予め王女殿下に手心頂きたく、具申させていただきました次第であります」


 おかしいですね。


 私の意図とは全く異なるのに「仰る通り」と力強く断言されてしまいました。


 まるで「内敵=私」という構図が出来上がっているように思えるんですが、困ったものです。


 自業自得ですか?

 ええ、自業自得ですねー。


 でも自業自得の一つや二つで足を止められるのであれば、とっくに私は深層の令嬢となっているわけでして。私は騎士の具申を心の中でぐしゃぐしゃに丸めてポイッとその辺に捨てて「分かりましたわ」とにこやかに答えました。


 新人騎士は目に見えてホッとしていましたが、部屋を出るまでの間でいつもの護衛騎士の方が「油断するなよ」とか「ああ見えて、全然わかってないからな」とか「あの見た目に騙されるな。噂と真相が合致するレアなパターンがあのお方だと思え」などと無礼千万な小声が聞こえてきましたが、私は笑顔でそれを見送ります。


 絶対、今日抜け出してやる、と心の中で誓いながら。


 そんな決意を抱えながら、用意してくれた紅茶で喉を潤し、和やかな時間を過ごしていると、侍女の皆様が満面の笑顔のまま長めのロープを室内に持ち込んできました。


 私は「うふふ」と王族に相応しい穏やかな笑みを浮かべつつ、頭の中でベッドの周回りの長さとロープの長さを計算し、しっかりと私ごとベッドに縛り付けることが可能な長さであることを認識し、今回の新たな試みは斬新だなぁ、とナタリアさんを見つめます。


 ナタリアさんもいつもと変わらぬゆったりとした笑みで「お前、今日はこの部屋から出られると思うなよ」と視線だけで答えてくれます。視線だけで会話ができるだなんて、心が通じ合っている証拠ですね。



 ふふふ、王女である私に対して、本当に「容赦」という文字が無くなってきたなぁ、としみじみ思うある日の夜でした。



2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

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