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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
44/228

14 寂れた料理店と見覚えのある青年

すみません、前回予告から題名が変わりましたm( _ _ )m

「セ、セラちゃん……そろそろどこかのお店に入ろ?」


「ぅ……で、でも」


「お、お姉ちゃんのお腹はそろそろ限界みたいなの……。このままだと、行き倒れちゃうよ……」


「ご、ごめんなさぃ……」


 望む店を探して一時間ほど経っただろうか。


 月が夜空を照らす時間帯になると、どこの店からも笑い声や楽しそうに話す声が店先から漏れてくる。


 暗闇を照らす蝋燭の灯りが王都内の道や店頭を幻想的に写し出し、そんな風景が暗い道を歩くわたしたちからは別世界のように見える。もちろん、わたしたちの空腹が限界に達したため、視界がぼんやりと薄れていることが原因なのは分かっているのだけれど。


 二人してお腹を抱えて、王都の比較的大きい道路の端々に並ぶ飲食店を眺める。


 酒の入った容器を片手に大声を上げて笑っている連中のいる店には入らない方がいいだろう。

 あちらに悪意がないとはいえ、絡まれない保証はない。

 特に少女二人組なんてカモは、真っ先に彼らの話のタネに繋がりそうだから、できるだけ避けたい。


 時間帯が夜に差し掛かってからは、店もそういう系統にシフトする場合が多く、どこも似たような活気に満ち溢れていた。その雰囲気に誘われるようにプラムがふらふらと店の中へと吸い込まれていくので、わたしは慌てて手を引いて彼女を道路側へと戻していく。


「セラちゃ~~ん……」


「ごめんなさい……でも、その店はちょっと危険かなって思うの。もっと静かなところの方が安全かなって」


「みんな楽しそうだよ?」


「う、うん……そうなんだけど」


 酒の入った男共は、理性というたがが外れやすい。


 同性のわたしから見ても可愛らしい容姿であるプラムをそんな群れの中に放り込んでしまっては、何をされてしまうか分かったものじゃない。


 プラムは「姉らしく在れ」と、わたしを護るためになら虚勢とはいえ強気になれるが、こと自分が対象になるとかなり押しに弱い印象がある。


 きっと自分の価値を低く見積もっていることと、妹がいたことで自分よりも他人の方を気にしてしまう性格に育ってしまったことが原因なのかな、と勝手に思ってる。


 あとは生粋の優しい子なので、押せ押せにも弱いけど、泣き落としにはもっと弱そうだ。変な虫が彼女についてしまわないよう、わたしが気をつけておかないと……。


「あ、セラちゃん! あそこもお料理屋みたいだよ!」


「え?」


 プラムの言葉に顔を上げると、表通りから少し内に入った道の先に静かに佇む一軒の店があった。


 この通りの店はこんなにも騒ぎが外まで聞こえるほど明るいというのに、その店はどうも……言いにくいけど、人気にんきがないというか……うん、人気ひとけがないね。


 プラムにはそういう店に入りづらいという意識がないのか、それとも空腹で考えが回らないだけなのか、今度はわたしの手を引っ張って、その店へと向かっていく。近づくにつれてより店の様子がハッキリとしてくるわけだが、人がいない所為か……やけに道の風通しが良くて肌寒い。


 店の前からガラス窓の向こうを確認する。


 ……うわ、人気がないとは思ったけど、誰一人としていないとは思っていなかった!


 燭台の上の蝋燭の火が寂しく揺らめいている姿はどこか悲しみすら匂わせている。


 入口に看板があり「閉店」と書かれていないあたり、営業時間なのは分かる。けど、外から見えるカウンター席のような場所に、客がいないのは分かったけど、店員すらいないのはどうなんだろうと思ってしまう。


 よく見るとガラス窓はひび割れているし、室内の丸テーブルにそれぞれ置かれた燭台の蝋燭も、溶け切って消えているのもチラホラ。暗い雰囲気を感じたのは、ところどころ灯りが消えてしまっているのも要因のようだ。


 嫌な予感がして、わたしは暗がりの部屋の天井、その隅に目を凝らして見てみる。


 うわっ……天井角に蜘蛛の巣が張ってある……。


 玄人好みの骨董屋でそういう寂びれた空気が好まれているならならまだしも、人が物を口にする食事処でこの衛生面は――正直、ない。少なくともわたしの中ではない。


 食卓に並ぶお椀の中にクモが天井から垂れてきたなんて光景を思い浮かべるだけで、嫌だ。


 だから野営でもわたしは開いた平野で馬車を止めることを意識していたのだ。もちろん見開いた場所の方が過ごしやすい、という気持ちが一番だったけど、森の中だと虫が鬱陶しいだろうなぁと思っていたのも事実だ。


 ……客を招き入れる気ゼロかな、この店。


「お、お姉ちゃん……別のところにしない?」


「え~、セラちゃん、さっき静かな店がいいって言ったじゃない」


「これは極端過ぎ! お姉ちゃん、よく見て! まだ立ち入ってもいないのに、この玄関口から感じられる過疎臭を! 明らかに閑古鳥が鳴いてるよ!」


「か、かんこどり……はよく分からないけど、セラちゃん? 我儘は言ってほしいとは言ったけど、さすがに今日はもう店を決めないと、お腹が空きすぎて逆に痛めちゃうよ? ほら、セラちゃんの食べたいお店探しは明日から手伝ってあげるから。今日はもうここにしようよ」


「え、えぇ~……だ、だって」


「ほらほら、文句言わないの。それにもしかしたら、ここがセラちゃんの求めている味があるお店かもしれないよ?」


 無い!

 絶対に無い!


 わたしは料理はほとんどできないが、別に完全な無知というわけでもないのだ。


 料理というものが、下ごしらえから分量、調理時間、盛り付けまで事細やかな技術とバランスで成り立っていることを知っている。


 そこに経験というスパイスが加わり、最高の料理というものが出来上がるのだ。


 レシピ通りに作ることは素人のわたしだって出来るが、やはりどうしても機械的な味というか、代わり映えしないものが出来上がる。それはそれで美味しいんだけどね。


 料理の道を歩んできた専門家の前では、同じように作っても、やはり何かが違うのだ。その差に、わたしは専門家たちに備わる緻密と情熱、経験によって培った僅かな調整が詰まっているのだと思っている。


 けど……この店の有様を見て、とてもじゃないけど、この店の料理人にそんな矜持が備わっているとは思えない。むしろ備わっていたら、わたしの価値観が崩れるから、備わっていないことを切望する!


「もう」


 そう呟いて、プラムは「よいしょ」と声を漏らしてわたしを抱えあげた。両足が地面から離れ、わたしは強制連行を悟り、慌てて背後の温もりを見上げた。


「ちょ、お姉ちゃん!?」


「今日はお姉ちゃんのお願いを聞いて? 明日はセラちゃんのお願いを聞くから」


 ――今日は大人しくこのお店でご飯を済ませよう。明日は一緒にお店探しを手伝うから。

 そういう意図の言葉に、わたしはうぐっと返事に詰まってしまった。


 そこまで言われて、まだ駄々をこねるようであれば……それは分別がまだつかない本当の子供だ。


 すでにここまで空腹になるまでプラムには付き合ってもらったのだから、これ以上わたしが粘っていい理由は無いだろう。


 わたしは仕方なしに小さく頷いた。


「よしっ」


 いい子いい子、と頭を撫でられることに気恥ずかしさを覚えるが、それでプラムの機嫌が良くなるならお安いものだ。しかしそれも束の間、プルプルとプラムの腕が震えたかと思うと、ぐでっとわたしごと地面に腰を落としてしまう。


「お、お姉ちゃん?」


「もう……ダメ……今ので僅かな体力も使い切っちゃった……」


 ぐるるるぅぅ~……と、喧騒から外れた路地に来てしまったため、大きく腹の音が響いてしまった。


「本当にごめんなさい……」


「ううん、謝ることでもないよ。それよりご飯、ご飯だよっ」


「うん」


 わたしたちはお腹を片手で押さえつつ、店の入り口を開いた。

 ギィと軋んだ蝶番の音を響かせながら、戸口を跨ぐ。


 ……埃っぽい。


 ちゃんと掃除してんだろうか? してないよね……蜘蛛の巣はってるんだもんね。


 最悪、虫の多いところで野営したと思えばいいかとは思うけど、これじゃ料理をする前の食材の品質もちょっと疑わしい。腐ってたりしてるんじゃないかと、どんどん邪推ばかりが頭に浮かんでしまう。


「す、すみませ~ん……」


 プラムが店の奥、カウンターの更に奥にあるだろう厨房へと声をかけた。


 他に雑音が無い分、彼女の声はよく店内に通り、その声が聞こえないという状況はないと思えるのだが……一向に店側からの反応は返ってこなかった。


「……」


「……」


 二人顔を見合わせる。


「る、留守かな?」


「でも……看板出てたよ」


「だ、だよねぇ」


 店をたたんでいるなら看板は出さないだろうし、そもそも施錠されているだろう。


「誰か……いませんかぁ~……?」


 お客さんですよー、と再度声を上げるも、物音一つ店内には起らなかった。


「…………で、出よっか?」


「そう……だね」


 なんだ、せっかく覚悟を決めたというのに、不在とは拍子抜けだ。


 不幸中の幸いとでも言うべきか、何はともあれ、ここで食事をとらなくていい口実が出来て良かった。


 ――そう思って、踵を返そうとした時だった。


 背後の扉がバンッと開き、ちょうど反転したわたしたちと扉を開けた人物とが対面する形となった。


「………………は?」


 出入口に扉を開けた格好のまま固まったのは一人の青年だった。


 金髪碧眼、まるで夢見る少女が絵に描いたような美形を持っているだろうに、ささくれだった雰囲気がその全てを台無しにしている。この台無し具合……どこかで会ったような……?


 首を傾げているわたしを青年は見て、ギョッと目を見開いた。


「お、お前……ここで何をしているんだ?」


「え?」


 まさか明らかにわたしより年上のプラムが横にいるというのに、わたしに尋ねてくるとは思わなかった。


「えっと……こちらで夕飯を取ろうと思ってきたのですが、貴方はここの店の方ですか?」


 質問の意図を測りきれず、わたしが悩んでいる様子を見たプラムが代わりに答えてくれた。


「なっ……、お、お前ら、ここに食事をしに来たっていうのか?」


「はい」


 青年はわたしとプラムを交互に見やり、信じられない生物を見るかのように碧眼を揺らがせていた。


 そんな珍獣を見るような目で見なくてもいいじゃない、と言いたいところだけど、この店の状況を鑑みれば……まぁ無理もないかなと思う。わたしたちはともかく、店側の人がそう思っちゃいけない気もするけど。


「お前ら……二人だけか?」


「はい」


「親は? まだ小さい上に女の子がこんな夜に出歩いちゃいけないだろう」


「い、いえ……私たちは、その……」


 猫背にだらしなく着込んだ服装をしている割に、まともなことを言う。


 しかし親のことを聞かれてしまったため、当時を思い出してしまったのだろうプラムの表情はさっと陰に沈んでしまい、言葉が上手くまとまらなくなる。


 いいごもるプラムにそのまま会話をお願いするのも酷なので、わたしが後を引き継ごうと口を開く。


「わたしたち、戦災孤児なんです」


「せん――そうか。余計なことを聞いてしまったな。思い出させてしまったのであれば謝罪しよう」


 わたしたちの境遇を理解した青年は、少し俯き気味になったプラムに、そしてわたしにそれぞれ視線を配り、小さく頭を下げた。


「あ、い、いえっ……大丈夫です」


 悪気があっての言葉でないことは分かっているし、心配から来たものだったので、プラムも慌てて手を振って、問題ないことを示した。そのことに青年はほっと息を吐くも、すぐに視線を細めた。


「だが、どんな境遇であろうと周囲はそれを考慮してくれるわけではないからな……。いかに安全性が高い王都で、現王が奴隷制度を法度と定めていようとも……そういう輩は蛆のように湧いて出てくるものだ。酷な話だが……女性二人が出歩くことは褒められた話じゃないな」


「はぅ……」


「……」


 プラムは恐縮して肩を縮めてしまったが、わたしは逆に「こういうこと」をハッキリと面と向かって言える青年に好感を持った。下手をすればわたしたちから反感を買う言葉でもある。


 わたしは例外だけど、プラムは好き好んで今の現状に足を踏み込んだわけじゃない。

 巻き込まれ、強者に蹂躙された後にようやく得た自由なのだ。


 それに多少なり解放感を抱いているだろうプラムにとって、彼の言葉はあまり嬉しいものではないだろう。それは彼も重々分かっているようで、皺を寄せた眉間が彼の心情を物語っている。


 気怠そうな姿勢に反して、中々に好青年なのかもしれない。


 …………ん?

 待って……金髪、背が高い、猫背、そしてこの台無し感。


 よく見たら、一昨日は市場で見かけ、昨日は昼に見かけた青年だった。


 今まではどちらも昼時に遠目で見ていた時の印象が強く残っていたため、至近距離で正面から面と向かって話す現状と違って見えていたらしい。あとは空腹で集中力がちょっとかけているのかもしれない……。


 思い出したら、尚のことお腹が空いてきた。


 おずおずとわたしは手を上げて尋ねた。


「あの……ここって食事は出していないんでしょうか?」


 背中をくの字に曲げて訴えかけるわたしたちの姿に、彼は改めて目を見開いた。


「お前ら……本当に飯を食いに来たんだな……」


 その台詞が、まさにこの店の風評を表しているように思えたのはわたしだけだろうか……。


 自他共に認めるほど、ここの飯はマズイのだろうか……。


 空腹時は何でも美味しく感じると言うが、節にそうなってほしいとわたしは自分の腹に願うのだった。



次回は「15 知識なき挑戦は勇敢ではなく無謀である」となります(^-^)ノ


すみません、日曜更新は所用にてお休みといたしますm( _ _ )m


2019/2/24 追記:文体と一部の表現を変更しました。

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