94 バリーベルフォンの秘めた(つもりの)想い
ブックマーク、感想ありがとうございますっ(*ˊᗜˋ*)/
1000文字ぐらいで流す予定の話が、何故か書いていると7000文字ぐらいになり、まさかの1話分を使い切ることになりました(笑)
おかげでサブタイトルも書き換えする羽目に……(;゜Д゜)
ちょっと長い話になってしまい、申し訳ありません~(>_<)
いつもお読みくださり、感謝です♪
荷馬車の中に若草を敷き詰め、その上にブラウンを寝かせる。まだ何か意地を張ろうとしているのか、首を起こして小さく嘶くブラウンに、わたしは軽く鼻を指先で弾き「きちんと養生すること」と言い聞かせた。
少し強めに言ったことで、わたしの気持ちも伝わったのだろう。ブラウンは渋々といった様子で若草の上に体を沈め、楽な姿勢で寝そべった。
『準備はいいかのぅ?』
土竜モードになったドグライオンが足元から話しかけてくる。
「はい、お願いします」
『うむ』
その声を合図に彼は前脚を大地に触れ、その意のままに土を隆起させていく。彼の力によって制御された土砂は荷馬車を持ち上げるようにせり上がっていった。
その先には頭を低くして待機している蛇龍モードのガラジャリオス。
彼女の頭部より少し後ろ――人間でいう首の部分に、ドグライオンの操る土砂が荷馬車ごと登っていき、首輪のように土が囲っていく。やがて荷馬車も硬化した土に固定され、その土もガラジャリオスの頸部に固定された。
『これで良いじゃろ。一応、あまり体を動かさないよう注意はさせておくが、それでも移動に伴う振動は免れん。振り落とされぬよう、気を付けるのじゃな』
「ありがとうございます、ドグライオンさん」
これがコルド地方までの運搬方法。
ガラジャリオスに首輪のように固定された土の台座。その上に荷馬車を固定し、ブラウン含めわたしたちも同乗する。
安全のため荷馬車ごと土で覆ってもいいのだが、外の状況が一切見えない……というのも不安というものだ。そういう話し合いの末、上に位置する荷馬車は上半分だけが外気に晒されるようにドグライオンが調節してくれたのだ。
『乗るー?』
顎を地面に密着させ、ガラジャリオスが可能な限り、低い位置まで体を伏せる。
不思議なもので、あの幼女形態を見た後だと、この50メートル越の蛇龍モードを前にしても、どこか愛着が湧いてしまう。
今も暇つぶしに、ジャリジャリと顎を地面左右に擦りつけている姿は、年相応の仕草に見えて愛らしいものだ。
「それじゃ、タクロウさん」
「ええ、乗り込みましょう」
行先は東の地、コルド地方にある八王獣領――ノルドラ大丘陵。
ガラジャリオスたちは基本、人間種や精霊種と過度に干渉するつもりがないので、自ずとノルドラ大丘陵内部への移動となる。
ノルドラ大丘陵に着いたら、タクロウ始め複数人で近くの街へと移動し、今回の一連の報告を王都へと行う予定だ。本来、へき地でもあるコルド地方から使者が王都へ向かうことは珍しいのだが、今回は特例も特例のため、コルド地方に潜伏している仲間に早馬による伝令を頼むとのことだ。
思いのほか王室付調査室のメンバーが各地にいるんだなぁ、なんて思ってしまいそうになるが、この広大な国土の中、コルド地方に数名しか配置できていない時点で、その人材不足の深刻さは明らかである。長距離移動手段も馬しかなく、遠距離情報伝達を可能とする道具もないため、王都へは定期連絡でしか立ち寄れないというのも問題だ。
電話でもあればいいのだけれども……と思うが、如何せんわたしにも構造は良く分からない文明の利器だ。この世界で再現し、普及するのは難しい。
となれば、人員・環境整備で賄うしか選択肢がないだろうけど……この辺りは樹状組織などのゴタゴタが済んだら、レジストンに提案してみるのも良いかもしれない。
『おい、小娘』
「へ?」
未来の交通整備や郵便機能などを頭の中で思い描いていると、想像の斜め上の存在から声をかけられた。
――バリーベルフォンだ。
チリチリ焦げパーマとなった毛並みは既に回復したようで、再び焔を連想させるしなやかな赤い体毛を靡かせていた。
実際の所、彼はドグライオンの言う『強硬派』か、もしくはそれに近い考えを持つ八王獣なんじゃないかと思っている。
わたしに対して容赦ない攻撃もそうだし、タクロウとの対立時もそうだ。人間種に並々ならぬ嫌悪を抱いているように見えた。
だから――彼はきっと不本意ながら爪を収めている状態。ドグライオンやガラジャリオスがいる手前、大人しくしているが、本当は肚の中が煮えくり返っている……と想定していたため、まさかあちらから話しかけてくるとは思わなかったのだ。
意表を突かれたわたしは、思わずどもってしまう。
「へ、え、あっと……なんでしょうか」
『貴様は俺の背に乗れ』
「え゛」
心の底から嫌そうな声が出てしまった。わたし自身がそう思うのだから、バリーベルフォンにはより明確に伝わってしまったことだろう。嫌な予感は的中し、彼は苛立たし気に喉を唸らせた。
『ほぅ……貴様、この俺の背には乗れぬと言いたげじゃないか、ん? それは喧嘩を売っていると捉えても相違ないか?』
グルルル、と威嚇音を鳴らしながら、鋭い視線で見下ろしてくるバリーベルフォン。そんな彼に向って、わたしは視線を逸らしながら「そ、そんなことは」と弁明した。なんだこの、通学路でチンピラに絡まれた女子高生の気分は。
『フンッ、まぁ良い。特別に見逃してやろう……さぁ――乗れ』
「………………はぃ」
何だろう、この断れない空間。わたしはがくりと肩を落として、言われるがまま彼の背に乗ることにした。
『これ、バリー』
『分かっているさ、ジジィ。ちょいと聞きたいことがあるだけだ……頭の血はとうに引いている』
『……じゃと、いいのじゃがな。良いか、一つだけ断っておく。そこな小娘をただの人間種の子と侮らぬことじゃ。半端な火遊びは火傷の元じゃと肝に銘じておくのじゃぞ』
『カ、カカカカッ……! この俺が火遊びで火傷、だと!? 面白い冗談だ……やれるものならやってもらいたいところだな!』
『ふぅ、やれやれ……忠告はしたからのぅ』
長い鼻を左右に振り、ドグライオンはわたしを見上げて『いざと言うときは加減ナシで構わんからのぅ』と言い残して、ガラジャリオス背中組と合流していった。
――いや、わたし……もう魔力が底を尽きそうなんだけど……。
そんな「何かあっても、お主なら何とかなるじゃろ、な?」みたいな雰囲気で立ち去られても、呆然とする他ない。
――そうだ、タクロウさんたちなら心配してわたしを迎えにきてくれないかな?
そんな期待を込めて、遠目に彼らの様子を見ていたが、合流したドグライオンがタクロウたちと幾つか言葉を交わした後、タクロウやヒヨちゃんは心配そうにこちらを見ながらも近づいてくることは無かった。タクロウに至っては「ご武運を」とでも言わんばかりに一つお辞儀をして、ガラジャリオスの背中を向けた。
――くっ、ドグライオンさん……上手く言いくるめましたね……! みんな、わたしの戦力を信頼してくれるのは嬉しいけど……今、魔力は空に近いんだよー……襲われたらパクっといかれちゃう可能性があるんだよぅ……。
ドグライオンが作り出した土の階段を上って、ガラジャリオスの背部へと登っていく仲間たちを、ドナドナ牛の気持ちで見送る。
『チッ……ジジィめ。そこまで俺が信用ならんか』
「? ……あっ」
仕方ない……何かしらの自衛手段を考えるかと思っていた矢先、わたしはとある変化に気付いた。
ガラジャリオスの首輪のように、大地から伸びてきた土砂がバリーベルフォンの腹部に纏わりつき、鞍のような形を模っていった。鐙も形成されていき、足を固定できる場所が生まれていった。さすがに手綱はないけど、脚部を安定することができるなら、余程酷い走行をされない限り、<身体強化>を持つわたしなら振り落とされることはないだろう。
同時に背中に常に張り付けるならば、唐突に襲われる心配はないということだ。仮に凄まじい力で振り落としにかかったとしても、その数秒の時間さえ稼げれば、<身体強化>だけでもある程度の対応が可能となる。
――おお、ちゃんと考えてくれてたんだね、ドグライオンさん。
その配慮に心が軽くなった気がして、わたしは軽く地を蹴って、土鞍を跨った。
『……気に食わんが、まぁ我慢してやろう。向こうも準備は済んだようだし、行くぞ』
「あ、はいっ」
バリーベルフォンの言う通り、ガラジャリオスもゆっくりと頭部の高度を上げていき、移動を開始する動きを見せていた。
やがて彼女の身体が蛇行し始め、ゆっくりと前方へと進みだす。しかし、ゆっくりに見えたのは彼女の巨体による遠近感の狂いが原因だったようで、彼女が身体をしならせて前に進むたびに、あっという間に首元の荷馬車が小さくなっていった。
追いかけるように、バリーベルフォンも地を駆けた。
脚部の筋肉が盛り上がり、爆発的な加速力であっという間にガラジャリオスと並走する。
荷馬車を万が一にも落とさないようにと速度を落とし、安全第一にガラジャリオスが進んでいる所為か、息ができないほどの風圧が生まれることは無かった。
「ふわぁ」
魔法で空を飛ぶ感覚とも異なり、これはこれでかなり気持ちが良い。
ものの数秒で戦闘によって禿げてしまった平野部を通り過ぎ、森林の中へと入り込む。ガラジャリオスの図体では木々を軒並み倒していくんじゃないかと思ったが、蛇特有の軟らかさで木々の隙間を滑り込み、最小限の破壊のみで彼女は進んでいった。
その様子を背の高い木の上を飛び乗っていくバリーベルフォンが追随する。
移り行く景色を機嫌よく眺めていると、股の下から不機嫌な声が昇ってきた。
『おい、小娘』
「は、はぃ、なんでしょうか?」
『質問だ。アレは何だったのだ?』
「え、アレって……どのアレでしょう、か?」
いきなりの要領の得ない質問に、戸惑いの色が出てしまう。
『…………アレだ。ガラが、喜んでいた……あの肌色の物体だ』
「喜んでいた……あぁ、ジャガイモのことですか?」
『ジャガイモというのだな、覚えておこう。アレは何処で取れる食物だ?』
「えっと……わたしの、菜園です」
『なに……なんだって?』
「だ、だから……わたしが育ててる菜園の中だけでしか、採れません」
正確にはジャガイモ自体は王都の市場にも売っているが、ガラジャリオスが喜んだジャガイモ――と言うのなら、自家菜園で採れたモノだと言うべきだろう。
『…………それは、どういう意味だ? 貴様の菜園でしか採れぬ……という意味に聞こえたが?』
「まぁ……強ち間違いではない、と思います……」
『……』
「……」
――なんだこの沈黙……。というか、えっ……、どういう目的から来る質問なの、これ。
謎の間を空けてから、再びバリーベルフォンが喋りだす。
『……ガラはな、俺の背に乗ってくれぬのだ』
「え……背?」
一瞬、あの巨体が赤狼を押しつぶす図が脳裏に浮かんだが、彼が言いたいことはきっとそういう意味ではないのだろう。うん、褐色幼女がキャッキャしながらモフモフ犬の背に乗っている図に置き換えると、随分と平和で愛らしい風景へと変わった。
『人型になってもっと近くで寄り添えと言っても、窮屈なのは嫌だと逃げてしまう』
「……」
――えっと、何の話が始まったの? 相槌を打つことすら躊躇するほど方向性が掴めないんだけど……。
『――だというのにだッ!』
「ひゃ!?」
突然、咆哮かと思うほどの怒声が響き、わたしの心臓を大きく揺さぶってくる。
『何故ガラは……ッ、人型となり、貴様に懐いているのだッ!? それだけではない……貴様とは頬を寄せあったり、密着したりと…………話が違うではないかッ!』
「よ、欲望センサーが……働いてた、とか?」
『ナニィィィッ!?』
「な、何でもないですっ……はい」
『……』
「……」
――何だかお腹が痛くなってきた。プラムお姉ちゃんの癒しが欲しくなってきたよ……。
『貴様と俺の違い……それは、やはりあのジャガイモなる存在だと思うのだ』
「は、はぁ……」
どうやらまだ話は続くらしい。
『故に俺はジャガイモを手に入れなくてはならない』
「……」
一瞬「なんでやねん」とツッコみそうになったが、何とか堪える。
なんと答えるのが正解か、考え込むわたしだが、彼はそんな猶予すら許してくれないようで、すぐに次の言葉を続けた。
『その菜園とやらを俺に寄越せ』
「え…………えぇ!? そ、それは無理ですよっ!」
『貴様……』
「い、いえ……その、別にバリーベルフォンさんに嫌がらせをしようとか、そういう意味じゃないですよっ? わたしの菜園は王都の土でしか栽培できないのです……それはつまり、貴方が王都に住むことを意味するんですよ? それは流石に難しいのではないかと思ったんです……」
『む、むぅ……』
まあ、少し嘘も混ぜてあるけど。魔力を含ませた魔力水で土壌を満たせば、多分だけど……よほど栄養価が消え失せた不毛の大地でなければ、菜園と同じ環境は作れると思う。でもそれを口にするのは面倒事を拡げることになり兼ねないので、咄嗟に伏せることにしたのだ。
『…………分かった、ならば貴様と交易を結ぼう』
「…………はい?」
『人間種と我らの交易は今も続いているのだ。何も驚くことはあるまい』
「い、いえ……そうではなくてですね……」
――貴方個人とわたし個人で交易路を結ぼう、っていう突然の提案に驚いたんですよ!
あぁ、叫びたい。思いっきりこの謎の問答におけるモヤモヤを吐き出したい。
『とにかくだ。貴様と俺で交易を結ぶ。これは俺にとって急務なのだ。安心しろ……貴様はせっせとジャガイモを大量生産することに全力を注げばよい。その代わり、俺が人間の都と我らが地の運びを担ってやろう』
「……………………」
もしかして、この獣……。
何故彼がこうまでわたしとの関係を結んでまでジャガイモに固執するのか……その大元を思い返すと、いつだってそこにはガラジャリオスがいる。
ガラジャリオスを喜ばすため? 同族だからといって、嫌いな人間種と交渉をしてまですることだろうか。しかも王都から東の奥地までの運搬まで担ってくれるサービス付きと来た。
そこまでするには――人も獣も、それなりに特殊な感情あっての行動だろうと思う。
「あの、バリーベルフォンさん?」
『なんだ、今大事な決め事の最中――』
「もしかして、ガラジャリオスさんのこと、好きなんですか?」
『アアアァァアアァアァァァアアアッッッ!?』
「ひゃああっ!?」
――うわっ、叫び声と同時に口から大量の炎がっ!?
まさかいきなり火を噴くとは思わなかったが、どうやら図星のようだ。
『…………チッ、人間の浅はかな肉欲と一緒にするでない』
「ガラジャリオスさん、可愛いですもんね」
『うむ、天真爛漫とはあの子のためにあるような言葉だ。愛らしくも健気で快活だ。そしてどんな者に対しても慈愛を抱く優しさがある』
「ふふ、ガラジャリオスさんの笑顔はとても癒されますものね」
『分かるかっ? 貴様……中々話が通じるではないか。龍王と狼王……流れる血こそ違えど、人型時のガラはまさしく共通の至高なる存在。太陽の御子と言っても良いだろう。可能ならば俺の元で…………――』
「……」
『……』
目の錯覚だろうか、紅蓮の毛皮が普段よりも赤く色づいているような気がした。
『アアアァァアアァアァッッ、ァァアァァアアッッッ!?』
「バリーベルフォンさん、山火事になっちゃうので、火力は抑えてくださいっ」
『喧しいわ、小娘ェ! おのれ貴様ァ……この俺を尋問にかけるとは業腹なことをッ……!』
憤りを隠さないバリーベルフォンだが、わたしはここでようやく彼の本質を少しだけ理解することができた。
多分だけど……彼もドグライオンと同じく『保守派』に位置する八王獣なのではないか、と。彼は人間種に対して嫌悪を抱いているというよりは……どちらかというと、眼中にないのだ。
彼の中心に在るのは、きっとガラジャリオスの存在のみ。
加えて同族を気遣う余地はあるだろうけど、それだけ。その外枠である人間種や精霊種のことなんて、きっとどうでもいいのだろう。
だから彼はガラジャリオスを第一に置いて行動する。わたしを攻撃した時も、タクロウたちと対峙した時も。人間を侮蔑するような言葉を発したのは、純粋に己の行動の邪魔をする者を卑下した言葉を選んだだけのことなのではないだろうか。
彼は初めから、ガラジャリオスしか見ていなかったのだ。
仲間が疲弊して先に戻った中、彼だけは諦めずにガラジャリオスの行方を追い続けた。人間種であるわたしたちもいる中だというのに、姿を隠して様子を見ずに現れたのも、実は心の余裕が無かった所為なのかもしれない。
――そんな中、ガラジャリオスさんがわたし……というかジャガイモに懐いちゃったもんだから、一気に頭に血が上っちゃったのかも……。
そういえば、ガラジャリオスの電撃を浴びるのも「いつものこと」ってあったけど、あれも少しでもスキンシップを取りたいという感情から来る行動なのかもしれない。
「ふふっ」
『おい、小娘……貴様、今笑ったな? この俺を笑ったな!?』
「すみません……ふふ、でも、そうですね。わたしと貴方との交易については前向きに検討したいと思います」
『本当かッ!?』
「えぇ、すぐには答えは用意できませんが……あ、宜しければ、向こうについたらバリーベルフォンさんからガラジャリオスさんへ、ジャガイモを贈ってあげてはどうでしょう? 2個ぐらいなら融通を利かせますよ?」
『な、なにっ!? き、貴様…………いや、これよりは名前で呼ぶこととしよう。セラフィエル――と言ったな。セラフィエル、ジャガイモを2個、譲ると言った言葉に偽りはないな?』
「はい」
『よかろう……約束だからな? 破ればどうなるか、分かっておるな?』
「大丈夫ですってば……ふわぁ……」
何だか気が抜けちゃった。
数分前まで、敵対関係も考慮して緊張感を保ち続けていたが、今の彼がわたしに害するような行為をすることは無いだろう。ジャガイモを餌に、わたしという人間の価値観を植え付けたからね。少なくともノルドラ大丘陵に着くまでの身の安全は保障されたわけだ。
そう考えた途端、魔力と体力の消費から来る疲労と安心感から、猛烈な眠気が襲い掛かってくる。
「んー……」
前のめりに身体を倒すと、バリーベルフォンのフサフサの体毛がわたしの顔を包み込んだ。
予想以上に気持ちのいい手触りである。
外見は燃えそうなほどの赤毛の癖して、毛皮で作られた高級絨毯のように寝心地が良い感触だ。
『おい……なんだ、どうした?』
「すみません、ちょっと……眠い、です」
『はぁ!? まさか俺の背中で寝ようだなんて思って――オイッ、聞いているのかッ!?』
大きな声量も何のその。わたしを包み込む睡魔を前に、雑音は遥か彼方へと消えていく。
極上のフサフサベッドに身を委ねながら、わたしは静かに寝息を立て始めた。
最後に――丁度いいから赤のいる内包世界に行けますように、と意識をしながら……夢の中へと溶けていった。




