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自由気ままな操血女王の転生記  作者: シンG
第三章 操血女王のクラウン生活【旅路編】
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83 クラウンの裏事情

ブックマーク、感想いただき、ありがとうございます!

おかげさまで累計30万PVも越えまして、作者としてとても嬉しく感じております!(*´▽`*)

また誤字も報告くださり、いつも感謝しております♪


いつもお読みくださり、本当にありがとうございます~(*''▽'')

「セラフィエル様、それはいけません」


 すかさず止めに入るタクロウ。その言葉は予想の範疇だったので、わたしも慌てずに彼と視線を合わせた。


「クラウンが公益所の仲介を通さずに、自らの意思で依頼を受注、金銭などの報酬を受け取ることは認められておりません」


「……ええ、分かってます」


 タクロウの言葉は正しい。それが容易にまかり通るようなシステムであれば、とうにクラウンという存在は形骸化し、組織ごと消えていてもおかしくないからだ。


 何事にもルールは必要で、それを遵守するからこそ、組織は維持される。


 でもね、ルールは確かに大切だけど、それと同じくして例外という存在を鑑みるのも大切なのだ。全ての事象には等しくして例外なるものが潜んでいる。光と影のように。表と裏のように。


 規律と例外の線引きはケースバイケースに依るところが多く、正直言ってそれを事前に正確に見極められる人間はほぼいないだろう。というか、その殆どが「結果論」に左右されることが多い。


 だからこそ無数に用意された法律という鎖が国を抑制していた科学世界では「司法」という概念が育ったのだ。文字の羅列だけの法に沿って善か悪かを捌くことは難しい……それほどに人間社会というのは複雑だ。ゆえに裁判所・検察官・弁護士・被告人・原告などなど、数多くの視点から正解を導く必要性があるのだ。


 ま、何が言いたいかって言うと、クラウンとしての規律は確かにあるし、守るべきものである。でも一辺倒にそれだけを守っていても、クラウンとして真に担うべき役目を見逃してしまう。


 そしてわたしは既に――そのヒントを()()()()()()()


 ――もし、こうなるような事態も予測してのことだったとしたら、どれだけ先を見ているんだって話だよね、あの人(クラウンマスター)


「別の方法を考えましょう」


「いいえ、タクロウさん。わたしはクラウンとして――この依頼を受けたいと思っています」


「……セラフィエル、様?」


 わたしが頑なに意見を曲げなかったことに怪訝そうな顔をするタクロウ。そんな彼と真っ向から視線を交わしながら、わたしは言葉を続けた。


「大丈夫ですよ、わたしを信じてください」


「…………」


 ガダンたちと資料整理をしたあの日。その過程で、わたしはクラウンへの苦情や問題の数々をその目で見ることが出来た。しかもその内容を理解して仕分けなどをしなくてはいけなかったので、わたしが触れた報告書の内容はだいたい頭に入っている。


 その報告書の中に幾つか――とある案件が混ざっていた。


 それは同業者からの苦情で、どうも公益所を通さずに個人で依頼を受け、その報酬として貨幣の授受があったとの内容。内容を見れば、本当に闇営業というか……あくどいことをやっている奴もいたけど、中には土砂被害に遭った集落の人名救助や、大型馬車に乗り合わせたクラウンが護衛役を買って出て夜盗を追い返すなど、とても王都で依頼を受注している場合ではない案件も含まれていた。


 ガダンに聞いてみれば、彼曰く「現在の規律は完全ではない」とのこと。こういったケースも想定し、近いうちにルールの改定もしなければ……あぁ、でも人手が足りない、と嘆いていた。それ以上話を聞くと、わたしに新たな仕事が降ってきそうな予感がしたので、そこで終わらせてしまったけど、そういった臨機応変に世のため人のためになる仕事はガダンも容認しているようであった。


 つまり、規律違反にも関わらず、彼らはクラウンとしての責務を全うした――というのがガダンの考えなのだ。それは人として倫理的に当然な考えであって、国営である公益所としても歓迎すべき人の動きである。しかしルールに無い以上、必ず物事の善悪に関わらず揚げ足を取ろうとする者がいることも確か。表に出されているルールでも禁止されていることのため、大々的にその意見を否定することも難しい。


 そういった経緯があり、早々に改定を進めたいガダンだけど、この世界には警察機構のような情報統制の取れた地域に特化した監視部隊を配置するほどの人員も設備も無いことがネックとなり、二の足を踏んでいる状況であった。


 なるほど、確かに「緊急時はクラウンの意思で依頼の受注を認める」なんて付け加えてしまえば、今度は「虚偽の緊急時」という笠を着て悪事に走る連中が湧いて出てくるだろう。それを取り締まる者が各地にいなければ、まさにやりたい放題というわけだ。


 法と犯罪がいたちごっこの繰り返しになってしまうのは仕方がないことだが、それでも何の対策も打たないまま、改定に踏み切ることはクラウンのおさとして難しい。だからこそ現状は苦情として受け取りはするものの、問題のクラウンに対して注意という形で公益所に呼び出し、ガダンが直々に礼を伝える……という時間と手間のかかる方法で収めているというわけだ。


 苦情を出した者からすれば渦中のクラウンは「注意を受けた」という結果に溜飲を下げ、渦中のクラウンからすれば「クラウンマスターから直接礼を言われた」という名誉に気を良くして終わる。うまい具合にガダンが間に入って軋轢を生まないように調整しているというわけだ。見た目や雰囲気からは想像できないほど、細かい気配りを見せるクラウンマスターである。


 と、話が長くなってしまったが、そういった裏事情があるために、わたしには今回の件も不問となる可能性に自信があった。裏事情だけに広まってはいけないので、ここでは名言せずに信じてもらうしかない。もちろん皆の口の堅さを信頼していないわけではないが、意図せずにポロっと喋っちゃいそうな子もいるので、後でタクロウにだけ理由を説明することとしよう。


 やがて、タクロウは困ったように僅かに苦笑を浮かべると、短く「……分かりました」と答えてくれた。


 正直、まだまだ付き合いが浅いタクロウに「信じてほしい」と言ったところで、どこまで融通が利くか不安なところがあったけど、どうやら表向きの規律よりも信じてもらえるほどの絆があったようで、それが少し嬉しくもあった。


「ありがとうございます、タクロウさん」


「いえ、私は何も。それよりどうするおつもりですか? 仕事として受けるにしても、さすがに王族を騙ることは見過ごせません」


「はい、勿論そこは王族ではなく、人間種の一人として対応していこうと思ってます。説得力は別のところで見出してみせますよ」


「そうですか」


 ニコリと強気を見せるように笑って見せると、タクロウも僅かに口元を緩ませた。


 ――勝算があるわけじゃないけど、まあやるだけはやってみるかな。月光草の件も絡んでいる以上、回り道になるわけでもないし……むしろ、八王獣の一件はわたしたちにとってもターニングポイントになる気がするしね。


「待て待て。勝手に依頼の話に進んでおるが、そうしたところでワシらにどういう得が生まれるのじゃ。これは交渉であり、互いの目的や要望の落としどころを決めるための場じゃろう? 一方的にワシらが依頼し、しかも報酬を支払わねばならんなど、損しか無いではないか」


「ふっ……所詮、獣である貴方には分かりえないことでしたわね」


 ドグライオンのごもっともな意見に、まさかのクルルが割り込んできた。その自信満々な様子に、思わずわたしたちですらキョトンとしてしまう。


 ――え、まさかクルルさんが話をまとめてくれるの!?


 実のところ、心の中で「残念美人」という位置づけだった彼女だけに、胸を張って得意気な顔をしているクルルの利発な様子に驚きを隠せなかった。


「むぅ……お主は今の話から落としどころを理解したということかのぅ?」


「当然ですわ!」


 ふふん、と勢いよく鼻息を漏らすクルル。人によっては大分アホ面に見えてしまう行為だというのに、彼女がするとそれすらも美しく見えてしまうのだから、困ったものだ。


「ぐぬ……こんな精霊種の小娘に分かって、ワシに分からぬなど……!」


 非常に悔しげな顔をするドグライオン。何故だろうか、わたしにも彼の心情を察することができてしまう。


「ふふ、野を駆け回ることしか能のない獣には、到底測り兼ねることですわ!」


 ドグライオンの様子に気を良くしたクルルがさらに助長していく。そこでちょっと嫌な予感がしてきたわたしは、このまま話がヒートアップしていく前に尋ねることにした。


「え、えっと……それでクルルさん? もし宜しければ、代わりに説明をしてもらってもよろしいでしょうか?」


「! お任せください、セラフィエル様!」


 ――うわっ、笑顔が眩しいッ! わたし、そんな笑顔を向けられるようなこと、言ったっけ!?


 ぐっと拳を握るクルルは、頬を紅潮させながら目を輝かせる。マクラーズが直視できずに顔を背けるほど、男性陣にとっては甘い毒になりうるであろう健康的な妖艶さを感じた。


 ごほん、と一つ咳払いを挟むクルルに全員の視線が集中する。


 やがて数秒経って彼女が発した第一声は――、



「聡明で心も身体も清らかで美しいセラフィエル様に間違いなどあり得ませんわ! セラフィエル様が問題なしと言えば、何の問題も無いのです! 難しいことは考えず、貴方はただ『はい』と頷いておけば万事解決となるわけですわ!」



 というドヤ顔発言だった。ちなみにドヤ顔も美しかった。でも何でだろう。美しいけど、ちょっとイラっとしちゃった。


『………………』


 一瞬、何か今の発言に深い意味があるのか。もしくは次ぐ言葉があるのか。そんなことを考える数秒の時間を経た後――特に続きは無い様子のクルルに、心なしか全員の首の角度が下がった。


 一周回って冷静になったドグライオンが、わたしへと視線を向けて、「すまんが、説明を頼む」と言ってきたのを受けて、わたしは残念美女……いや超絶残念美女の代わりに説明することとなった。



 というか、別に含みを持たせるほど大きくも深くもない話なのに、クルルを挟んだことで、わたしに壮大な考えがあるかのような空気になってしまった。いと話しにくし……。


すみません、交渉話が長くなってしまいましたが、次で一区切りとなります……た、多分。

頭の中ではここ数話は一話分ぐらいのイメージだったのですが、実際に文字に書き起こすと、想像以上に長くなってしまいました_(:3」∠)_


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