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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第四章 操血女王のクラウン生活【コルド地方編】
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03 ノルドラ大丘陵

ブクマ、感想ありがとうございます~( *´艸`)

いつもお読みくださり、大感謝です!(*´꒳`*)

 周囲を見渡すと、わたしが放り投げられたのは青々と茂る木々に囲まれた湖であった。


 ドグライオンにここがノルドラ大丘陵なのか尋ねると、一瞬首を捻られるも「あぁ、人間どもの呼称じゃな」と一人納得した後に「そうじゃ」と答えた。


 人間種と生活圏を異としている彼らにとって、人が勝手に名付けたこの地の呼称など、知る由もないのかもしれない。水辺を飛び回る蝶々を、金色の瞳で追いかける気ままなガラジャリオスの様子を見ていると、そもそも人間種自体にそれほど興味がないようにすら思える。


 しかし、それにしても……だ。


「風が気持ちいい」


 森林に囲まれた湖。


 木々をざわつかせる風たちは、湖上の冷気も巻き取り、わたしたちの間を自由に通り過ぎていく。


 なんでだろうか、王都周辺も別に自然に満ち溢れているというのに、そことは別の――心を爽やかにさせる新鮮な空気を感じられた。


 風にたなびく銀髪を右手で押さえながら、目を閉じ、少しだけ顎を上げて大自然の空気を満喫していると、邪な感情を匂わせる気配が横から流れ込んできた。せっかくの清涼感溢れる空気の中に紛れ込む邪気に何事かと視線を向ければ、そこには目を輝かせているクルルが鼻息を荒くしていた。


「さすがですわ、セラフィエル様! 太陽光を反射する湖を背に、お美しい銀の輝く御髪! まるで自然と一体化したかのように取られました姿勢は、まさに神々しいの一言ですわ!」


 え、遠回しに辱められてる?


 というか鼻息が凄い。


 共に旅を続ける時間に比例して、クルルがどんどん行ってはいけない方向性に傾倒してしまっているのではないかと不安になってくる。


「メイド服なのに神々しいってどんだけだよ。でもまぁ、似合ってるよなぁー……こうして見てると、どこぞのお嬢様にも見えるぞ~」


 続いてヒヨちゃんまでもがくつくつと笑いながら便乗してきた。


 ああ~、せっかく良い気分だったのに、自分が黒と白を基調としたメイド服に身を包んでいたことを思い出してしまった。


「使用人服と言えど、上質な布地を使ったものですからね。きちんと着こなせれば、上品にも見えることでしょう」


 何故メリアがドヤ顔――無表情だけどそう見える――をするのか理解不能だけど、そんなことを考えたところで、きっと気まぐれの一種なのだろうという結論で終わるに違いない。


 わたしは一つため息を吐いてから、改めて周囲を確認する。


 先ほどは全身の感覚だけでここら一帯を感じていたが、今度は意識をしっかりと向けて周囲の気配を探った。


 風に舞いながら、色とりどりの蝶々が不規則に飛んでおり、木々からは昆虫たちの鳴き声が聞こえる。遠くの木からは鳥が飛び立ち、草木をかき分けて何かが走り回る気配も感じられた。


 そこまで感じ取り、わたしは何故この場所が王都近辺と異なるのか、理解したような気がした。


 この場所は……生命の息吹に満ち溢れているのだ。


 多くの動植物が自生し、それに伴って多種の昆虫たちも集まってくる。いわば食物連鎖がこの地に構築されているのだ。その活力の違いがありありと空気にも影響を及ぼしているのだろう。


 ヴァルファラン王国の人間種領では基本、動物はいない。いたとしてもはぐれ者だろう。するとどうなるだろうか。動物たちと共存共栄する植物や昆虫たちは自然と消え、残るのは独立して育つモノのみとなるのが節理だと思える。


 思えば王都で見かけた昆虫も、人間が排出するゴミや老廃物だけで生き残れる、言ってみれば逞しい種類ばかりだったような気がする。


 ――蝶々なんてめっちゃ久しぶりに見た気がするもんね。


 思い返せば、転生してから王都での生活に至るまで、ロクな虫に出会っていない気がする。毒性の強い蛭とか……黒いアレとか……。それに比べ、その辺を飛んでいる蝶々などは愛でたくなる可憐さすら覚えるほどだ。


 そんなことを考えつつ蝶々の動向を見ていると、ガラジャリオスの蛇のような舌がシュパッと伸びてきた。蝶々は姿を消し、代わりにガラジャリオスの頬がもごもごとしている。見なかったことにしたい光景だ。


 うん、お願いだから人型の時に、人が食べないようなモノを口にするのは控えて欲しい。容姿が日焼けした健康的な女の子だけに、尚更強くお願いしたいところである。


 なんだか胃のあたりが痛くなってきたので、わたしは思考を打ち切ることにした。


 というか、着替え前にドグライオンから「さっさと移動するぞ」と言われていたことを思い出し、彼に「お待たせしました」と改めて告げた。


『ん、もうよいのか?』


「はい」


『ではまず……広い場所に移動して、他の連中と顔合わせでもしてもらおうかのぅ』


「他の連中って……八王獣の?」


『無論。と言っても全員ではないけどのぅ。ひとまずワシらの頭役と例の交渉について話し合わんといかんからな。というわけで、まずはレイジェと会ってもらおうかの』


「頭役……ってドグライオンさんじゃなかったんですか?」


 てっきり喋り方も堂が入っているものがあったので、彼が八王獣のまとめ役かと勝手に思っていた。まあ見た目が土竜で威厳どころか愛らしさすら感じる顔だけど、彼の持ちうる知識量は交渉の席で既に知っている。ゆえに彼がトップだと思ったのだが、違うようだ。


『ほぅほぅ! ワシの滲み出る風格がそう感じさせてしまったのかのう!』


「ううん、全然」


 風格があるかと問われれば、皆無なので正直に答えてあげた。


 ドグライオンはがくりと小さな肩を落としながら『ま、まぁ良い……』と気を取り直す。


 しかしレイジェ……レイジェねえ。どこかで聞いたような名前なんだけど……。


「セラフィエル様……これから会う者には注意を払っておきましょう」


「え?」


 思い出そうとしていると、急に緊張を浮かべた顔のタクロウから話しかけられた。


「レイジェ……おそらく正式名はレイジェオンラーバ。蒼竜そうりゅうという異名として王都にも伝承に語り継がれている、最強の八王獣のことだと思います」


 そこまで言われて、ようやく思い出す。


 八王獣の中では最も有名と言えるかもしれない名前だ。すぐに思い出せなかったことが、ちょっとだけ恥ずかしい。


 タクロウを始め、レイジェオンラーバの名を聞いた瞬間、皆の表情が硬くなる。それだけでその名が如何ほどの影響力を持っているのかが一目瞭然であった。あの暢気なクルルさえ「うわー」と微妙な面持ちを浮かべている。


 対してわたしと言えば、ちょっと……いやかなりワクワクしている。


 王立図書館で見た、最強の龍。それがドグライオンという仲介を得て、堂々とまみえることができるのだ。これをラッキーと言わずして何というのか。


 資料では僅かな特徴しか書かれていなかったけど……蒼い光沢を放つ龍鱗に身を包んだ美しい龍であると資料には綴られていた。


 頼んだら触らせてくれるかなぁー。仲良くなったら鱗の一つとかくれたりして。もしそんなことになったら、プラムたちへのサプライズなお土産として持って帰るのもアリかもしれない。ふふ……絶対驚くだろうなぁ。


 そんな都合の良い展開を想像しつつ、わたしはふと気になることを足元のドグライオンに聞いてみた。


「ところでどうしてレイジェオンラーバさんのところに直接行かないで、ここで止まったんですか?」


 行先の目的が定まっているならば、ここでワンクッション置く必要もないはずだ。……わたしを湖に放り投げるという行為が優先でもされない限り。


『そりゃそうじゃろ。気が立っている若造の前に、勢いよく人の子を乗せたまま突っ込んでみよ。ワシらごと葬らんと攻撃をしかけてくるに違いないぞ』


「……へ?」


「わははー、レイジェは短気なのじゃー」


 後ろ手にガラジャリオスが明るく言い放つが…………なぜに敵対前提?


『ふん、アイツが暴れまわったら俺は距離を取るからな』


『お主は特にレイジェと相性が悪いからのぅ』


『ハッ、勝ち負けの話ではない。ただただ勝負がつかなくて面倒なだけだからだ』


『それは時間稼ぎ役としては、とても魅力的な戦力よのぅ。ほれ、有事の際はその勝敗つかずの拮抗した戦いを遺憾なく発揮しておくれ』


『…………』


 ドグライオンの返しに、バリーベルフォンはふいっと顔を背けた。


 赤狼せきろう蒼竜そうりゅう。名前からして、相反する力を持つ二体であると想像ができる。まあ……最後、ドグライオンに反発しきれない辺りをみると、パワーバランス的にレイジェオンラーバの方が上だということが読み取れた。


 って……そうじゃなくて、もっと大事な確認点があるでしょ!?


「あ、あの~……なんで戦うこと前提で話が進んでいるんでしょうか……」


 おずおずと尋ねると、ドグライオンは『あぁ、言っておらなかったな』と事も無げに――――、


『レイジェは()()()の筆頭じゃからな。人の子を見た瞬間に、その気性を荒くする可能性は高い。お主らも努々(ゆめゆめ)注意しておくことじゃのぅ』


 と、とんでもないことを言い放った。



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― 新着の感想 ―
[一言] クルル!!!(固い握手) わかる、わかるよクルル!!!! セラちゃんは女神だもんね!! そりゃ神々しくも感じるよ!!(ガチ勢) そしてヒョイパクガラちゃんも可愛いwww ホント、シンGさんの…
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