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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
51/228

21 クラウンになることのメリット

いつも読んでいただき、ありがとうございます(^-^)

 パチン、と乾いた音が響いたのは、わたしが口を開こうとした瞬間だった。


 別に誰かにビンタでもされた音ではなく、レジストンが両手を合わせた音だ。


「うん、やめようっ!」


「へ?」


 何の脈絡もない、予想外の台詞にわたしは思わず変な声を出してしまった。


 何を? という視線をクラッツェードに向けると、彼は金髪の前髪に隠れがちな相貌を細め、その表情には呆れ加減が混ざっていた。


「なんでお前はそう突拍子もないんだ?」


「いやぁ、ほら。こーいうのって順序だてて言うより、まずは感情的な言葉で吐き出したいなぁっていうのが俺の性分でね」


「別に性分を正せとは言わないが、相手がいるときには止めろ。まったくもって意味が分からん」


「はっはっは、これから説明するって。いや、説明っていうのはおかしいかな?」


 どういうこと?


 表情に思いっきり出ていたのか、わたしに視線を戻したレジストンはさっきまでの飄々とした態度の薄皮が一枚剥がれたかのように笑った。


「要は――まどろっこしく外堀から突っついて、君の引き出しを開くような真似は止めるってこと」


 外堀。


 ハンカチの一件や、自らの目的を先に明かさずわたしの能力を喋らすような話し方をしていたことだろうか。


 確かに……一方的にこちらの手の内を開かせるような進め方ではあったが、何故それを止めようと思ったのか。


「不思議かい? それを不思議に思う時点で俺は君を子供だと認識しないことにしたよ。俺が遠回しに喋るのを止めようと思ったのは、馬鹿らしくなったからだよ」


「ば、馬鹿らしく……?」


 この男は何を言っているんだろう。


 わたしたちの会話に噛み合わなさや論点のズレなどは見受けられなかったはずだ。もしかしたらわたしの知らない知識や情報の中で何かしらの綻びがあったかもしれないけど、それを踏まえても、あのまま会話を進めて彼に不利な方向へ転がる材料は無い、と思ってるんだけど……。


「はっはっは、そうそう、その感情。クラッツェードは置いておいても、少なくとも俺は自分の情報の根幹は見せずに、君から反応や情報を引き抜こうと動いてた。それに気づきもせず、純粋に話してくれたり、もしくは反発してくるなら、俺もそのままのスタンスで行こうと思ってたけど……君、早々に分かってたよね? それを分かった上で、君は情報を出してくれたよね。なんでかな?」


「………………貴方を放っておくと、わたしたちの知らないところで勝手に動きそうだったので」


 正直に言おうかどうか悩んだが、それこそ無意味な悩みだ。


 彼はわたしがどう考えてここでの会話を繰り出していたか、おおよそ見当がついているようだ。


 ブラフの可能性もあるけど……んー、ここでカマをかける必要性も感じないし、まあ間違いないのだろうと思う。だから迷いは即座にゴミ箱に捨て、わたしは率直な感想を口にしたのだ。


 その判断に満足したのか、うんうん、と頷いたレジストンは、


「その通り!」


 と、ストーカーになる予定を暴露した。


 その通り、じゃないよ。


 少しは幼気いたいけな少女二人に気付かれない様に接触しようとするその行為に疑問を感じなさいよ……。


「で、俺の目的だけど初めは興味本位だったんだ。けど、今はそうも言っていられなくなった事情がある」


 待って! わたしは興味本位で絡まれて、あんなこっぱずかしい真似をさせられたっていうの!?


 いや、確かに勝手に勘違いを膨らませて屋上を駆け回る判断をしたのはわたしだけど……くぅ、話の腰を折って文句を言いたいけど、ここで話を脱線させるのは宜しくない……。


「どうもね、銀糸教ぎんしきょうなんて名前の宗派を勝手に立ち上げて、盛り上がってる阿呆が王都にいるらしくてね。そのターゲットの一人に君が選ばれてるんだ」


「ぎん、し?」


「銀の糸って書いて、銀糸ぎんしって読むらしいよ。あ、造語だから知らなくて当然だよ」


「そ、そうですか……」


 しかし銀ねぇ。


 銀の糸っていうと、シルクとかを想像しちゃうけど、わたしと縁があるような話じゃないし……いったい何を指しているんだろうか。


「もしかして、セラちゃんの髪の色……が関わってるんですか?」


「え?」


 わたしの髪?

 銀というより、くすんだ灰色だと思ってたけど……周りから見ると銀に見えるのかな?


 いや、そもそも灰色と銀の違いってなんだ、って言われるとわたしも答え辛いけど。あえて言うなら、輝きが足りない、というイメージだろうか。


 しかしプラムの推測は当たっているようで、レジストンは小さく頷いた。


「そういうことだね。アリエーゼ王女殿下を崇め奉っているらしいんだけど、いかんせん彼女は王女という身分、警備の厳しい王城に住まう身だからね。手が届かない存在だ。仮に手が届いたとしても、彼女自身、王都の騎士数十名を相手にしてもあしらえるほどの能力者だから、まぁ……姿も見えない遠くから崇めるぐらいしかできない存在というわけだ。しかし、熱心な信奉者は象徴を求めるようになる。空想だけでは不安になるんだろうねぇ……そういった連中は他人への迷惑なんて彼方へ放り投げて、自分の欲望が正しいと思い込んで動き出すわけさ」


「………………ええっと、その象徴ってもしかして、わたしですか?」


 きっとわたしは今、とても顔をしかめている。


 いやぁ、聞きたくない話だった。


 できればわたしの知らない場所で、知らないうちに終わってほしい問題だ。


「その可能性もあるし、そうでない可能性もある。そいつは部下に命じて、銀糸教の象徴になりうる素材を集めてくるように指示をしたようだね。アリエーゼ王女殿下の身体的特徴で最も有名なのは――銀髪。性別と身体的特徴を同じくする子供が狙いだろうね。けど部下も奴隷制度を撤廃した王都内で危険な真似はしたくない。となると……代役を任せる人材を求めるわけだけど、その白羽の矢がクラッツに刺さったってわけだね」


「ええっ?」


 思わず金髪の青年を凝視すると、彼は「勘違いするなっ!」と思わず声を上げた。


「んな馬鹿で不利益しか生み出さない計画に加担なんぞするか! きっぱり断った上で、ここのレジストンにそいつの情報は渡したんだ」


「そうなんですね……あ、じゃあレジストンさんの目的って――」


「そ、君の保護。そして君が狙われるとしたら、一緒に行動するプラムさんも安全とは言い切れない。だから二人とも保護する、という言い方が正しいかな」


 レジストンの言葉に、プラムはやや両手で腕を抱え、口元を結んで息を飲んだ。


「わわ、なんだか知らないうちに変なことになってるみたいだね……」


「う、うん」


 なるほど、クラウンであるレジストンは実力者だ。そんな彼に話を持ち掛けられたクラッツェードがわたしたちの身を案じて情報を流した、ということだろうか。


 しかし疑問が幾つか残る。


「あの、なんでクラッツェードさんにそんな話を部下の人がしにきたんでしょうか?」


「……」


 その問いに、何故か仏頂面のクラッツェード。

 対するレジストンはくつくつと笑い、代わりに答えてくれた。


「はっはっは、彼は最近失業してね」


「してねぇよ」


「失敬。懇意にしていた業者にこっ酷くフラれてしまってね」


「フラれてねぇよ! ありゃあっちが目先のことばっか考えて動いた結果だ!」


「つまり、クラッツは目先にすら映らなかったわけだねぇ」


「ぐっ……! そりゃ……アレだ。あいつの目が曇ってたんだろうよ」


「まぁ、捏造された旨い話なんていくらでも加味できるからねぇ……誠実に動いていたクラッツが負けるのも仕方ない話だけどね」


「……負けてねぇよ。ていうか、お前……その言い草だと、何か掴んだな?」


「それはおいおいね。とまぁこういう感じで、クラッツは市場で薬草だとか香草を商人に卸してたんだけど、その商人から突然話を打ち切られてね。で、銀糸教の連中はそういう職を失ったと思われる奴らに片っ端から声をかけて、象徴探しの手駒にしようと動いてたってわけだね」


 ……ああ、もしかして先日の市場での一件って。


 わたしは事情をおおよそ呑み込み、それについては下手に触れないでおこうと思った。


 なんだか足を突っ込むと、派手に怒られそうな気がしたから。

 今のクラッツェードを見ていると、その予想は間違いないだろうなぁと確信した。


 しかし、情報を並べてみると、色々と繋がってくるものだ。


 クラッツェードは少なくとも市場で商人と言い争っている時点では、わたしとは接点はなかった。しかし彼は食堂でわたしという存在に意識を持っていた。それは何故か?


 銀糸教の部下がクラッツェードに話を持ち掛けただけなら、わたしとは繋がりは少なくとも生まれないはずだ。


 仮に姿見の特徴を口伝で言われても、すぐにわたしと結びつくわけでもない。その後にわたしの姿を偶然見かけたとしても同じだ。わたしが狙われるかもしれない、という考えは浮かぶかもしれないけど、ここまで確信に近い形で「わたしが狙われる」と思うだろうか。


 そう思うには、きっとそう思わせることがあったのだ。


 となれば、自ずと状況は限られてくる。


 つまりクラッツェードはわたしがいる空間で、銀糸教の部下から話を持ち掛けられ、その過程でわたしという存在を示唆された――というのが一番しっくりくる。


「……コートの男」


 わたしが呟くと、クラッツェードは思いっきり分かりやすく眉間に皺を寄せた。


「見ていたのか」


「やっぱり、あの人が銀糸教の人、なんですね」


「……まあな」


 となると、クラッツェードはその時にわたしという存在を取り入れたことになるわけだが……うん、やっぱり疑問は残る。


「クラッツェードさんはその時に初めて、わたしを知ったんですか?」


「……」


 あ、視線が完全にレジストンに向けられている。

 あれは……「お前が説明しろ」的な感じの視線かな?


「そういえばレジストンさん、初めは興味本位、って言ってましたよね?」


「記憶力いいねぇ~。そうだよ、銀糸教云々の前に俺とクラッツは君たちのことを知っていた。銀糸教についてはそのあとに付いて回った厄介事ってわけだね」


「…………その、何故興味を持ったのか聞いてもいいですか?」


 銀糸教にまつわる経緯は理解したし、その上でわたしたちを保護するよう動いてくれたことは筋が通る。わたしたちがこの店を訪れたこと自体はイレギュラーだろうけど、それを丁度いい保護機会と捉えてこうして接触してきたのであれば、こうして長話をしていることも辻褄は合う。


 けど、それ以前に関心を持たれる切っ掛けは全くもって思い当たらない。


 わたしとこの世界の接点は、奴隷館やハイエロたちぐらいだ。


 可能性を上げれば……ハイエロが王都に先に遣いを出して、わたしたちの面倒を見るように手配していた――とかかもしれないけど、だとしたら、わたしたちが王都に着いたと同時に顔を出してくるはずだ。


 そもそも旅立つ際にハイエロがそのことに触れないことも考えにくいし、やっぱり何か別の理由がある気がする。


 じっとレジストンを見ると、彼は肩を竦めて「そんなに警戒しなくていいよ」と軽く返してきた。


「なに、なんてことない話さ。どーも裏側で『最近、暴君姫ぼうくんひが野盗を成敗した』なんて噂が上がってね。俺は元々、そっちの調査をしていたんだよ」


「暴君姫?」


 あれ、どっかで聞いたようなフレーズ……。


「アリエーゼ王女殿下のことだよ」


 ああ、それは聞いたばかりなので、ちゃんと覚えてる。

 銀糸教だなんて勝手な信仰の対象にされてしまった可哀そうな銀髪の王女の名前だ。


 …………銀髪の王女。銀髪の暴君姫ぼうくんひ



『くっ、……銀髪に奇怪な術を使う、王都の暴君姫ぼうくんひ! 子供だとは聞いていたが……本当に実在するとは……!』



 そんな言葉がエコー付きで脳内に再生される。

 はて、あの言葉は誰のものだったか。


 ……そうだ、ちょび髭ロン毛のものだ。

 そういえば、ちょび髭ロン毛も野盗の類だったね。


 おや、なんだか点と点がつながったような……。


「ここ最近は彼女も城からは出ていないと思うんだよねー。となれば、暴君姫と間違われるような誰かが野盗に矛を向けたという線も出てくるわけで……そんなことを考えつつ、王都を出入りする人間を調べていると、まあ何と言うか、まさに『そのもの』という人物が貴族用の馬車に乗ってやってきた、ってわけさ」


「な、なるほど……良く分かりました」


「うんうん、話が速くて助かるよ。で、こんな小さな子が野盗を追い払う? なんて疑問が生じて、ちょいとテストを行ったって流れだね。つながったかな?」


 それでハンカチの話へと繋がるわけね。


 うーん、広いようで狭いこの世の中。

 まさかあの出来事が回りに回ってレジストンたちとの縁をもたらすとは思わなかった。


「ま、そういう事情があって何とも奇妙な巡りあわせだけど、こうして会話を交わしてるってわけだね。本当はクラウン云々の話が無くても、こちらから一度は接触するつもりだったけど、偶然とはいえ、今という丁度いい機会ができて良かったよ」


「は、はぁ……」


 とりあえず、自分たちの知らない裏側で動いていた状況は理解できた。


 けれど彼がわたしたちのクラウンの保護者を買って出た理由と、わたしたちの保護目的がどうもしっくり来ない。


 保護が目的なら、純粋にクラウンでなくても他にやりようがあると思うのだけれど……。


 会話に途中から加わるために話題に乗っかっただけなのか、それとも本当にクラウンでなくてはならない理由があるのか。


「ああ、君にクラウンへ加入してもらいたい、っていうのも嘘ではないよ。強制ではないけどね」


 あ、やっぱり何か理由があるんだ。


 しかし……こうも考えていることを読まれると、何ともやりづらい感覚に包まれてしまう。


「危険な依頼は受けなくていいんだ。クラウンに君が所属することが大事なんだ。王都民ではない君はクラウンという立場を経て初めて王の加護を得られるんだからね」


「王の加護?」


「この国の平民は土地と生活を保障される代わりに、領土を持つ貴族に管理される義務があるんだ。それは言い換えれば、その貴族の所有物ともとれるし、貴族の権力下で守られるとも言える。その辺の境目は管理者によってまちまちだけどね。良き領主もいれば、悪しき領主もいる。上の統治に民の心情が左右されるのは当然のことだからね。まあそんなことはともかく、王都っていう場所は国内最大の土地であり、主要都市であることは言うまでもないよね?」


「はい」


「そこを統治するのは一介の貴族ではなく、王族。つまり国王陛下その人になる。であれば、そこに住む人々はすべて王の統治下に入り、その者たちに仇なす輩がいれば、それは王へ刃を向けたことと同義になるんだ」


「なるほど……ということは、クラウンになれば王都民と同じように扱ってもらえる、ということですか?」


 そういうことなら話がつながる。

 そう思ったのだが、レジストンはゆったりと首を振って否定した。


「いいや、クラウンになったといって王都民にはなれないし、同じような扱いにはならないよ。余所の領の人間が正式な王都民になるためには、王の許可と王城での登録が必要だからね。そう簡単な話でもないんだ」


「そ、そうなんですね……」


 う、思いっきり外してしまった。

 ちょっと自信があっただけに恥ずかしい。


「でも、クラッツからの話にもあったように、クラウンは王都で重宝されてるんだ。つまり、王から見て利用価値がある人間であるということ。王都直轄の公益所が管理していることや、金をとるとはいえ王都の領土内で半永久的に住まうことだって許可されてるんだから、どれだけ王都にとって手放したくない存在かはわかるよね? 王都の長い歴史の中で英雄として名を馳せた人物もクラウン――討伐隊が出自だからね。歴史的にも付き合いが長く、切っても離せない仲なんだよ、この両者は。……そのクラウンの資格を持つものに王都という土地の中で危害を加えられたら、クラウンたちはどう思うかな?」


「……危害を与えた者へ制裁を与えに行くか、もしくは――王都へ不信を抱く、ということでしょうか?」


「はっはっは、そうだね。英雄時代の討伐隊なら国と連携して仇なす敵を倒していたかもしれないけど、残念ながら王都からは繋がりを保ちたいクラウンだけど、クラウン側からはそういう気持ちが今は薄いんだ。正直、住居を確保できて金払いがいいからクラウンをやっている、程度だろうね。討伐隊という名を外されたあたりからそういう傾向は強くなっていったみたいだけど、今となっては国と傭兵のような関係でしかなく、国への忠義からクラウンになった者は半々程度だと思うよ。だからその半分は、不信感を抱く可能性が高い。最悪、その危害を与えた人間が王都の人間、さらには貴族であった場合はまずいだろうね」


「……なるほど、それでわたしがクラウンに所属すれば、相手も迂闊に手を出せなくなるんですね。手を出せば……王とクラウンの間に歪みが出る可能性がある。そして王はそれを望まない……となれば、結果的に王国を敵に回す事態に発展する可能性がある、と」


「そうそう、もっともクラウンになれる時点で一定の実力者であることは保障されるわけだから、考えなしに手を出そうという愚か者はそういないと思う――という打算もあるんだけどね。君が<身体強化テイラー>を持っていて、かつそれを自在に使いこなしていた一件がなけりゃ、俺もクラッツと同様に推奨はしなかったけどね」


「……そこまで、なのか?」


 レジストンの言葉にクラッツェードが腕を組みながら確認する。


「相当だったよ。建物の上をピョンピョン飛んでいく様なんて、爽快な光景だったね」


 ……うん、見られていることは先にプラムに言った通りわかっていたけど、こう改めて感想を述べられると非常になんというか……お尻のあたりがムズムズする。ようするに居心地が悪い。


 そういえば、プラムが静かだなと思って彼女を見ると、彼女は小難しい会話の応酬に目を回している最中だった。


「クラウンになれると……プラムお姉ちゃんも守れるんですか?」


「ああ、クラウンの親族や友、絆が深い相手が傷つけられればそのクラウンが傷つけられたも同然に思うのが普通だよね。だからセラフィエルさんはプラムさんと仲が良いことを前面に出し続けていれば、自然と向こうも手が出しづらくなるんじゃないかな」


 おお、クラウン、至れり尽くせり!


 いかにわたしが戦えても、四六時中、プラムの様子を確認できるわけもない。プラムだってずっとわたしに監視されるような環境は嫌だろうし……自然な暮らしの中でそうできるなら、それが最適だ。


「もっとも……君がクラウンとしての適応試験に合格できるかどうか、というのが鍵になるわけだけど――」


「やりますっ!」


 わたしは手を挙げて、クラウンへの道に乗ることを示した。


 その様子にレジストンは「はは、元気がいいねぇ」と笑い、クラッツェードはまだどこか心配してくれているのか「本当に大丈夫なのか……」とつぶやいていた。声を大にして否定してこないあたり、もう止める気はないのだろう。


 プラムも反対派だったが、今は知恵熱で活動停止しているため、特に会話に入ってくる様子はなかった。彼女には申し訳ないけど、クラウンにわたしがなること自体に不利益はないと思うので、ここは勝手に進めようと思った。


 できれば……誰にも狙われない生活が一番良いのだけれど、話を聞く限り、わたしの行動云々以前に容姿が原因で狙われているみたいだし、遅かれ早かれ、という事態になっていただろう。


 今は、そういう事態に陥る前に、こうして王都の現状をよく知る人物と出会えたことに感謝すべきかな、とわたしは意気込みを新たにしたのだった。



2019/2/25 追記:文体と一部の表現を変更しました

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