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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
207/228

106 高位弾劾調査 その6【視点:グラム=ピラーネ=ガッテンツォン】

すみません、今月は中々更新が滞ってしまって申し訳ないですっ。゜・ (>﹏<) ・゜。

そしてちょっと長めになってしまいましたが、ご了承ください~(>_<)

ブックマーク、感想をくださり、いつもありがとうございます!!

 貴族ともなれば、必ず屋敷に一つは設けるであろうダンス部屋。


 その一角にリンウェッド侯爵に住まう者・勤める者全てを軟禁し、私たちは入り口を塞ぐ様にして、腕を組みながら壁に体重を預けていた。


 さて、レジストン君に頼まれて今回の件に同行したわけだが、どうしたものか。


 いつもと変わらない様子で椅子に腰をかけるケビン=リンウェッド侯爵を横目で確認しつつ、私は状況の考察へと思考を動かした。


 屋敷の者たちは分かりやすいほど、動揺を隠せないでいる。それは高位弾劾調査なる制度を知らないが故に、この突発的な事態に心が追い付いていないか――もしくは探られては困るモノを彼らも知っているか、だ。


 しかしその渦中の中、最も多くの隠し事を秘め、焦燥を浮かべてもおかしくない人物――ケビン侯爵だけが落ち着き払っているのが実に不気味であった。


 正直リンウェッド家とはあまり交流が無かったので、彼の性格・人となりというものが経験から推し量ることができない。そもそも彼自身が夜会などに出席することが無いので、公な交流も持ちようがない、といったところなのだが……はて、そもそも彼は何故、他の貴族たちと交流を持とうとしなかったのだろうか。


 リンウェッド侯爵家の歴史を頭の中で遡り、その答えと思える一つの出来事を思い出した。


 ――奥方と息子の死。そう、確か大切な家族を二人亡くしたあたりから、彼の名が夜会から消えていったような気がしますな。


 愛妻と息子を悼む気持ちは、容易に推し量れる。


 想像もしたくない話だが、私も妻・テトラを喪ったとあれば、公務をまともにこなせるか分かったものではないほど、喪失感に苛まれることだろう。それが天寿を全うした死ではなく、不慮の死であれば……その感情はなおさら膨れ上がることは間違いない。


 3……いや4年ほど前のことだったと記憶しているが、今のケビン侯爵を見ているかぎり、過去の苦しみと決別し、前を見ているように感じる。穏やかな表情、ピリッと伸びた背筋、細やかな所作には貴族たる洗練さが見られ、一挙手一投足の全てが流れるように美しい。


 平常心でなければ出来ない所作である。


 ――しかし……。


 何故だろうか。一度は過去の苦難を乗り越えたと評した自身の感覚に――どこか薄い膜のような隔たりを感じてしまう。まるで虚像を映す不可視の壁でもあるかのような……そんな違和感を覚えるのだ。


 不可解な感覚に腕を組みなおしていると、不意に隣からローブの裾をくいくいっと引っ張られた。


 隣にちょこんと立つ小柄な影。


 ローブの裾から伸びる白い指先が、私に何かを伝えたいと主張するように小さく引いてくる。


「どうされましたか?」


 やや腰を屈みながら小声で問いかけると、あちらも声を潜めつつ可憐な声で要件を口にした。


「その……ちょっとお花を摘みに出ても宜しいでしょうか?」


 少し言いづらそうに口にした言葉はそんな内容だった。


 どうやら……この張り詰めた空気も手伝ってか、催してしまったようだ。


 さて紳士たる私は普段ならば、このレディの手を取り、丁重に手洗い場までエスコートするわけだが……今はパーティの場でもなんでもなく、高位弾劾調査の真っ最中。残念ながらそんなことをするような状況ではない。


 かといって一人で行かせて良いかと言われれば……戦力的に心配をする方が無礼と言っても良い御方だが、年頃の淑女であることに違いはないし、恩恵能力アビリティによっては盤面をひっくり返す特異な能力も存在するわけだから、考え無しに単独行動を認めるわけにもいかない。


 判断を導き出す間にも、もじもじと内股でこちらの返事を待つ彼女の姿に、思わず私はもう一人の御方へと視線を向けてしまった。


 聞き耳を傾けてくださっていたのだろう。私の視線を受けて、彼は彼女の肩に手を置き「もう少し我慢できないかい?」と声をかけてくれた。


「うううぅ……ちょっと限界が近いのですわ……」


「……出立前、そういったことは済ませておくようにと言ったはずだけど?」


「朝は大丈夫だったのです……」


「まったく……そんなことでは公務の際に、同じようなことを繰り返してしまうよ?」


「うぅ~……は、反省しますから、この場は見逃してくださると嬉しいですわ」


「しょうがない子だね」


 柔らかく溜息を吐きながら、今度は私の方へと声を向けてくる。


「私がついていくとするよ。すまないけど、戻るまでこの場を一人で任せてもいいかな?」


「……それは――」


「元々、私たちの我儘でこの場に連れてきてもらったわけだからね。なに、想定外のことがあったとしても乗り切ってみせるさ」


 そうは言われても「はい、そうですか」と手放しになれるほど、彼らのその身は軽くない。


 確かに屋敷中の人間全てが集められているこの部屋と、誰もいなくなった部屋の外で危険度を比較するならば、明らかにこの部屋の方が高い。しかし、だからといって屋敷の中に我々の目を盗んだ何かが潜んでいる可能性も捨てきれない。


 彼女の力を考えれば、杞憂に終わる可能性が圧倒的に高いだろう。


 しかし私の立場から言えば、仮にそうであっても、ほんの僅かでも危険が存在するならば認めるわけにはいかないのだ。


 おそらく彼らは自分たちで有事の際に陥っても対応できる自信があるからそう言っているのだろうが、ここで判断すべき水準はそこではなく、万が一が存在するかどうかだ。万人が想像だにしない万が一ならばまだしも、少なくとも私個人ですらこの侯爵家に潜む異変には危険を感じ取っている。それを分かっておきながら、背中を見送るような真似は絶対に出来ない。


 私は思考を巡らせ、別の提案を口にすることにした。


「――やはり何かあってからでは遅いので、そうですね……クアンタ君を呼び戻しましょう。この部屋に移動してきてからそれなりの時間が経ちました。彼ならば精巧な隠し通路であっても、既に見つけ出している頃合い。少し早めに戻ってきてもらい、私か彼が同行することにいたします」


「んー、わざわざこの子のトイレのために急いで戻ってきてもらうのは……」


「そうですわ……なんだか話が大きくなりすぎていってる気がして、肩身が狭くなってきます……。ただちょっと席を外すだけなのに……」


「それだけお二人の安全が第一ということです。いかに万物を退ける力を持とうとも、いかに万事を恙なく切り抜ける自信があろうとも、物事には必ず万が一というものが存在します。本来であれば、この場にいらっしゃること自体、かなりの危険を伴うというのに……」


 おっと、いけない。


 危うく小うるさい口が止まらなくなってしまうところだった。中途半端なところで口を閉ざすと、頭から被ったローブの隙間から、彼の申し訳なさそうな苦笑が漏れるのが分かった。


「……すまないね、ただ――見ておきたかったんだ。私たちがこれから背負うべき責務の下に、どのような闇たちが潜んでいるのかを。それを知らずして歩めるほど、私たちは……豪胆ではないのだからね」


「その御心はご立派な志ですし、私も可能な限り尊重したい限りでございます。しかし――貴方がたは同時に、ヴァルファランの未来を担う大事な御身でもあるのです。物事にはすべからく優先順位というものが存在します。その並びの中で最も重要なのは、貴方がたの命だということは努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう――」


「あ、あのぅ……わ、私、我慢いたしますので、もう大丈夫ですわ」


 ――どうやら、私の口調が説教めいた所為で、返って萎縮させてしまったようですな……。


 なるべく柔らかい声色を心掛け、諭すような言葉を並べたつもりだったのだが、ふむ……まだまだ私も修業が足りないようだ。


「大丈夫なのかい?」


「大丈夫……ええ、淑女たるもの、この程度堪えてみせますわ」


 淑女であることと何ら関連性の無い我慢だとは思うが、そこは言葉にせずにそっと蓋をしておく。


 いずれにせよ、レジストン君やクアンタ君が戻るのもそう時間はかからないはずだ。それまでの我慢と思えば、これが最善の判断と言えるだろう。


「お力添えできず、申し訳ございません」


「いぇぇ~……はぅぅ……喋るとお腹に集中できませんので、少し……黙ってますわ」


「承知いたしました」


 あまり淑女が「お腹」だのと彼女の状態を示唆するような単語は使うべきではないが、せっかくの集中を乱してもいけないので、ここも黙っておこう。


 丈の長い高位弾劾調査員用のローブを纏っていても分かるほど、内股でぷるぷる震える彼女に娘を見守るような心境になってしまい、思わず口元を緩ませてしまう。


「それではこっちを使う必要はないね」


「はい」


 彼が裾から見せていたのは、特殊な加工を施された手甲だ。


 その甲に装着された鉄板には人の聴覚では拾いきれない音を出すと聞いている。実際に私では聞き取ることができないので、本当に音が鳴っているのか、その証明をすることはできないし、どういう原理なのかも分からないが、現にこの国において唯一一人だけその音を判別することができる者がいるのは確かだ。


 つまり、対クアンタ専用の通信手段――その道具がこの手甲というわけだ。


 無論、全ての言葉をこの手甲で伝えられるほど万能ではないため、予め我々の中でルールを決め、それに則って情報のやり取りを行っていた。


 我々、高位弾劾調査員一同とケビン侯爵が介するタイミングでは『ケビン侯爵の感情の動き』を。


 レジストン君とクアンタ君が離れている最中は『緊急性の有無』を、この手甲を通じて送る形となっている。


 先ほどのクアンタ君を呼び戻すための手段も、この手甲を指している。


 この手甲を指先で二度叩くだけで、彼の耳には正確に音が伝わり、即座に踵を返してレジストン君と共にこの場所へと駆け付けてくれることだろう。


 彼は手甲が裾に擦れないよう、慎重にローブの中へと引っ込めていった。



 その様子を見送りながら――――私の中で一つの感覚が走るのを感じた。



「――――……これは」


「ん、どうしたんだい?」


「……どうやら異常が発生したのは彼らの方だったみたいです。私の()()()()()()()()()()()()


「なんだって……?」


 皆の顔色が変わる。


 空気が先ほどと打って変わって変化すると同時に――――異変は耳を劈く不協和音となって表れた。



『――ィィィィィイイイアアアアアアアア!』



 それが「声」だと気づくまでに、数秒要してしまった。


 まるで女性と男性の声をこね混ぜたかのような奇声。慟哭にも等しい叫び声は、屋敷全体の壁や床を震わせて、我々の全身を包み込む。


 屋敷の住人たちすらも耳を塞ぎ、身を小さくする。彼らの中にも「この声の主」を知っている者と知らぬ者がいるのだろう。萎縮する姿にそれぞれの違いはあれど、だれもがその主に対して「恐れ」に近い感情を浮かべていることは間違いなかった。


 しかし。


 そんな中でも動じない男が、一人。


 ケビン侯爵だけが、全く変わらぬ顔色のまま、小さく息を吐いた。


「そうか。やはり……地に立てた枝は、そちら側に傾いてしまいましたか」


 地響きが屋敷を震わせる。


 遠くで崩壊音が鳴り響き、質量の大きい何かがこちらに近づいているのが、クアンタ君でなくとも察することができた。



『パァァァァァパァァァァァ…………アァァァアアアァナアァァタァァ…………!』



 やがて――喧しいほどの跫音きょうおんの主はすぐ近くまで襲来し、ダンス部屋のテラスへと這い上がってきた。


 ダンス部屋が奴の影で暗くなり、迫りくる巨体によりテラスへと続くガラス戸や壁が爆音を立てて崩壊していった。


 悲鳴が上がる。


 室内に散布される瓦礫やガラス片に誰もが腕を交差させて、その身を護った。


 私は護るべき二人の前に立ち、戻ってきた能力を用いて、迫る破片を全て宙で粉砕した。


 まさに異形。


 人の臓物を適当に繋ぎ合わせたかのような、吐き気を催す化け物。紫がかった臓物の表面には、不均等に配置された口や目などの部位があり、無数の触手が至るところから伸びていた。表面に浮く血管が脈動し、所々から毛のようなものまで生えている。


 この世のものとは思えない奇形――生命を捻じ曲げられたかのような、生物の造形からかけ離れた存在がそこにいた。


 そんな悍ましい存在が背後で蠢いているというのに、ケビン侯爵はそれを背にゆったりとした動作で、椅子から立ち上がり、こちらへと向きなおる。


 彼の周囲には瓦礫などは綺麗に掃いたかのように除かれている。見落としてしまったようだが、彼の能力がそうさせたのか、若しくはこの化け物が彼に害を与えない様に動いたかしたのだろう。


「願わくば……何事もなく終わって欲しかったものですが、これも神が導きし一つの結末、ということなのでしょうな。受け入れましょう……葛藤や迷いは既に――とうの昔に擦り切れてしまったのだから。今の私には全てを受け入れること……その選択肢だけが残された道なのです」


 ケビン侯爵の真横に、粘性の高い唾液がだらだらと流れていく。


『オゥッ、オゥッ、オゥッ、オァァァァアァァ…………!』


「よしよし、せっかく隠れていたのに、知らない人たちが地下に入ってきて驚いたんだね。怖かっただろう」


 化け物の奇声に対して、ケビン侯爵はまるで我が子をあやすかのように優しい声をかけ、その臓物のような肌を撫でた。


 その光景はあまりにも異様で――あまりにも()()()()きた。


 なぜそう思えたのかは分からない。だが、本当に何故だか……そう思えたのだ。


「貴方は……その者に、過分なまでの愛情を持たれているようだね」


「殿下……」


「姿を隠す必要性は無いみたいだよ。どうやら彼は――こんな状況になってもそれを受け入れる『心のゆとり』があるみたいだ。つまりいくら探ろうと、いくら糾弾しようと、彼から引き出せるものは無い……あとは仮面を脱いで、真っ向から話を聞くことしかできないよ」


 隣でそう言葉を発したのは、フードを外し、下にあった素顔を見せた青年――フォルト=シェフィール=ヴァルファラン殿下。ヴァルファラン王国の王位継承権第一位にして、次期国王と目される人物だ。


「…………! フォ、フォルト……王子殿下? な、なぜ貴方様が……このような場所に……!?」


 平静を崩さなかったケビン侯爵を以てしても、まさかと言える人物だったのだろう。ここにきて、初めてその表情に驚きを見せていた。


「ふぅ……ここにきて漸く感情の波を見られるなんて、ちょっと複雑だね。高位弾劾調査という名目は、貴族の心を揺さぶるのに、決して悪くない材料だったというのに、ね」


 フォルト殿下の恩恵能力アビリティ、<心色識別ブライジルク>。


 人心を色で判別し、それを掌握することにより――彼の前で真偽を偽ることは不可能となる。こと、今回の調査において、隠し事ができない彼の能力は圧倒的な優位性をもたらす筈だった。想定外だったのは、強制的に屋敷を調査することのできる高位弾劾調査員が足を踏み入れても、ケビン侯爵の感情にブレが生じなかったことだ。


 そしてケビン侯爵は、確かにフォルト殿下の姿を見て驚いてはいるものの、それはあくまでも「王族がこのような場所に――しかも高位弾劾調査という名目で足を運んでいる」ことに対してだ。決して、彼がこの屋敷に隠していた事柄……背後にいる異形についてではない。


 フォルト殿下も仰った通り、彼は異形の存在を我々に知られても――動揺すらしていないのだろう。



 その時、不意にポタポタ――と、微かな水音が耳に届いた。



 一瞬、あの化け物が垂れ流す唾液が滴る音かと思ったが、粘性の高そうな唾液から発せられる音とは異なる、もっと軽い音に感じた。


「お二人とも……私の後ろへお下がりください」


 もしかしたら、まだ姿を見せていない新手が潜伏している可能性がある。


 そう考え、ケビン侯爵と異形から目を離さずに、お二人を隠すように配置を変えようとして――震える小さな影の様子に初めて気付いた。


 肩を震わせるもう一人のローブを被った人物は、立ち尽くしたまま動かない。


 ――まさか、既に何かしらの攻撃を受けてッ!?


 そんな考えが過り、私は慌てて彼女の安否を確認しようと、そのローブの下に隠れる素顔を覗き込み――。



 顔を真っ赤に染める少女と、ばっちり目が合った。



「…………わ」


「は、はい?」


「お、……驚いたのですわ」


「そ、そうですな」


「お、おおきな音が鳴って、おどっ……驚いて……」


「……」


 目尻に涙を浮かべながら震える彼女を前に、私は言葉を失う。


 それは――未知の化け物と対峙して恐怖に身を震わせている彼女を案じているから……ではない。そんな可愛い性格をしているならば、彼女にあんな二つ名がつくはずが無かろう。


 ポンポンと肩を叩かれ、困り顔を浮かべながら「ちょっと離れた方がいいかも」と手でジェスチャーをするフォルト殿下の指示のまま、私は彼女からやや離れた位置へと移動した。


 同時に、ポツポツと光の粒子が彼女を中心に舞い上がっていく。


「これは――……」


 その様子を目を見開きながら刮目するケビン侯爵。


 やがて彼女が纏っていたローブの裾がふわりと浮き、双肩から背後にかけて光の架け橋が描かれていく。拍子に顔を覆っていたフードが外れ、下からは銀色に輝く髪がたなびいていく。


 光の架け橋はやがて実態を作り出し、煌々と輝く羽衣を象っていった。


 現在ヴァルファラン王国で確認されている恩恵能力アビリティにおいて、物理干渉系の一つの頂点とも言われている――最強の恩恵能力アビリティ


 その担い手は、今代の王族の中でも最も国民の中で有名な人物ともいえる……暴君姫ぼうくんひただ一人。


「まさか……フォルト殿下だけではなく、貴女様まで――」


 フォルト殿下にも驚いたケビン侯爵だが、まだ成人前の彼女がこの場にいることは更に想定外だったのだろう。信じられないものを見るような目で、銀髪の美しい少女から視線を離せずにいた。


 そんな周囲の状況など一切気にした風もなく――彼女はただただ一点の出来事だけに気を取られているようだった。


 ――あぁ……先ほどの水音は……。


 一つの答え合わせが済んだ私は、次にどうやって彼女の暴走を止めようか悩む。



「……せ、せっかく我慢して……我慢しておりましたのにぃ! も、もっ、も……! 漏らしてしまいましたわぁーーーーッ!」



 淑女たる者、そんなはしたない言葉は言うものではありません。それ以前に、そんな羞恥の出来事を自ら暴露しないでください……と口を挟みたい気持ちを堪え、私たちは眼前で燦然と輝く<光姫羽衣セイレンフォール>の光に目を覆うことしかできなかった。





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