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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
185/228

84 建前としての依頼

ブックマーク+ご評価、ありがとうございます~っ!

真夏のジトジトした暑さを押し返すエネルギーとして、美味しく戴きました( *´艸`)

そしていつも嬉しい感想に感謝です!(*´▽`*)

誤字報告も助かっております~♪(未だにお恥ずかしい誤字があって申し訳ございませんっ(>_<))


お読みくださり、ありがとうございます!

 超絶残念美女にランクアップしたクルルは、まだ言い足りないのか、ちょっとソワソワした様子だ。


 冷静時の彼女のげんならまだ聞く耳が残っているのだけれど、哀しいことに今の彼女の表情は残念モードのクルルさんだ。次に発する言葉もきっと、わたしの期待するものとは180度ズレたものになるだろう。


 彼女にジッと視線を投げかけると、機敏に彼女は気配を察し、こちらに目を向けてきた。


 わたしは口元に人差し指を当て「しーっ」とジェスチャーを送る。


 するとクルルはハッと何かに気付いたかのような顔をし、ギュッと口を閉ざして、何故かわたしを応援するかのようにグッと握りこぶしを作っている。


 ――も、もしかして、これから代わりに説明しようとするわたしへのエールのつもりなのかな……?


 わたしへの鼓舞を込めた純粋な微笑みに、不覚にも「可愛い」と感じてしまったが、わたしの意図が微塵も伝わっていないことを差し引くと、印象がプラマイゼロになってしまうのが非常に残念な子である。


「えー……こほん」


 この馬車の中の空気は七色変化の異空間かと思ってしまうほど、冷えたり暑くなったり微妙になったりと本当に忙しい。そんな雰囲気をリセットするつもりで咳払いを挟み、わたしは本題を続けた。


「依頼の形を取りたい、と言いましたのは、主にこちら側の都合です。先ほども話に出ました通り、わたしたちが人間種を代表として本件にあたることは難しいからです。このヴァルファラン王国に住まう人々の頂点は国王陛下です。そして人間種の代表として行動するならば、必ず国王陛下の命――王命があってのものになります。同時に代表には王族の方も含めて考えるのが妥当だと思います。しかし、今の状況、時間の都合を考えた時、その手法のいずれも取ることができません」


 そこでいったん言葉を区切り、わたしは乾いた唇を舐めてから再び口を開いた。


「だからわたしたちは人間種の代表ではなく、クラウンとして依頼を受けたいと思ったのです。種族同士の話し合いの場を設けるのではなく、依頼の過程で話し合うような機会が偶然生じた……という形にするために」


 ぶっちゃけると、クラウンとして依頼を受けるから国は関係ない、というのはかなり無理のある言い訳だと思っている。


 八王獣領の状況を先に聞いてしまっただけに、放置すればヴァルファラン王国にどのような波乱が広がるのか――規模の程は置いておいても、ある程度は予想できる。少なくとも700年間、紡いできた両種族の関係に亀裂が入るのは間違いないだろう。


 そういった状況の中で、いくら「クラウンとして動いたから」なんて建前を掲げたところで、最悪の未来を防ぐことを目的に動いたことは明白であり、それ即ち人間種として動いたことと同義なのである。そしてその行為は人間種側の旗印である王族を通して動くのが常道であり、それを背いた行為になると責め立てられても不思議ではない。


 つまり、ここでクラウンとして依頼を受けようが、王族を騙って人間種の代表として勝手に動こうが、最終的には同じ未来へ辿り着く可能性が高いということだ。強いていうなら、偽称の分だけ心象が変わるってことぐらいかな。


 人権も文明も未発達の国ならば、裏にどのような事情があろうとも、表向きの理由だけで処罰が下ることもあるだろう。今回の例でいうと「王族を通すべき案件を無視して行動した」ことについてである。時間が無かっただとか、今動くことが最善だとか、そういう経緯は認められず、結果だけで首を飛ばされることは、この文明レベルの国では有りうる話である。


 しかし――王族と会ったことはないけど、噂では現国王は賢王と聞く。


 奴隷制度の撤廃を始め、公益所による労働環境の提供など、王族は国に住まう民こそ重要視すべきという政策も端々に見られていた。現実がその思想に追い付いていない部分もあるけど、少なくとも人間性において先進的な思考を持った王であると、わたしは考えている。


 傘下にいるレジストンを――そしてそのレジストンの下に付くタクロウたちを見ていれば、分かる。


 私利私欲だけで動くような愚王が座についているのであれば、このような人たちが下にいるはずがない、と。王都で住まう人たちにあのような活気は生まれないだろう、と。


 だからまあ――多少の無茶ぶりをしても、それが国のためになる行動ならば、結果的には何とかなるんじゃないかなぁ、と思っているわけだ。うーん、元女王のくせして、なんとテキトーな考えなことか。ま、女王って言っても、まつりごとには一切関わっていないハリボテ女王だったしね。


 この辺りはタクロウやメリアもすぐに行き着きそうな想定だけど、今のところ彼らから否定的な言葉は出てこない。


 タクロウは先ほど、クラウンの規定については口を挟んだが、クラウンとして動くことそのものには言及してきていない。


 このまま話が進み、クラウンとして依頼を受けるとして――その結果、仮にわたしが強硬派の八王獣を怒らせちゃったりすると、その全責任が依頼受注したわたしに襲い掛かってくるわけなんだけど……過保護っぷりを見せていたタクロウたちが止めに入る様子はない。


 国と天秤をかけての判断か、今はそこまで予測が追い付いていないのか。それとも……わたしを信頼してくれてのことなのか。いずれにせよ、話が拗れずに進むのは有難いことだ。


「……それは先ほどのお主らの会話から想像はついておる。しかし、それならばクラウンとして交渉に当たればいいだけの話ではないのかのぅ?」


「交渉ですと、双方が互いに条件と要望を出し合い、その中で落としどころを決める流れになってしまいます。その場合、わたしたちは事に当たる前に、交渉という過程を経ることによって、多くの情報を得ているということになります。そうなると、話が戻りますが、情報を握っておきながら何故国を通さずに動いたか――という論点が浮かんでしまう可能性が出てくるので……」


「……面倒じゃのぅ。馬鹿正直に報告などせずに、黙っておればいいのではないのか?」


「八王獣の皆さんも口裏を合わせてくださるというのなら考えますが……そっちの方が面倒じゃありませんか?」


「む……むぅ。人間や精霊はまっこと面倒じゃ……別に誰で対応に当たろうと結果が伴っておれば、それで良いではないか」


「まあまあ、文明の発達にはどうしても必要なことなので。人は群れる種族のように見えて、その実、我が強い生き物ですから。統率を取って共通の道を歩かせるには、それなりの規律と罰がいるんですよ」


「……歳に見合わぬ言葉を吐くのぅ」


 ――まあ、これでも一応は濃ゆーい200年間を生きているからね。


「ふん……まあ良い。それで? 依頼という形を取った場合、どのような折衷案となるのじゃ」


 腕を組み、胡坐あぐらをかきなおしたドグライオンが憮然と尋ねてくる。


「そんなに難しい話じゃないですよ。先ほどの互いの要望を置き換えるだけの話です」


「む?」


「筋書きはこうです。わたしたちはコルド地方へ向かう際に、偶然ドグライオンさんたちと出会い、ガラジャリオスさんの異変の対処に回りました」


「うむ」


「そこで、ドグライオンさんはガラジャリオスさんが正気を失ってしまった原因――八王獣領で目撃されている人形のような敵を駆逐するための共闘を依頼してきます」


「ふむ……」


「わたしたちはクラウンとして緊急性を感じ、その依頼を受領します。その際にわたしが受け取る情報は、その敵に対してのものだけです。そして共に東へと赴き、まぁ……その敵を倒したとしましょう」


 ドグライオンが頷くのを見て、続ける。


「敵を倒したと思ったら、なんと八王獣の一部の方から……突然別の苦情を言われた、という展開があったとします。そこでわたしたちは、八王獣領での一部の人間の悪行を知ることとなります。すぐに話し合いを始めなくてはいけない――一触即発の気配を感じ取ったわたしたちは、彼らと話し合いの場を設けます」


「……」


「話し合いは無事成功し、わたしたちは和解します。領土侵犯を働く輩の対応は、わたしたち人間側の采配で行う形で話がついたとしましょう。ようやく落ち着いたところで、報酬として、八王獣領に自生する植物の採取と……今回の一件における情報の開示と提供を戴きます」


「なるほど、綺麗に互いの要望が出揃った流れというわけじゃの」


「はい。異なる点はわたしたちが手にする情報が段階的であること。そして状況に合わせて動かざるを得ない事態となる点ですね。いわゆる例外的措置といったところです。こうすれば、国に確認を取るなどの手間を省いたとしても『仕方がなかった』ということで済みますし、逆に上手く立ち回った上に、情報も持ち帰ることができた……ということで、プラスの印象になることもあります」


「…………本当に面倒の一言じゃな。そんな体裁、どうでも良いと思えてしまうのは、ワシらとお主らの生活環境が異なる所為なのじゃろうが、ふむ……ま、結果が変わらぬのであれば、どちらでも良いわ」


「ふふ、ありがとうございます。それでは――正式にドグライオンさんからの依頼、という形で振る舞わせてもらいますね」


 そこまで言い切って、わたしは一息ついた。


 タクロウを始めとした自分たちが心象的に動きやすくするため、そして――クラウンの本懐……資格を手にしたあの日にガダンが口にした「そして助けを求める者たちの希望となり、その責務を果たせ」という言葉。それを果たすための面倒な口実はこれで完了した。


「セラフィエル様……申し訳ございません」


 一仕事した気持ちでいると、隣のタクロウが謝ってきた。一瞬、何かと思ったが……先ほど頭に過った――クラウンであるわたしに責任が圧し掛かる展開となってしまったことに対してだと思い至った。


「気にしないでください。薄っぺらい建前ですけど……少しは動きやすくなりましたでしょうか?」


「そう、ですね……事実を知ってしまった以上、思うところはございますが……ドグライオン様の言葉がまことのことならば、時間が無いのも事実。この方法が最善であろうことは理解しております。ですから、これから先は依頼を受けたセラフィエル様の補佐として、力を振るうことに注力したいと思っております」


「はい、宜しくお願い致します」


 レジストンへの忠誠心が高いタクロウのことだ。上層部へ報告し、指示を仰ぐべき案件であることを知っておきながら、知らないフリをして行動することに対して、多少なりの忌避感は……やはり、あるのだろう。


 同時にこの場において何を最優先に動くべきか、自分の考えもしっかりと持っている。


 その相反する二つの要素の隙間を行くのが、今の話だ。上手く行けば、わたしが話した通り、全てが万々歳で済むことだろうけど……仮に八王獣の強硬派との話し合いが失敗に終われば、その責任はきっとクラウンであるわたしに圧し掛かる。


 だから唯一のリスクであるその部分に対して、謝罪の言葉を口にしたのだと思う。


「ま、大船とまでは行きませんけど、それなりに頑丈な船のつもりなので、肩の力を抜いて頑張りましょう」


 少しおどけたようにそう言うと、彼は少し目を見開いてから、静かに微笑んだ。


 ――うん、この調子だとタクロウさんも大きな憂いなく、動けそうだね。メリアさんやヒヨちゃんたちは、そこまで強く国に縛られていなさそうだから、効率のいい方法を取るなら異論はないと思う。なんだか……おかしな話にズレてきちゃったけど、予想しない八王獣との接点も得られたし、あとは無事、月光草を入手できれば大成功、かな?


 しかし、このヴァルファラン王国では本当に何が起こっているのだろうか。


 3年前の下水道の件も然り、先のグラベルンの件も然り、今回の八王獣領の件も然り。そして……クルルがわざわざ王都まで足を向けて依頼してきた謎の植物の件も含め、国土全体で大きな異変がゆっくりと確実に動いているのが分かる。


 ――……本当に、ヴァルファランの中だけの話、なのかな?


 ふと、ヴァルファラン王国の外はどうなのだろう――という疑問が浮かぶ。


 わたしたちは井の中の蛙だ。ヴァルファランという井戸の中で起きた問題を、目に見える部分で追いかけている節がある。


「……………………」


 嫌な予感が本能をくすぐった気がした。


 ――まさか、ね。


 群青法衣が死に間際に放った言葉。



『終焉ノ前デ、矮小ナ人間ガ、足掻イタトコロデ……何モ起コラナイ。キット、後悔スルゼ……今コノ場デ、俺ニ殺サレテイタ方ガ「マシ」ダッタ、ッテナァ』



 終焉。


 脳裏に、前世の世界を終焉へと導いた獣の姿が思い起こされた。年老いたとはいえ、魔力も操血も今とは異なり、万全の状態であったわたしですら「文字通り次元が違う」と感じた――終焉の獣。


 わたしは首を横に振り、黒い影を追い払う。


 あんなのがポンポン登場されちゃ困る。考えすぎだろう。わたしはそう強く思い、いつの間にか張っていた背中の力を抜いた。



「――――」



 そして、不意に感じる妙な気配に顔を上げた。


 気配を掴んだのは、わたしだけじゃなかったようで、他の皆も表情を変えて馬車の外へと意識を向けていた。


 外で待機していたブラウンの嘶きが響き渡る。


 大地を巨大な質量が這いずるような音が耳に届き、わたしたちは頷き合ってから、すぐに幌を潜って馬車の外へと飛び出していく。


 そこで見たものは――。


「馬鹿な……一度、休眠に陥ったというのに……!」


 ドグライオンの驚愕の声が指し示す先――そこには、虚ろな気配を垂れ流すガラジャリオスが、ゆっくりとこちらに向かって進んできている姿があった。



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