23 違和感の正体
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出先から戻ったら否や、仕事の嵐……忙しいのは悪いことではありませんが、時間が欲すぃ……( ;´Д`)
更新速度が大分低下してしまい、申し訳ないです、、、m( _ _ )m
スッとレジストンの指を自身の瞳へと向ける。
その仕草で、わたしたちの意識は彼の瞳へと注がれ、そこで初めて異変を眼にする。
彼の瞳が奇妙な輝きを放っているのだ。
虹色とも違う、様々な色彩が不規則に入り乱れているような輝き。
はて……ああいう色彩を何て言うんだったか。
迷彩……じゃなくて、ああ、極彩色、だったっけ?
輝き――と言っても、あくまでも瞳の中の色彩が鮮やか……というか重厚感があって、それで輝いているように見えるだけで、実際に光っているわけではなさそうだ。
「俺の恩恵能力はね、<模写解読>と言って、相手の身体構造を読み取ることが出来るんだ」
「しすてぃ……だっく? 身体構造……というと、ええっと――」
スリーサイズを正確に測れる能力? と思わず口走ろうとしたが、そこは何とか飲み込んだ。
クラッツェードが奥に引っ込む前の様子からして、そんなふざけた能力をわざわざこのタイミングで話すわけがないと判断したからだ。というかさっき既に「もう一つの力」を見破った力とも言っていたのだから、そういう意味での「身体構造」……ということなのだろう。
でもこの人、相変わらず感情が読めないからなぁ。
ストーカー行為しちゃう人だし。
もし力の見極め以外に変態特化した部分のある能力だったら、せめてわたしより明らかに女性として発育しているプラムの身を隠さないといけない。わたし自身は断崖絶壁の平野のようなものなので、別に気にすることもないだろう。
「ああ、別に透視とかはできないから安心していいよ」
「そ、そうですか」
う、なんだか最近、ちょくちょく考えていることを読まれることが多い。
前世まではそれなりにポーカーフェイスが得意……なつもりだったのに、どうもこの柔らかい子供の表情筋は素直に感情を浮き上がらせてしまうようだ。
「まあでも、たとえ厚手の服を着ていてもその人の体系を測ることはできるよ」
思わず白い目で、悪びれた様子のない男を見る。
プラムは体を斜めに構えて胸を隠すように身を縮こませたが、その仕草は逆効果なんじゃないだろうかと思ってしまうのはわたしだけだろうか。
「はっはっは、冗談だよ、冗談。別にそんなことのために能力を使ったりはしないさ」
「……」
一見、否定的な言葉に聞こえるが、彼は別に「対象の体のラインを見ることができる」点については否定していない。
つまり可能ということなのだろう。
うん、今後のレジストンの動向や視線の様子には注意を払っておこう。
気づけば、彼の瞳は元の茶褐色のものへと戻っており、それが能力を解除した合図なのだと察した。
「とまぁ、俺の能力発動時は見た通り分かりやすくてね。御覧の通り、瞳の色が変化するのさ。ついでその発動時の能力だけど……年齢から恩恵能力の有無まで、対象の情報を視界を通して視ることができるのさ。ああ、君のもう一つの力のようなものを視たのも、同じ原理だね」
「な、なるほど……」
恩恵能力の有無――と断定した言い方になっているのは、きっと今まで人が持つ特殊な力は恩恵能力しかなかったのではないかと想像できるものだった。
しかし、恩恵能力を持っているかどうか、視るだけで分かってしまう能力というのはかなりこの世界において危険な部類に入るんじゃないだろうか。
まだこの世界で数えるほどの人としか接点は持っていないが、ハイエロたちの様子を見ても分かる通り、この世界の住人は恩恵能力という存在に依存している節がある。
無論、生まれながらに恩恵能力を持っていない人間には関係のない話なのかもしれないけど、恩恵能力以外を持つ者は恩恵能力頼り……いや、むしろ恩恵能力にその人生すら左右されているほど、影響力が強い印象があるのだ。
レジストンが秘密を明かすかのように話し、クラッツェードがそのことに驚いた様子を見せたことで、恩恵能力の露呈というものがどれだけ比重の重いものかを物語っている。
それだけの切り札にすら成りうる恩恵能力を丸裸同然に見透かす能力ともなれば、この世界における影響力というのも計り知れないものになるんじゃないかと思う。しかし、目の前の薄い笑いを浮かべたままの青年がそれだけの存在であるようには見えず、そのギャップにどうしてもその事実の重さがしっくりこなかった。
「あぁ、先に言っておくと、俺の能力ではその人が『どんな能力を持っているか』までは分からないよ。分かるのは恩恵能力の有無だけ。こう――体内から見える力の波動……エネルギーの形で判別できるんだ」
「あ……、そうなんですね」
なるほど。
でも、そうであっても、それはそれで有用性は揺るがない気がする。
国家の指針で、全国民の能力が公開されているなら全く意味を成さないが、まあそれは無いだろう。恩恵能力とは暗器のようなものだと思う。
誰かし構わず見せていては、いざという場面においてその価値は半減し、最悪逆手に取られて窮地に追いやられてしまうことだってあるだろう。懐に潜ませ、必要な時にその刃を抜く――それが力を最大限に発揮する前提となるのだ。
暗器におけるメリットは、まず持っているかどうかすら悟らせないこと。
そして武器の形状や特性がその姿を見せるまで相手に読ませないことである。
レジストンの<模写解読>は「持っているかどうか」を明らかにする能力で、それがどのような武器なのかまでは詳らかにはできない、というものだ。
確かに武器の特性が分からなければ、対処に苦しむ面もあるだろうけど、それ以前に武器を隠し持っているかどうかを判別することは大きな意味を持つはずだ。警戒と無警戒じゃ、初動に大きな差が生まれることなんて明白なのだから。
でも……そういえば、ハイエロは貴族は恩恵能力を持つことが多く、逆に平民はほぼ持って生まれないという話をしていた。
それじゃ平民には有用でも、貴族にはあんまり効果がない? それとも持ってないことを見極めることに意味がある? うーん、この辺りは御国事情をある程度知っていないと、思考に応用が利かないなぁ……。
「ここで一つ相談なんだけど、君たちの恩恵能力……そしてもうひとつの力について、この場で共有させてほしいんだ」
レジストンが己の能力を明かすことで歩み寄ろうとしている意思は強く感じられた。
それはわたしの他の能力を聞き出そうとする行為に対する誠意なのだろう。けど、どうしてそうまでして共有が必要なのかは疑問だ。銀糸教の危機はあれど、そこまで明かさずともいいのではないかと思うのだ。楽観的と怒られてしまうかもしれないけど……。
「最大の理由としては、連携を深めるためだね」
「……その、自分で言うのもなんですけど、出会ったばかりのわたしたちとそこまで深い情報を提示し合うのは危険じゃないでしょうか……? 冷静に考えればクラウンの保護者だけでも結構踏み込んでもらってるイメージもありますし……」
何だか当たり前のように、銀糸教からの手を振り払うためにクラウンに所属する流れを受け入れてしまっていたが、普通に考えればレジストン側にそこまでする義理はないだろう。
最悪、わたしたちがどこかで野垂れ死んでも、彼らにとって目覚めは悪くなるかもしれないけど、それまでの話なのだから。
「俺としちゃそうだねぇ……さっきも言ったけど、純粋に興味が湧いた気持ちっていうのが強いね。暴君姫の絡みじゃなくて、君の『もうひとつの力』について、という点でね。あとはそうだなぁ……クラッツはああ見えて心配性なんだ。特に自分よりも年下――それもまだ小さい子供たちが薄汚い大人に狙われてるんだ。接点を持ってしまった以上、見過ごせないっていうのが彼の長所であり、短所といったところかな。友人として、俺も色々と彼に背負ってもらってるからねぇ……こういった面で少しでも荷を軽くできるっていうならお安いもんだろ?」
「ふふ、お二人は仲良しなんですね」
家族、友人……そういった他人との暖かい触れ合いが好きそうなプラムは、ふわりとほほ笑んでそう言った。彼女の言葉にこの時ばかりはレジストンも、薄笑いの仮面を外して「まぁね」と笑った。
こっちの笑顔の方が断然似合っていると思うのに、何故にいつも飄々とした皮を被るのかが分からない。
「そっちのメリットとしちゃ、そうだな。君たちの手段を把握することで護りやすくなる、といったところかな。何ができて、何ができないか。それをある程度でも把握していれば、こっちも策を固めやすいからね」
ふむふむ、護ってもらう側で考えれば確かにそれは重要なことだ。
何をするでも、まずは可能か不可能かで大まかに線引きを行った上で行動することは誰だって同じことだ。
わたしはこくんと頷き、それを同意とみなしたレジストンは手を広げて歓迎した。
彼の言い分を理解したという意味で頷いたのだが、まだ魔法や操血について話そうと決心したわけではなかった。そんな中、そういう返しをされると表立って断りづらくなる。
わたしは思わず「うぐっ」と呻いてしまった。
「あとはそうだね。これはついさっき追加になった懸念事項だけど、それも踏まえて俺たちは互いの能力値を知っておく必要があると思っている」
「え、それは……どういう?」
他にも理由があるのだろうか。
「うん、実を言うと既に俺はベッセル亭で<模写解読>で二人を視認していたんだ。つまり君たちの恩恵能力の有無、そしてセラフィエルさんのもうひとつの力もその際につきとめた形だね。そして同時にそのとき傍にいたクラッツェードにもそのことを伝えているんだ」
「……? それがどう理由に繋がるんですか?」
「分からないかい?」
探るような視線に刺されつつも、そのまま「分かりません」と答えるのも癪なので、彼の放った言葉を一言ずつ思い返して整理する。
ベッセル亭、というと、あの宿屋――「くらり亭」だったかな? そこの隣の食堂のことだったと思う。
隣接した食堂、というイメージが強すぎてあんまり名前を憶えてなかったけど、確かそんな名前の看板があった記憶がある。
ちなみに言語、字体はやはりどの世界とも異なるものだったが、わたしには問題なくそれを読むことができた。これは過去の転生時も体験していることなので、今更驚くことでもないが、改めて考えると不思議な現象でもあった。
考えが逸れたが、そのベッセル亭でわたしたちを見た、というのであれば、やはり例の朝の時しかないだろう。
多分、タイミング的には……わたしとプラムが席に座ってメニューと睨めっこしていた時。
あの時には既にわたしの恩恵能力の存在は、レジストンとクラッツェードにバレていたというわけだ。でもわたしの能力が<身体強化>ということまではその時には分からないはず。となると、わたしをテストしようと思ったのはそれが原因?
話を時系列に並べると、レジストンが<模写解読>を使ってから彼らは二手に分かれた。
レジストンはプラムが注文をしに席を立ったタイミングを見計らってハンカチで釣り、クラッツェードは昼食を口にしていた。そしてクラッツェードは、わたしも見ていた通り、外套をすっぽり被った男――銀糸教のボスを持つ男と話をし、それが終わってクラッツェードも退席した後に、わたしが暴走した一件が起こる。
レジストンはきっとわたしの<身体強化>を使用しての移動をどこかで観察していて、そこでわたしの恩恵能力が何なのか、確信に至ったという流れだろう。
そしてクラッツェードは、昨日「例の奴らの件」で報告したとレジストンに言っていた。きっとこれは銀糸教の件であり、レジストンも「最初は興味本位」と言っていたから、わたしをテストした時は暴君姫の噂話の延長線上にある興味から。今は銀糸教の話をクラッツェードから聞いて話をしに来た、という流れだと思う。
今の所、話に違和感はない。
その後は今日と言う日になり、わたしたちが草刈りに勤しんでいる時間、彼らが何をしていたという話はなかったと思う。きっと銀糸教を探ったり、各々の生活を送るための行動をしていたのだと勝手に推測するけど、そこは手元の情報では不明確だから、一度別の場所に置いておこう。
後はこの店に来てからだ。
この店に来たのは間違いなく偶然であり、それはクラッツェードたちも口にしていた。
これが誰かに仕組まれた一連の流れだというのなら、ハイエロ並みに人の精神を操る術でも持っていないと無理だろう。ハイエロの<心香傀儡>は凶悪な能力ながらも、効果が出るまで時間を要したりなどの制限があったけど……もし仮に制限なしで他人を操る恩恵能力なんかがあったら心胆を寒からしめる話だ。
まあ、そんなものが存在していたらさすがに人間社会に国家など成り立たなくなる。
人の精神を無制限に操ることが可能なら、やりたい放題だもんね。
もしそういう能力者が実在して、かつ国家が成り立つとしたら――その王たる存在がまさにその能力者だということ。さすがにそんなことは……無い、よね?
いかんいかん、また脱線してしまった。
話を戻して宿に来てからのことを思い返す。
といってもここからはわたしたちが常にいる場だ。
思い返したところで違和感なんて出るとは思えないけど………………あれ?
店に来て、激マズ料理を食わされ、非常に気分を悪くしたところまではよい。いやその事象自体は誠に好ましくないものだけれど、そこに何か違和感を覚えることはない。
その後、レジストンがやってきて……わたしの恩恵能力を<身体強化>だと言い当てたとき、クラッツェードは少し驚いていて「そうなのか?」と尋ねてきていた。
これもおかしくはない。
レジストンがわたしの<身体強化>を確信したタイミングは、クラッツェードと別れた後だろうし、その後に報告時に会った際も、その辺については話をしなかった可能性がある。
そう考えれば、クラッツェードがあの時に驚くことは不思議でもないだろう。
けど彼は――わたしの他の能力、レジストン曰く「もうひとつの力」を聞いた時も驚いていた。
思えばあの瞬間、レジストンの視線は鋭くなった気がした。
なぜ? 今さっきレジストンはベッセル亭で力の存在をクラッツェードにも話したと言っているのに。
さっきもまるでクラッツェードを追い出すようにして調理場に行くように促していたし、その際の言動も良く分からないものばかりだった気がする。健忘症……と捉えるのはかなり失礼だし、こと恩恵能力やそれに類する力について度忘れするなんて考えられないだろう。
プラムが「?マーク」を幾つも浮かばせている隣で、わたしは正解かどうか確信はないまま、レジスタンに尋ねた。
「……クラッツェードさん、でしょうか。わたしにもう一つの力があることに驚いてました」
「ご名答」
やった、正解だ!
と思わず喜びそうになる心をぎゅっと押さえつけ、わたしはレジストンを見上げた。
プラムはというと「え、クラッツェードさん……?」とさらに考え込んでしまっているご様子。
レジストンは「ふーむ、やっぱり年齢にそぐわない聡明さ……不思議な子だなぁ」と感心してくれた。
「そう、クラッツは既に何者かの攻撃を受けている可能性があるんだ。それがどの程度、相手側に情報が洩れるものか分からないからね。だから彼には席を外してもらったのさ。そしてそれは他人事じゃなく、俺たちにも降りかかってくる可能性があると判断したんだ」
「こう、げき……」
その物騒な響きに、思わず目を見開いてしまう。
「そういう意味で、俺たちは互いの情報を共有しあう必要があるんだ」
レジストンはそういうと、肩を竦めて僅かだけれど――友を害されたことに対する怒りを含んだ表情を浮かべたが、すぐに仮面をかぶり直し、話を続けた。
2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました