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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
67/228

37 エルフ的な種族や亜人がこの世界にはいるそうです

このところ投稿が不定期ですみませんっ(´Д`。)

仕事の諸事情により、しばらくこういう時期が続きそうですm( _ _ )m



 カラン、と音を立ててスープ用の浅めの皿に、スプーンが置かれる音が響く。


 それはスープを飲み終えた合図でもあり、レジストンがにこやかにこちらに近づいてくる合図でもあった。


「さて、体調は大丈夫そうかい?」


「あ、はい」


 プラムがベッドの横に座る中、彼からの問いかけにわたしは素直に頷いた。


 スカートの裾を伸ばして座りなおし、改めて眼前まで近づいてきたレジストンを見上げた。


「それは良かった」


 にこり、と微笑む彼の表情は非常に優しいものに見えるのだけれど……何故だろうか、同時に黒いものにも見えてしまう。


 ああ、前世で女王職に就いていた際――、隣国との会食の予定を忘れててすっぽかしてしまったことがあったが、その時にわたしを迎えに来た宰相が「少しお話があります」と口にしたときの微笑みと似ている……。


「目を覚ましたばかりで申し訳ないんだけどね、ちょっと今、話をまとめておきたいことがあるんだ」


 レジストンは僅かに眉を落とし、やれやれと首を振った。


「まさか今日の今日でここまで状況に変化が生じるとは思わなかったからね。これは一旦、白紙に戻すことになりそうだよ」


 と、ヒラヒラと二本の指でつまんだ紙を見せてくれた。


 何かと思ったが、よく見ると今朝方、わたしが読んだ彼の置手紙であったことに気付く。


 それが白紙になる、ということは、つまり囮だの何だのの計画が全て頓挫……もしくは考え直す必要性が出てきたからだろう。


 ――もしかして、やっぱりあの化け物が……。


 そう思い、窓の外へと視線を向けるが、特に土煙が見えるわけでも、王都民が逃げ惑う声が聞こえるわけでもない。まさに日常風景――何事もない、普段通りの王都の空が見えるだけであった。


 おかしい、というのは宿屋の自室で普通に目を覚まし、プラムたちがわたしの身を案じている時点で察している。


 仮にあの八本腕の獣がこの世界に降り立ったのであれば、世界の空は血の色に染まり、阿鼻叫喚を響かせるか……すでにその時期は通り過ぎ、人も動物も何もかもが死に絶えた静寂だけが流れているはずなのだ。


 つまりこの宿屋など、既に粉々に吹っ飛んでいてもおかしくないし、仮にまだここまで手が及んでいない場合であっても、プラムたちがこんなに落ち着いてわたしを心配している場合ではないのだ。レジストンだって「計画の変更~」なんて暢気に言ってる余裕だってないはずだ。


 といういくつかの疑問点を総合的に結び、出てくる結論といえば……わたしの勘違い。もしくは白昼夢であったり、幻覚の類か――。


「さて」


 思考の渦に沈みそうになったけど、レジストンの声が現実に引き戻してくれた。


 わたしは目の焦点を彼に合わせ、次の言葉を待つ。


「話をする前に、まずは彼女たちのことを紹介する必要があるかな。入っておいでよ」


 彼がそう言うと、部屋の扉が開き、三人の人影がゆっくりと室内に足を踏み入れてきた。


 先頭を歩く人物は、部屋に入ると丁寧に一礼をした。


 スレンダーな体躯にビチッと体のラインに沿った服装をしている髪を後ろで束ねている美女だった。


 身長は180を超えているだろうか、切れ目な双眸に、出るとこ出てて引っ込んでるところは引っ込んでいる、という完璧ボディ。


 わたしの寸胴ボディとは次元が違うとでも言わんばかりの女性だった。一点、気になるものといえば、彼女の耳がやや人とは異なって、尖っている点だろうか。


 エルフ? という考えがよぎったが、実を言うと、三度も転生しているこの身だが、エルフという種族をどの世界でも見たことがないので、わたしはすぐに「やっぱり違うかな?」と否定的に思考が流れてしまう。


 最初の人生では良く見かけた創作物フィクションに出てくるエルフであったりドワーフであったり亜人であったり……そういうのって、魔法があるならいるんじゃないかって思うじゃない? けど、わたしのその僅かな期待は今のところ裏切られ続け、今に至っては「そんな種族、いるわけないじゃない」と思ってしまうほどだ。


 でも――今までは確かに人は人、という環境しか無かったが、その中に彼女のように耳が尖った人はいなかった。生まれつき耳が長めの人はいるけど、彼女ほど明確な形ではなかったのだ。


 これは……少し期待してもいいのだろうか!? でも、金髪ではなく黒髪だし、目の色も碧眼じゃなくて赤い。肌色も人とそう変わらないのでダークエルフという線も微妙だし、う~ん……。


「彼女の名はディオネ=ロンパウロ。俺の知人でね。クラウンに多くあるチームの一つ『森獅狩人エリンハンター』に所属する斥候役の女性だ」


「ディオネ=ロンパウロだ。よろしくお願いする」


 おお、凛とした声だ。


 ディオネはこちらを見てふっと微笑んでくれた。釣られてわたしも微笑んだら、彼女は僅かに笑みを深くしてくれたので、どうやら友好的な関係を結べそうだと少し安心した。


 しかし、特にエルフだの何だのと種族紹介は無かった。

 やっぱり普通に人間の枠に収まる女性なのだろうか。


 ……聞いてみたい。


 聞いてみたいけど、さすがに初対面で「貴女は人ですか?」だなんて聞けない。誤解を生むだろうし、せっかく友好関係を築けそうなのに、自分から瓦解してちゃ後が思いやられる。


 わたしがじーっと彼女の耳元を凝視していたことがバレたのか、レジストンが急に「ああ」と声を漏らして補足してくれた。


「そういえばセラフィエルさんは記憶が無かったんだったね。彼女は森獅エリンと呼ばれる種族でね。別名『森の狩人』とも呼ばれているんだ」


「そうなんですね!」


 ちょっと声が大きくなるのは見逃してほしい。


 思わず腰が浮き、前のめりにレジストンに食いつくと、彼は苦笑して「何が琴線に触れたのか分らないけど……」と続けた。


森獅エリンの特徴は黒髪に赤目、そして尖耳せんじだね。チーム名からも分かるとおり、彼女の所属するクラウンチームは全て森獅エリンで構成されているんだ」


「ほぉぉ~……って『せんじ』って何ですか?」


「これこれ」


 感動しつつのわたしの疑問にはディオネ本人がジェスチャーで返してくれた。


 彼女は自分の尖った耳を指さし、尖耳せんじという言葉が何を指すかを教えてくれた。

 なるほど、尖った耳と書いて尖耳せんじ、と読むわけね。


「ありがとうございます」


「いいえ」


 教えてくれたことについてお礼を言うと、ディオネは目を細めて短く返してくれた。

 なんだか凄く誠実そうな女性、という印象だ。

 メガネかけてスーツでも着込めば、秘書とか似合いそう。


「彼女には君の護衛を離れた場所からお願いしていたんだ」


「あっ」


 その存在は感じていたが、まさか彼女だとは……。

 と、驚いていたのはわたしだけでなく、ディオネも目を丸くして驚いていた。


「まさか……私の尾行に気付いて、いたのか?」


「あ……え、ええっと…………はい」


 しまった、どうやらわたしが護衛の存在に気付いていることが態度から見抜かれてしまったみたいだ。


 こんな子供がそんな芸当をできるはずがないので、変に思われないだろうかと答えに詰まってしまったが、反してレジストンは何も驚いていない様子だったので「ああ、既にわたしの印象はそういうものなのね」と諦めて、ディオネに肯定を返した。


「これは驚いたな……」


「そろそろ俺がこの子についていけなかったっていうのも納得してくれたかい?」


「むぅ……しかし、まだ<身体強化テイラー>を使っているところを見ていないからな。それについてはまだ何とも言えないな」


「えぇー」


 レジストンとディオネの間でどんな話があったのかは分らないけど、実は今も<身体強化テイラー>を使ってるんだよね。恩恵能力アビリティを使えるようになってから数日は、能力を切ったりつけたりを繰り返していたけど、今はもう常時起動中である。


 気付けばその利便性におんぶにだっこ状態である。


 なんというか……<身体強化テイラー>による強化がない脆弱体質でいると、ただの散歩ですら非常に疲れるようになってしまったのだ。一度楽を経験すると戻れないとはまさにこういうことか。


 <身体強化テイラー>の使い過ぎって……副作用とか、無いよね? いまさら怖くて聞けない……。


「まぁいいか。で、後の二人についてだけど」


 もう少し森獅エリンについてだったり、他に人間以外の種族がいないのか聞いてみたかったが、ここで口を挟むとグダグダになりかねないので、ぐっと言葉を飲み込む。


 他の二人――というか、ディオネが手に持つ縄で括りつけられた男女二人組なのだが、床に膝をつくその顔には見覚えがあった。


「あっ……その人たちは!」


「そう、君の前に現れた銀糸教の手の者、だね」


 やっぱり銀糸教関連の人たちだったのね。

 平均オジサンとオレンジ少女。


 彼らはお縄についた状態なのだが、悪党によくあるような悔しさと怒りを浮かべた表情をしているのではなく、どこか疲弊したような落ち込んだような表情でうつむいていた。


 ……あの後、何かあったのだろうか。まあこんな様子なのだから、おそらくレジストンたちに尋問なり厳しく攻め立てられたのかもしれない。


「男の方は恩恵能力持ちでね。もとは貴族の血をひいていたらしいんだけど、事業でヘマをやらかして勘当された経緯を経て、今回みたいな悪事に加担しては生活費を稼いでいたみたいだね」


 ぐっ、と平均オジサンの顔が歪む。

 おそらく彼の中で嫌な思い出が呼び起こされたのかもしれない。


「女の方は能力は無いけど、半亜人――人と亜人のハーフみたいだね。人の血の方が多いんだろうね。こうして外からでは見分けがつかないけど、人よりは力も強いし、亜人特有の技能も持っているみたいだ」


 亜人!?

 亜人って、あの亜人!?


 動物と人が混ざった種族みたいな……おお、なんだろう。王都に引きこもるより、外に出て色々な世界を見て回りたくなる衝動がこみあげてくる。


 もしかして今回の世界は、今まで以上にファンタジーに富んだものなのだろうか。


 亜人特有の技能って何だろう? ケモ耳が生えてきたりするのかな? オレンジ少女には猫耳が似合いそうだ……うん、きっと猫の亜人の血を引いているに違いない! 見たいなぁ……見たいなぁ……。


 ああ、何だかかなりワクワクしてきたぞ!


「二人とも銀糸教の人間に雇われて君の前に現れたわけなんだけど……」


「…………あ、はいっ」


 危ない。


 頭が森獅エリンやら亜人やらにトリップしかけてしまった。

 慌ててレジストンの話に思考を手繰り寄せる。


「セラフィエルさん。この二人の前で繰り出した――アレについて、詳しく教えてほしい」


「……………………アレ?」


 って何だっけ。

 いかんいかん……真面目に思い出そうとしても、オレンジ少女に視線が行くと猫耳の幻影が見えたり、ディオネを見ては「これがこの世界のエルフなんだー」という考えが出たり……全然集中できてない。


 えーとえーと、と微笑で誤魔化しつつ思い返していると、わたしが意識を手放す瞬間に現時点の最大火力の魔法を放とうとした記憶に行きついた。



「あ、魔法のことですか?」



 と記憶の通りに尋ねると、



『まほう……?』



 と室内の全員が声をそろえて聞き返してきた。


 プラムはきょとんとした面持ちで、

 レジストンは何処か興味津々な感情を抑えきれない様子で、

 ディオネは汗を頬に伝いつつ目を細め、

 平均オジサンとオレンジ少女はガタガタと震えつつ、

 全員の視線がわたしに集中した。



 そこで迂闊にも「魔法」という言葉を漏らしたことに気付き、全然頭が回っていないポンコツっぷりに、わたしは苦笑を浮かべるほか無かった。




2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

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