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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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85 その身に潜むモノ

ブックマーク、感想ありがとうございます!( *´艸`)

土日、軽い熱中症で体調不良が続いてしまいました。皆さんも水分補給などにお気をつけください~(>_<)


いつもお読みくださり、ありがとうございます!(*´▽`*)

 気配が気薄に感じたのは、気のせいではないと思う。


 幽鬼のように揺らめく巨体からは覇気はなく、かといって瀕死の状態を推して動いている様子でもない。言うなれば――操り人形、という印象を受けた。


 ガラジャリオスは変わらず目を開いたままだが、その意識は沈んだままに見える。蛇に瞬きという概念があるかどうか忘れたけど、休眠に入った時に遠目に見た感じでは、寝ている間も目は開いたままだったように見受けたので、蛇とは元々そういう体質なのかもしれない。


 ――休眠状態が明けている……わけじゃなさそうね。


 先のように尻尾を鳴らして威嚇行為を行うわけでもない。


 ただただ何かに導かれるように、ズルリズルリと体を這わせて馬車の前まで近づくだけである。


 やがて、その影が馬車を覆った段階で、ゆらりと巨体が揺らめいた。


「――ム、いかんぞ!」


「セラフィエル様ッ!」


 ドグライオンとタクロウの言葉が被さる。


 タクロウは反射的に剣を抜き、ヒヨちゃんは蠍蜥蜴化ネーベリザードリィして応戦体勢に移るが……全長50メートルはあろう巨体を前に、仮に<身体強化テイラー>を駆使しようとも、その体重を跳ね返すことは敵わないだろう。


 ――魔法しかない!


 魔力残量は気になるところだけど、わたしはこちらを圧砕せしめんと重力のまま倒れ込もうとするガラジャリオスを吹き飛ばす準備を開始する。


『――――』


 しかし――倒れ込んでくるかと思えば、中途半端な姿勢のままガラジャリオスは停止した。


 口腔をだらんと開け、牙と牙の隙間から唾液が流れ出てくる。


「…………?」


 なにか様子が変だ。


 頭上から落ちてくる唾液の滝から距離をとり、思わずガラジャリオスの様子を覗ってしまう。


「ブルルゥ!」


 そこで、ブラウンの声がわたしの意識を現実へと引き戻してくれた。


 ――そうだ、呆けてる場合じゃないよね! 今の内に馬車を退避させないと!


 そう思って振り返ると、既に御者台にはメリアとマクラーズが乗り込んでおり、手の合図だけで「先に避難してます」とサインを送ってくれた。


 冷静で迅速な対応に、わたしは思わず安堵の笑みをこぼしつつ、一つ頷く。


 鞭を打たれ、ブラウンは忙しくも馬車を離れた場所へと引っ張っていった。その後ろ姿を見送り、再びタクロウたちと共にガラジャリオスと向き直る。


「離れた方がよさげじゃない?」


「そうですわね」


 ヒヨちゃん、クルルの言葉に全員が頷き、項垂れたまま活動停止となってしまったガラジャリオスの影から逃げるようにして、後退していく。


『――、――……』


 いくら健啖家とはいえ、異様な量と言える唾液は依然、大地の上へと流れていく。


「…………言っとくが、食いしん坊とはいえ、あんな絶え間なく涎を垂れ流すような女ではないからのぅ?」


 ――そういえば性別的には女性なんだっけ? さっきから『彼女』って言ってたもんね。……擬人化したらどんな姿になるんだろう。


「他に心当たりとか、ありません?」


「ない。あるとすれば――アヤツが丸呑みした人形くずれぐらいじゃろうて」


「ですよねー……」


 予想はついていたけど、やはり彼女が飲み込んだ人形とやらが原因……と考えるのが濃厚のようだ。


「っ、セラフィエル様……!」


「あ……!」


 小さな池を真下に作り上げたガラジャリオスは、次こそ大きく全身をくねらせ、横倒しになって倒れていった。


 大地に響き渡る振動に転ばないよう、全員が踏ん張る。


 土煙が舞い上がり、目に入らないように両手で視界を塞ぐ。


 先ほどの戦闘で地面が抉れていた関係か、予想以上の粉塵が視界を覆い、わたしは魔法による風を発生させて、それらを遠くへと吹き飛ばしていった。


「いったい……なんなの?」


 再び晴れ間が行き渡る景色が戻り、目の前で横になる巨体を仰ぎ見た。


「現時点では……何とも。ひとまず、周囲に注意をしながらガラジャリオス様の状態を確認いたしましょう」


「えぇ……そうですね」


 冷静を保っていたように見えたドグライオンも、その心中では同胞である彼女の安否を気にかけていたのだろう。彼は「ガラ!」と声を上げながら、微動だにしない彼女の元へと駆けていった。わたしたちも頷き合い、彼の後に続く形でガラジャリオスの元へと向かう。


「しっかし……で、でっかい~なぁ……」


「遠目でも威圧感は凄まじいものでしたが、間近となるとその迫力も桁違いですわね……」


 鱗数個で彼女たちの身長を上回ってしまうほどのスケールの違いに、思わずクルルたちから感嘆に近い声が漏れる。


 わたしはガラジャリオスの腹部と思われる部位まで回る。肺の動きが分かれば……と思ったのだが、ガラジャリオスの身体は人の身体と異なり、呼吸運動による伸縮が確認できなかった。


「う、うーん……蛇と同列に考えていいかどうかも分かんないけど、蛇の生命活動を確認する方法ってどうしたらいいんだろう……」


 ドグライオンに確認してみようと思い、ふと周囲を見渡せば、他の四人の姿が見当たらない。そういえば腹部の辺りを確認するって言い残さないで来ちゃった気がする。おそらく別の場所を確認してくれているであろう四人の姿を探すために、わたしは踵を返そうとして――。


「いたっ」


 不意に足に走る痛みに眉を顰めた。


 何度か蹈鞴を踏むと、ビシャビシャと水音が跳ねる。


「…………?」


 違和感が走った。


 ――ちょっと待って。さっきまで此処は水浸しになっていなかったはず……?


 痛みの先を視線で辿ると、わたしの脹脛ふくらはぎの辺りに小さな点のような傷が出来ており、そこには一筋の血が流れていた。


「――ぅ?」


 左足の力が急激に抜け、くの字に折れ曲がる。


 反射的に右足でバランスを取ったことで、倒れ込むような事態にはならなかったが、明らかな身体の異常事態に焦りが浮かんだ。


 流れ出た血液に、わたし自身の血を向かわせ、出血を止める。


 ――そこで気付くことができた。


 いつの間にか出来ていた、小さな傷。その侵入口から血管内に入り込んだ――異物の存在に。


「っ……、う、こ、れは……!?」


 視界が歪み、先ほどまでの鮮明な景色に、桃色のフィルターがかかったかのようになる。


 キィィィン、と耳鳴りが響いたと思った瞬間、世界は姿を変えていった。



 足元に広がる土の形が、絶望を訴える無数の人の輪郭に見える。

 遠くに茂る背の低い草が、こちらに切っ先を向けた無数の短剣に見える。

 澄み渡る大空が、血に染まった赤色に見える。

 自身の身体が、まるで至る場所に腫瘤が浮き出たかのように醜く隆起していく。

 両目からは涙と血液が。

 口元からは崩れた歯が抜け落ち、銀髪は房単位で地面に散らばっていく。

 腐りきった右腕は、二の腕から糸を引いて千切れていき、ボトリと落下していった。

 蛆虫が……弾けた腫瘤の中から這いずり出てきて……孵化を繰り返してはハエとなって眼前を飛び回る。

 腐臭が鼻腔をくすぐり、腐敗する痛みすら痒みに感じるほど感覚が麻痺していき――……。



 刹那――正気が飛びそうになったわたしだが、ガリっと下唇を噛み切り、()()()()が……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であると理解した。



「――――操血そうけつッ!」



 意識を手放さず、わたしは操血そうけつによって体内に侵入した異物を捕らえ、傷口から逆噴射させる。


 同時に頭の中が徐々にクリアになっていき、何度か瞬きを繰り返すと、世界は元の色を取り戻していた。


「っ……はぁ、はぁっ! こ、これは…………今の光景は!?」


 肺に溜め込んだ空気を吐き出し、両膝に手をついた状態で、わたしは額の汗を拭う。


 何度か周辺を見渡してみるが、体内の異物を排したおかげで、あの地獄のような雰囲気は消え去っている。


「ま、まずいわ……こ、この現象を……この光景をガラジャリオスさんが見せられていたとしたら……! 正気を失い、暴れまわってしまっても不思議じゃ……ない!」


 そして、今はもう姿を隠している――先ほどの水たまり。


 アレがもし……ガラジャリオスの口から吐き出されたモノだとしたら? 八王獣を相手取り、攻め入るわけでもなく、小さなちょっかいをかけている人形の正体が……アレだとしたら?


 匂いが無く、追跡してもいつの間にか姿を消す人形たち。


 合点がいく。


 相手が形の無い液体ならば……八王獣たちの目を掻い潜り、姿を潜ませることだって可能だろう。


 そしてこれに似た相手を……わたしは一度、対戦したことがある。


「やっぱり一枚噛んでそうね……樹状組織ビリンガル……!」


 グラベルンに続き、またしてもとんでもない相手が出てきた。未だ血は薄いとはいえ、血液を介してわたしの意識を混濁するような催眠効果を出すような真似ができるとは……相当な幻覚作用を引き起こす能力を持っていると見受けられる。


「みんな……!」


 わたしは<身体強化テイラー>の出力を上げ、まだ力の入らない膝を拳で叩いて無理やり動かし――矢のごとく、他のメンバーの元へと駆けていった。




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