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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第一章 操血女王の奴隷生活
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04 今世初の魔法

 わたしは慣れた感覚の元、両手を向い合せ、その中間に魔力を収束させる。


 ――そして確信する。


 魔法は間違いなく使える、と。


 毛穴が逆立ち、体感するかしないか程度のそよ風のような空気が皮膚から滲み出る感覚。間違いなく体内の魔力が滲み出ている感覚だ。


 逃げる先の選択肢として……地中と空がある。


 地中であれば地中遊泳、空であれば空中飛行だ。


 どちらを選択するかと問われれば、地中……かな。

 脱兎ならぬ土竜もぐらの如く、見事この場から逃げ去ってやろうじゃないの。


 空中飛行はただ飛ぶだけなら、見た目よりもそう難しくはない。


 魔法の難易度としても中位クラスだ。ただ今回は人目から避けるために認識阻害もつけて飛ぶのが安全だと考える。すぐ近くで矢が飛んでいるような場所だからね。


 そして認識阻害という要素が上位魔法に区分され、周囲の景色と同化するための精密な魔力操作が必要となり、景色に溶け込むためのコントロールが難しいのだ。加えて……認識阻害と飛行の二つの要素を脳内で処理しつつ魔法を使用しないといけない。さらにわたしの姿が不可視になろうとも矢が飛んでこない保証はどこにもない。偶然飛んでくる流れ弾に対する保険もかけるとなると、強い防護風も展開しないといけないので、最大3つの処理が必要になるわけだね。


 そうなると、ちょっと幼児化した今の頭で高度な魔法を含めた並列処理が可能かどうか……一抹の不安が残る。


 試してもいいけど、認識阻害に思考のほとんどが持っていかれて、空中で飛行の魔法が解けでもしたら、数秒後に潰れたトマトの完成である。トマトは美味しいし大好きだけど、セラフィエル本体仕込みのトマト料理は絶対に不味いと思うんだ……。


 うえっ……、思わず前世の最期を思い出してしまった。


 どうにもならん化け物の圧倒的な力で押し潰された時の――全身の血肉が圧縮された不快感を今でも覚えている。一瞬とも言える時間で死を迎えたため、痛みが記憶に残っていないことだけが幸運だったと言えよう。あぁー、駄目駄目。そんな記憶は蓋をして、さっさと元の思考に戻ろう。


 ……地中遊泳については、全身の周囲に楕円形の風の膜を張り、その膜に超振動をまとわせることにより、土竜もぐらのように地面を掘り続け、後方射出する風圧で舵を取りながら進む融合魔法のことを指す。


 これも複数の魔法を発動する必要があるが、一つ一つはイメージが難しくない魔法のため、今回はこちらを選択する。万が一、途中で魔法が動作不良になったとしても、地中なら落ち着く時間はあるはずだ。粒子の細かい砂が多い地層でなければすぐに生き埋めになることもないだろう。


 このように同一または複数属性の二種以上の指向性を混ぜ込んだ魔法を「融合魔法」と呼ぶ。

 要は魔法の重ね掛けだ。


 認識阻害を加えた空中飛行は、文字通り認識阻害+空中飛行の組み合わせ。オプションで防護壁もつけるならそれも追加して発動させる。


 地中遊泳は、風の膜+超振動+風圧の組み合わせとなる。


 魔法というものは固有名詞とその作用が完全一致しているわけでなく、ぶっちゃけると魔力を操作して何を具現化するか、というだけの力だ。


 「ファイアーボール!」と叫んで、その言葉に反応して火の玉が出るのではなく、頭の中で具現化する事象を想像して、それを魔力を以って模る――それが魔法なのだ。


 だったら風で作成する防護壁も、風の膜も、結局同じじゃん! と突っ込みたくなるものだが、これはあくまでも術師の認識で言葉の住み分けをしているだけの話で、別に思い通りに魔法が発動さえすれば、どう表現しようが個人の自由なのだ。


 そういえば過去の知人に「格好いいから」というアホな理由で、自分の魔法全てに名前をつけ、発動時には叫ぶ習慣を身に着けた男がいたな。彼は結局、多種多様に亘る魔法の効果に対して、名付けた名前を覚えきれなかったようで、最後には魔法名を解説付きでまとめた自作の分厚い本を片手に、魔法発動前にまず名前を探すという暴挙に出ていたな……。「いやいや、お前探している間に死ぬぞ?」と心配して声をかけたことがあったが、彼はとてもいい笑顔で「これが俺の生き様さ」と親指を立てていたのを覚えている。実際に生涯を終えるまで、その考えを捨てなかった彼の矜持「だけ」は認めてあげてもいいのかもしれない。意味ないから絶対に真似しないけど。


 因みにわたしが同じように聞こえる防護壁と風の膜を何故そう表現したかというと「風の防護壁」は多少強い衝撃や矢などの殺傷性の強い物が飛来してきても弾けるほど、強い風の壁を想定している。


 逆に「風の膜」は本当にうっすらと風で自身を覆うイメージで、その膜自体に強度は考えておらず、超振動の媒体にする程度にしか考えていない程度のものだ。後方出力を想定した風圧で風の膜に覆われたわたしを押し出し、方向転換を調整しつつ、超振動で地中を掘り進めていく流れだが、掘り進める速度よりも風圧を強めない限りは膜が破けることもないことは過去の経験上知っているため、その程度の強度にとどめているのだ。


 ――余計な出力は魔力の無駄遣いになるからね。


 二度目、前世では無駄遣いのことなど気にするまでもないほど膨大な魔力量を誇っていたわたしだが、だからといって、壊れた蛇口のように馬鹿みたいに出力を気にしないで魔法を打ち続けていれば、いざというときに細かな出力を必要とする精密な魔法を扱えなくなる危険性がある。それが死に繋がりでもしたら笑い話にもならない。魔法を極める者は、効率性も重視しないといけないのだ。


 あと想像して事象を魔力で模るのが魔法、と言ったが、想像したものが全て形になるのであれば、世界は面白おかしいものになることだろう。しかしわたしが歩んできた世界ではそうはならない。何故か? 言うまでもなく、魔法にも限界があるからだ。


 これは科学時代も経験しているわたしだから理解できたことだが、おそらく――魔法は地球上に存在する原子、そして物理法則を無視して具現化することはできないんじゃないかと思っている。


 これについてはわたしの仮説だし、研究できるような環境も知識もないので根拠が薄い話になるが、たとえば突飛な想像――空間転移などを試みようとしたとする。

 その結果、魔法は発動しなかった。


 正しく人体の原子構成と、その再構成を理解すれば可能なのかもしれないが、そんなものを理解できる人間がいるはずもなく、故に魔法は発動しなかったのではないかと踏んでいる。


 面白そうな分野なので、いつか科学と魔法が混合した世界に行きつくことがあれば、そういう視点で人生を楽しむのもアリなのかもしれない。


 話は逸れたが、融合魔法はそれら一つ一つの魔法を組み立てて応用することにより、成立するわけだ。魔法の扱いに長けており、アイデアがあれば、無限の可能性が広がるというわけだ。


 二度目の人生では、わたしも単純に魔法を使うことばかりに傾倒していたが、前世ではそれに飽きて、何か別の方向に進化できないかと色々模索した。


 その結果生まれたのが「融合魔法」だ。

 そう! 実は発案者はこのわたしだ。


 物の見方を変えればこんなに簡単な進化が目の前にあったんだ! と前世のわたしは魔法の可能性の拡大に舞い上がり、嬉しさのあまり「どうだ、凄いだろ!」と王家を介して世に公開した途端、前世の魔法事情が大きく変わった。


 主に戦争面に……。


 魔法使いとして魔力・制御・センスがあれば、創造性一つで世界が変わるのだ。どこの国も積極的に研究と人材強化に取り掛かり、結果としてただでさえ殺伐としていた前世の世界は、滅びへの一途を加速させ、さらなる戦火をまき散らしたのだ。


 わたしとしては軽ぅーく「凄いねぇ」と称賛でも浴びれば満足だったのだが、まあ……考えが浅はかだったことは認めよう。むしろ何故そんな簡単な未来が想像できなかったのかと、興奮で我を忘れていた当時のわたしの胸倉をつかんで問いかけたい。


 世界の発展に大きく貢献したといえば聞こえはいいが、結果として戦争の火種を大きくしただけの歴史だけが残ったわけだ。


 そう考えると、わたし……色々ととんでもないな。

 もちろん悪い意味で……。荒れくれた前世を生き抜くために、それなりに必死だったこともあるのだろうが、こうして離れて当時の自分を俯瞰するだけで、その異常性が際立つ。


 もし今世で融合魔法のような使い方が世間に認知されていなければ、黙っていよう……。


「むぅ!」


 今はそんな鬱な過去はいったん、忘れよう!


 そう思ってわたしは気合の入りそうな声を漏らし、両手を握りしめた。


 そして、わたしは三種の指向を持った魔法を発動させる。


 一度、頭の中を空っぽにし、次に膜、超振動、風圧という単純動作を組み立てていき、自身の魔力を糧にして魔法という現象を呼び起こした。


「お――」


 ずももも、と振動によって地面が削られていき、膝小僧のあたりまで沈んでいく。

 ……と思ったら、周囲を張っていた魔法は弾けるように霧散していった。


 そして――、



「おぇぇぇぇぇぇぇぇーーーっ!」



 わたしは盛大に吐いた。



2019/2/23 追記:文体と多少の表現を変更しました。

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[良い点] 面白いです (∩´∀`)∩~♪ [一言] >魔法使いとして魔力・制御・センスがあれば 私も融合魔法使えますかね ? (;'∀')
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