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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
63/228

33 決して再会したくなかった存在

祝日なのを忘れて、危うく出勤しそうになりました今日この頃(笑)

いつも読んで下さり、ありがとうございます('ω')ノ

 ふぅ、ヒュージから料理勝負とか吹っ掛けられなくて良かった。


 今日みたいな感じなら、また遊びに行きたいなぁ、とわたしは少しだけ頬を緩めて寂れた街並みの間を通っていく。


 さて、こうして帰路についたわたしだが、困っていることが現在進行形で一点。


 教会を出て、人通りの多い地区に移動するまでの間、ひっきりなしにわたしの背後から近づこうとする気配が後を絶たないのだ。


 そしてその気配たちは、少しだけ間を置いてからスッと消えていく。

 消える、というよりは、どこかへ連れていかれる、という表現の方がしっくりくるかもしれない。


 ああ、ほら……また通り過ぎた建物の角からこちらを窺う気配がある。


 わたしは可能な限り、いつも通りの様子でトポトポと西地区の通りを歩んでいきながら考える。


 きっと……建物の陰から出て、わたしの後を追おうとした瞬間、退場させられるんだろうなぁ。


 その予想はドンピシャで、気配は一瞬の戸惑いを発した直後、遠くへと小さくなっていった。


「……」


 随分と不気味な現状であるが、どうもわたしは強力な護衛に守られている、という状態らしい。

 護衛は――十中八九、レジストン絡みの人間だろう。


 騒ぎを起こさずに障害を取り除く手腕は、レジストンにも負けず劣らずのように感じた。


 しかし、こうして帰り道を歩くと良く分かるのだが、ヒュージは抑止力として大分強い存在だったらしい。それは戦闘力や他に秀でた何かしらの能力が、というわけではなく……ここに住まう者、だからだと思う。


 あの野球もどきをしていた最中も、それなりに周囲に気を配っていたわけだが、子供たちだけで遊んでいる場だというのに、誰も襲ってくる連中はいなかった。それどころか、そういった行為を匂わせるような輩すらいなかったのだ。


 正直、子供たちが無防備に外で遊んでいる様子は、当初のわたしにとって冷や汗ものだったのだが、それは無用な心配だった、というわけだ。


 同じ地区に住まう同族意識、もしくは顔を見知った可能性も考慮して襲うリスクと天秤にかけた結果なのか……それは分からないけど、ヒュージたちに暴行や盗みを働く者が闊歩するような地区でないことは理解できたので、ひとまず安心した。


 ……こうして、わたし一人になった途端、肉に群がる野生動物のように集まってくるのは勘弁なのだけれど……。


 こうも多いと、いっそのこと<身体強化テイラー>で走る抜けた方がいいのかな?


 感覚的にレジストン本人か、その仲間の人だったら、全力で走らなければ追跡できそうな気もするし。

 ……何の根拠もないけど。


 そんなことを思いつつ、自分のペースで中途半端に補装が剥がれている道を進むと、ふと――前方から二つの影が伸びてきたことに気付く。


「……」


 いかんいかん。


 背後ばっかり気にしてて、前方からの存在をうっかり意識から外してしまっていた。

 わたしは二つの影を目で追っていき、つま先からその胴体へ、そして顔を見上げた。


「こんにちは、お嬢ちゃん」


 柔らかい口調で声をかけてきたのは右の男性。

 特徴らしい特徴もない、言っては失礼だが、良くある顔立ちの男だ。


「こんにちは」


 声が届く距離でわたしは足を止め、挨拶を返す。


 わたしの行く先を塞ぐようにして進路先に佇む時点で、彼らは偶然出会い、何となくわたしに挨拶をしたわけではないことが読み取れる。


 ここで過度な警戒心を見せるのは逆効果だ。

 こちらに現状を打破するための武器を隠し持っていることが疑われるからだ。


 だからわたしは「何か用だろうか?」と純粋な疑問を投げかけるような瞳で彼らを見上げた。


「ああ、いやね。随分と綺麗で可愛らしい子が歩いているなぁと思って、反射的に声をかけてしまったよ、ははは」


 いやいや、どんな理由ですか、それ。


 真っ向からそんなことを言われて笑われても、苦笑以外で返す術をわたしは持たない。


「おっさん、それ変態っぽい」


 中世的な声に視線を向けると、もう一人の存在――髪を短くした少女が立っていた。


 平均顔のオジサンに対して、こちらはオレンジ色の髪をしており、動きやすいホットパンツにシャツ一枚と、随分と目を惹く恰好だ。甲に鉄板が張られたグローブに、腰の後ろ側に隠しているナイフか短刀のようなものも装備しているようだ。


 服装から判断するに、至近戦闘などの身体を動かす担当がオレンジ少女。魔法など後方支援に徹する……もしくは指揮者となる担当が平均オジサン、といったところだろうか。


「お、そうかい? どうも上にその道を突き抜けた人がいると、こうした一般的な感覚が狂ってしまうねぇ」


「あぁ……ありゃ、本当にどうしたんだかねぇ」


「早々に熱が冷めてくれるといいんだけど……ま、こうして未だ燻っているから私たちがここにいるわけなのだけれどね」


「はぁ……帰って飯食って寝たい」


 わたしも、わたしも。


「あの……用事が無かったら、そこ……通ってもいいですか?」


 平均オジサンに尋ねると、彼は「うーん」と困ったように眉を顰める――演技をしつつ、腕を組んで唸った。


 わたしもあざとく首を傾げて、彼の返答を待つ。


「お嬢ちゃん……ご家族はいるかい?」


「え? ううん……その、たぶん……戦争で死んじゃった」


 記憶喪失設定だけど、その設定を分かってらもうために言葉を挟むよりは、そう言った方が都合がいいだろう。あ、いや……この場合、近くまで迎えに来るって言った方が良かったかも……。


「そうか……うん、そうだな」


「おっさん、同情はナシだぜ? これも仕事さ」


「いいや、分かっているさ。逆に親御さんがいないというのは、多少の罪悪感も薄れるというもの。この子には新しい人生を楽しんでもらえるよう、祈ることができるというものだ」


 随分と勝手なことを言っているようだけど、どうやらわたしの選択肢は失敗だったようだ。

 筋骨隆々でクマも素手で殺すような父が来るんですぅ、とでも言っておけば良かったかな。


 まあ<身体強化テイラー>で逃げる準備はしておこう。

 しかし……これは「アタリ」かなぁ?


 幸い、王都は何処へ行っても遮蔽物が多くある。


 見晴らしのいい草原などとは違い隠れる場所も、相手の追跡を躱すに有効な場所も、その辺にいくつも転がっている。心配なのは未だ把握できていない恩恵能力アビリティの存在と、相手がわたしを上回る身体能力を持っていないかということぐらいだ。


 ――魔法も選択肢に入れておこうかな。


 操血はまだわたし本来の血液量が圧倒的に不足しているため、簡単な操作しかできない。


 であれば、多少なりとも<身体強化テイラー>に引っ張られる形で、増幅した魔力による魔法行使の方が使い道は幅広い。全盛期に比べることすら烏滸がましい程度の魔力だけど、魔法という力を知らない相手ならば、意表を突ける程度には役立ってくれるはずだ。


 それはそうと、とりあえず良く分かりませんアピールは続けておこう。


 近くでレジストンが見ているかもしれないしね。またからかわれる材料を与えるのは癪だし。というか、ここまであからさまに怪しい人物が接触してきているのに、意外と数分経っても誰も近づいてこない。何故だろう……まだ様子見ってことかな? もしくは――囮としてのわたしの手腕を問われている、とか? う、うーん……もう少しだけ粘ってみようかな。


「あの、おじさんたちは誰なんですか?」


「私たちかい? そうだねぇ……私たちは悪い人間ではないのだけれど、ちょっと悪い人に雇われちゃった身ではあるかな」


「うっわ、名乗らない上にオッサン、こんな小さな子相手に保身に入ったな」


「し、仕方ないだろ……仕事は仕事だが、納得しているかどうかは別の話だ」


「そりゃまぁ……分かるけどさ」


 ん?

 なんだろう……この人たち。


 どうも気乗りしていない、というか……行動に移すのを躊躇っているきらいがある。


 もしかして……泣き落とし、いけるか!?


「お、おじさん……悪い人なの?」


 両手を合わせ、それを抱え込むようにして一度俯き、カッと目を見開く。


 そして一瞬で魔法を発動させ、重ねた親指からほんの少量の水鉄砲を発射。両目に突き刺さる水は少量といえども痛かったが、充分、涙の役割を果たしてくれることだろう。


 ……ちょっと水が多かったかな? これだと号泣レベルになってしまう。わたしは何度かピッピッと瞬きして水分を散らしてから、顔を上げた。


 きっと相手には、何かを堪えるように俯いた後、泣きそうになるのを耐え忍ぶ女の子に見える……はず!


「うっ……い、いや違うんだ。私自身は悪者じゃなくてだね……私の雇い主が」


「オッサン、だっさ!」


 平均オジサンのたじろいだ姿を見て、嘲笑うオレンジ少女だが……今度は貴女が標的だよ。


「お姉ちゃんも……わたしを虐める、の?」


「え!?」


 傍観者のつもりだったのか、まさか矛先が向くと思っていなかったかのようにオレンジ少女は後ずさった。


「え、えぇ~……っと、いや、私じゃなくて、こっちのオッサンが悪い。うん、私は悪くない。悪者じゃないよ?」


「おい! お前こそ保身に入ってるじゃないか!」


「しょうがないだろ! オッサン一人じゃ力仕事ができねぇって言うから手伝ってやってるだけなんだから! なんか私も同類だと思われたら嫌じゃん!」


「私も違うっ! あんな奴と一緒にするな!」


「へっへー、金を積まれてハイしか言わない欲張りが何を言うんだか~。共犯なんだから、オッサンも同類だよー」


「そ、それを言うなら……お前も共犯だろうが」


「わ、私は……まだお金貰ってないし」


「くっ……くだらない詭弁を使えないよう、前金でいくらか渡しておくべきだったか」


 なんだか喧嘩が始まってしまった。


 口火を切ったのは間違いなく自分だが、まあ彼らの自業自得でもあるのだから気にしなくてもいっか。

 二人も言葉のぶつけ合いに夢中だし、もう帰ってもいいかな。


 そんなことを考えつつ、二人の横を通り抜けようと思ったが、目敏く平均オジサンがわたしの肩を掴んできた。


「ああ、待った待った!」


「うわっ、いつの間に!?」


 慌ててわたしの動きを制し、二人はほっと息をつく。


 どうやらわたしに手を出すことについては不服はあるものの、その行為を止めるつもりもないらしい。


 ここまでの口ぶりから、彼らが銀糸教の手の者であることは、かなり可能性の高い話だ。


 ……どうしようか。


 このまま振り切って逃げるのもアリだけど、レジストン関係の人たちが全然姿を見せない以上、彼らを捕らえる方向で動くのも選択肢としては有効かもしれない。彼らから銀糸教に傾倒するボスなる存在が割れれば、解決も早くなるしね。


「はぁ、仕方ない……この子には少しばかり怖い目に会ってもらう」


「え、嫌だよ? 泣き叫ぶ子供なんて担いでいったら、私、完っ璧にクズじゃん……」


「――恐怖度を上げる。それこそ彼女が気を失うほど恐怖を抱くものを投影する。そうすれば持ち運びも楽だろう? ……あと、私たちのしようとしていることは一般的にクズに等しいものだ。いい加減、自分だけいい子ぶるのは止めなさい。お前だって、この子を気絶させるのに手を下すのは嫌だろう?」


「へーへー」


 気を失う?

 恐怖を抱くもの?


 なんだか一転して、宜しくない展開になりそうな予感が……。


「お、おじさん……わたし、怖いの、嫌……」


 とりあえず、懇願してみよう。

 風向きが変わるかもしれない。


「すまないね。純粋な眼差しの君をそのまま連れていくのは……ちょっと私たちには気が重い作業なんだ。一瞬だけ、我慢してくれ。なっ?」


 風向きは全く変わらなかった。

 え、わたし、ぶりっ子損じゃないの。


「あ、あのあの、おじさん……わたし、まだ聞きたいことが」


 続けようとするわたしを遮り、平均オジサンは首を振ってわたしの目を見た。

 いや――視た。

 違和感と既視感を覚える。


 これは――レジストンと同じだ。


 平均オジサンの青い目は茶色く濁っていき、やがて何かの引き金を引いた。


 まずい……これは、恩恵能力アビリティ!?

 しかもレジストンと同様、対象を視ることで発動するタイプかもしれない!


 わたしは瞬時に<身体強化テイラー>を最大限まで引き上げ、数メートル後方まで飛び退いた。

どこかで「えっ?」と間の抜けた声が聞こえた気がしたが、そんなものに気をかけている場合ではない。


「――――――――え?」


 そして臨戦態勢に入るわたしは――思わず、見上げた。


 周囲から見れば、何とも抜けた顔をしていると言われても致し方ないほど――唖然とした。


 わたしが彼らから目を離した隙なんて、一秒にも満たない時間だった。そう、飛び退いた一瞬で僅かに地面に視線を送った程度。だというのに、それは――本当にいつの間にか、そこに存在していた。


 平均オジサンの横――オレンジ少女が忽然と姿を消したかと思うと、代わりにそれがいたのだ。


「なっ……あぁ……!?」


 思わず、指先が震えた。


 あり得ない、と脳が警鐘を鳴らし、全身がその存在を視野に入れることを全力で拒絶する。

 汗が止まらない。

 動機が激しい。

 痺れに近い神経痛が脊髄から全身にへと行き渡る。



 まるで世界が凍り付いてしまったかのように、世界の終焉を謳う獣が――そこにいた。



 あふれ出る魔力が黒褐色の雷を模し、かの全身を纏っている。

 八本の巨大な腕。

 漆黒の体毛。

 赤い相貌が――こちらを見下ろしていた。




2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

※マクラーズが「記憶を抜き取る能力」について知っていそうな発言をしていましたが、後に「知らない設定」に変更しております。その部分の修正を忘れており、今回変更しました。その部分を別の言葉に差し替えておりますm( _ _ )m


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