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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
57/228

27 撒き餌活動

いつも読んで下さり、ありがとうございます(*'ω'*)

ブックマークも徐々に増えてきて嬉しい限りです!(*^^*)

 昨日の夜、クラッツェードのまともな夕飯(薄味)を食べてようやく一息つき、彼は渋っていたが料理代はきちんと支払い、わたしたちは宿に戻った。


 レジストンは「今後の指針については後で知らせる」と食前に言っていたが、結局店を出る過程でその話をする気配はなく、帰っていいのかな、という疑問を思い浮かべつつも宿に戻ると、室内唯一の木製テーブルの上に一通の手紙が置いてあった。


 宛名はわたしたちへのもので、差出人は予想通りレジストンだった。


 一切の寄り道なく帰路についたはずなのに、先回りしていつ書いたかも分らない手紙を置いておくという手腕に舌を巻くどころか――ちょっと引いた。


 ……泊まっている宿どころか、部屋の場所まで把握されている。


 それはつまり……わたしたちの私生活は完璧に筒抜けということで……今こうしている間も何処からか見られている可能性も考えさせられる現象であった。


 完璧にストーカーじゃん!


 いや、わたしたちを保護するという名目は分るんだけど! それでも怖いよ!


 恐る恐る手紙を読むと、そこには今後の方針と行動指針が記載されており、想定外な事態が起こった際は都度、変更の旨を同じく手紙を介して連絡するという内容だった。


 最後まで読み進めていくと「追伸」とあり、嫌な予感をしつつも続きに目を通して、わたしは激しく後悔した。


『ああ、ひとつアドバイスなんだけど。誰もいない部屋だからって無防備に下着とかベッドの上に放り投げておかないほうがいいよ。ああ、先に言っておくとこの手紙を置いたのはうちの仲間の女性だから安心してね。さすがに紳士として、女性の部屋に許可なく踏み入れるようなことはしないさ。そうそう、その仲間も結構自堕落な性格でねぇ、最近カレが偶然家を訪ねてきた際に見られたくないものが部屋中に散乱していたらしくってさ。それを見られてかなり落ち込んだっていう話らしいよ。あ、俺は別にそういうの気にしないけどね。でもそういうのを気にする奴もいるってことで、気を付けたほうがいいよ。彼女もそれを思い出したのか、居た堪れなくなって君たちの下着を畳んでしまったみたいだけど、それは不審者の仕業じゃないから安心して。あとさ、君たち下着のサイズ、合ってなくない? 特にプラムさん。成長が早い時期なんだから、気を遣って――――――』


 そこで、筆跡が伸びるように線を描き、止まっていた。


 明らかに本文と字面が違うことから、間違いなくこの追伸はレジストン……いや変態が追記したものだろう。


 よく見れば手紙の端のほう……一部分が大きく皺がついていた。


 まるでそこを掴んで手紙を強引に引き抜いたかのような跡だ。


 ……その女性の仲間とやらが、好き勝手に文字を連ねていくレジストンから手紙を奪い取った光景が思い浮かぶ。


 ていうかさ、ていうかさ……!

 絶対、アンタ――わたしたちの部屋を見たよね!?


 まるでその光景を見てきたかのような文面……ていうか、その仲間の女性だってそんなプライベートな話をわざわざ、しかも男性であるレジストンに漏らすとは思えない。ということは、わたしたちに限らず、この男は膨大な情報網をこの王都に張り巡らせている、ということ……!


 実行者は仲間だったとしても、レジストンが不審者であるという事実はもはや疑いようもないことのようだ。


 あああ、そして何より――絶対に<模写解読システィダック>使って、わたしたちのスリーサイズ視たでしょ! わたしだけならまだしも、プラムまで視るとは……もはや許せん! 何がそんなことには能力を使わない、よ! バリバリ使っとるやんけ!


 あと追伸、長い!

 追伸だけで手紙一枚、使うんじゃないよ!


 今度顔を合わせるときはあの余裕顔に必ず一発ぶち込んでやると決意したのが、昨日の夜……就寝前のことだった。無論……プラムには見せられないので、要点だけ伝えて誤魔化しておいた。


 畳みかけるように、例の夢を見たり、朝っぱらから黒いアレが顔を這い回ったりと最悪の出来事ばかりだ……。まだ頬の上を何かが蠢いているような感覚が残っており、思わず「うぅ~」と唸りながら裾で頬を拭った。


「はぁ……」


 とはいえ、変態レジストンは短所を除けば、長所も幅広く手が長い男――とわたしは判断している。


 昨日の会話の流れから、彼がクラウンなのかどうかも疑わしい状況だけど、手練れということは気配の消し方一つから見ても間違いない。


 クラウンかどうか疑わしい、というのは彼の実力云々ではなく、何を真実として語っているのかが読み取りづらい、という点からだ。


 最悪、あの手紙の追伸だって見事な変態っぷりを擬態して、わざとわたしを煽り、その動向から何かを探ろうとしている可能性だってある。


 たぶん……今は仲間側だから身の危険までは考慮しなくてもいいと思うけど、敵には回したくないタイプの人間と言えよう。


 能力も受ける側からすると最悪な部類だしね……。


 思うところはたくさんあるが、手紙に書いてあった今後の方針については概ね疑問はない。


 だからこそ、この胸の中に渦巻くもやもや感が降る払えず、わたしはため息をつくことでしか感情の吐き所を得られないわけだ。


 ああ、憂鬱。


 さて、そんな憂鬱を背負いながら着いたのは、昨日訪れたばかりの公益所だ。


 相も変わらず雑多な印象の公益所だが、情報を得た後だと景色が変わるというものだ。

 王都中心部にだだっ広い土地をふんだんに使った巨大建造物。

 そこに出入りしている人間たちは、まさに多種多様だ。


 昨日は人の多さに酔いつつも、多くの平民が集まるこの場所に圧倒されていたが、今のわたしはクラウン等の知識を得た上でこの公益所を見ている。


 ……うん、確かに明らかに毛色が違う人がちらほらいるっぽい。


 外見からして「私、戦闘向きです」と主張したガチムチな人もいれば、人混みを流れるように渡って移動する細身の人もいる。それらの人を含め、すれ違う何人かは腰や背中に獲物を装備しているところを見るあたり――クラウンと思しき面子もやはりこの場所を介して活動しているのかな、と理解できた。


 公益所直轄、元討伐隊――クラウン。


 ――強いのかな?


 弱い、というわけではないのだろうが、その強さの尺度が見ただけでは測り切れない。


 連泊無制限のクラウン専用宿所はこの王都で活動する上で魅力的なので、近未来的にはやはりクラウンの資格は取っておきたい。無論、資格を取ることで何かしらの縛りや制限も課せられるかもしれないので、絶対とは言い切れないけど、魅力的ではあるのだ。


 そのためにはクラウンという容器の中で自分がどの位置に存在するかを知りたいところである。


 物差し無くして、余裕を構えるほどわたしの頭の中はお花畑じゃないつもりだ。


 せめて……「この人、クラウンの中で平均的です」的な人がサンプルとして力を示してくれれば、ある程度の見積もりは立てられるんだけど……ま、そんな都合の良い話はない。レジストンは「受かる」と太鼓判を押してくれたけど、中身が不透明な後押しはどうにも不安が過ぎってしまう。


 しかし……周囲の目が痛い。


 うん、当然だよね。

 公益所の中、小さい子供が一人で歩いていたら、そりゃ周りの人も迷子かと思っちゃうよね……。


 そう――わたしは今、一人なのだ。

 プラムは宿屋の自室で待機中である。


 わたしが一人、何故、こんな王都の中心まで徒歩で移動してきたかと言うと、それがレジストンの手紙にある方針の一つだからだ。


 端的に言えば――囮だ。餌とも言う。


 こうしている間にも、おそらくどっかからわたしを監視している目があるのだろう。


 わたしという餌に食いつくであろう魚の大きさは現時点では誰にも予想はできないけど、魚種は言うまでもなく「銀糸教」という名で間違いない。


 さて掛かるは大物か、小物か。


 餌役である、わたしにとってはどっちでもいいので早く終わらせたいという想いの方が強かった。


 ていうか、レジストン……何だか、わたしへの対応が酷くないだろうか。


 普通、子供……それも女の子をこんな人通りの多い場所に独りぼっちで出向かせる?

 プラムお姉ちゃんを説得するのが大変だったんだから……。


 まぁ、実質は精神年齢も200超えてるわけだから、心象的な問題はないんだけど……ちょっと腑に落ちない。これも子供として見られていないがための弊害だろうか? あれ……子供っぽくしていた方がもしかして、周囲との軋轢は少ないんじゃ……。でも今更方針転換しても……う、う~ん……。


 頭の中でぐるぐると小さい悩みが巡ったが、とりあえずボーっとしているのも邪魔なので、公益所に入って、巨大掲示板の前まで人圧に潰されながらも移動していった。


 今日は依頼を受ける予定はないけど、公益所で時間を潰すなら掲示板前にいるのが自然だと思ったからだ。


 しかし、道中色んな人に声をかけられたために、足を度々止める羽目となった。


「お嬢ちゃん、迷子かい?」


「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」


 親切そうなお婆さんに声をかけられた。わたしは真摯に笑顔で礼をして後にする。


「君、親御さんはどうしたんだい? はぐれたんなら、あっちに待合室があるから、あそこで待っているといいよ」


「す、すみません。大丈夫なので、お構いなく……」


 気のいい青年に声をかけられた。わたしは一瞬どうやって待合室に行かない旨を説明して断ろうかと迷ったが、結局あいまいに笑って誤魔化した。


「ちょっと! こんな華奢な女の子を置いて、大人はどこほっつき歩いているのよ! 信じらんないわっ! ほら、不安だったでしょ? お姉さんが一緒にお母さんお父さんを探してあげるから、おいで?」


「そ、そそそ、その、この掲示板前で待っているように言われてるだけなので、大丈夫ですっ!」


 ちょっとキツ目に見えるけど、絶対に心は優しい釣目の女性に声をかけられた。わたしは強引に連れて行こうとする気の強そうな女性に慌てて弁明し、その場を後にする。


「ぐ、ぐふふふぅふぅふぅふぅー、ふぅーっ! お、俺とぉっ――」


「あ、間に合ってますので、結構です。あとわたくし、ガッテンツォン伯爵家の遠縁にあたる者ですので、不埒な真似はおよしになさったほうが身のためですよ」


 脂の乗ったヤバい奴に声をかけられた。


 危機管理能力が勝手に発動して、唯一知っている権力者――貴族の名を咄嗟に借りたが、後悔はしていない。口調も「貴族ならこんな雰囲気かな」とイメージしたものへと切り替える。


「こふぅー! こふぅー! そ、そういわずに……!」


 ガッテンツォン伯爵家の名前、まさかの効果なしっ!


 あれぇ、貴族って絶大的な力を持ってるんじゃないのっ!?

 それともガッテンツォン伯爵家、舐められてる!? 優しそうな家の人たちだったもんねぇ!


 さっきの気の強いお姉さん、カムバック!


「わ、わたしは貴族の者……ですよ?」


「ぐふ、ぐふふ……道理で仕草がどことなく綺麗だと思ったんだ……ぐふ。さ、さぁ……俺と一緒に行こうよ。館内を案内してあげるぞぉ」


 いやぁぁぁぁ、貴族の名は無効化どころか逆効果!


 この強引さ……もしかして、こいつが銀糸教の一味……!?


 でも確信がない以上、ぶん殴るわけにもいかないし……確証を得るためについていくのも嫌だ!


 誰か助けてぇぇー!


 ――そんな、わたしの願いが通じたのか、助けの手はすぐに差し伸べられた。


 それはついさっき別れた気の強いお姉さんではなく、



「おいっ! 俺の友達に手ぇ出すな!」



 つい先日、聞いたばかりの声をした、わたしと同じぐらいの年齢の男の子――ヒュージだった。



2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

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