90 蛇龍幼女ガラジャリオス
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野性味あふれた焦げ茶色のボサボサ髪。
やや日焼けしたかのような、浅黒いモチモチ肌。
金色のつぶらな瞳に浮かぶ瞳孔は、爬虫類のように縦に細長くなっており、その様相がさらに野生児を連想させる手伝いをする。
二の腕、脇腹、大腿部には瞳と同じ金色の鱗が残っており、その特徴が少女が何者であるかを明白に告げていた。
じーっとわたしを覗きこんだかと思うと、落ち着かない様子でもぞもぞと動き出す。
慌てて彼女を持ち直すと、ちょうどお姫様抱っこのような姿勢に落ち着いてしまった。
素っ裸の幼女をお姫様抱っこする、わたし。これ、いったいどういう状況?
「むぅ? お前は誰じゃ?」
瞬き数回した後、彼女は小首をかしげて問いかけてくる。敵意や警戒から来る言葉……というより、純粋な疑問を投げかけてきているみたいだ。
「え、え~っと……そういう貴女は、ガラ……ジャリオスさん?」
「およ? お前……ウチと知り合いじゃったかな? んー、ん~? 思い出せんのじゃ……」
んーんー言いながら首を何度も傾ける姿は、実に愛らしい。ドグライオンと言い、八王獣は人化すると、人間でいう少年少女の世代の姿になるんだろうか……。しかし言っちゃ悪いけど、ドグライオンと違って純粋というか……真っ直ぐな感情の波が彼女から伝わってきた。
悪食……健啖家らしいけど、人型の小さな口を見ていると、全然そんな風には見えない。でも確かに元気でワンパクな印象は感じるので、たくさん食事を摂る姿は年相応で似合っているような気もする。
「……………………はっ!?」
呆気に取られて周囲に頭が回らなかったけど、わたしは改めて彼女が裸である事実を認識し、慌ててコートの裾を粘土状となった地面から引っ張り上げ、その肌を包み込むようにして隠してあげる。コートが土塗れなのは目を瞑って欲しい。
そして男性陣へと目を向けると、タクロウは空気を読んでか、そっぽを向いてくれていた。下半身が地中に固定されているため、上半身だけ捻っている姿はちょっと苦しそう……逆に申し訳ない気持ちになってくる。
もう一人の男性であるドグライオンは――……土竜形態のため、正直どういう感情を持っているのかも見て取れない。雰囲気から感じられるのは、ガラジャリオスの裸には興味ナシという感じ。むしろ同族を心配する感情の方が強い気がする。
――八王獣同士のコミュニケーションなんて、わたしには分からないし、変に口を挟むのも変かな。ガラジャリオスさんも全然気にした風じゃないし……。
そう思って、とりあえずタクロウが楽な姿勢を取れるよう、コートで褐色肌を隠してあげる。
すると、ガラジャリオスは急にプルッと身体を震わせ、ゴロゴロとわたしの腕の上で動き出した。
「ちょ、ちょっと暴れないでくださいっ」
「むぅー、背中が熱かったのじゃー! 痛痒いのじゃー!」
どうやらコート越しに、わたしの腕へと背中を擦りつけているようだ。摩擦で痛みを紛らわせようとしているのかもしれない。
「あー……」
わたしが原因です、と言い出せる雰囲気でもないので、口を濁しながらも謝罪代わりに、わたしは彼女の背中を擦ることにした。気休め程度にしかならなさそうだけど……と思っての行動だったが、思いのほか彼女には気持ち良かったのか、「む、む、む?」と小刻みに声を漏らしながら動きを止めてくれた。
妹をあやしているような、ちょっとした気分。
ヤバい。プラムがわたしを可愛がってくれる気持ちが分かったような気がする。背丈や見た目年齢で言えば、赤もわたしの妹みたいな感じだけど、クールな彼女は妹という印象を持たせてくれなかった。でも今両腕に抱えられている小さな女の子は、わたしの一挙手一投足に素直な反応を返してきて――正直、可愛いと思ってしまった。
――多分、年齢はわたしより上な気がするけど。
事実上200年以上の経験値を積むわたしだけど、八王獣はそれ以上の長寿と文献で見た。彼女がそれに該当するのかは不明だけど、八王獣の名を冠している時点で、代替わりが無ければ最低建国700年前から存命している存在ということになる。
「全然そんな風に見えないんだけどなぁ……」
「?」
わたしの独り言を追うように、ガラジャリオスは首を傾げながら、わたしをジッと見上げてくる。
――うん、お持ち帰りしよう…………じゃない! えっと、このままジッとしているわけにもいかないよね。
「ドグライオンさん」
『む……、そうじゃな。次から次へと事態が急変するものじゃから、少し呆けておったわい』
わたしが何を言わんとしているかを察したドグライオンは、その身体には不釣り合いな大きい両手を地面に当てる。すると、数秒も経たずに地面がせり上がっていき、地上と同じ高さまで上がると、今度はわたしたちの身体も押し上げていった。
腰から下が泥だらけになっていることを覚悟していたけど、いつの間にか粘性が取れ、乾燥した土くずはポロポロと剥がれていき、最後には手で払える程度まで汚れが取れていた。
その現象を見送りつつ、魔法で行うとしたら幾つの行程を踏むかを考えてしまい、思わず「すごいですね……」と呟いた。それを拾ったドグライオンはフスッと鼻息を漏らしながら自慢気な言葉を漏らす。
『ふむ、ワシにとっては当然なことじゃが、お主らにとっては――』
「ぬぅ~、手が止まっておるのじゃー!」
足元で胸を逸らしながら言葉を連ねる土竜の言葉は、同胞であるガラジャリオスの声によって無残にも遮られていった。
バタバタと両足を交互に振るものだから、わたしは慌てて彼女を抱え直しながら、その背中を撫でる。
「むふぅー」
すると満足げな吐息と共に、穏やかに体重を預けてくる褐色幼女。
何度も言うけど、この状況はいったいなんなのか……。<身体強化>で補強してある上に、人型の彼女は50メートルを超えていた巨体からは想像もできないほど軽いので、このままで特段問題はないけど……や、止め時が分からない。
『……』
気分よく言葉を並べていたところを邪魔されたドグライオンを気遣って、わたしは再び彼に話しかけることにした。丁度いいから、気になっていた疑問でもぶつけてみよう。
「ドグライオンさん、一つ疑問なのですが」
『む、なんじゃ?』
「今の地盤沈下……大地を操作されたのは、ドグライオンさんの力、なんですよね?」
『うむ、そうじゃそうじゃ。惚れ直したかのぅ?』
「一度も惚れたことがないので、直したかと言われれば答えは『いいえ』ですけど」
『……ズバッと言われると、心に来るモノがあるのぅ』
「それはそれとして、先ほどの力。ガラジャリオスさんとの戦闘時にも使えたんじゃないかなぁ~って疑問に思いまして……」
『それはそれ……む、まぁ良い。先ほど少しばかり口にしたが、土壌の波長を読み取らねば、ワシの力は使えんのじゃ。いや――正確に言えば、大地に命じられぬ、といったところじゃな』
「波長……」
そういえば、そんなことを言っていたような気がする。
ドグライオンは元通りになった大地をポンポンと叩き、言葉を続けた。
『ワシらの領土ならまだしも、この辺りに足を運ぶことなんぞ無かったからのぅ。時間をかけてワシとの波長を合わせねばならんかったのじゃ』
「なるほど……」
原理は分からないけど、理屈は分かった気がする。この世界に来て、恩恵能力にも驚かされたけど、どうやら八王獣には八王獣で、また別ベクトルの力が秘められているのかもしれない。……もしくは、これも恩恵能力を端に発せられた力の一つなのだろうか。科学原理とは異を画した、別の原理がまだまだこの世界に潜んでいそうだ。
……そもそも、あの巨体が、人型になった瞬間、こんな小さな体積に変貌してしまう現象自体、物理学を度外視したものなのだ。わたしの今までの常識で推し量ろうとしても、袋小路にハマるのがオチだろう。なので、深くは考えずに、感覚で「そういうものなのだろう」と受け入れるのが一番な気がした。
『ただ地中を掘る程度なら問題はないのじゃが、さすがに操作するとなると……な。加えて、久しぶりに領土外の大地を触れてみたが、どこもかしこも『何者かの』干渉を受けておった。それ故にワシの波長に合わせるのも時間がかかったわけじゃな』
「何者かの……干渉、ですか?」
『深く聞かれても知らんぞ? 感覚的なものじゃからの。強い思念のようなものが土壌に残っておったが、あくまでも残滓だけのようじゃ。おそらくそやつからの干渉が切れて何十年……あるいは何百年と経っておるのじゃろうな。故にワシの干渉に塗り替えることが可能だったわけじゃ』
それは逆を返すと、その干渉が今も継続されていた場合――八王獣であるドグライオンの干渉すら弾き返すものだった……ということだろうか。
『さて、ワシの話なら後でなんぼでも聞かせてやろう。じゃが、今はひとまず――何があったかを一つ一つ整理するのが先じゃろうな』
「賛成ー……なんていうか、色々ありすぎて疲れた……」
「そうですわね……今回の敵、セラフィエル様のご様子からしてどのようなものか把握されておられたようですし、情報の共有を先にしたほうが良いかもしれませんわ」
「異存ありません。一度、メリアのところへ戻り、再び話し合いの場を設けましょう」
いつの間にか集まってきていたヒヨちゃん、クルル、タクロウが次々に賛成の意を口にした。
「くかー、くかー……」
新たに増えた幼女は、遠慮なくわたしの腕の中で爆睡し始めるし……まあ、彼女を馬車の中で寝かせる必要もあるし、皆の言う通り、ここはまた馬車の中で話の輪を作るのが最善だとわたしも思う。
保留だったリスクのガラジャリオス自身はこうして正気を取り戻し、穏やかにもなったわけだから、今度はもっと落ち着いて話をすることができるだろう。
何度も往復する形となったが、わたしたちは再度、避難したメリアとマクラーズの乗る馬車へと足を向けることにした。