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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
192/228

91 暇つぶしは餌付けタイム

ブックマーク、感想ありがとうございます!(੭ु ›ω‹ )੭ु

誤字報告もお恥ずかしい誤字ながら、いつも助かっております♪


今話は閑話的な内容なので、お時間ある時にサラッと見てくださると嬉しいです(*´▽`*)

いつもお読み下さり、ありがとうございます!

 シャクシャクシャク……。


 馬車の中に規則正しい音が流れる。


「……………………」


 一定の時間が経った後、今度はスピースピーという音へと切り替わる。


 ヒヨちゃんは、背後の木箱の中にある物――ジャガイモをまた一つ手に取って、そーっと元気よく寝ている褐色幼女の口元に持って行く。


 ジャガイモが彼女の口元に触れた瞬間――寝息を立てていた音は消え、あーん、と開いた小さな口がジャガイモに齧り付く。


 そして再び、シャクシャクシャク……という音と共に、ジャガイモはシュレッダーの中に消えていく紙のように徐々に消えていった。


「シャク…………むにゃ、くかー……」


「おぉ」


 言外に面白い、という感じでヒヨちゃんが声を漏らし、その肩を今度はクルルが叩く。どうやら「今度は私が」ということらしく、ワクワクが抑えられない美人精霊は新しいジャガイモを手に取り、ヒヨちゃんと同様にガラジャリオスの口元へ。


 焼き増しのように咀嚼音が鳴り響き、何故かヒヨちゃんとクルルはハイタッチ。うん、謎の連帯感が築かれたようだ。


「貴女たち、そんなもので喜んでいるようじゃ、まだまだのようですね」


 そこでメリアの平坦な声が聞こえる。


 顔を上げれば、幌を広げて馬車の中へと乗り込む姿が。その脇にはなぜか数本の枝が抱えられていた。


「ドグライオン様のお言葉によれば、ガラジャリオス様は何でも食す悪食とのこと。人が普段口にする根菜――ましてやセラフィエル様が手塩をかけて育てたものとなれば、満足顔で食するのも当たり前のことです。やはり――彼女の食欲を試すならば、人が絶対に口にしないモノでしょう」


 一見、淡々とした表情に見えるメリアだが、見慣れてきたわたしには分かる。ゴトゴト、と大小の枝を床に置き、そのうちの二本を両手に持って、彼女は口元だけでふっと笑った。


 分かる……鉄面皮の下に上手く隠してはいるものの、その内側から滲み出る愉悦のオーラが、仮面の隙間から漏れ出ているのが感じ取れる。


 ――そうだとは思っていたけど、メリアさんってやっぱりドS……だよね。


「お主ら……あまりガラで遊んでくれるなよ?」


 呆れたように言うのは、人型になったドグライオンだ。


 注意はするものの、止める素振りはないので、おそらく彼女ガラジャリオスに対して害になる行為ではないのだろう。ないのだろうが……如何せん見た目が幼女のため、ちょっと参加したい気持ちがあるわたしだが、二の足を踏んでいる現状である。うーむ、しかし……何かを口にした後の穏やかな寝顔を見ていると、やはりヒヨちゃんたちに加わって何かあげたい気持ちが沸き起こる。


 ――本当に食べることが好きなんだね。


 そんなことを思っていると、枝を指で遊びながらキリっとした視線でメリアが口を開く。


「大丈夫です。僅かでも嫌な顔をされましたら、即刻止めますので」


 それは大丈夫と言えるのだろうか。絶対に面白がっているとしか思えない雰囲気である。


 ヒュンヒュンと器用に指先で枝を回しているメリアを見ていたクルルは、メリアが持ち運んできた他の枝を手に取り、何かに気付いて会話に加わってきた。


「あら、これはミダの枝ですか?」


「さすが精霊種ですね、ご存知でしたか」


 何の変哲もない枝から話題が広がると思っていなかったので、わたしは数度瞬きを繰り返して、彼女たちを見る。


「みだ?」


 聞いたことのない名前に思わず聞き返すと、メリアが丁寧に説明を返してくれた。


「王都にあった文献には、精霊種や八王獣の間で珍味とされている大木の枝――とされてますね。人間種では薪としての用途しかありませんが、八王獣の一部の者に食用として扱われていた……という記録があります」


「あながち間違いとは言わんが、樹木を好んで食す者は今も昔も稀じゃぞ? ワシも爪研ぎぐらいにしか使わん。まぁ……ガラは関係なく食っておったが」


 8割のサドの中に2割の気遣いを混ぜてくる、侍女風サド娘――メリア。なるほど、探求心・嗜虐心を満たすだけの行動ではなく、その中できちんと無茶はしない心配りが含まれているとは、御見それいった。


 わざわざ外に出て、そこらへんに転がっているテキトーな枝を拾ってくるならばサド率100%に見えるけど、そこで妥協せずに、何食わぬ顔で食用でもあるミダの樹木をせっせと探してくるあたり、ツンデレのもあるのかもしれない。……いや、気の所為かもしれないけどね。


「それでは早速」


 ドグライオンから「食べられる」という言質を得るや否や、メリアは爆睡中のガラジャリオスの前で膝を折り、ミダの枝の先を彼女の口元へと運んでいく。無表情に見えて、絶対に内心でワクワクしているに違いない。


 ツンツン、と尖端で唇を突っつくと、彼女は「んむぅ~」と唸りながらも口を開け始めた。


 それに合わせてミダの枝を口腔内に入れると、示し合わせたかのように牙の生えた口が閉じる。カリッと小気味の良い音が鳴る様は、まるで少し堅めのゴボウでも食べているかのような軽快さを感じるが、いかに繊維が少なく、乾燥した材木であっても、あそこまで簡単に噛み切れるとは思えない。


 しかしガラジャリオスの口が止まることはなく、カリカリカリカリカリ、と咀嚼を繰り返し、枝の最後まで口の中に納めてしまった。食べ終わると、彼女はまた幸せそうに寝息を立て始める。


「…………恐ろしいほどの食欲と、鋭い牙、顎の力ですね。油断していると私の指も一緒に食われかねないですね」


「冗談じゃなく、本当にそうなるぞ?」


「そのようですね」


 ドグライオンのツッコミにふむ、と満足して頷いたメリアはいそいそと馬車内の定位置に腰を移した。


 メリアの探求心が満たされたのか、飽きたのか、それとも事故で指先を喰われたら堪らないと思ったのか……定かではないけど、メリアは幼女への餌付けを止めて、傍観姿勢に移行するようだ。


 残った枝は引き続き、ヒヨちゃんとクルルがガラジャリオスの口元に運んでは、勢いよく咀嚼されていく様子を楽しんで眺めていた。




 さて――なんでこんなことをしているか、というとだ。


 実を言うと、数十分前にドグライオンたちと敵についての話は終えていた。


 敵の素性は分からずとも、一部の能力は判明し、それが原因でガラジャリオスも正気を失っていたのではないか……という話になった。


 そして、敵の気配が全く感じられなかったことから、八王獣領に潜んでいる人形と呼んでいる正体も同様のモノではないか、という結論に至っている。


 そこまで話し終えると、大方、全員の認識のすり合わせは完了し、最後にガラジャリオスが飛び跳ねた原因はわたしであることをお詫びした。結果的にガラジャリオスの正気が戻っていることを確認できた面もあり、ドグライオンは「気にせんでいい」と言ってくれた。


 彼女の同胞である彼がそう言ってくれたことで、わたしの肩に乗っていた荷もようやく軽くなった気がした。


 あとは――グースカ寝ているガラジャリオス本人から事情を聞けば、粗方の情報整理は済むのだが、肝心の彼女は夢の世界から帰ってこない。


 なぜ彼女はあれだけの騒ぎを起こしたにも関わらず、すぐに眠りの世界へと旅立ったのか、心当たりがないかドグライオンに聞いてみた。


 彼の推察によると、休眠状態だったところに目を覚ますレベルの衝撃や痛みが走って、無理やり覚醒したのではないか――そして、いざ痛みが引いてきたら、休眠状態の時の睡魔が蘇り、再び体内のエネルギーを充填するために眠りについたのでは……とのことだ。


 暴れていた途中で人型になったのも、熱傷の痛みの範囲を小さくするために、本能的にやったことではないか……と教えてくれた。しかし、ガラジャリオスは友好的で明るい性格だが、本能で動くことも多いらしく、長い付き合いのドグライオンにも意味が分からない行動をとることが多々あるらしい。故に彼は最後に「多分じゃがな、多分」と付け加えるのであった。


 ――で、待っている間に、各自でガラジャリオスについて、他にも質問をドグライオンに向けていたわけなのだが……途中でドグライオンが「ガラは食うことに目が無くてのぅ。言ってしまえば悪食で暴食じゃな。寝ていても口元に近づいたモノは何でも無意識に食おうとするほどの食いしん坊なんじゃ」なんて言うものだから、ヒヨちゃんが「じゃ、試してみようぜー」と好奇心を刺激されてジャガイモを食わせ――――今に至るわけだ。



 つまり要約すると…………、今までのくだりは、手持ち無沙汰で暇だった結果、生まれた時間というわけである。


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