43 謎が増していく便利な夢世界
ブックマークいただき、ありがとうございます(*'ω'*)
拙筆でお恥ずかしい限りですが、皆さまのお暇なときに読んでいただければ幸いです(*´▽`*)
初めて赤と邂逅した、あの日の漆黒の夢の世界。
気絶させられたり、気絶したり、と慌ただしく意識を失ったあの日は三度もその世界へと足を踏み入れたため、どことなく眠ればまた気軽に行けるんじゃないか程度に思っていたのだが、どうもそうでもないみたいだ。
この二週間で計測したところ、おおよそ三日に一回ぐらいの頻度であの世界に行けることが分かった。といっても統計というにはサンプリングが少なすぎるので、最低でも半年ぐらいは情報を蓄積したいところではある。だからといって未来に飛ぶなんて所業は元大魔法使いたるわたしであっても無理なので、今はこの二週間で判明した範囲で思考をめぐらす他ないのが実情だ。
ともかく――バラつきはあるものの、平均で見れば三日に一回。
それが赤のいる世界に行ける頻度であった。
ともなれば、睡眠時にそこに辿りつける機会というのは貴重なものであり、可能な限り無駄にはしたくない。
ここが娯楽も人もいないただの空間ならば、逆に三日と言わず一生見なくてもいい夢なのだが、赤がいて、さらに彼女が見たという知識保管庫なる存在。
その知識保管庫から持ち出してきたわたしの知識の一部が記載されたらしい本の数々があり、記憶の何割かが吹っ飛んでいる――わたしと同じぐらいの年齢の少女が本から吸収しては肥大化していく、謎の居住区。
ここには好奇心と探究心を刺激するものが日々成長するかの如く、その数を増していった。
「……」
はたして、ここは本当にわたしの夢の中なの? と引きつった表情でどこか俯瞰しているような感覚に陥る。赤という水を得た魚が、まるで雨蝕でもしてくるかのようにジワジワと陣地を増やした結果が目の前に広がっているのだ。
最初は白く切り取った、ただの正方形上の空間だったはずだ。
最初から紅茶だの、本棚だの、完璧なプライベートルーム化していたものの、まだ「部屋」や「家」と表現するには未熟なただの「場所」だった。
――それが気付けば、どうなんだろう。
眼前には二階建てのログハウスが建っており、短い階段の先には灯りを燈す電灯があり、ニスで艶が出ている落ち着いた色の木材で出来た外観は立派な別荘地であった。
因みにこのログハウス以外の世界は相変わらず、真っ黒な空間である。
ここだけが浮いている状態だ。
これ、一応わたしの中の出来事、になるんだよね……?
なんだか得体の知れない何かに浸食されているような気分に、思わずギュッと胸を抑えつつ、わたしは恐る恐る階段を上り、白木の正面扉を開けていった。
木造で統一された室内は、明るい狐色の世界と木目が調和し、そこに藍型の絨毯が敷かれてある。
玄関口でも見たが、しばらくぶりの蛍光灯の光が室内を明るく照らしており、蝋燭の火のそれとは桁違いの明度であった。
木製の椅子や長机、ソファー、冷蔵庫に台所。クーラーや換気扇まである……。
言うまでもなく3人生ぶりの科学文明の中で生まれた建築物や電化製品の数々である。
久しく、室内で「靴を脱ぐ」という習慣を忘れてきたこの身だが、視覚から舞い込んでくる懐かしき世界観に触発されたのか、無意識にわたしは玄関で靴を脱ぎ、裸足で絨毯の感触を感じた。
――ああ、こうして体感と同時に思い出すと……生活水準に関しては圧倒的に科学文明の勝ちだよね。
魔法や恩恵能力は、科学に依存した人々にはまさにフィクション・SFの的であり、羨望や想像上の理想に値するのだろうけど、逆に科学へと人類の進化が向かうことがなく、電気やガスなどの資源活用への道が開かれないことを考えると、メリット・デメリットというのは本当にうまくバランスが取れているのだろうなぁと思ってしまう。
魔法側に進化していった人類は自然と共に生きる傾向が、科学側に進化していった人類は自然を利用して生きる傾向が強いのだから、それが交わることはほぼ無いのだろう。
故にわたしも暫くぶりの科学文明は、思いのほかカルチャーショックが大きく、知っているはずなのに、どうしてもキョロキョロと周囲を見渡してしまった。これでは初めて都会に出てきた田舎者のようだ。
「……」
パコ、と冷蔵庫を開けてみると……リンゴ・ミカン・ナシの100%果汁ジュース(1L紙パック)が扉側の仕切りに入っており、冷蔵部には野菜などの食材が――入っておらず、代わりにコンビニ弁当が幾つか入っていた。
のり弁に、天丼、幕の内弁当、豚骨ラーメン……。う……、この冷蔵庫を開いた瞬間の光景、ラインナップは何処か既視感が……!
わたしは冷蔵庫を閉めて、すぐ隣の台所に目を向ける。
やはり、というか何というか……冷蔵庫に隣接するようにして、電子レンジが置いてあり、いつでも使えるように電源がつけっぱなしであった。
思わず眉を曇らせた。
静かに眉間を指で解し、大きく溜息をつく。
――なんでわたしは自分の夢の中でこんなにも疲れた気分にならなくてはならないのか……。
一階に奴の姿は無い……というか前回、奴は記録保管庫にいる間もわたしの来訪に気付いていたようなことを話していた。ということは、現時点でもわたしの存在を認識しているにも関わらず、一向に姿を見せないということは……。
二階への階段に足をかけ、一段、また一段と上層へ上がっていく。
二度踊り場を曲がって二階へと足を踏み入れたわたしは、思わず瞠目した。
第一印象は――図書館、だった。
言ってしまえば、図書館と言えるほどの広さはなく、純粋にログハウスの一階と同じ面積しか無いフロアだ。けれど、壁際をずらっと囲み、等間隔に所狭しと本棚が並び、どこか懐かしい本の匂いが鼻孔をくすぐった時、わたしは図書館を連想してしまったのだ。
戸棚全てが埋まっているわけではなく、端から徐々に持ってきた本……もしくは読み終わった本を置いて行っているのだろう。空棚と本が埋まっている棚が明確に分かれているようだった。
「…………はぁ」
驚きは一周回ると、冷静さを与えてくれる。
わたしはログハウスを見た瞬間は叫びだしたい感情が過ぎっていたのだが、こうも立て続けに「あり得ない」と認識している現象が目の前で展開されていくと、さすがに感情が迷子になって、最後にはジッと静かになるものだと勉強させられた。
本棚によって仕切られた狭い道を進んでいくと、すぐにちょっとした広間へとたどり着き、その最奥――壁際にかけられたハンモックに揺られて、目的の人物……赤を発見することができた。
「やあ」
「……」
やはりわたしの存在に気付いていたのか、特に驚いた風もなく、だらしなく横たわった姿勢から顔だけ上げて、テキトーな挨拶を向けてくる。
その片手にはやはり本があり、きっと今の今まで読書に勤しんでいたのだろう。
わたしはずんずんとハンモックの前まで歩いていき、バレー選手もあわやというアタックのようにジャンプからの平手打ちを赤の額めがけて撃ち込んだ。
「あいたぁ!?」
ごめん、冷静になったつもりだったけど、こやつの顔を見た瞬間、感情は元の位置にさらに一周して戻ってきてしまったようだ。
「な、なにするのさ」
「そりゃこっちの台詞よ! あんた、わたしの夢の中をどんな異次元空間に改造していくつもりよ!?」
赤は「あぁ~」と気の抜けた声を漏らしつつ、周囲をぐるりと見渡し、わたしに微笑んだ。
「とっても居心地がいいよ」
「こっちは精神的に居心地が悪いわよ! ていっ、ていっ!」
ペシペシと額を叩くと、さすがに読書どころじゃなくなった赤は「ちょ、ちょっと待って! 今、栞を挟むから、や、本叩かないで!」とわたしの手を左腕で防ぎつつ、どっから用意したのか栞を現在のページに挟んで本を閉じた。
それからいそいそとハンモックから降りてきた赤をとりあえず正座させる。
「……」
「……」
正座した赤はチラッと本棚に視線を送っては、正面のわたしへと視線を戻すことを繰り返している。よほど……本による知識の補完が楽しかったのか、最初に出会った頃のちょっとミステリアスなイメージは原子レベルまで崩壊し、今目の前にいる少女はもはや読書好きのニートそのものであった。
「三日前に……ここに来たときは、本こそ増えてたけど、こんなログハウスは無かったよね?」
「あ、そうそう! あの後読んだ銀の知識の中にこのログハウスのことが書いてあってさ。何だかとっても住みやすそうだし、本棚とも合いそうな室内風景だったから作っちゃった」
作っちゃった、じゃなぁーーーーーい!
薄っすらと、極限まで希釈された記憶の中に、確かにわたしは一時期ログハウスに住むことを夢見た時期があった気がした。きっかけは何だったか全く覚えてないけど、インターネットでログハウスの情報を漁っていた遠い日の記憶は微かに残っていたのだ。
多分だけど、その時の記憶を元に再現したのだろう。
でも狡いじゃない。
わたしは調べただけで、結局、ログハウスを購入する金も時間も無かったため、住むことは叶わなかったのだ。だというのに、赤はわたしの記憶を盗み見して、気軽に「アレ欲しいなぁ」ぐらいの気分で手に入れ、充実した生活? を送っているのだ。
それって、あまりにも不公平だと思ってしまうのは仕方のないことだと思う。
だからわたしはちょっと涙目で正座している赤の頭を再びペチッと叩いた。無意識だが後悔はしない。
「あいた。もぅ、銀ったら、子供みたいに拗ねないの」
「だって子供だもん!」
あ、いかん。
どこかで僅かに残っている理性が「また感情が粟だって精神年齢の低下が……!」と危惧したが、理性で抑えつけられるものなら、とっくに現実でも抑えていられるわけで……わたしは「うぅ~!」と目尻に涙を溜めつつ、何度も赤をポカポカと叩き始めた。
「わっ、ちょっと銀!? わ、分かったって! 私が悪かったわ!」
「わたしだってこういう家に住みたかった時期があったんだから!」
「そ、そうなの? ほ、ほら……今なら好き放題住めるんだから、落ち着いて?」
「夢の中だけしか住めないじゃないーーー! このクソニートぉーーーー!」
「くそにーとって何ーーーっ!?」
わたしの怒りの声と、赤の焦りの声が響き、それが鎮まるまで10分程度の時間を要することになった。
最後は二人してはぁはぁと息を切らしつつ、ようやく感情を発散したわたしに理性というものが「ただいま」と戸口を潜って帰ってきてくれた。
おかえり、理性。
完璧なまでの子供特有の癇癪を起した記憶はしかと脳内に残っており、両手で顔を覆いたくなる気持ちが強くなるけど、それと同時に現状に納得がいかないという不満の気持ちもあるので、何とか羞恥で逃げ出すことはなく、わたしは深呼吸を繰り返して少し髪がボサボサになった赤を正面に見据えた。
「こほん……、聞きたいことはたくさんあるけど、そうね。まず前回聞きそびれちゃったから、真っ先に確認したいことがあるんだけど……」
「ええ」
「ここにある本って、その……わたしの知識保管庫から持ってきてるのよね? ふと思うんだけど、そこから本を持ち出すってことは、わたしの知識も同時に抜け落ちていく、ってことにならない?」
「便宜上そう呼んでるだけで、あそこが本当の意味で知識保管庫かどうかは分からないわ。仮にそうだとして、確認するためには貴女自身に確認する他、方法は無いと思うのだけれど……どう?」
「……このログハウスについて記載されている本はここにあるの?」
「ええ、昨日読んだばかりの本はそっちの本棚に仕舞ってあるわ」
赤が指さす本棚を一瞥して、わたしは思い起こす。
このログハウスを見た時、確かにわたしは大昔にログハウスに関心を持っていた頃の記憶を抱いた。つまり……記憶や知識としてはきちんとわたしの中に残っている、という証明でもある。とはいえ、この一つを絶対的な証拠として扱うにはあまりにも危険すぎるので、おいおい他の知識でも検証をしておく必要はあるかもしれない。
わたしは一番近く――赤がここ最近読んだばかりであろう本棚から一冊の本を取り、パラパラとページをめくる。
とりあえず、この夢の世界が……住人であるわたしや赤が想像する物が具現化するという、何とも夢溢れた世界だということは理解した。
夢の中に夢溢れる、ってどういう現象だって言いたくなるけど、まあ夢とは元々本人の深層意識や願望などが都合よく顕現するものだ。朝起きれば、夢の記憶は薄れたものになるから人は深くそのことに意識を向けないだけで、この世界の記憶を全て明確に持って現実に帰るわたしだからこそ、より一層違和感を感じてしまうだけ、ということなのだろう。
便利な世界だけど、寝ている間しかここに訪れられないわたしにとっては、仮にここに全無料の遊園地が出来たとしても、さほど嬉しくないというのが実情である。
いや、寝ている時間を満喫するという意味では有意義なのかもしれないけど……何と言うか、ここで充実した時間を過ごせば過ごすほど、現実に戻った時の喪失感が半端ないものになりそうな気がするのだ。
ある程度、現実と夢というラインをしっかりと心中に抱き、けじめはきちんとつけておいた方がいいだろう。
さて、それはさておき――。
あまりにも変わり果てた様相に取り乱して無駄な時間を過ごしてしまったが、わたしはここに来た時に確認したい事項があるのだ。残りどの程度の時間があるか分からない以上、それを優先して動くべきだろう。
わたしはペラペラと紙を捲っていき、その様子を赤が眺めている。
「……やっぱり」
幾つかの記載項目を見て、わたしは前回のカレーのくだりの時に感じた違和感が形になっていくのを実感できた。
「? 何か気になることでもあったの?」
「赤……前回、確か――保管庫にある本は、わたしの記憶ではなく知識や情報の類、って話をしてたわよね」
「ええ、したわね。本の内容は情景というよりは……項目別の情報が箇条書きだったり、説明口調で載っているようだったからね」
「うん、貴女がカレーの作り方が二種類あるって口にしたとき、どうにも違和感を感じたのよねぇ。それで実際に本を読んでみて、それは確信に変わったわ」
「……どういうこと?」
わたしは本の無地の拍子をポンと叩き、実に興味深い面持ちで口の端を上げた。
「この本にはわたしが覚えていない……忘れている情報すらも残ってるの。つまり――わたしが一度でもその情報を目にすれば、たとえその後にわたしが忘れたとしても……この本には情報としてそれが残っている、っていうことね。自分で言ってて、どんな便利機能よ、と突っ込みを入れたい気持ちが強いけど……そうとしか考えられないわ。信じられないことだけど」
「へぇ……度忘れした時とかに役立ちそうね」
「まぁ……たいていそういう時って起きている状態だから、見たくても見れないんだけどね……」
わたしの返しに、赤は「それもそうだね」と苦笑した。
「ログハウスについてはぼんやりと記憶はあったものの、この本に書かれてるような外観から内装、間取りまでは当然覚えてないわ。だというのに、ここには明確に記されている。――いや、どちらかというと当時のわたしの興味が強かったために、細かい情報まで目を通したからこそ、この本にその情報が残っている、という言い方の方が正しいかもしれない」
「ということは、興味がない事柄は、記憶にあろうとなかろうと、本の内容も薄いってことね」
「そうなるかな。うーん、元々色んなことを薄く広く興味を持つ性格だと自分では思っているんだけど、過去にどれだけの多種多様な情報を仕入れているかは……過去のわたし次第ってことね」
しかし考えれば考えるほど、わたしの身体ってどんな仕組みになっているのだろう……。
一度見たものを忘れない、という人もいるという話は聞いたことがあるけど、わたしもその亜種的な位置づけなのだろうか。
そもそもこんな夢を見ている時点で、普通ではないか。
「何はともあれ、これは使えるわっ」
「そう、解決した? そろそろ私、読書に戻ってもいいかな?」
「待った待った! まだ話は終わってない!」
「……」
あからさまに「えぇ……」という不満顔の赤。
本当に読書、というか知識欲が氾濫を起こしているようで。少しは理性という堤防でも作って抑えてもらいたいものだ。
ぞわ、と体に走る感覚に、わたしは慌てて二階の本棚同士の隙間にある窓の外を見た。
音は聞こえないが、目覚めを予兆する空間のひび割れが生じているようだ。
黒の世界に、徐々に白が混ざり始めている。
「時間切れ、かぁ……赤、お願いがあるんだけど」
「なぁに」
「次に来るまでに、料理に関する本を優先的に集めてきてくれない? あと……できるのかどうか分からないけど、目録的なものを作って、どこにどういうジャンルの本があるかを明確化してくれると嬉しいわ」
「……つまり、司書になれってことかしら?」
「まぁ、似たようなもの……かな。料理系さえ集めてくれれば、あとは幾らでも本を読んでていいから」
本を読む時間が削れる……という思いがあったのか、やや返事が固い様子を受けて、わたしはそう付け加えた。
「いいけれど……でも、そんなに種類は無いかもしれないわよ」
「え、どういうこと?」
料理にそこまで感心は無かったけれど、関心が無いのはあくまでも料理であって、食べることは大好きである。となれば、二度目、三度目はあまり期待できないけど、最初の人生ではテレビやインターネットなどで食事繋がりで何かしらの情報を得ている可能性があるのだ。まったく覚えてないけど。
そりゃ興味のあるものよりは数は少ないかもしれないけど、そんなことは調べてみないと分からない話だ。そしてわたしの200年を超える情報量が、こんな小さな部屋で収まる本の数で埋められるわけもない。
だというのに、赤はどこか確信に近い形で「そんなに種類は無いかもしれない」と言った。 仮にそうだとしても、それは知識保管庫の本全てを読破して初めて言えることである。そこにわたしは疑問を感じたのだ。
「何と表現したらいいか分からないけど……私が入れる場所が限られているの」
「え?」
わたし自身がその知識保管庫に足を踏み入れていないから、どうにもイメージがつきにくい。場所が限られている、というのはどういうことなのだろうか。
「知識保管庫自体は……そうね、目に見える範囲だけでも広大な敷地だったと思うし、四方八方に通路が伸びていたから、私の想像以上に広いと思うわ」
「う、うん」
「けれど、私が……あの赤い奔流に乗って行ける場所はほんの僅かなの。他の場所に行こうとしても、見えない壁に阻まれるのよ。それに何の意味があるかは分からないのだけれど……今はっきりしていることは、ここの本棚にある本――その4倍程度の本しか私の活動範囲には存在しないの。だから、そこにある料理の本は持ち出せても、そんなに種類は無いんじゃないかな、と思うわ」
「そ、そうなんだ……」
な、謎が多い……我ながら。
機会があれば、一度わたしもその知識保管庫とやらに足を向ける必要がありそうだ。
そうこう言っているうちに、外が明るくなっていく。
もう目が覚めるまで一分もないだろう。
「それじゃ、拾える範囲でいいからお願いできる?」
「それぐらいなら」
「ほんと? お願いするわっ」
「ええ、これだけ楽しませてもらっているのだもの。それぐらいお安い御用よ」
赤は満足そうに微笑み、わたしもそれに呼応して微笑んだ。
やがて窓の外は完全な白へと変化し、ログハウスの室内すらも真っ白に照らし、世界は溶けて消えていった。
2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました