100 破滅進軍 その3【視点:土棲之伍号】
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大地に手を当て、我が身に在りし能力を発動させる。
触れた箇所から波状に土に干渉を開始し、直下数メートル下に空洞を開ける。同時に細かく乾いた粒子を吸い寄せ、砂時計のような流砂の仕組みを生成させた。
標的から汚物へと化した残骸を、流砂へと放り込み、地中へと沈みこませていく。
掃除が完了したのを確認し、創造主より与えられし法衣についた砂を払った。
「マラキア王国。この滅んだ国の者から聞き出した話では、ここから南の国。つまり火棲之壱号を置いてきた国のことですね。隣国はマラキアのみ、と聞き及んでますので、ひとまずここら一帯の掃除は済んだと見るべきでしょうか」
私たちに与えられた使命は、ヴァルファランの外の国家の瓦解――さらにはその先、この世界にしがみ付く生物の死滅である。
実に簡単な仕事である。
何に気兼ねすることもなく、破壊の限りを尽くせば良いのだから。
どれだけの規模を相手にするかは不明だが、ヴァルファランの内部で身を潜めながら標的を排除する役目を担ったお兄様に比べれば、私の所業など温いと言われても仕方がないですね。
お兄様は対人、白兵戦において無類の力を発揮されますが、万を超える多勢を相手にする際、負けはしないものの、時間がかかってしまう能力傾向にある。故に効率を重視されて私たちは共に行動を許されず、お兄様はヴァルファラン在中組、私は外界組とされてしまったわけだ。……この旅を一緒に歩くことが出来ないのは残念だが、功績を残して帰れば、お兄様もきっと私を褒めてくれることだろう。頑張らねばなるまい。
さて、この地域に足を運んだ際に確認した、2つの国家。
先に目下沈んでいく国を沈ませ、巨大流砂から逃れようと国外へ逃げようとする者たちを、この高台から監視し、全て抹殺した。その中に一際目立つ衣装をまとった男がいたので、そいつから近隣諸国の話を聞きだし、マラキアの存在を確認。私の能力で火棲之壱号を隣国まで連れていき、再びここまで戻ってきた。
総じて掛かった日数は、おおよそ6日程度。ただ一方的に破壊を尽くすだけならば、1日で十分だろうが、地を這う蟻のように逃げ出す標的を綺麗に掃除するには、それなりの時間がかかった――という印象だ。
「……今回は手際が良くなかったですね。これは反省です。私の力がどこまで有効かを確認する意味も持たせていたので、当たり前といえば当たり前ですが……次は火棲之壱号の能力も有効活用し、火炎と流砂を組み合わせて一気に滅ぼす方が効率が良いかもしれませんね。一国ずつ……丁寧に、確実に、ゴミは残さず滅ぼす。なに、繰り返していけば自ずと最適な手法は見つかるでしょう。旅は始まったばかり。最上の御方より命じられた期限まではまだまだ時間が残ってます。焦らずきちんと任務を完遂させてみせましょう」
気付けば地上にあった汚物は全て地中へと消えていた。
タン、と足を鳴らし、流砂を解除する。
「さて、ここは済みました。後はあれほど注意していながら、取りこぼしをしてしまう能無しを迎えに行くとしますか。ふぅ……お兄様と一緒ならば、ここまでイラつきが増すようなことは無いというのに。私の効率を上げるというならば、あの木偶ではなく、お兄様とのペアが最適解ですね」
数度踵を踏み鳴らすと、足元の大地が盛り上がる。やがて台地は波打つように流動し、立ったままの私をそのまま前方へと向かって運び出してくれる。
最上の御方のように、広範囲の地層そのものを正方形に切り取り、隣の区間と入れ替えるような高度な移動技術はできないが、このように楽して地上を高速移動することは可能だ。極端に足が遅い火棲之壱号を同行させ、いかに迅速に長い距離を移動できるかを試行錯誤した結果、得られた技術である。
この旅は私に色々なことを考えさせる。
目的に向かって――いかに速く効率的に経過を進められるかの手段を講じられるかを求められるからだ。
考えることは苦痛で疲れることではあるが、何も悪いことではない。この移動手段も流砂も、全て目的を遂行するために「どうしたら最善か」を求めた結果、手にすることが出来た技術だからだ。
私はおそらく――この旅を経て、成長している。
そして着実にそのことを実感していることに、心が躍っていることが分かる。
心?
ふふふ、いったい誰の心が躍っているというのか。私は合成人。人が持つ「個」の心など、とうに失ったというのに。
なるほど、本当にこの旅は色々な発見を見出してくれる。きっとお兄様と共に行動していれば、思考がお兄様ばかりに向いてしまい、このような考えも浮かばなかったのかもしれない。お兄様と離れ離れは辛いが、成長した私を見てもらう未来を想像すると、それはそれで悪くない。
くつくつ、と自然に笑みが零れる。
嗚呼、悪くない。であるならば、ヴァルファランの外様へ住まうゴミどもよ。私の成長の糧になると良い。ただ惰性に任せて生き永らえるよりも実に生産性のある話だと思わないかい?
私の手にかかることは、最上の御方のご意思に報いることも同義。本望を胸に最期を迎えるなんて、これほど素晴らしいことはないではないか。神に最も近しい御方の望みに従い、その血肉を以って礼讃を捧げるがよい。
「ふふっ、ふはははははっ!」
肩を震わせ、来るべき破滅と再生の瞬間を想像し、歓びが膨れ上がってくる。
その瞬間、成長を果たした私は何をしているだろうか。
全てが無に帰し、新たな神の誕生を祝うその日、私は何をしているだろうか。
なんだっていい。私はただ、お兄様の横に肩を寄り添っているだけで、幸せなのだから。
私が成長すればするほど、ヴァルファランへ帰る日も近くなるだろう。そして最上の御方の願いを成就する礎を築く一手でもある。素晴らしい……最上の御方も喜んでくださり、お兄様にも会える。こんなに素晴らしいことは無いではないか。
「ふふっ、ふふふふ……さて、この気持ちが萎えるようなことが無いよう、あの木偶の尻を蹴って、さっさと次の場所へと向かうといたしましょうか」
遠くには既に黒煙舞い上がる様子が見て窺える。
思い耽っている間に、結構な距離を移動していたようだ。
殲滅、という点において火棲之壱号はこの上ないほど真価を発揮することができるが、先の一件の通り、奴は鈍足で脳が足りていない。おそらく似たような取りこぼしがそこら中にあることだろう。
面倒ではあるが、まずはそちらの掃除が先になりそうだ。
さて――どうしたら効率的に掃除を可能とするか、また頭を絞ることとしようか。
さあ白い地図を赤く染めてゆこう。
赤の軌跡がやがて世界の終焉を示した時――破滅は祝砲へと化し、新たな神の産声が上がるのだ。
ひとまず、これでヴァルファランの外の様子を覗く回は終わります。
お次は王都側のお話に移りますので、もうちょっとセラフィエル視点はお待ちくださればと思います~(*´▽`*)ノ