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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第二章 操血女王の平民生活
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04 王都外壁門

 ちょび髭ロン毛の一件の直後、わたしはプラムに頭を撫でられながら、どうやって野営時の安全を確保したらいいか考えていた。王都に入ってしまえばそんな心配もいらないのかもしれないが、今後、何があるか分からない以上、そういった対応法も身に着けておいて損はないだろう。


 そう思って、真っ先に思いついたのが魔法による対策だ。


 魔法についてはプラムにまだ教えていないため、どうしようかとも思ったが、まだこの世界のことを深く知り得ていない身としては、下手に全て教えるのもどうかと思っているのだ。


 男爵家の一件でもそうだけど、薄々わたしの中で「魔法」という概念がこの世界に無い、もしくは浸透していないのではないかと思い始めているからだ。


 首輪の時もそうだったが、どうも要所で複数の能力を見せた際にやけに驚かれている気がするのだ。もしかしたら、それは――この世界にもしかしたらだけど……恩恵能力アビリティ以外の力の認知がされていないのではないか、とも思い始めてきている。


 この辺りも王都に図書館でもあれば、是非に調べておきたいところだ。

 ハイエロにその辺りを確認する時間が取れなかったことが悔やまれるところだけど……終わったことを引き摺っても仕方がないので、そこは気持ちを入れ替えることにしよう。


 あんまりこの世界に馴染みのないものをプラムに見せて、怖がられたくないので、この辺りは徐々に打ち明けていこうかな、と思うわけだ。


 また魔力不足に関してだけど、こっちは一時的に<身体強化テイラー>が解決してくれる。


 実証は既に首輪の件で済んでる。

 間違いなく<身体強化テイラー>による強化は、単なる身体能力だけではなく、わたしの能力全般が底上げ対象になっているようなのだ。


 操血も然り、対価のいらないブースターだなんて、本当にマジ相棒ですわ。


 そういう背景があるので、その日の夜、プラムが「お姉ちゃんだから」と寝ずの番を引き受けようとしていたが、わたしが「あんなことがあって、目が覚めちゃったから」という建前と、非常に言いにくいことだが「わたしの方が強いし……」というトドメを刺して、プラムを不貞寝させた後、実験を開始した。


 実験といっても、前世や二度目の人生であれば、食事をしながらでも可能な簡単な魔法だ。


 周囲の四方の土に干渉し、土壁をつくる。

 ただそれだけ。

 少し前のわたしならこの範囲に対する魔法を使えば、間違いなく枯渇していた。


 しかし<身体強化テイラー>発動後、同様にして魔法を実行した後、わたしに疲弊という文字は存在しなかった。


 どのくらい倍増されているのだろうか、限界を知りたくもなるが、それはぶっ倒れてもいい場所でやるべきだろう。探求心をくすぐられたが、わたしはぐっと我慢して、外敵が少なくとも地上から入り込めない環境をつくり、ゆっくりと夜を過ごした。


 朝――プラムが起きる気配を敏感に感じ取ったわたしは、こっそり魔法で作った土壁を元の状態に均し、何食わぬ顔で朝食を二人で食べてから、再び王都への道を進む。


 やはり道中に、魔獣の類は出てこなかった。

 魔法が仮に無い世界であっても、魔法が使える以上、魔力という要素は少なくともこの世界にも存在しているのだ。魔法より魔力に関係性の深い魔獣ならば、実在する可能性は高いのではないかと警戒していたというのに……本当に肩透かしもいいところである。


 ……何かしら魔獣対策でも敷いているのだろうか?

 この辺りも王都で何かしらの情報が得られればいいなぁ、と思いつつ、御者台から流れる風景を眺める。


 ふぅ、風が気持ちいい。

 空気もどこか澄んでいて、晴天の日差しが心地よく感じる。


「あっ」


 不意に、背後から素っ頓狂な声があがる。


「セラちゃん、セラちゃん!」


 何か面白いものでも見かけたのだろうか、プラムが興奮気味に荷台から御者台へと顔を出してきた。


「もしかして、アレじゃない?」


「アレ?」


 プラムがわたしの肩の上からニョキッと腕を伸ばし、前方右側を指さす。


 指先の向こうには――木々に隠れて若干見づらいものの、背の高い人工建造物のようなものが見えた。


 目を細めて、遠くを注視する。


 どうやら……壁のようだ。朝霧に隠されてどうにも見えづらいから自信はないけど……。

 あれが……もしかして、王都?


「着いた、のかなぁ」


「私も行ったことないから分からないけど、王都ってすっごく高い壁に囲まれてるって聞いたよ?」


「そうなんだ。となると、あれが……外壁なのかな?」


 良かった。

 常に道に迷っている不安感を抱いていただけに、その一端が見えただけでも肩の荷が降りる思いだ。


「でもどのくらいの距離なんだろう……」


 見えてきた、とはいえ、この国の中枢。


 もっとも人口が多く、最も繁栄している都市なのだ。それなりの規模になるのは間違いない。遠目でようやく見れる距離、となれば……近いようで遠いことだろう。あと半日近くは移動に要するかもしれないなぁ。


 そのことをプラムに話すと、明らかにがっかりした雰囲気だった。


 わたしはその様子に苦笑しつつも「でも、楽しみだね」と話題を振ると、プラムも嬉しそうに乗っかってきてくれたので、道中の話の種に困ることはなかった。


「おや?」


 休憩を挟みつつ、道を進んでいくと、ぽろぽろと人の影が出てきた。


 わたしたちと同様に、馬車を引いて進む者や、徒歩の者もいる。


 横の平野では良く分からないけど、走り込みをしている男の子がいたりもする。

 遠目には大人が近くにいるのが見えて、木刀? のようなものを抱えていることから、何かの訓練だろうか。ほかにも籠を背負った家族連れのようなグループもいる。馬車の方が背が高いので中を見ることが出来たが、どうやら山菜のようなものを詰めているようだ。


 小屋のようなものも道中に建てられており、そこには国旗のような旗が立ってあった。


 小屋の窓から中が見えたが、どうやら監視役の兵士が滞在する駐屯所のようだ。

 近くで何かあれば、すぐに駆け付けられるよう体制が敷いてあるのだろう。


 ――活気が出てきた。


 どうしよう、ちょっとワクワクしてきた。


 初っ端から酷い目ばかりにあって来た気がするけど、ようやく……ここからこの世界の生活が始まるんだと思うと、転生は三度目の経験だというのに心が躍る。


「セラちゃん、何だかソワソワしてきちゃった」


 どうやらプラムも似たような感覚だったようだ。


 こうして見ると両親や妹と別れてしまったことに傷ついているように見えないが、わたしは知っている。


 彼女がこの一週間の中で、何度かふとした時に浮かべた儚い表情。


 寝る際はいつも布団の端を両手で握りしめ、顔をうずめて丸まる様にして眠るのは、まるで見たくない現実から目を逸らすような恰好に思えた。


 わたしにバレないようにしているつもりのようだけど、全て筒抜け状態だ。


 プラムの家族とどういう状況で別れることになったのか……もしくはそれが死別ではないのか。


 奴隷業者の馬車内で見せた涙は、その家族の死去を表しているのだとわたしは思っていたけど、その辺りの事実はプラムから話すまでは聞かない様にしている。


 でも、もし王都でそういった情報が集まる場所があるのなら、そこで探ってみるのもいいかもしれない。たとえ確定している過去だったとしても、プラムが何も言わないのであれば、わたしは「一縷の希望」として彼女の家族が生きている可能性を捨てないでおこう。


 わたしはプラムの言葉に「うん」と頷き返した。


 そうこうしているうちに外壁が近づいてくる。


 かなり高いなぁ。


 ところどころに赤を基調とし、三羽の鷹が舞い踊るような刺繍がされた旗が建てられている。道中の小屋でもみかけたものだったが、やはり国旗のようなもののようだ。


 真っ平らな機能性だけを求めた外壁ではなく、それなりに意匠をこらした外壁だった。


 資源が豊富なのか分からないが、少なくともこの外観、そしてそこに集まろうとしている人々の賑わいを見る限り、戦争をふっかけようとしている国には思えない。「西の国」とやらが一方的に仕掛けてきているのだろうか。少なくともここは――わたしが転生後に見た、戦場とは真逆の世界――平穏を象徴しているように見えた。


 賑わいを増してきたのは、おそらく王都外壁の正道に着いたからだ。


 人の数が増えていき、外壁に設置された門をくぐろうと順番待ちしているのだ。


 わたしたちもそれに倣い、何となく列になっている人波の最後尾にゆっくりと馬車をつけた。


「検問か……」


 何百人といる人たちが緩慢に歩を進める理由は、門のあたりで検問を行っているからだろう。


 これは王都に向かうよう話をしたハイエロから聞いている。

 王都外壁門は、野盗などのならず者を街にいれないように、毎日、門を開く時間を指定し、衛兵が身元を確認しているそうだ。


 プラムはともかく、わたしは身元不明もいいところなのだが、ハイエロからは男爵家の家紋が刻まれた馬車を使っているから大丈夫、と言われていた。


 ……本当に大丈夫なんだろうか?


 こういっちゃなんだが、前世では家紋がある馬車に乗っていようが、その者の身元を確認できない場合は国に足を踏み入れることを許可しないことなど、ざらだった。


 平民についてはいくらか基準も甘かったが、それでも住所録に登録されていない人間が入りこもうことなら、門前で槍を喉元に向けられて尋問が始まることだってあったのだ。それに比べて「家紋だけ見せれば大丈夫だよ」と言われてもどうしても不安が残ってしまう。


 そんなわたしの気は知らず、プラムは「ふわぁ……」と人の多さに目を丸くし、キョロキョロと御者台から周囲を見渡していた。


 ま、頭の中でぶつくさ考えていても始まらないんだし、ここはハイエロを信じることとしよう。

 上手くいかなきゃ、その時考えればいいさ、とわたしも今を楽しむ方向へと思考を切り替えた。


「お姉ちゃん、街に入ったらどうするの?」


「え?」


 一瞬きょとんとしたプラムだが、お姉ちゃんとして頼られている! という顔をしたと思うと「そうだねぇ、うーん、うーん……」と考え出した。


 わたしとしてはそんなに深く考え込まなくても、単なる世間話程度に振った話なんだけどなぁ、と苦笑いしてしまった。


「ずっと野宿だったし、馬を預けられる厩舎を見つけたら、わたしたちもどこかの宿で休むのがいいかもしれないね」


「あ、そうだね! うんうん! 少しだけ休んだら、街も見に行こう?」


 助け舟を出すと、パァッと明るい表情で頷くプラムに、わたしもほっこりとする。


「うん、楽しみだね、お姉ちゃん」


「そうだね!」


 ヴァルファラン王国、中心都市、王都。


 ここがわたしたちの新たな居住先となるかは分からないけど、この国のあらゆる情報が集まってくる大都市であることは間違いないはずだ。


 ――――知識、技術、料理、物資、出会い。


 きっと色々なものが騒然と埋まっているに違いない。

 あ、面倒事と戦闘関連はもう要らないけどね!


 年甲斐もなく……あ、いや。今は年相応かな。


 わたしは小さな胸の奥で響く鼓動に指をあてながら、目の前にそびえ立つ王都外壁門を見上げて、一つ、頷いた。



次回は「05 壁間内市場へきかんないいちば」となります(^-^)ノ


2019/2/24 追記:文体と一部の表現を変更しました。

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