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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
202/228

101 高位弾劾調査 その1【視点:レジストン】

ブックマーク、感想いつもありがとうございます~( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )


いつもお読みくださり、感謝です♪(*´꒳`*)

 ――貴族街。


 北から採掘された鉱石を精錬させた「断摩石だんませき」と呼ばれる強固で滑らかな石材で造られた、貴族専用の屋敷が立ち並ぶ街。


 一部の公益所を通しての依頼を除いては、決して平民層が足を踏み入れることはない、王都の富を象徴とした一角である。


 内馬車に揺られながら、俺はカーテンの隙間から外を窺う。


 今日も今日とて貴婦人がたは日傘を差しながら、貴族街にある宝石店や服屋に足を向けている様子が見てとれる。


 平民街ではギルベルダン商会が幅を利かせており、最近では貴族街への進出要望も王城に届くほどだ。国王陛下の命で過度な進出を防いでいるとはいえ、厄介なことに貴族の一部もギルベルダン商会に興味を持ち始めた所為で、抑えが効き辛くなっている。


 今後は――誰もが納得せざるを得ない正式な理由を用意せねば、王への不信にも繋がりかねない事態になるだろう。


 早々にギルベルダン商会についても、白か黒か。その線引きをハッキリさせる必要がある。


 それらの案件も含め、ここ3年で急激に動き始めた情勢は、多くの問題を排出しては、俺の悩みを山積みにしてくれる。


 気を抜けば、ため息ばかりが漏れてしまいそうだ。


「……」


 そしてこれより向かう場所も、山積みとなった問題の一つ。大きな案件だ。


 セラフィエルさんたちが王都を発って、おおよそ10日ほど。以前より王室付調査室の王都組メンバーを用いて、徹底的に洗い出した末にようやく見つけた綻び。今日はその一つを引き抜くために馬車を走らせていた。


 やがてゆっくりと馬車の速度が遅くなり、その足を止める。


 車内に腰を落としていた俺を含む5人全員が頷き返す。


 俺たちは全員、赤いラインが入った白いローブに身を包み、フードで顔を隠す。深い襟元で口も覆い、外から誰なのか判別できない装いとなる。


 この衣装は、王族の強権の一つ――高位弾劾調査における正装。


 問題があると見られた貴族は、貴族議会・王族会議などを通じて、問題にあたる証拠・証言を提示し、貴族の過半数並びに王族の承認を以って断罪するのが通例である。


 しかし世の中、その制度だけでは裁き切れない悪が生まれることも少なからずある。


 例えば、侯爵家など王族を昔より支えてきた大貴族が相手だった場合。もしくは癒着などによる多くの貴族たちがグルとなり、貴族議会での得票を金の力で過半数得る場合などなど。権力と金にモノを言わせれば、他にもいくらでも抜け道はあるわけだ。……非常に情けない話ではあるが。


 高位弾劾調査とは、そういった相手に対し、国王陛下の命の元、強制的に無通告立ち入り調査を行うことを意味する。


 高位弾劾調査に立ち会う調査員は、全て王族が選別し、その責任も負う。つまり、いきなり「お前には犯罪の疑いがある」と言われて家宅調査が行われた貴族側が真に無罪であった場合、その分の跳ね返りが「王族への不義不信」として返ってくるわけだ。


 端的に言えば、国家転覆に繋がる暴動や反乱の火種になりかねない――ということだ。情勢が不安定なほど、その起爆も速く大きくなる。


 その火種を自らの名で放り込むわけだから、国王陛下にのしかかる覚悟は計り知れない。保身を第一に考える王ならば、決して取らない強権の一つだろう。そしてそれは同時に、裏付けとなる情報を入手し、国王陛下に判断の一助をした我々――王室付調査室への重圧も半端なものではない。


 情報に信頼性はあるが、あとはそれをどうやって現行犯として発覚させるか、が重要になってくる。


 対外的には「いかなる貴族においても、高位弾劾調査員に任命を意味するこの正装をする者を拒むことはできず、全面的に協力し、己の潔白を証明すべし」と定められているが、悪事を働いている輩がそれに従う道理があるわけもないので、いかに現場を押さえ、言い逃れできないように外堀を埋めるかがカギとなる。


 正直、それなりに上手くやってきたという自負がある俺であっても、胸を締め付ける緊張感はある。もっとも王室付調査室の室長として、そんな態度はおくびにも出すつもりは無いけれどね。



 ふと、銀色の髪をたなびかせて王都を発った小さな背中を思い浮かべる。



 俺たちは様々な理由をあたかも正当のように並べて、あの小さな背に余計な重しを背負わせてしまった。本来であれば、我々だけでどうにかすべき問題を、だ。


 公益所の規定を広げ、クラウンの資格を取るように仕向け、彼女に行動権限を持ってもらうことで、今まで手を伸ばせなかった王都外への調査を依頼する計画を狙っていた。まさか成り行きでコルド地方へ行くことになり、更には精霊上位種と関係を持つことになるとは思っておらず、予想よりも早い出立をお願いすることになったが、それは我々にとっては願ったり叶ったりの展開でもあった。


 余裕がない状況とはいえ、あのような成人前の女の子に危険な外の世界を担わせるなど――仮に彼女が魔法など強力な力を擁している背景があろうとも、人道的に反しているという実感がある。


 国を思えば正しい選択と言えよう。しかし――レジストンという一人の人間で考えた時、その頬を思いっきり殴りたくなる衝動が沸き上がる。絶対の安全性を保つために優秀なタークを同行させ、念には念を入れて彼女と面識のあるメリア・ヒヨヒヨ・マクラーズたちもつけたが、それでも万が一という可能性は拭いきれない。


 ――彼女が無事、王都に戻ったら……彼女が望むことは出来るだけ叶えてあげないと、だねぇ。


 今回の一件を功績として讃え、国王陛下にお願いして、爵位を与えるのも良いかもしれない。彼女は知識を欲していたし、加えて作物にも興味を示していた。空いている土地を開拓して、彼女の菜園として有効活用してもらうのも良いだろう。


 ――そのためにも……彼女が戻る前に、この貴族街を()()()()()()()しておかないとね。


 その決意を胸に、我々は馬車から降り、目的の屋敷を前に立ち並ぶ。


 屋敷の前で掃除をしていた使用人が、こちらの様相を見てギョッとした後、慌てて屋敷の中へと入っていった。


 ――一端いっぱしの使用人が()()()()()()()()()()()()()()()理解できるほど、教育が行き届いているとはねぇ? まるでそういった事態も想定していたかのような、手際の良さを感じてしまうよ。


 俺たちは白いローブを揺らめかせながら、正門の前まで移動する。


 同時に正門の向こう、正面入り口から執事と思われる初老の男が姿を見せ、こちらへと速足で近づいてきた。


「失礼ですが何用で――」


「我々は高位弾劾調査員である。問答は無用だ。我々は王命の元、この屋敷を調査する権限が与えられている」


 隣の者が懐から一枚の丸まった書面を取り出し、それを執事に見えるように両手で広げた。


 王命が記された高位弾劾調査を承認する、王命書である。


「…………しょ、少々お待ちを。ご当主様にご確認を――」


「必要ない。既に国王陛下の承認を得ている以上、リンウェッド侯爵の許可を待つ必要性はない。すぐに我らを邸内に入れよ」


「し、しかしっ……」


「王命に逆らうのか?」


 狼狽しつつも時間を稼ぐ執事を前に、強く言葉をぶつける。



「構わぬよ」



 脂汗を流す執事を他所に、涼し気な顔を浮かべた男が玄関から姿を現した。


 ――ケビン=リンウェッド侯爵。


 ヴァルファラン王国において刑吏けいり長を拝命されている、我が国においても歴史の長い名家。その家名を任される当主である。


「我々に隠すほどの疚しいことなどは一切ありません。どうぞ、高位弾劾調査員殿。つまらぬ場所ではありますが、存分に調査してゆかれるがいいでしょう」


 髪を後ろでまとめ上げ、精悍な顔立ちがハッキリと浮かぶケビン侯爵は、穏やかにほほ笑みながら正門を開けるように指示し、邸内へと我々を招き入れた。


 ――さて、どう尻尾を掴むか。


 面の皮を何重にも被った悪魔を前に、俺たちはゆっくりと屋敷の中へと足を踏み入れていった。



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