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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
193/228

92 どうしてこうなっちゃうかな?

ブックマーク、感想ありがとうございます!!(*´▽`*)


いつもお読みくださり、ありがとうございます~( *´艸`)

 馬車の傍へ来訪者が来たのは、太陽が傾き始めたころだった。


 大地を踏みしめる音が鳴り、わたしたちは音源を確認しに馬車の外へと身を乗り出した。


 馬車から目算で10メートル程度離れた場所。


 そこには「紅蓮」という言葉が似合う――煌々と揺らめく焔が佇んでいた。焔と見紛うたその存在は、触れれば火傷を負いそうな朱色の体毛を纏った大狼たいろうであり、鋭い視線をわたしたちに向けている。


「おお、ようやっと追いついたか」


 一瞬、緊迫した空気がわたしたちの間を通り過ぎていったが、横にいたドグライオンの緩い口調が、場をやや緩和してくれた。


『地中を走られては、匂いを追跡することが叶わんからな。少々骨が折れたぞ』


 低い声は赤い大狼の口から響き――声色からして雄だと思うが、その彼がドグライオンやガラジャリオスと同じく八王獣であることを証明していた。


「なんじゃ、お主以外の姿が見えんようじゃが……共に追跡に出た他のモンはどうしたのじゃ?」


『お前らの追跡途中でへばったから先に帰した』


「軟弱じゃのぅ……」


『匂いが途切れたお前たちをアテも無く探す羽目になったんだ。異変を悟られないよう、人間や精霊の目を盗みながらな……まだまだ若いアヤツらがいつも以上に疲労を感じても仕方なかろう』


 そう言って赤狼せきろうは、わたしたちを一瞥する。


 彼が自ら口にした通り、八王獣領での異変を勘付かれないよう行動を起こしていた彼にとって、まさにその相手であるわたしたちを警戒しない理由はないだろう。


 ゆっくりと足を向けて近づく赤狼は頭部の高さまで軽く5メートル以上はあるようで、背中にわたしが4、5人乗っても大丈夫そうな巨体であることが測れた。


『ドグライオン、一つ確認がある』


「みな言わずとも分かるわ。こやつらとは交渉を結んだ――協定関係におる。敵でないことは保証しよう。友誼を結べとは言わぬから、せめてその警戒だけでも解くのじゃ」


『交渉…………協定? ククク……耄碌したか、ジジィ。約束事を破るのは人間種こいつら十八番おはこだろう? そんな赤子でも分かる前提を忘れて手を結ぶなど、戯言にしても笑えんわ』


 低音の唸り声を含むその言葉は、明らかな侮蔑を含んでいた。しかしドグライオンからコルド地方での人間側の暴挙を聞き及んでいる身としては、その気持ちも分からなくはない。


 今にも噛みついてきそうな気配を漂わせる赤狼を前に、どうしたものかと思考を巡らせる。


 正直――魔力残量は微々たるものだし、<身体強化テイラー>でいなすにしても相手は生粋の獣よりも格上の存在――身体能力で上回れるとは思えない。ドグライオンがいるので、滅多なことにはならないと思うが、それでも万が一のことを考えると、ここで争いごとに発展するのは避けたいところだ。


 そんな時に、シャクシャクシャク……と間の抜けた咀嚼音が背後から聞こえてきた。


「んむ~……うるさいのじゃ……」


『ガラッ!?』


「む、もう目が覚めたのか……?」


 幌からのそっと姿を現したのは、わたしが羽織らせたコートに身を包んでいるガラジャリオスだった。眠気が取れていないのか、目尻に涙を浮かべつつも、右手にはジャガイモがしっかりと握られており、欠伸をしては閉じる口でジャガイモを食すという器用な食事をしている。


 ジャガイモは彼女が寝ていた時にあげていたものなので、彼女自身、そんなものが馬車にあるなんて知る由もないはずなのだが……食べ物に抜け目のないガラジャリオスは、ちゃっかりジャガイモの存在を見つけ出し、勝手に食べ始めたようだ。寝起きにまず行動するのが食事とは、本当に食いしん坊なのだと思わず苦笑してしまった。


『お、お前……正気に戻ったのか!?』


「あれー、ここ何処なのじゃ? もぐ……ドグにバリーもおるのじゃ。もぐもぐ……お腹空いたのじゃー……もぐ」


 この間、ガラジャリオスのお腹の中に納まっていくジャガイモの数、3個。これは危険だ……放っておけば、多めに持ってきたはずのジャガイモがまさかの底をつく事態になりかねない。


 ガラジャリオスは馬車から降りてきたものの、荷台の傍から離れない。その理由は明白だ。よく見れば彼女の背後には見慣れた木箱があり、さっきからガラジャリオスの小さな手がそこからジャガイモを取り出しては、一瞬で胃の中に吸収されていく様子が窺えた。


 わたしはそっと彼女の横へと移動し、次のジャガイモへと手を伸ばそうとするガラジャリオスに声をかけた。


「あの、ガラジャリオスさん? そのジャガイモなのですが……一応、わたしたちの食糧なので、あまり食べ過ぎないでもらえると嬉しいのですが……」


「あぅ? コレ、お前のなのかー?」


「え、ええ……」


 話ながらも手は止まらない彼女は、次のジャガイモを取り出すも、一応わたしの話は聞いてくれるようで、口の中には運ばなかった。


 小さな両手で大事そうにジャガイモを握るガラジャリオス。


 わたしとジャガイモを交互に見やり、徐々にその金色の瞳が見開かれていった。褐色肌で分かりづらいが、頬が紅潮し、口元が緩んでいるように見えた。もし彼女が犬ならば、ブンブンと尻尾を振っている幻影が見えるほど、喜びを露わにしているのが分かる。


「コレ! 美味しいのじゃ! ウチ、コレ気に入ったのじゃ!」


「そ、そうですか?」


「食べるとほっこりするのじゃ! もっと食べたいのじゃ!」


 ――くっ、眩しいっ!? ここまで純粋な目で見られたのなんて、何時以来だったっけ……ぐ、駄目。ここで甘やかすと、間違いなくジャガイモどころか他の食材まで、遠慮なしに完食されてしまう気がする……!


「え、えっと……だから、その、それはわたしたちの食糧で…………ね?」


「…………駄目なの?」


 想像以上に絶望顔!?


 今にも崩れ落ちそうに小さな体を震わせ、目尻からポロポロと涙がこぼれていく。


 無垢な幼女を虐めている気分になり、わたしも泣きたくなる。



『貴様ァ、ガラになにをしておるかァッ!』



 そんな暗い空気を吹き飛ばす勢いで、赤い影がわたしへと飛び掛かってきた。


「きゃっ!?」


 完全に油断していたわたしは迫りくる凶爪を躱す余裕がなく、咄嗟に両腕を交差してダメージを軽減させようとした。


 反射的に目を瞑ってしまったわたしだが、一向に衝撃や痛みは来ず、代わりに堅い金属音が鳴り響いた。


 恐る恐る目を開けると、そこにはタクロウの背が。


 ――いや、タクロウだけじゃない。一寸先まで迫った赤狼を囲むようにして、メリア・クルル・ヒヨちゃん・マクラーズたちも武器を取り、その切っ先を彼に向けていた。上空にはハクアも待機しており、その口腔から青白い炎が舞っている。完全に臨戦態勢である。


 赤狼の鋭い爪はタクロウが長剣で受け止めてくれたようだ。相当な衝撃だったのか、彼の足元は数十センチほどのわだちができており、足先にかなりの力を込めて踏ん張ったことが見てとれた。


『――ほぅ、人間ども。いや……一部、精霊も混ざっているようだが…………まさかこの俺とやり合おうなんて愚かなことを考えてはいないだろうな?』


「それはこちらの台詞ですね。我慢の利かない早漏野郎が偉そうな口を叩かないでもらいたいものです」


 ――なんか、メリアさんからとんでもない毒が漏れた気がする。


 ピリピリと空気が震える。


 そんな素人でさえ呼吸を忘れてしまうほどの緊迫した空気の中、わたしの袖を引く者の存在があった。


 視線を向ければ、そこには涙目のガラジャリオスが。


「後生なのじゃ。あと一個……いや二個…………うー、三個、食べたいのじゃ……四個目もおまけしてくれると、なお嬉しいのじゃ……」


「ちょ、ちょっと待ってね。い、今そういう空気じゃないから……」


「よ、四個目は……我慢するのじゃ」


「そ、そうじゃなくてね……」


 どうしよう……目の前には空気を読まずにプルプル震える幼女が。その逆方向には怒りに背中を押されてプルプル震える赤狼が。心なしかタクロウたちの肩も少し震えている気が……こっちもこっちで憤りを隠さないで殺気を滾らせている。どう収拾をつけるべきか、このプルプル空間。あ、マクラーズだけちょっと及び腰だね。


「おい、バリー……」


『止めるな、ジジィ。思い上がった連中というものは、力の差を身を以って知ることで、漸く身の程というものを理解するのだ』


「なるほど、確かに道理ですね。セラフィエル様に危害を加えようとする身の程知らずには、力を以って証明する他ないでしょう。では――早速、その身に経験していただくこととしましょうか」


 タクロウが言い終えるや否や、ピキンと微かに金属が欠ける音が聞こえた。


 何事かと思えば、音の発生源はタクロウの持つ長剣のようで、刃こぼれしたかのように刀身が独りでに削れているようだ。


 ――ま、まさか……先ほどの一撃に対して、<対価還元サロ・グレン>を発動させたの!?


 <対価還元サロ・グレン>によって集約されたエネルギーに耐えられず、刀身が崩壊を始めているのだ。刀身から溢れだす不可視のエネルギーに、思わず息をのむ。あの長剣には今、赤狼が放った爪の一撃分の力が内包されているというわけだ。


「ちょ、ちょっとだけ……」


 シャク。


 あ、視線を逸らしている間に、つまみ食いの音が……。


 つい、と彼女の方へ視線を向けると、ビクリと肩を震わせたガラジャリオスは、慌てて首を横に振る。


「違うのじゃ! ちょ、ちょこっと……少ししか食べてないのじゃ!」


 ――うん、それは何も違わないね。


 別にジャガイモについて何か怒るつもりはないけど、それでも残念な言い訳にわたしは複雑な面持ちを浮かべるしかなかった。



 さて、この混沌とした場の空気――――どうしたものだろうか。というか、何故こうなった……。



絆が深まったり信頼関係が深まったら、その相手に不条理に悪いことが起きると人間、感情が表に出やすくなっちゃいますよね(>_<)

つまり、喧嘩が起きやすいと……('ω')

元々真面目で冷静な性格のタクロウたちの沸点が低くなりがちなのは、ある意味、セラフィエルの所為なのかも\(^o^)/

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