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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
197/228

96 おねーたんとおねーさま

ブックマーク、感想ありがとうございます!(*ˊᗜˋ*)/


いつもお読みくださり、感謝です~♪

「お腹空いたわ、ギン


「お腹空いたなの~っ!」


 淡々とした声と、賑やかな声。


 先ほどから数分刻みで交互に飛んでくる声は、わたしからすれば紛れもなく嫌がらせと言っても良いと思う。


 ――なんで、内包世界に入るや否や、わたしが食事の準備をしないといけないのよっ!


 なんて愚痴を内心で零しつつ、魔法――と言ってよいか微妙だけど、同じ要領で竈に火を起こし、鍋に水を入れる。


 この世界はわたしの中に広がる世界。魔力なんて概念があるとは思えないのだけど、現実と同様に魔力を操作すれば、魔法としての結果が生み出された。


 原理は……多分、違う。けど、過程や結果は同じだ。これは、おそらくだけど……わたしが知っている世界の原理が適用されているんじゃないかと予測する。その証拠に、こうして魔法は使えるが体内の魔力らしきエネルギーを消費した感覚が一切ない。そもそも……この状態のわたしには「魔力」というもの自体、己の中に感じられないのだ。


 つまり魔法という現象と、それを顕現する行為。その二点だけで、この内包世界内での魔法は完成される。その動力源となる魔力は不要ということだ。


 ――ほんと、変な世界。


 そんなことを思いつつ、便利な魔法が使えると知ったや否や、食事の準備を一切やめて食卓につき、料理を催促するお荷物二人に大きくため息を吐く。


「急かしても料理はすぐに出来上がらないんだから、黙って待っててよ」


「でもギン、私たちのお腹は待ってくれないわ」


「待ってくれないの~! キュウキュウなの~!」


 ペチペチペチーン、と翼を生やしたチビ天使が小さな手で食卓を叩く。非力なせいか、叩く行為の割りに騒音にはならないけど、そのぶん子供っぽい甲高い声は存分に響いてくる。その声に片眉をひくひくと動かしながらも、わたしは手を動かす。


 ――ていうか、アレは何者なのよっ! お腹空いたお腹空いたってうるさいから、先に料理に取り掛かったけど、説明不足な部分が多すぎるよ!


 一応、アカからは、内包世界が王都を模してから、この世界の原理がより現実に近づいた話は聞いた。ゆえに自給自足、家事洗濯、料理掃除も全て自分たちでやらないといけない、ということも。


 だからって、二人食卓でブーブー文句垂れてないで、何かしら手伝ってくれたっていいと思うんだけど……。


 と言いつつ、フルーダ亭でクラッツェードを厨房から追い出しては、プラムと共に料理をしている時間を肌で思い出したわたしは、何となく強く言う気も起きず、こうして手を止めないでいた。


 ――まあ結局、フルーダ亭……もとい王都の食材だけしか再現されてないっていうなら、食材のダシと塩で味付けを頑張るしかないから、言うほど美味しいものはできないんだけどね……。


 とりあえず、ちゃちゃっと作れる料理を選択して、食事の席でじっくりと経緯を聞くこととしよう。


 わたしはジャガイモと干し肉を一口サイズに切り、湯だった鍋の中に入れる。本当はキャベツやレタス、玉葱などがあればもっと良い野菜のダシが取れるのだろうけど、今は根菜ばかりの菜園なので、干し肉から滲み出る油を代わりとした。筋張ったゲェードの肉も、こうして茹でれば大分柔らかくなので、一石二鳥というわけだ。


 鍋の中が十分に煮込んだら灰汁を取り除き、少しだけ火を弱くした。魔法が無ければ竈の火を弱くすることも難しいのだから、本当に魔法って便利だ。


 そして今度は、左手にトマトを一つ持ち、わたしはトマトを包み込むようにして風の球体を発生させた。


 風の刃渦巻く球体の中でトマトはミキサー状にすり潰され、種も皮も果肉も全て細かくシェイクされていく。ほどよく混ぜ終えたら、鍋の上で風を解き、出来上がったトマトソースを鍋の中に流し込んでいく。


 その作業を四度ほど繰り返すと、鍋の中はトマト色で真っ赤に染まり、木製のヘラで鍋の中を混ぜるといい匂いが漂ってくる。


「うん、いい感じ」


 チーズなどがあれば、干し肉とトマトソースを組みあわせて、王都の無駄に堅いパンに載せて焼けば、簡易的なピザのような味も出せそうだけど、牛型のゲェードから取れる牛乳……は出回っているものの、チーズは王都でも見たことがない。王立図書館でも文献が見られないことから、おそらく製造方法などがまだ存在しないのだと思う。


 食文化の改善のためには、まず食材の種類を広げていく必要がありそうだ。まあチーズの作り方なんて、わたしにも分からないんだけどね。例の塔の書物の中に記録があるようだったらチャレンジしてみるとしよう。


 塩の入った麻袋を広げ、小さじで5杯ほど鍋の中に入れていく。


 あとは味見と調整の繰り返しだ。


 そうして20分ほど、満足のいく味になるまでじっくり煮込みながら、わたしはセラフィエル式トマトスープを作り込んでいった。



***********************************



「ん、美味しい……っ」


「美味しいのーっ!」


 チビ天使は置いておいて、アカなんかは想像すれば完成された料理が出てくる世界で3年ほど生活をしていたのだから、それなりに舌が肥えていると思っていたけど、意外とすんなりわたしの味を受け入れてもらえたようだ。


「ふふ……なんだか、懐かしい味」


「懐かしい?」


「覚えてない……よくは分からないけど……誰かが、誰かのために……一生懸命作った――優しい味。そんな感じがするの」


「……そういうこと、さらっと言わないでよ」


「恥ずかしいから?」


「う、うっさいなぁー……」


 アカが悪戯めいたように、くすりと笑うものだから、わたしは行儀悪く頬杖をついてそっぽを向いた。


「おねーたん、おかわりなのー」


 チビ天使用に、フルーダ亭の中に転がっていた木材を魔法で加工した、ミニサイズの器。その中に入れてあげたトマトスープは綺麗に空になっており、それを両手で持ったチビ天使は期待を一杯にした顔で、こちらへと容器を運んできた。


「こら、誰がおねーたんなのよ」


「えぅ……だって、おねーさまが……」


 困ったようにチビ天使はアカとわたしを交互に見やる。


「…………おねーさま?」


 ジト目でアカを見やると、彼女は特に怖気ることなく肩を竦めた。


「貴女が料理中に、せっかくだからそれぞれの呼び名を決めてみたわ」


「へぇ~、どう決まったのか、詳しく教えてほしいものだわ……」


「今、聞いたじゃない」


「なんでアカが『おねーさま』で、わたしが『おねーたん』なのよっ! そこはかとなく、格差を感じるんだけどっ!?」


「あぅ……」


 わたしが大きめに声を出すと、目の前のチビ天使は肩を震わせ、萎縮したように身を屈める。


「こらこら、ぷちセラが怖がってるじゃない。困ったおねーたんですねー」


「う、うぐぐ……!」


 人差し指で小さな頭を撫でるアカに、わたしは次の言葉を失った。


 ここで言い合いになるのが、いつものお約束だったはずなのに、今日はそうも行かない。……これ以上、強く出てしまうとチビ天使が泣き出しかねない空気だからだ。


「だ、だいたい……ぷちセラって、なによ……」


「え? だって――」


 そう言うと、アカは両手で掬うようにチビ天使を乗せ、わたしの目の前まで持ち上げる。


 チビ天使と目が合う。


 銀色に輝く腰まで伸びた髪。空を映し出したかのような青い瞳。翼や天使の輪っかみたいな違いはあるものの、そこにいるのはまさしく――わたしをデフォルメしたような存在だった。


「瓜二つじゃない」


「……わたしは三頭身じゃないわ」


 精一杯の虚勢はアカには通じず、彼女は「そういう話じゃないのは分かっている癖に」と笑いながら、再びチビ天使を食卓の上に置く。


 チビ天使はトタトタと食卓の上を歩き、空になった容器を再び両手で抱え、六枚の翼を揺らしながら再びわたしの前へと移動してくる。眉を八の字にし、わたしの機嫌を伺うようにして真ん丸な瞳がこちらを見上げてくる。


「おかわり、なのー……」


「……」


 ――うううぅ……納得いかない。色々と納得いかない! なんだかグラベルンから今日にいたるまで、わたしばっか辱めを受けている気がしてならないよっ!? 何が悲しくて自分の鏡映しみたいなマスコットに「おねーたん」なんて呼ばれないといけないのよっ! ぷちセラなんてネーミング、明らかにわたしの名から取ってるし……その名をわたしが呼ぶとか、どんな拷問なの!?


「わ、分かった……分かったから、そんな目で見ないで」


 泣きそうなのは、わたしの方だから……そんな言葉を言外に含みつつ、わたしは彼女から器を受け取る。


「わぁ、ありがとうなのー、おねーたん!」


 ガラジャリオスといい、この…………………………ぷちセラといい、わたしはどうやら小動物的な存在に弱いらしい。犬の尻尾のように、嬉しさを表現する翼の動きに思わず笑みを浮かべてしまいそうになってしまう。自分の生き写しみたいな存在に向かって、可愛いなんて思うとか……わたしはナルシストかっていう話だ。はぁぁ……泣きたい。


 ――くっそぅ、アカのやつめ~……! ニヤニヤしやがって~……こうなるのが分かっていながら、変な名前をつけるあたり、性根からドSなヤツだよ!


「良かったわね、ぷちセラ」


「うん、良かったなの、おねーさま!」


 い、いつか、きちんと呼び名についても訂正せねばなるまい……! そう意気込みながら、わたしは小さな器を掌に載せ、厨房へと戻るのであった。



赤は一見、セラフィエルを弄って遊んでいるように見えますが、これはこれで彼女なりの"甘え"だったりします。姉妹同士のじゃれ合いみたいなものですね(*'ω'*)

きっとこの世界にセラフィエルとぷちセラ以外の人間が出てきたとしたら、彼女はクールで毅然とした少女を演じることでしょう。それだけセラフィエルに心を許している証拠、ということですね(*´꒳`*)

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