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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
66/228

36 お目覚め

いつも読んで下さり、ありがとうございます(*'ω'*)

「――うぇ?」


 そんな間抜けな言葉が自分の口から出たことに気付いたのは、漆黒の世界にまたしても身を沈めていることを理解した時だった。


 わたしは慌てて身を起こし、現状を確認する。


 ――大地、地平、空の境目すらも飲み込む黒の世界。


 どこかで見たことがある――という既視感を抱いたかと思えば、これは今朝方見たばかりの夢の世界だと納得した。


 夢の世界と言えば、アカだ。


 またね、と交わしてすぐに顔を合わせるのも何だか妙な感じだけど、来てしまったものは仕方がない。

むしろ毎晩、この夢の世界に訪れてしまうんじゃないかって方が不安になる。


「……アカ?」


 しかし、目標の少女は見当たらない。


 180度、ぐるっと見渡しても、黒、黒、黒。


 見栄えだの質素だのという概念を無視した、虚無の世界だけしかなかった。


 なぁんだ、と息をついて、わたしはやることが無くなったと言わんばかりにその場で足を伸ばして座り込んだ。


「……そういや寝た記憶がないんだけど、なんでわたし、この世界にいるんだろ」


 こめかみに指をあて、眉を顰める。


 あれ……ていうか、わたしは直近、何をしていたんだったか。

 朝方の記憶から遡って思い返してみよう……。


 レジストンの置手紙はしっかりと覚えている。うん、かなり引いた覚えもあるし、例え仲間だったとしてもレジストンは要注意人物だというレッテルを心の中で貼った記憶がある。


 次に囮の役目を持って、プラムを宿に置いて公益所に向かったよね。

 そこでヒュージと会って……そうだ、クーデ教会に一緒に行ったんだ。


 クゥーデリカや子供たちとも初めて会って、色々と行動派なクゥーデリカには面を喰らったけど、結構楽しんだ。シスター・ケーネとも会話を交わし、帰り際にはギルベルダン商会のドンゲスという男とも顔を合わせた。


 ……結構、覚えてるな。


 それからわたしはヒュージが送ってくれるって言ってくれたのを断って、一人で帰路についたんだ。


 そうだ……そこで二人組に出会って――。


「……!」


 思い出した。

 わたしは反射的に飛び上がり、頬に汗を流しつつも周囲を見渡した。


 そうだ!

 あの――世界の終わりに現れた異形の化け物!


 アイツがわたしの目の前に突如として現れたんだ!


 それで……わたしはどうした?

 ああ、思い出してきたぞ……。


 そう、せめて死ぬ前に今持ちうる全力を叩きつけようと、魔力を集中して――ど、どうなったんだっけ?


 なんか後頭部に衝撃が走ったような覚えはあるんだけど……え、それじゃ魔法を打つ前にわたしは殺されたってこと……!?


 あの至近距離だ……。相手があの異形なら、今のわたしでは<身体強化テイラー>があるとはいえ、反応すらできずに殺される可能性も大いにあるだろう。


 つまり……ここは夢の世界ではなく、死後の世界……?


「うそ……生まれ変わって半年と経たずに死ぬ……なんて」


 膝から力が抜け、その場で両手をついてわたしはガクッと項垂れた。


 転生するには十分な血がまだ還ってきていない。この状況での死を迎えるのは無論、初めてのことだが……少なくともいつもの転生時の感覚とは相異なるものであるのは間違いない。


「せめて……せめて! 最期の人生ぐらいは美味しい物を食べたかったわ!」


 ドン、とあるのかどうかも分からない黒の床を叩く。


 こっちに来てからというものの、牢屋で臭いメシを食ったかと思えば、道中では味の薄い料理を食し、王都に辿り着いても謎の創作料理を食わされる羽目となり、最後はやっぱりクラッツェードが作ってくれた味の薄い料理だった。


 そういえば食堂も似たり寄ったりの味だったなぁ……まだ食感が楽しめる生サラダの方が美味しく感じるという不思議。野菜も味無かったけどね……。


「あぁ……カレーとか食べたい」


 香辛料……というか香草を使った料理はあるのだが、料理にはさほど詳しくないので何となくだけど、どうにもこの王都の料理では調味料の類が使われていない気がするのだ。


 あとはダシも使われていない気がする。


 唯一、塩はスープで使用されているみたいだけど、結局、水と塩だけじゃスープは全然美味しくないのだ。はっきり言って旨味も無いし、食感だけが主張し合い、材料がバラバラに感じるのだ。そして総じて薄い。よく王都の人たちはこの料理を普通に食して満足するものだと、わたしは内心で頭を抱える日々だった。


 ゆえに後悔が強い。


 前世では食生活に気を配るほどの不満は無かったというのに、なぜにこの世界ではこうも文化が異なるというのか……。うぅ……美味しい物を食べたいのもそうだけど、せめてその辺りの謎も解いてから死にたかった。


 異形アレがどういう存在なのかは分からないけど、少なくとも「倒す」という考えすら馬鹿々々しく思えてしまうような存在だ。


 間違いなく王都は当然として、あの世界は終焉を迎えることだろう。


 できればプラムたち知り合った人たちには生きていて欲しい気持ちが強いが、冷静に考えて――無理だろう。わたしが死んだと自覚して真っ先に料理について思いを馳せたのは――プラムたちの生存を端から思考より外していたからだろう。


 自分でも薄情だと思ってしまうけど、そんな望みすら諦観せざるを得ない存在なのだ……アレは。


「もしここが死後の世界なら……会えるかなぁ」


 大の字になってわたしは真っ黒な天を見上げる。


 死んだ向こうの世界では、プラムにクラッツェードやレジストン。ヒュージたちにも会えるかなぁ。


 あとは……前世やその前の人生で会って来た人たち。懐かしい面々にまた出会えたら……いいなぁ。あ、前世はともかく、その前の世界でわたしを殺そうとした連中とは会いたくないなぁ。


 パキン――。


「……ぁ」


 気付けば世界の端々が割れたガラスのようにひび割れ、砕け散ってはその向こうの純白の世界を覗かせ始めていた。


 夢の世界と同じ――眼覚めの瞬間だ。

 もっとも死後の世界というなら、この場合――昇天、成仏といったほうが正しいかも。


「うーん……今度は平穏な人生がいいなと思った矢先に、まさか最短の人生で終わっちゃうとはね……。はぁ……願わくば、あの化け物がわたしについてきた的な展開じゃないことを祈るよ……。さすがにわたしが原因で世界が滅んじゃいました、だなんて後味が悪すぎるもの」


 まぁ、後味なんてものは生きているから感じることで、この先、わたしには不要な感情なのかもしれないけど。


 徐々に世界は白く染まっていき、その向こうから赤い奔流が入り始めてきた。


 わたしはその様子を呆けたように眺めていて――、


 …………………………。

 ……………………。

 …………。

 ……。



*************************************



「セラちゃん――っ!」


 目を覚ましたわたしに思いっきり抱き着いたプラムの圧力に、わたしは「ぐぇっ」と潰れた蛙のような声を口から吐き出した。


「大丈夫、どこも痛くないっ!? 頭痛は!? お腹とか痛くない!? 私がわかるっ!? セラちゃん、答えてよぉーーーーっ!」


「お、おおおお、おちつ、いて、…………お、お姉ちゃ、ん……!」


 ガクガクとわたしの肩を揺すり、現在進行形で体調が悪化していくわたしに気付かずに、プラムは悲鳴に近い声を上げ続けた。


 これはあっちの世界でプラムと再会したってこと?


 いや、それにしては……あまりに実感がありすぎる。


 ということは……わたしは本当に眠っていて、ここは現実世界、ということだろうか。


 徐々に焦点が合っていき、涙と鼻水でいっぱいのプラムの顔のピントが合う。


「お、お姉ちゃん……泣かないで」


「あぅぅぅ~……! もう、やっぱり私は反対だったんだからね! まだ小さいセラちゃんが……危険な真似をするだなんて!」


「ご、ごめんね?」


「だめ! 私、死ぬほど心配したんだからっ! もうセラちゃんは、当分、外出禁止!」


「ええっ!?」


 うん、こりゃ……現実だよね。


 ここまで心配するプラムを夢の一言で片づけてしまえるはずもない。


 抱き着くプラムの背に、わたしはそっと手を回した。そうするとプラムもより強くわたしを抱き寄せて、この身が未だ健在である証明を実感するかのように、背中をさすってくれた。


 しばらくそうしていると、ガチャ、という音と共に誰かが入ってきた気配を感じた。

 プラムが正面にいるのでその姿は分からないけど、すぐにかかる声で誰なのか分かった。


「おや、目が覚めたんだね。いやぁ、良かった良かった」


 レジストンだ。


 その声に反応して、プラムはわたしを胸元にギュッと抱え込み、レジストンの方をキッと睨んだ。

あ、これは……いつぞやのサイモンと相対した際のプラムだ。要するにお姉ちゃんモードの「私が護るんだから」状態だ。


 その心は嬉しいんだけど、どう考えても戦力的にはわたしの方が上なので、正直ハラハラするのだ。


 今回はレジストンが相手だから心配はしていないけど、できればプラムにはわたしの後ろに隠れていて欲しいのだが……たぶん本人にお願いしたところで彼女の内に秘める姉としてのプライドが聞いてくれないだろうなぁ。


「ありゃ……そこまで警戒しなくても」


「しますよ! だってセラちゃんが気絶した原因はレジストンさんの友達じゃないですか!」


「まぁ……それには事情があるわけだし、できればセラフィエルさんの調子が戻ってから……彼女の話も踏まえて説明したいところだね。はい、スープを運んできたけど、飲むかい?」


「うぅ~」


 全然怖くない唸り声を出すプラムの二の腕をぽんぽんと叩いて、わたしは「お姉ちゃん、スープ飲んでもいい?」と尋ねた。こういえば、きっと彼女は「わたしのお願い」と「わたしを護る使命」を天秤にかけ、わたしの方を優先的に考えてくれるはずだ。


 プラムは口を尖らせながらも、わたしを抱える腕の力を緩め、一つ頭を撫でてから立ち上がる。


「スープ、ありがとう……ございます」


「いえいえ」


 機嫌を悪くしていても、こうしてレジストンに御礼を言うあたり、プラムらしいなぁ、と思わず笑ってしまった。


 しかし、さっき聞き捨てならない言葉があったな。

 気絶した原因が……レジストンさんの友達?

 ていうか、寝てたんじゃなくて、わたしは気絶していたのね。


 そしてレジストンの友達……というのは、おそらくだけど、わたしを尾行していた人間、だろうか。


 そもそも、あの異形の化け物はどうなったのだろう。


 いつの間にか宿の部屋に帰っているみたいだけど、どう考えてもこの部屋の誰もが世界の終焉に絶望している様子は見受けられない。


 白昼夢――ではないと思う。たぶん。


 あの対峙した際の威圧感と恐怖は、未だにわたしの魂に刻まれた前世の最期と同じものだったはずだ。だからわたしは取り乱しつつも、現時点の最大の威力を誇る魔法を繰り出そうと……。


「はい、セラちゃん。自分で飲めそう?」


「うん、ありがとう、お姉ちゃん」


 プラムがレジストンから貰ったスープの器とスプーンを持ってきてくれる。


 手に持つ器は温かく、スプーンですくったスープを喉に通すことで、生きている実感を得られた。

 うん、この圧倒的にうっすーいスープは紛れもなく現実だね。


 ふと、顔を上げるとレジストンと目が合い、彼は意味ありげにニコッと微笑んだ。


「……」


 なんだろう……非常に嫌な予感がする笑顔だ。


 これから尋問を開始しようと意気込む拷問官のような、覚悟しておくように的な雰囲気を感じ、わたしは居心地が悪くなり、彼から目を逸らしながらスープを口に含む。


 ああ、きっとこのスープを飲み終えると同時に色々と聞かれるんだろうなぁ。

 …………ゆっくり飲むとしよう。



2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

※セラフィエルの野菜の感想に「素材の味」とありましたが、実際は野菜にも素材の味はほぼ無いので、その部分を修正しましたm( _ _ )m

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