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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
39/228

09 王都平民街の一日 後編

申し訳ありませんm( _ _ )m

仕事の事情で、予約投稿が遅れてしまいました。。。


 案内板では碁盤の目のような、網目模様の地理だったはずなのだが、大通りとは異なる細い裏道へと足を踏み入れると、あの案内板の地図はかなり大雑把なものだったと理解できた。


 まあ、目的の場所――例えばわたしたちが泊っている宿屋などの場所に辿り着く、というだけの話であれば、アレで事足りるのだろうが、今のわたしにとっては不利にしか働かなかった。


 裏道は走っている間では気づけないが、意外と斜めになっていたり、行き止まりであったり。

 土地勘がない者からすれば、非常に厄介な道の連なりであった。


 真っ直ぐ走っているつもりが、いつの間にか斜めの道に入り、大通りに出てしまった時には、あの門前の案内板を破壊してやろうかと思うぐらい苛ついた。もっとも……細かく書かれていれば、それはそれで嫌だっただろうから、これは完全にわたしの八つ当たり。


 ……見つからない。


 体力や運動能力、魔力などが著しく衰えていても、長年の経験から来る知覚だけは、変わらずわたしの中にある。そしてその知覚すらも<身体強化テイラー>が強化してくれており、わたしの今の気配探知は僅かな物音の反響すらも拾えるほど、鋭利なものへと化していた。


 と同時に、これは長く続かないと理解する。


 あまりにも周囲の細かな反応の全てが脳に降りかかってくるため、処理が追い付かないのだ。無理に拾い切ろうとすると、脳が焼き切れたように痛みを抱え込む。


 ――ダメ、人が多すぎる。


 聴覚や気配探知では近辺の異変を拾い切れそうにない。


 雑多な感応が入り込んでくる現状に、わたしはかぶりを振って作戦変更をする。


 見上げれば、すぐ近くの路地に面した建造物がこの辺りでは頭一つ、高いようだ。そこにしよう。


 狭い路地に入り、誰も見ていないことを確認した後、道に沿って並ぶ建物の突起物などに足や手をかけ、やや強引に壁を駆け上っていく。


「っ……っ……」


 強化しているとはいえ、ちょっとキツイ作業だ。

 大地を蹴るのとは違い、重力に逆らって建物の外壁を登っているのだから負担が大きいのも当然か。


 壁から出ている換気扇のようなものを蹴り、ベランダの淵を掴んで、さらにそこを足場に――まるで猿のように器用にわたしは屋上を目指して駆け上っていく。


 やや息を切らしながらも屋上へとたどり着き、呼吸を整えることすら忘れて、わたしは四方の端を回って、下界を滑る様に凝視していく。


「…………」


 とはいえ、こんな方法で見つかるなら苦労はしない。


 大通りは既に朝食を終えた人々が第一内壁門を目指したり、街中を歩いたりと各々が思いのまま縦横無尽に埋め尽くしている。そんな中で犯人――かな、と思う金髪の男性やコートの男を探すのは、砂の中から一粒の金を見つけるのに等しい。


 いや、待って。


 人攫いがいたとして、そんな奴らが大人しく王都内に残ろうとするだろうか?


 もちろん王都内に奴らのねぐら、隠れ家があるとすれば、そんな予想はアテにならないだろうけど……そんな発見不可能なケースを想定しても何も始まらない。


 今は少しでも可能性がある方に懸けるべきだろう。


 であるならば、敵は門をくぐると前提を設定し、わたしは<身体強化テイラー>で強化した両足に鞭をうち、隣接する背の低い建造物の屋上へ向かって、助走をつけて飛び移る。


「……!」


 僅かに一番最初の世界――わたしが黒血こっけつの死神と呼ばれていた科学特化の世界の時を思いだす。


 そういえば、あの時は義賊的なイメージに憧れ、裏社会に身を沈めてからは操血という力を駆使して、こうやって建物の上を飛び移ったりしていたなぁ。


 黒歴史、だけど。


 黒歴史、といえば……あの時は魔法もないし、今みたいに<身体強化テイラー>による強化もなかった時代だから、着地に失敗して膝から爪先にかけて複雑骨折したこともあったな……。


 一人、人知れずビルの屋上でもがき苦しんでいたことは、当時は大変な出来事だったけど、今になって思い返せば何とも馬鹿なことをしていたんだろう、と恥ずかしくなってくる。


 気分はあの時に近い……いや、自分に酔ってない分、まだマシかな。


 三つ目の屋上へと足を踏み込み、前方の第一内壁門を見据えながら、わたしはなおも走り続ける。

 目の前の建物はこの屋上よりも数階分、高い。


 さすがに先ほどみたく壁を力業で登っていくほど、わたしも平常心を保っていないので、ここは魔法を使って上へと昇っていくことにした。


 宙にジャンプし、魔法によって足元に空気層を噴出させ、その勢いに乗ってどんどん上空へと昇っていった。外から見れば、空を歩く人間(スカイウォーカー)に見えたことだろう。


 最後の足場を乗り越え、わたしは門近くの建物の屋上にて足を止め、地上から怪しまれない程度に顔を出して、門の行き来する人の波を見下ろした。


「プラム、お姉ちゃん……どこ?」


 呼びかけても返事があるわけがないのに、それでもわたしは声に出して彼女を探す。


 焦りが顔を出してはわたしの心を乱すが、何度押し込めようともこの焦燥感を抑える術が見つからない。


 極度な焦りは目を曇らせる。


 分かっていることなのに、どうしても地上の様子の様々な動きに目移りしてしまい、その度に思わず舌打ちをしてしまう。


 額から汗が流れる感覚に苛立ちを募らせていると――不意に、強化されたわたしの耳に声が届いた。


「何をするのっ、離してっ!」


 女性、それも声の高さから若い女性の声だ。


 人々の喧噪の外側、距離もあったため、それがプラムのものだったかは確信が持てなかったが、常時では聞かぬ拒絶の声にわたしの心が大きく反応した。


 思わず声の方向を見定め、第一内壁門の手前の建物……つまりわたしの建物からやや離れた場所の路地、その角に亜麻色の髪がふわりと舞ったのを確かに見た。


 路地の角を曲がったのだろう。


 すぐに髪は見えなくなったが、もし、プラムが誰かに手を引かれ、今もどこかに連れ去られようとしているならば、すぐに追いかけなくてはならない。


 わたしは屋上をつたうか、下に降りて地上で追うか、少しだけ迷ったが、いったん下に降りて地上から追いかけることにした。屋上だと、いざというときに距離があきすぎるためだ。上から魔法で狙撃する方法もあるが、正直、今のわたしの精神状態でプラムに傷つけずに犯人だけ狙えるかどうか自信がない。


 人気の少ない路地を選んで、わたしは魔法による空気圧の減速を得ながら屋上を飛び降りた。


 ……まず、そろそろ魔力が危ないかも。


 これから先は魔法を温存し、<身体強化テイラー>中心で動くしかない。

 狭い路地を駆け抜け、亜麻色の髪を追う。


 なるほど、門に近くなればなるほど人が多くなると思っていたけど、それは門の入り口だけの話で、逆に今走っているような門付近の路地は空いているようだ。よく考えればそれは当然のことで、門に向かう人は門から先へ行こうとしている人たちなのだから、目的の店や宿屋などが無い限りはうろつくこともない場所なのだろう。


 おかげで障害に煩わせられずに、スピードに乗って走ることができる。


 やがて大通りからは離れた、第一内壁に面している――ちょっとした広場に辿り着き、わたしはすぐに建物の陰に隠れた。


 ……見つけた!


 広場隅にある古ぼけた小屋――そこの扉の中へ少女が連れ込まれる様子を確認できた。またしても背格好や顔を確認できなかったが、さっき連れていかれた子で間違いないだろう。


 見張りを二人、扉脇に残して小屋の扉は閉められた。


「見張りは……それなりに体格はいいけど、どうだろう。武器は……特に無さそうね」


 話し合いという選択肢はのっけから無く、わたしは見張りを倒して、小屋に侵入する算段だけを考えていく。


 しかし人攫いだの奴隷売買だのするとしても、何故こんな王都のど真ん中でそんな凶行に及んだのだろうか。第一内壁までは内馬車しか使えず、門を馬車でくぐることは強硬策でも取らない限りできない話だ。


 そうなると、門の目をかいくぐって浚った子を門外へ連れ出し、厩舎から王都外へ出るための馬車に乗り込み、さらに外壁門の検問を抜けていかなくてはならないのだ。ちょっとリスク高くない……?


 可能性があるとすれば、上手いこと浚う子を誘導し、あたかも知人と一緒に外に出る雰囲気を造り上げて、そのまま連れ去る……という方法ぐらいだけど、さっきの拒絶の声からすると、それもなさそうだ。


 まあ、そんなことはどうでもいい。


 今、実際に、目の前で不当にプラムが連れていかれようとしているのだ。

 理由や合理性など、この目に映る光景に比べれば、どうということもないのだ。


 見張りは見張る気があんまり無いのか、談笑しつつも欠伸をしたり、片方が扉を離れて適当にうろついたりしていた。これは逆にチャンスと、わたしは片方が扉を離れ、もう片方の視線がこちらから外れた隙を狙って、建物の陰から駆け出した。


 なるべく足音を立てずに、歩幅を大きく、歩数を少なく。


 最短で小屋の側面へとたどり着いたわたしは、見張りに気付かれていないか確認するために、その場に一分ほど、息を潜めて隠れた。


 ……。

 …………。


 どうやら見張りはこちらの動きに気付いていないようで、何事もなく、のんびりと扉の横に立っていた。


 そのことに小さく息を吐き、小屋の周囲を観察して回ると、裏手の内倒し窓が少し開いていることに気付いた。


 ちょっと狭いけど、今のわたしなら入れるかな?


 少し冷静さを欠いているかもしれないが、今はいち早くプラムの無事を確認したかった。


 わたしは内倒し窓に手をかけてよじ登り、僅かに空いた隙間から体を滑り込ませる。予想以上に細いわたしの体は、するりと窓の隙間を通り抜け、小屋の内部へと降り立つことができた。


 よし、あとは……。


 気配を消しつつ、内倒し窓があった小部屋を出て、短い廊下を慎重に歩く。


 木製の床が軋みそうで、存外に神経を使ったが、無事、中から話声が聞こえる部屋の前へとわたしは辿り着くことができた。


 ドアに耳を近づけ、中の会話を聞き取ろうと集中する。


「…………、……っ……だろう!」


「……によ! ……なんて、…………」


 んん?

 なんだろう、浚う人間、浚われる人間の関係にしては、やけに近しい者同士の言い争いに聞こえるような……?


 いや、そんなことを考えている場合ではない。


 もし争いごとに発展し、力勝負になればプラムに抗う術はないのだ。

 わたしは手段を選んでいる場合じゃないと思い、力一杯ノブを回し、ドアをあけ放った。



「そこまでです! プラムお姉ちゃんを離し……な、さい……?」



 わたしは言葉を徐々に途切れさせ、――最後には言葉を失い、固まってしまった。



*****************************************



 わたしはその夜、宿屋のわたしたちの部屋で正座をさせられていた。


 俯き気まずそうに口を噤むわたしと対照的に、正面にいるプラムは仁王立ちだ。可愛い顔をぷるぷる震わせ、頬を膨らませているが、全然威圧感はない。むしろそんな様子すらも彼女の可愛らしさを強調してしまうのだから、困ったものだ。


「セラちゃん? 私がどれだけ心配したか、ちゃんと分かってる?」


「は、はい……」


「料理を注文して戻ってきたら、席にセラちゃんがいなくて……私、誰かに浚われたんじゃないかと本気で思ったんだからね!」


「ご、ごめんなさい……」


「し、しかも……お貴族様の、その…………情事の最中に、突然割り込むなんて! セラちゃん、いつからそんなおませさんになったの!?」


「ご、誤解だよ!」


「だ、だだだって、ええっと、痴情の縺れ……みたいな場に横から割って入ったんでしょう?」


 顔を真っ赤にしてどもらないで!

 わたしも恥ずかしくなってきた! いや実際に恥ずかしいことをしてしまったわけなんだけど!


「ち、違うからっ! わたし、そんなのに興味ないし!」


「ほ、ほんと……? セラちゃんにはまだ早いんだから……あんまし変なことに首を突っ込んじゃ、駄目だよ?」


そう言われて、わたしはようやく膨れっ面を引っ込めたプラムに鼻先を指で突っつかれた。


「ぅう……」


 何故だ。

 どうしてこうなった。

 いや、原因はわたしの早とちりなんだけど……あぁ、恥ずかしい。


「でも、本当に……無事でよかった……」


「うん……心配かけて、ごめんなさい」


 プラムは正座していたわたしの背後に回って、ぎゅっと抱き寄せてくれた。


 何だか親元から勝手に離れて迷子になった子供のような気分で、わたしはかなり複雑な心情だったけど、一時でも失う可能性を考えてしまった、この温もりに包まれたことに安堵し、ほっと息をついた。



 因みに、今回の背景なのだが……。


 プラムは、注文に向かった際に店を出ていく客の一人が落としたハンカチを見て、それを拾って追いかけたそうだ。心根の優しい彼女らしい行動だが、それが彼女が注文の列にいなかった事情だったらしい。食堂から少し離れた場所で客にハンカチを渡すことに成功し、料理を注文して席に戻ったらわたしがいなかった、ということらしい。


 はい、完璧に間の悪さも相まったわたしの早とちりだった、ってわけだね……。


 それで、明らかに挙動不審だったわたしの様子を近くの客から聞いたようで、プラムは気が気じゃなかったらしい。


 わたしのことを妹だと思った客の一人が、プラムに「きっとお姉ちゃんがすぐに戻らなくて不安になったのね。きっと見つからなかったらここに戻ってくるだろうから、貴女はここで待ってなさい」と言ってくれたらしい。そのおかげか、プラムも捜索に向かい、わたしも架空の捜索に向かうという滅茶苦茶な展開に至らなかったのは正直、助かった。


 で、わたしが見た亜麻色髪の女性は、商家の娘だったらしく、彼女を引っ張っていた貴族の男性と恋仲だったらしいのだが、彼女の家の売り上げが最近芳しくないことを受けて、貴族側の両親から別れるように話があったらしいのだ。


 それを別の伝手から耳にした彼女がかなりショックを受けたらしく、「そんな理由で振られるなら、私から振ってやるわ!」と自棄になったようで、それが路地でのやり取りだったらしい。


 男性側は実は人目がない壁際の小屋で、どうやって両親を説得するかを彼女と相談したかったらしく、急な彼女の態度に動揺しつつも「落ち着いて話をしよう!」と、半ば強引に小屋へと連れて行ったとのことだ。


 小屋の前に待機していた二人組は、男性側の護衛らしい。

 今回の件が恋仲の延長線上ということもあって、仕事は仕事としてするものの、緊張感をあまり持っていなかったのはそういう背景から来ていたからのようだ。


 小屋の中でも彼女の興奮は収まらず、言い合いに近い喧嘩に発展したわけだが、そこでわたしが横からこんにちわ、をしたというわけだ。


 わたしというイレギュラーが乱入したせいで、……いやおかげで、二人は冷静になれたらしく、今では「どうやって貴族側の両親を説得し、商家側の商売を安定させるか」と、互いの足枷をどうにかするための建設的な話し合いに発展したそうで、おめでとうございます。


 ここまでの話は、その冷静になった彼女が惚気半分で話し始めた情報である……。



つまり……何も事件は起きていなかったのに、わたしの早とちりが事件を起こしてしまった、というわけだ。



 はあ……とんだ一日だったわ……。


次回は「10 王都でお金を稼ぐには」となります(^-^)ノ


すみません、25日は投稿できないため、次回は26日の10時になりますm( _ _ )m


2019/2/24 追記:文体と一部の表現を変更しました。

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